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食品、ありとあらゆる偽装が蔓延…生産〜流通が完全「闇」化、騙され続ける消費者
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15044.html
2016.05.11 文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト Business Journal
1月半ばに発覚した壱番屋廃棄カツ横流し事件を受けて環境省は3月14日、類似事件の再発防止策を発表した。しかし、今回の事件の全容解明が不十分なまま、つまり横流しに至った背景など、問題の全体像を把握できない状態での再発防止策は、水漏れを防げぬザル法になりかねないのではないか。
廃棄カツの横流しは、いわば正規食品への偽装の手口の1つだ。そこで今回は本連載前回記事(http://biz-journal.jp/2016/04/post_14761.html)に引き続き、再発防止策の是非と共に「偽装の経済学」の視点から事件の背景に迫ってみる。
■イカサマのサイコロ賭博のようなもの
農業経済学関連で、フードシステム論(フードチェーン論)【編注7】という研究分野がある。これは、食料品の生産から流通、消費までの領域や産業の関係、つまり川上の農水産業から川中の食品製造・卸売業、川下の小売・外食産業、そして最終的な消費者までのつながりを、ひとつの全体的な流れ、システムとして食の問題を考えるものである。
食の安心・安全は、フードシステム論の重要なテーマで、特に「情報の非対称性」を問題にする。「情報の非対称性」とは情報格差を意味し、入手できる情報の質・量から生じる格差を指す。
食品についていえば、売り手側(農水産業に食品製造・卸売業、小売・外食産業)が質量ともに豊富な情報を持っているのに対し、買い手側の消費者が入手できる情報はあまりにも貧弱だ。
たとえば、今回の壱番屋のビーフカツの場合、1袋5枚入りでスーパーなどで販売されたが、ビニール袋には赤文字でビーフカツと表示されているだけで、「CoCo壱番屋」の記載もない【編注8】。消費者は廃棄食品だとは露知らず、そのスーパーへの無意識の信用と、わずか5文字の情報を手がかりに、食に適さない危険な食品を買ってしまった。
食の偽装での「情報の非対称性」は、たとえば鉛などを入れて1の目が出やすくしてあるイカサマのサイコロ賭博のようなものと覚えておけばよい。それを知っているのは胴元だけで、情報のない客はひたすら負け続ける。
田畑で米・野菜を栽培し、鶏や豚、牛を飼い、川・海・沼で魚貝を捕る自給自足的な食生活ならば、食の安心・安全情報は完全で情報の格差がなく、つまり情報の対称性が保たれる。
ところが家庭内で食事をつくる食の内部化から、加工食品や外食産業などへの依存度が高まる食の外部化が進み、フードシステムが長大化・複雑化・高度化・グローバル化し、生産・加工・流通過程がほぼ完全にブラックボックスと化した今や、情報の非対称性の度合いは非常に大きくなっている。
情報の非対称性の度合いが大きくなればなるほど、汚染、混入、偽装などの食のリスクが高まり、不祥事が起きやすくなるという理屈だ。
■多種多様の偽装が日常化か
特に、食品の偽装について、フードシステム論などでは、どのような位置づけになっているのか。食品の偽装の定義について、実はきちんと整理されていないように見えるため、ここで改めて食品表示法【編注9】をベースにして考えてみる。
2015年4月、従来の食品表示に関する食品衛生法とJAS法、健康増進法の3つの法律を一本化して、食品表示法が施行された。表示の具体的なルールは、「食品表示基準」に定められている。なお、これは先の3本の法律の下に定められていた58本の表示基準を統合したものだ。
つまり、情報の非対称性による消費者の情報格差を少しでもカバーするための、実質的にほぼ唯一の、それも“最後の砦”が食品表示であり、それを担保するのが食品表示基準といってよいのではないか。
そこで偽装を考える場合、この「食品表示基準」のなかの加工食品の義務表示事項が参考になる。
たとえば(1)食品の名称では、「名称中に主要原材料名を冠する(文字などを上につける)場合は、主要原材料と一致しなければならない」となっており、これに従わない場合は名称偽装が疑われる。
同様に以下の点において、さまざまな偽装があり得る。
(2)保存の方法(「4℃以下で保存」など)
(3)消費期限又は賞味期限(品質が急速に劣化しやすい食品にあっては消費期限、それ以外の食品では賞味期限)
(4)原材料名(原材料に占める重量の割合の高い順に表示)
(5)添加物(添加物に占める重量の割合の高い順に表示)
(6)内容量又は固形量及び内容総量
(7)栄養成分(たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム)の量及び熱量
(8)食品関連事業者の氏名又は名称及び住所(輸入品にあっては輸入業者の氏名・名称、営業所の所在地)
いや、これまで産地偽装や消費期限偽装などの限られた偽装にしか馴染みがないが、実は表面化しない多種多様の偽装が日常的にあったのではないか。そこに、今回は“廃棄偽装”が新たに加わった。
■摘発確率低ければ、偽装誘惑が増す
そもそも、なぜ企業などの売り手は食品偽装をするのか。フードシステム論では、「品質間の価格差のあることが偽装販売の温床」【編注10】と見ている。
これには、「高品質の製品は低品質のそれよりも高く売れる」と「高品質の製品のコストは低品質のそれよりも高い」という、2つの前提条件がある。そこで、この2つの条件を組み合わせて、低品質製品を高品質製品として偽装することができれば、低品質製品を低コストに加えて高い価格で売れ、企業はより大きな利益が得られる。
しかし、偽装は食品表示法などに違反する犯罪行為であり、発覚すれば罰金や懲役刑などの刑事罰に加えて、損害賠償などの民事罰、さらに企業イメージ低下で売上高不振、倒産もあり得る。
一方で、偽装をしても発覚しない可能性もあり、摘発される確率が問題となる。そこで刑事罰、民事罰、倒産などの社会的制裁をペナルティと呼び、経済学だからその費用が問題だとすれば、ペナルティ費用は摘発される確率によって変わるというわけだ。
つまり、企業は摘発確率が低く、偽装によって得られる利益がペナルティ費用を上回れば、偽装をする誘惑が増す。逆ならば、その誘惑を抑えようとする。これがまさに偽装の経済学【編注11】だ。
先に触れたように、ありとあらゆる偽装が可能な状態で、偽装を根絶することは不可能に近い。偽装を最小限にするポイントは、可能な限り摘発確率を高め、ペナルティ費用を格段に高くすることではないか。
ただし、摘発確率を高めるためには、たとえば今回の再発防止策で、都道府県職員による産業廃棄物業者への立入検査を徹底的に、かつ頻繁に行なうとすれば、人件費など多額の税金を社会的コストとして投じなければならない。しかも、問題の核心をつかみ損ねているままで、摘発確率をどれだけ高めることができるのか。費用対効果が厳しく問われる。
次回は、偽装を生む産業構造に迫る。
(文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト)
【編注7】1.生源寺眞一『フードシステム論と現代日本の食料・食品問題』東京大学社会科学研究所「全所的プロジェクト研究 ガバナンスを問い直す」2011年1月、2.中嶋康博『フードシステムと食の安全・安心』NIRA「NIRAモノグラフシリーズ」2008年3月など
【編注8】壱番屋のHP「産業廃棄物処理業者による、当社製品(ビーフカツ)不正転売のお知らせ」2016年1月13日
【編注9】1.「食品表示基準」平成27年内閣府令第10号、2.消費者庁「新しい食品表示制度」、消費者庁「食品表示基準について」最終改正2015年12月24日消食表第655号
【編注10】【編注1】と同じ
【編注11】1.【編注1】と同じ、2.白石賢『企業不祥事防止策としての行政モニタリングと市場の競争状況』内閣府経済社会総合研究所「ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズNo.135」2005年4月などを参考にした
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