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新築住宅の質劣化と空き家激増、社会問題に…購入住宅を高く売るために、循環の仕組み必須
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15000.html
2016.05.08 文=米山秀隆/富士通総研上席主任研究員 Business Journal
■使い捨て型から循環型へ
2013年の空き家数は820万戸、空き家率は13.5%と過去最高となった。空き家問題がここまで深刻化した一因には、戦後から高度成長期にかけて住宅が慢性的に不足し、供給を急ぐあまり住宅の質が劣化してしまったことがある。戦前の住宅は、棟梁が腕の立つ職人と良質な資材を集め、責任を持って施工することが普通で、そうした住宅が今でも古民家として残っている。しかも、高度成長期には住宅不足を解消するため、市街地を外縁部に拡大し、農地も宅地に転用することで、居住地域を広げていった。
ところが一転して人口減少時代に入ると、条件の悪い地域から引継ぎ手がなくなり、空き家として放置されるようになってくる。また、建てられた時点の質が低い上、いずれ中古として売ったり貸したりすることを前提に手入れを行ってきたわけでもなく、たとえ手入れしてきたとしてもその価値が市場で評価されるわけでもなかった。
こうした使い捨て型の住宅市場を、循環型の市場に変えていくためには、今後とも居住地として残すエリアを選別し、そのなかで良質な住宅ストックを残し、それを何世代かにわたって使い続けていくようにする必要がある。これが根本的な空き家対策となる。
そのための基礎となるのが、住宅が建てられた時点からその後の改修、メンテナンスの記録(履歴情報)を残しておくことである。履歴情報が残っていれば、中古住宅としての価値が高まり、物件の状態に応じた価格付けも可能になる。
アメリカではこうした情報システムが確立されており(MLS:Multiple Listing Service)、不動産エージェントを通せば、日本のREINS(不動産流通標準情報システム)で得られるような基礎情報のほか、履歴情報、課税情報、登記情報、地域情報などを参照できる。物件の価格付けもこうした情報を基に行われ、所有者は自分の物件が、市場でどのような評価を受けるかも知ることができる。アメリカでは現在、地域ごとに900ほどのMLSがあり、民間で運営されている。
日本でもこれをモデルに国土交通省が昨年6月から、横浜市で不動産総合データベースを試行運用している。REINSの情報のほか、履歴情報、地域情報を参照できる。しかしながら、履歴情報を残している住宅は、最近でこそ少しずつ増えているが、古い住宅ではほとんどない。MLSのように機能させるためにはまだ道は遠い。今後は、履歴情報を残している住宅は所有者に対する税を優遇したり、また、そうした住宅を取得する際の税を優遇したりするなどのインセンティブを講じることが必要と考えられる。
■個人間取引の将来性
情報システムをつくるだけではなく、中古としての価値が高く評価される実績を出していく必要がある。履歴情報を残し、中古としての価値を高める仕組みとしては、不動産総合データベースのほか、ハウスメーカーによる取り組みである「スムストック」もある。スムストックでは、各メーカーが履歴情報システムを備え、築後50年以上にわたり点検、補修を行う。中古住宅としての評価は、土地と建物を分けて表示し、建物は状態に応じて評価する。この仕組みで建物価値も相応に評価される例が出ているが、まだ実績は少ない。
履歴情報の普及と活用に関して将来性が感じられるのは、個人間取引支援の仕組みである。たとえば、ソニー不動産とヤフーが開始した「おうちダイレクト」では、自分で値付けしたマンション情報をサイトに掲載し、買主は売主とサイトを通じてやり取りできる。価格付けの参考になるのが、取引データなどから推定成約価格が算出される不動産価格推定エンジンである。
こうした個人間取引支援の仕組みにおいて、履歴情報も加味することで、高い成約価格が出るようになれば、所有者は将来、中古市場で高く評価されるよう、履歴情報を積極的に残すようになる可能性がある。また、そもそも住宅を取得する際も、将来的にこうした仕組みの下で、資産価値が残りやすい物件を取得するようになる可能性がある。
ハウスメーカーが履歴蓄積の仕組みをつくっているのは、自社施工物件の中古としての流通可能性や、リフォーム需要の取り込みにメリットを見出していることが大きい。しかし、これによってカバーされる住宅はごく一部である。結局のところ、住宅は所有者のものであり、個人が履歴蓄積によりメリットを感じられる仕組みをつくるのが、より近道かもしれない。アメリカのMLSでは、物件の状態に応じた価値を知ることができ、個人がきちんと手入れするインセンティブを与えている。
具体的な仕組みとしては、個人間取引を支援する仕組みに、不動産総合データベースを組み合わせ、高価格の成約実現を目指していくのが一案である。将来的に、こうしたビジネスモデルが登場することを期待したい。REINSでは今年に入り、性能や履歴などの情報項目を追加し、不動産ポータルサイトでも確認できるようになった。ただ、このままでは履歴情報を備えた物件を増やすことは難しい。所有者にとって、履歴蓄積がメリットになる仕組みづくりが望まれる。
(文=米山秀隆/富士通総研上席主任研究員)
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