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今回の金融政策決定会合で、日銀は大方の予想を裏切る政策据え置きを決定した
日銀よ目を覚ませ! “金融政策一本足打法”は限界だ
http://diamond.jp/articles/-/90612
2016年5月2日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■ネガティブサプライズとなった
日銀の金融政策決定会合
4月28日、日銀は金融政策決定会合で、大方の予想を裏切る政策据え置きの決定を下した。今回の決定はネガティブサプライズと受け止められ、株価が急落し、一時はドル円が107円台に下落するなど為替市場は円高方向へ大きく動く結果となった。
これまで金融市場の安定要因として作用してきた日銀の政策が、今後、市場の不安定要因となる可能性を認識させることになった。その意味では、日銀の金融政策偏重の“金融政策一本足打法”の限界を露呈したと言える。
最近、国内外の金融市場関係者の関心は、金融政策の政策運営に集中していた。日銀や米国のFRB、欧州のECBが次に何をするかに意識が集まり過ぎていた観さえある。特に、景気先行きに不透明感が高まるわが国に関しては、「日銀の政策次第」との見方が圧倒的に多かった。
日銀としても、投資家や市場関係者から尋常ならぬ期待を一身に受けてしまうと、彼らの期待を裏切ることは難しくなる。日銀は、次第に“ない袖を無理に振って”金融政策を発動せざるを得ない状況に追い込まれつつあった。
そうした日銀の政策運営にはリスクが存在する。これまで黒田総裁は3回の“バズーカ砲”を撃ってきたが、その効果は次第に縮小している。元々、金融政策のみによって、景気回復を進め、デフレから脱却することは難しい。
日銀は、金融政策の限界と非伝統的な政策運営のリスクを真剣に考えるべきだ。それを無視すると、結果として、日銀の金融政策が金融市場の波乱要因になるだけではなく、わが国経済の先行きにも重大なマイナス要因になることも懸念される。
2012年に始動したアベノミクスは、円安を加速し、企業業績をかさ上げした。それに伴い、株価は堅調な展開になった。官制春闘とも呼ばれた賃上げ環境も整備した。こうして、一時、景気の先行きには明るさが見え始めていた。
それを支えたのが、日銀の“短期集中型”の金融政策だ。次第にアベノミクスは金融政策に頼りきりになり、最近では“金融政策一本足打法”と揶揄されるゆえんとなった。
安倍政権は、ドル高の流れを最大限に活用し、円安圧力を高めて景気への期待を醸成しようとした。その政策意図に沿って、黒田・日銀総裁は2013年4月に日銀は量的・質的金融緩和(黒田バズーカ第1弾)を発動した。
さらに、2014年10月末の量的・質的金融緩和の拡大(第2弾)、2016年1月末のマイナス金利付き量的・質的金融緩(第3弾)を行って、市場の期待以上の回答を与え続けた。
■中国減速、米国にドル高修正の動き
“金融政策の一本足打”の限界
ここで忘れてはならない点は、アベノミクスの始動段階以降、米国経済の堅調推移という外部要因に恵まれたことだ。米国経済はシェールガス開発や原油価格の高騰によって力強く回復し、ドル高の影響を吸収できるだけの成長力があった。
その為、米国はドル高・円安のトレンドを容認する姿勢を示すことができた。2015年の年央まで円安が進み、わが国の経済への期待も徐々に高まった。
問題は、わが国経済の先行きへの期待が高まった段階で、安倍政権が成長戦略と位置付けた構造改革を進められなかったことだ。
昨年半ば以降、中国経済の減速懸念や米国経済の成長率の低下を受けてドル高の修正が進み始めた。ドル安・円高の進行が、“金融政策の一本足打”で円安に浸ってきたわが国の景気に対する懸念を高めることになった。
こうした流れを冷静に振り返ると、金融政策のみでは景気回復を持続させることができないことを明確に示している。つまり、金融政策の限界を明示しているのである。
しかし、黒田総裁は、金融政策の運営でデフレ経済から脱却できるとの主張を強弁し続けている。その結果、「景気の先行き不透明感が高まれば、また日銀が追加緩和を行うだろう」と期待する。あたかも条件反射のような期待を抱いてしまう。
世界的に金融緩和への関心が高いこともあり、日銀も金融市場の期待は軽視できない。FRBやECBの発言を見ていると、市場との会話=コミュニケーションによって、上手く市場の期待をコントロールすることが重要になっていることが分かる。
しかし、28日の日銀の決定会合では、大方の予想を大きく裏切る現状維持が決定された。市場参加者には、まさに“梯子を急に外された”格好だ。金融市場は失望し、急速な円高と株価の急落が起きた。これは、これまでの日銀の金融政策の運営の手法が、既に限界に直面しつつあることを示している。
なぜ、日銀は4月の決定会合で市場の期待に応えられなかったか。その背景には、様々な要素が絡んでいることだろう。本当の事情は、外部の者に計り知れない部分がある。
黒田総裁はG20等の場で、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の効果を主張し、政策の限界を否定してきた。直近のスピーチでも、「技術的に金融政策に限界はない」と強弁している。
黒田総裁は金融市場の安定を維持するためにも、信念あるセントラルバンカーとしての姿を演じざるを得ないのだろう。それが、一貫した強気のスタンスを強弁することに繋がっていると見られる。
そのため、「国債買い入れに限界はない」、「必要と判断されれば躊躇なく質・量・金利の3次元で追加緩和を行う」との考えを繰り返し、デフレ脱却が難しくなっているという見方を抑えたかったのだろう。
結果的に、黒田総裁の強気スタンスは、必要以上に市場参加者の追加緩和期待を高めてしまった。それは、4月中旬、追加緩和への期待を受けて円はドルなどに対して下落し、株価も反発したことを見ても明らかだ。
中銀総裁の発言や主張が、時に、金融市場に誤解を与えたり、過大な期待を醸成することに繋がることがある。特に、アベノミクスの金融政策依存度が極度に高まっているケースでは、日銀総裁のスタンスは市場参加者の注目を集めるのは当然だ。
■市場に誤ったシグナルを送ってしまった
黒田日銀総裁による強気スタンス
今回のように、日銀の政策運営が金融市場を混乱させることは十分考えられる。現在のように、景気先行きへの懸念が強まっている時には、潜在的な売り圧力が強いことには予想外の混乱が発生する可能性は高い。今回の決定会合後の失望売りによる株価急落は、その典型例と言える。
この展開を見る限り、黒田総裁の強気スタンスは、ある意味では市場に誤ったシグナルを送ることになってしまった。
日銀にとって、金融市場が勝手に期待を膨らませた結果と映るかもしれない。会見の場でも、黒田総裁は「市場の動向に応じて政策を調整するわけではない」と発言した。
しかし、黒田総裁の強気スタンスがあったがゆえに、市場参加者が追加緩和を期待したことは確かだ。
マイナス金利という非常事態の金融政策が進められる中、追加緩和期待による株価の上昇や、金利低下による債券価格の上昇が機関投資家等の収益を支える頼みの綱になっていることを考えると、投資家が日銀に過度の期待を抱くことは十分に理解できる。
その期待を醸成する状況を作り上げたのは、他ならぬ日銀自身であり、黒田総裁の強気のスタンスなのである。
正常な状況ではないと感じつつも、多くの市場参加者が追加緩和に期待してしまうほど、経済・金融の状況は厳しいところに迫っている。それでも、日銀が金融市場とのより本音に近いコミュニケーションを拒否すると、再び、日銀が金融市場を大きく混乱させる可能性を払しょくすることは難しい。
■4月の決定会合からの教訓は
金融市場との適切なコミュニケーション
4月の決定会合の結果から導き出される一つの教訓は、日銀と金融市場の適切なコミュニケーションが必要になっていることだ。
決定会合後の記者会見で、黒田総裁はこれまで同様、強気スタンスを維持した。一方で、「日銀に裏切られた」と感じる市場参加者も多いだろう。そうした両者の間に信用関係の低下が生じる。
それが嵩じると、日銀が強気に振る舞うほど市場参加者が政策の先行きに不安を感じ、金融政策の意図が市場に伝わりづらくなる懸念がある。
すでに、銀行や生命保険会社を中心に、マイナス金利への厳しい批判が高まっている。日銀の国債の買い入れでも、日銀の想定通りに応札が集まらない“札割れ”への懸念は根強い。買い入れ価格が、大きく跳ね上がる異常事態の発生の可能性も高まっている。
日銀の考えがどうであれ、札割れが発生すれば国債買い入れが困難になり、買い入れ価格が不自然な動きを示すようになると、金融市場の中で「わが国の金融政策が限界に直面した」との見方は確信に変わるだろう。
そうした状況を考えると、日銀の課題は複雑で、とても一筋縄では行かない。少なくとも、単純に追加緩和を示唆したり、政策の効果を強弁することではないはずだ。むしろ、日銀は政策の限界を少しずつ市場に説明する努力をすべきだ。そして、どのような政策が適切なのか、状況次第では、その方針を修正することも必要になるかもしれない。
金融市場が日銀の判断に疑念を抱きつつある中、金融市場の動向は楽観できなくなっている。今後、金融政策に何ができて、何を修正しなければならないのか、中銀のより本音に近い部分を上手く市場に伝える努力をすべき局面にきている。
確かに、金融市場が金融政策の修正が進むと判断すれば、一時的に、国債の売り圧力が高まり、金利が大きく上昇するかもしれない。それは景気にもマイナスに働く可能性がある。
しかし、金融市場の価格機能を活かすためには、いずれ来るであろう金融政策の出口戦略を念頭に、政策を正常化するための手段を確保しなければならない。
これまでのように、黒田総裁による強気一辺倒のスタンスを日銀が続ければ、期待を下回る政策決定が更なる市場の混乱を招きかねない。それは、出口戦略の策定を一段と困難にするはずだ。そうなると、金融政策は景気にとってのサポートよりも、マイナスの側面が強くなる。その状況は何としてでも避けるべきだ。
金融政策は景気回復を実現する万能の特効薬ではない。金融政策にできることは、人々の期待を一時的に高め、改革の時間を稼ぐことだ。日銀は何ができて、何ができないのか、政策の対応範囲を整理して冷静に市場に伝える正念場を迎えている。われわれは、人類史上で類を見ないまでに進んだ、わが国の金融政策のリスクを冷静に考えるべき時に来ている。
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