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米カリフォルニア州のシェールガス採掘場でパイプから噴き出す炎(2014年3月22日撮影、資料写真)。(c)AFP/Getty Images/David McNew〔AFPBB News〕
シェール企業、利払いに窮してバタバタと逝く いよいよ訪れようとしている原油価格下落の正念場
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46417
2016.3.25 藤 和彦 JBpress
3月下旬に入り、米WTI原油先物価格は1バレル=40ドル前後で推移している。
米国での原油掘削装置(リグ)稼動数の記録的な減少(約1600 → 約400へ)がようやく効果を発揮し始めた(生産が1年4カ月ぶりの水準に低下した)ことに加え、連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げ見送りで米ドルが急落したことも原油相場を後押しした。
原油価格の見通しについて、投機筋は昨年(2015年)6月以降で最も強気になっているという(3月22日付ブルームバーグ)。
その理由はなんと言っても、4月17日に主要産油国が集まるカタールの首都ドーハでの会合で、生産抑制に向けてなんらかの合意が成立するとの期待である。
3月21日、OPECのパドリ事務局長は「原油価格は適度な水準で回復する」との見方を示した。しかし、4月のドーハでの会合で具体的な合意ができなければ相場が反転することは明らかである。
さらに筆者は、生産水準維持に関する協議が成立したとしても世界の供給過剰にはほとんど影響を及ぼさない可能性が高い、と考えている。理由は次のとおりだ。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、今年原油の生産を増加させるのはイラン、ブラジル、アルゼンチン、赤道ギニアだ。このうちイランとブラジルは増産を凍結する意向はない。また、アルゼンチン、赤道ギニアが増産凍結に合意しても、抑制される原油供給は日量5万バレルに過ぎず、世界の供給過剰分(日量約200万バレル)の2.5%にすぎない。OPECが6月の総会で減産を決定する可能性も低い(3月1日付ロイター)。
■大幅に増加しそうなシェール企業の破綻
昨年1月に1バレル=40ドル台に下落した原油価格は、その後上昇に転じ、6月には同60ドルに届く勢いだった。だが、6月に開催されたOPEC総会で予想に反して生産据え置きが決定されると再び下落に転じ、同30ドル台後半で年末を迎えた。
今年1月に1バレル=26ドル台だった原油価格は約40%上昇した。しかしこのまま上昇することはなく、年末までにさらなる安値を記録するという昨年の「二の舞」になるのではないだろうか。
その理由は、シェール企業の破綻が今後大幅に増加する可能性が高いからである。
原油価格は回復基調にあるため、シェール企業の一部には増産の動きが出ている。だが、シェール企業全体が利益をあげる水準にはほど遠い。
3月18日、米中堅石油会社「ペノコ」は米連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したと発表した(3月19日付日本経済新聞)。ペノコの負債総額は約10億ドルだが、2月16日を期限とする1370万ドルの利払いができず、その後も資金繰りに追われていた。同日、「エナジーXXI」も880万ドルの利払いが不能となり、今後1年間に利払いを果たせない見込みとなった。その後も「サンドリッジ・エナジー」(2月17日、2170万ドル)や「グッドリッチ・ペトロリウム」(3月8日、額は不明)の利払い延期が相次いでいる。
2月19日付ブルームバーグによると、シェール業界は3月末までに総額12億ドルの利息を支払う必要があるという。12億ドルという数字は北米独立系石油・ガス生産会社61社についてブルームバーグが集計した結果である。そのうち約半分の企業はジャンク債に格付けされているため、多額の利払い負担を抱えている。
シェール企業各社の2月期決算を見ると、売上高は低油価のせいで軒並み前年比35〜55%減少し、稼動リグ数も各社は大幅に本数を減らしている。リグ1本当たりの生産量を大幅に増やしているため生産量は前年比横ばいの企業が多いが、原油価格が1バレル=40ドルになっても、各社にとって債務の利払いのための資金調達が困難なことに変わりはない。
■米国の石油生産企業の3分の1が年内に破綻?
シェール企業(ガス系を含む)の破綻件数は2013年が15社、2014年が14社と低位で推移してきたが、2015年には67社と急増した(破綻の大半は年後半に発生した)。67件のうち原油系企業は42社であり、地域別にはテキサス州が18社と最も多かった。
シェール企業各社は、キャッシュフローを確実にするとの理由から1年後の原油価格を確定することを金融機関から義務付けられていた(原油先物の「売り」を行う)。そのため、昨年前半までは原油先物の売りと原油現物の買い戻しから生ずる差益を稼ぐことができ、これを操業資金等に充当してきた。しかし今年に入るとその錬金術が使えなくなった。融資に占めるエネルギー企業の比率が高い金融機関の株価が下落傾向にある(2月9日付日本経済新聞)ため、4月以降に集中する金融機関との交渉で、融資が打ち切られるシェール企業が続出することが懸念されている。
2月16日、米監査法人・コンサルテイング会社のデロイトは、米国で株式上場する石油・天然ガス生産企業500社以上の調査を踏まえて、「米国の石油生産企業の約3分の1が年内に経営破綻に陥る危険性が高い」と予測した。経営破綻リスクがある175社の企業は1500億ドル以上の負債を抱えているという。米国全体でシェール企業は4000〜5000社あるとされていることから、焦げ付き債権はトータルで2000億ドルを超える可能性がある。
シェール企業最大手の「チェサピーク・エナジー」も相変わらず気がかりである。
同社は今年に入り、ますます窮地に追い込まれていた。最も大きな要因は、昨年末まで400〜500万バレル相当の原油先物を1バレル=58ドル以上の価格で売る契約を結んでいたが、その契約が今年に入り失効してしまったことにある。キャッシュフローが先細りした同社に対し、2月に入り複数の取引先企業は合計2.2億ドルの担保提供を求めていた。最終的に要求される担保は7億ドルにまで膨らむ可能性がある(2月26日付ブルームバーグ)。
また、同社は保有する石油・ガス関連資産に対し昨年182億ドルの評価損を計上した。今年もさらなる評価損が生じる可能性が高いため、虎の子であるオクラホマ州シェール資産の一部売却を検討しているという(3月10日付ブルームバーグ)。
原油価格の上昇で一息ついた感があるが、負債総額約110億ドルを抱えるチェサピーク・エナジーが破綻すれば、シェール企業の連鎖倒産が起き、金融市場に衝撃が走るだろう。
■80年代後半の「S&L危機」が再来か
筆者は以前のコラム(「原油価格急落で再びテキサスは燃えてしまうのか」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43506)で、1980年代後半の逆オイルショック後にテキサス州を中心に生じた「S&L危機」と今回の原油価格下落の類似点について触れた。ここに来て、その再来がますます心配になっている。
1970年代の2度のオイルショックにより、原油価格は1バレル=2.75ドル(1973年)から36.95ドル(1981年)に急騰した。それを受けて金融機関は原油価格が1バレル=60ドルにまでに上昇することを前提に石油ビジネスへの融資を大幅に拡大した。
しかし1981年から原油価格は徐々に低下し、1986年には1バレル=10ドルにまで下落してしまう。高コスト構造の米国産原油はこうした低価格に競争力がなく、多くの採掘事業が行き詰まった。米国内の稼動リグ数は約4000(1981年)から1986年には5分の1以下にまで激減した。
これにより石油企業の5割以上が破綻した結果、1987年から1989年にかけて米国で金融機関の大量破綻が起きた。件数・資産ベースともに金融機関の破綻が深刻だったのがテキサス州である。「S&L」と呼ばれる住宅ローンに特化した小さな金融機関の破綻も、テキサス州が中心だった。1986年初めに3234あったS&Lは1995年末には1645まで減少し、S&L危機に伴う財政負担は1500億ドルに達したと言われている。
今回も、テキサス州を中心にシェール企業の大量破綻が生じ、その救済コストが多額に上る可能性がある。
■世界の地政学的リスクはますます上昇
シェール企業の大量破綻は、米国以外の他の金融市場にも悪影響を及ぼす。
今年に入ってからのシェール企業の破綻総数はつかめていないが、年間を通して優に100社を超えることが予想される。だが、シェール企業が発行しているジャンク債市場には3月に入ると資金が再び流入しており(3月11日付ロイター)、世界の市場関係者はいまだ警戒心が薄い。
S&L危機の時とは異なり、金融機関はシェール企業に対するレバレッジド(ハイリスク・ハイリターン)ローンを証券化して、世界中の投資家に売りさばくことによりリスク回避を行っている。しかし、チェサピーク・エナジーのような大型シェール企業が破綻し、金融市場に混乱が生じれば、金融商品化した原油先物価格は暴落する。
その後に金融危機が来るかどうかは「神のみぞ知る」だが、米国でシェール企業破綻に端を発する「4月危機」が来れば、ヒートアップしている米国の大統領選挙への(悪)影響も大きいだろう。さらに原油価格のさらなる急落は産油国経済を直撃し、世界のいわゆる地政学的リスクはますます上昇することは論を待たない。
今回の原油価格下落の正念場がいよいよ訪れようとしている。その結末ははたしてどうなるのだろうか。
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