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世界の工場・中国、なぜ技術者が育たない?判断要する開発やチームワークが無理、サボる
http://biz-journal.jp/2016/03/post_14361.html
2016.03.23 文=湯之上隆/微細加工研究所所長 Business Journal
■サイノキングテクノロジー設立
日本で唯一のDRAM(半導体メモリ)メーカーだったエルピーダメモリは、2012年2月に経営破綻した。そのときCEO(最高経営責任者)だった坂本幸雄氏は、その思いを著書『不本意な敗戦』(日本経済新聞社)にして出版した(図1)。その坂本氏が、昨年新たにDRAMの設計開発会社、サイノキングテクノロジー(以下、サイノキング)を設立した。同社のHPには、「サイノ=中国の、キング=王、つまり『中国で圧倒的に優れたDRAMを作っていきたい』というコンセプトのもとに生まれた会社」であると記載されている。
また、サイノキングは日本と台湾で計約二百数十名の技術者を採用し、このメンバーの経験と技術力を核として、17年中には日本、台湾、中国で計1000人規模の技術者を有するメモリ開発会社にする計画であるという。
さらに、サイノキングは中国安徽省合肥市の地方政府が進める約8000億円をかけた先端半導体工場プロジェクトに中核企業として参画する。その際、サイノキングが次世代メモリを設計し、生産技術を供与する。
その第一弾として、あらゆるものがネットワークにつながる「IoT(モノとインターネットの融合)」分野に欠かせない省電力DRAMを設計開発し、早ければ17年後半に量産することを目指しているとのことだ。
つまり、一旦DRAMで「不本意な敗戦」を喫した坂本氏が、日本と台湾の技術を基に、中国の資本を利用してDRAM事業に再挑戦するということである。
本稿では、サイノキングのビジネスの特徴を明確にするとともに、その期待と課題を論じたい。
■初のDRAM専門のファブレス
スマートフォン(スマホ)用のプロセッサやデジタル家電用の半導体SoC(System on Chip)では、半導体の設計をファブレス(工場を持たない半導体メーカー)が行い、その製造をファンドリー(受託製造会社)が行うこと、つまり水平分業が定着している。
ところが、世界を見渡してみても、メモリの水平分業が行われたことはいまだにないと思う。メモリは少品種大量生産が基本であるから、ファブレス&ファンドリーモデルには適さず、設計、開発、製造をすべて1社で行う垂直統合型に向いていると思われていたからだろう。
しかし実際には、サーバー用、PC用、スマホ用をはじめ、さまざまな用途に対応するDRAMが必要である。そのため、本来はその用途ごとに設計し、プロセス開発を行うべきであるが、今までDRAM専門のファブレスは存在しなかった。
したがって、坂本氏は世界初のDRAM専門ファブレスに挑戦するということになる。HPの「サイノキングテクノロジーのねらい」には、そのことがターゲットとして明確に記載されている。
「(1)直接の量産ラインは持たず、生産会社への技術提供で利益を得ていくビジネスモデルとし、メモリーの市場価格変動に左右されない安定した収益を実現します。このことによって、常に最先端の開発環境が維持できるよう、投資ができます。この会社が開発したDRAMは、世界中の会社に技術供与されます」
そして、莫大な投資が必要な量産工場には、豊富な投資資金を用意している中国を活用するのである。さらに、ファブレスの柔軟性を生かして、
「(2)JEDEC標準に捕らわれないApplication specificなメモリーを作っていきたいと考えています…(中略)…不要なスペックを削り、お客さんが必要としているものを実現することに特化し、もっとメモリーを作りやすいものにしていきたいと考えています。この事により、既存のメモリ会社と競争するのではなく、むしろ潜在的なDRAMの需要を掘り起こし、既存のメーカーにとっても市場拡大と言う形で貢献したいと思っています」
JEDECとは、Joint Electron Device Engineering Councilの略で、半導体分野で規格の標準化を行っている業界団体のことである。基本的にDRAMをはじめとする半導体製品は、JEDECが定めた標準規格にそって設計開発される。JEDECの標準規格通りにDRAMをつくれば、どのような機器でも動作するかもしれないが、不要なスペックが含まれているかもしれないし、それによって不必要に高度な製造技術が必要になる可能性もある。
これに対してサイノキングは、カスタマー(顧客)が要求する必要最小限のスペックのDRAMを設計開発すること宣言しているわけだ。
世界初のDRAM専門のファブレス、カスタマーに特化したDRAMの設計開発、豊富な中国の資金の活用、とサイノキングのビジネスモデルは秀逸であり、期待は大きい。しかし、これを実現するには、大きな課題もある。
■サイノキングの課題は何か
一言でいうと、サイノキングの成否は、「1000人規模の(日台の)技術者集団を形成できるかどうか」にかかっている。(日台の)と書き加えたところがミソで、たとえ1000人の技術者を集めることができたとしても、そのほとんどが中国人だった場合、成功は覚束ないように思う。その理由を説明したい。
昨年来、中国企業が世界の半導体メーカーを「爆買い」している。特に、紫光集団の買収攻勢は凄まじい(表1)。
中国が、このような爆買いを行っている理由は何か。それは、中国が半導体製造を苦手としているからにほかならない。それゆえ、諸外国の半導体メーカーを技術者ごと買収しようという行動に出たわけだ。
中国の半導体市場は2014年に980億ドルとなった。これは、世界半導体市場3,330億ドルの29.4%に相当する。電機製品などで「世界の工場」となり経済発展を遂げた中国が、大量の半導体を必要としているのである。
ところが、14年に中国で製造された半導体は125億ドルしかない。この生産額は世界全体の3.8%にすぎない。そして中国の半導体の自給率は、たったの12.8%しかない。つまり、中国では半導体の自給がまったく追い着いていないのである。
また、サイノキングのHPには、国別のDRAM供給と需要の推移が示されている。この図によれば、中国企業のDRAM供給量はゼロに近い。その一方、中国は世界のDRAMの約6割を消費しているのである。
世界の工場となった中国が、なぜ半導体、特にDRAMで振るわないのか。その原因は、半導体技術者が育たず、定着しないことにある。
■中国の半導体技術者事情
半導体の開発と製造には数百人規模のプロセス技術者が必要となる。筆者は、中国人は100人規模の技術者のチームワークが必要な製造には向いていないのではないかと思っている。それは、07年に上海にあるファンドリーのSMICを訪れたときに確信した。同社は00年4月に設立されたが、その後、一度も黒字を計上できず低空飛行を続けていた。もし、国からの支援がなければ早々に倒産していただろう。
PC、携帯電話、デジタル家電などでは世界の工場と呼ばれていた中国が、なぜ半導体製造ではパッとしないのか。この謎が、SMIC訪問で解けたのだ。
SMICを訪問して、もっとも大きな違和感を持ったのは、マネージャーは台湾人、技術者のほとんどが日本人か台湾人で、中国人の技術者は極めて少数だったことだ。彼らに、「なぜ、中国人の技術者が少ないのか?」と聞いてみたところ、以下のような回答を得た。
「第一に、中国人は家族と少数の親友しか信頼しない。会社に対する忠誠心もなければ、グループに対する協調性もない。半導体の開発や製造には、最低でも100人規模のチームワークが必要となる。しかし、中国人は個人主義的であり、チームのなかで協力し合って仕事をすることができない」
「第二に、中国人には、何か判断が必要となるような仕事を任せることができない。なぜならば、中国人は判断する際にもっとも安易な選択をするからだ。簡単にいえば、彼らは、“サボる”からだ。たとえば、製造ラインのある製造装置でレシピ開発をさせるとする。日本人の普通の技術者が10枚くらいのウエハを使って条件だしをするところを、中国人は1枚か2枚で終わりにしてしまう。そのレシピを使って量産ロットを処理すると、瞬く間に不良の山を築くことになる。はっきり言って、中国人はズサンなのだ。したがって、この製品ロットがこの製造装置に仕掛ったら、このレシピを実行せよというように、判断の余地がない単純な仕事しか中国人には任せられない」
「第三に、それでも根気強く技術開発のやり方を教えたとする。少しできるようになったかなと思うと、中国人はもっと給料のよさそうな会社を見つけてきて、さっさと辞めていってしまう。義理人情も何もあったもんじゃない」
このような事情で、設立から7年もたっていたのに中国人の技術者はほとんど育たず、定着しなかったようである。
■サイノキングの展望
サイノキングのビジネスモデルはおもしろい。しかし、これを実現するには、日台(もちろん欧米人でも構わない)を中心とした技術者を1000人集める必要がある。それは果たして可能なのか。サークルクロスコーポレーション代表取締役の若林秀樹氏は2月22日、ニュースアプリ「NEWS PICKS」で以下のようにコメントしている。
「優秀なエンジニアを大事にするなら、わかるけど、エンジニアを使い捨てにしているのは、むしろ日本の企業、金融機関、役所。出世もできず金もなく優秀な方が燻っている。シャープに3000億円出すなら、3000万で1000人の技術屋を10年養える。1000万なら3000人技術屋だ。あるいはポスドクを雇え。そういう政策をやってから批判しろ」
経済産業省の管轄の産業革新機構は、潰れかかったシャープに3000億円を出して救済しようとした。結局7000億円出すという台湾・鴻海精密工業にさらわれたが、その3000億円で日本中に溢れ返っている半導体技術者を雇えと言っているわけだ。筆者もまったく同感である。坂本氏には、なんとか1000人の技術者を集めて、DRAMリターンマッチに勝利してほしいものである。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
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