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海外企業のほうが必死に学んでいる「トヨタ」の強さの秘密 日本人が知らない日本最大のグローバル企業
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48237
2016年03月21日(月) 酒井崇男 現代ビジネス
売上27兆5000億円。営業利益2兆8000億円。世界でも有数の大企業であるトヨタ。その強さはしばしば「生産方式(カンバン)」にあると言われてきた。しかし、工場の話だけでは、なぜ「売れるモノ」を作りつづけられるのかという謎は解けない。
新著『トヨタの強さの秘密』で、日本ではほとんど語られてこなかったその謎を明かした酒井崇男さんにインタビューする(後編)。
←前編はこちらhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/48210
■「売れるモノをつくる」仕組み
Q:「売れるモノをつくる」ことは、どこの企業でも当たり前のことだと思いますが、それを組織内の仕組みにまで落とし込めたのは、トヨタだけだったということでしょうか?
酒井 結果から言うとそういうことになると思います。本書『トヨタの強さの秘密』をお読みいただけると分かると思いますが「設計品質」という概念、つまり、「買い手自身も知らない・分からないような買い手の本当のニーズをどの程度満たせるかの度合いを追求する」という仕組みは、きちんとした制度にすることがなかなか難しい。
トヨタはTQM(Total Quality Management:総合的品質管理)の会社ですから、「設計品質」を確保して、「製造品質」を確保する。製造品質、つまり工場の品質というのは、科学的に計測できることがほとんどで「量」的に片がつく話がほとんどです。一方、設計品質には、われわれ消費者のニーズをどの程度満たすか、という「質」的な要素が出てくる。
つまり、商品としての価値、コンテンツとしての価値、「買い手の人間」対「作り手の人間」という要素が出てくるということです。特に作り手側の人間、製品開発組織の人間のハタラキが、工場側のそれとは求められているものが変わってくる。
つまり「TPD(Toyota Product Development:トヨタ流製品開発) での『人間系』」(リーンとタレント)という話になってくるのですね。では、これは具体的にどういうことでしょうか?
工場側では設計情報を製品に変換するだけですから、入口と出口は与えられている。つまりTPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式)では工場で作ったものは売れて現金になることを前提としているので、システムとしてはあまり複雑ではないのですね。TPSについては、だいたいのことはもう全部分かっているのです。
一方、反対に、製品開発組織では、入口は製品コンセプトみたいなもので、出口は、量産工場が十分に稼働するだけの魅力ある製品の「設計情報」でなければいけない。つまり過去と同じ仕事をしていても同じものしかできてこないので、TPD側では、常になんらかの割合で新しいこと、非定型的な仕事をしなければなりません。
製品開発組織はビジネスプロセスの仕組みを説明すること自体はあまり難しくないのですが、組織内の人間の持っている知識や創造性を具体的に、うまく商品価値やプロセスの価値に結びつけることが難しい。
つまり、人の持つ知識やタレント性を経済価値に結びつける人的仕組みを含めた仕組みを作ることが難しくて、日米欧問わず今はこの分野で苦労しているわけです。
トヨタでは、1953年に元々戦争中に航空技術者だった長谷川龍雄さんが、航空機開発のチーフデザイナー制度を「主査制度」として自動車開発に持ち込んだ。これはトヨタが会社として純国産の乗用車を日本人の頭と腕で作ろうと考えたことに答えたものでした。
戦後初の純国産車クラウンの主査である中村健也さん以来、トヨタでは、主査の要件が理解され、人的ネットワークが続けられているのかもしれませんね。
結果的に、「売れるモノを売れるとき売れる数だけ売れる順番に作る」といったとき、この主査制度が「売れるモノ」を作る役割を受け持っているとも言えます。
主査制度は、制度としての説明はいろいろなところでなされてきましたが、つまるところはこの制度の中で期待されるハタラキを生み出す「人間」の話になってくるので、人間系を含めた話が一番難しいのですけどね。
■なぜ日本企業はトヨタのマネをしないのか
Q:トヨタがこれほどうまくいっているのに、(自動車業界は別として)なぜほかの日本企業はマネをしようとしなかったんでしょう?
酒井 ここが不可思議なところです。
たとえば、トヨタの主査制度は海外ではリーン開発(リーンとは「ムダのない」「贅肉のない」という意味で、英語圏でトヨタ流を意味する)と呼ばれて学ばれています。トヨタ式は、リーン・アジャイル、ソフトウエア分野ではスクラム・XP・カンバンなどというものになったり、シリコンバレーでもリーンスタートアップとかリーンローンチパッドなどという形で学ばれています。
日本でも有名になったIDEO社のデザインシンキングは、元々親会社だったスチールケース社がリーンの導入に積極的だったこともあり、リーンに強い影響を受けているものです。スタートアップ企業などで議論されるプロダクト・マネージャーの要件とは、トヨタの主査の要件のことです。
ところが情けないことに、日本では最近は翻訳本でトヨタ流を学んでいる人すらいます。
こうしたことの理由として、まず、第一に当該分野における日本の大学の怠慢と無能が挙げられると思います。米国では自国の自動車産業の屈辱的な敗北をきっかけにして、国を挙げて大きな予算をかけてトヨタ式の研究をしてきました。これが、大学や実業界、コンサルティング業界などを経由して社会全体に横展開されてきた。
もちろん、中には情報としては不完全なものや、いい加減なものも含まれています。しかしオリジナルのTPDに近づこうと失敗を積み重ね、試行錯誤しながら努力してきた人がいることは事実としてあります。それが、米国の半導体業界やソフトウエア業界の躍進につながっています。本書をお読みいただけるとわかるように、シリコンバレーのような社会的仕組みにトヨタの仕組みを昇華しているケースも出てきています。
しかし当の日本、リーン母国の日本では、こうした海外での事情は紹介もされず、ほとんど知られてもいません。
私は昨年米国テキサスの国際会議で講演した際、元米国大手自動車会社の幹部と話をする機会がありました。彼は、自国の自動車産業がかつて敗退した最大の理由は「Arrogance(傲慢さ)」にあったと言っていました。かつての米国自動車産業黄金期の成功に酔い、謙虚に学ぶ姿勢を失っていたことが最大の失敗の理由だったというわけです。
その状況は、いまの日本の負け組企業、とくに電機や半導体、通信業界とよく似ています。台湾企業に買収されたり、不適切会計で問題を起こしても当人達はどこまで自分達のことを客観的に見ているのか、と疑問に思う人もいます。事実、彼らは自身の失敗を自分自身の問題として捉えられていないような発言をしています。
結局、科学的に見て、「うまくいっている仕組み」を研究しなければいけません。感情や思い込みは判断の妨げになります。
■トヨタの系列は儲かっている
Q:系列との関係についても触れられていますが、一般のイメージとだいぶ違いますね?
酒井 ええ。私は もともと三河地方で育ったので子供の頃から系列がどういう仕組みで儲けるかというメカニズムを知っています。遊んでいた近所の友達の親は全員なんらかのレベルでトヨタ関係の会社で働いていたからです。三河の系列企業は東京でのそれと違い、ボロ儲けです。仕組みとしては全く違うものだと言えます。
しかし誰もが、少し考えてみればわかると思うのです。
たとえば、トヨタの「定期値下げ」なんかで、トヨタに、たたかれていて苦しいはずのデンソーの売上はいまでは、4兆3000億円となり、(デンソーは)NEC系列全体や三菱重工よりもすでに規模の大きな会社となっています。もちろん、完成車メーカーのマツダ・スズキ・三菱・富士重工よりも1兆円以上売上が多い。
なぜデンソーがこんなに儲けられるか、本当の仕組みを、日本人もいい加減理解した方がよいと思います。いまでは、フォードやGMのサプライヤーもトヨタとつきあいたいのです。理由は簡単で儲かるからです。ではなぜ儲かるのか? その理由を本書で書きました。
デンソーは4兆円以上の売上、アイシンは2兆円以上、いずれも世界的な企業です。どちらも別段他社より、飛び抜けて優秀な人材ばかりが最初から入社しているか、と言われると、平均すればNECや三菱重工と大差ありません。でもこの結果の違いはどこから生まれるか? アタマを使って考えてみてください。
よくメディアが「トヨタと言えば下請けいじめ」のような記事を書いていますが、私が子供時代から実際に見てきた光景は、およそそうしたことからかけ離れたものです。
単に体質の古いメディア企業自身がそういう搾取型の経済構造になっているので、同じ日本企業であるトヨタ系列もそうなっているだろう、と勝手に考えているだけなのではないでしょうか。現地現物で取材をしていれば全く違う見方になるはずです。
実際とある新聞社で「下請けいじめ」記事を書いていた知り合いの記者は、いじめられているはずの下請け企業の人達が毎年取材するたびに自分よりも豊かな生活水準になっている様子をみて、これでは記事にならないと言っていました。
もっともおなじ系列でも現実は、たとえばトヨタ系との系列と、NTTや日立の系列では、同じ大企業でも内部で行われていることは質的に全く別物と言えます。
最近トヨタは日立やNTTのような古い会社の悪影響を受けているという話も聞こえていますが、原則として、トヨタ系はNTTや日立系列のような搾取型構造にならないようにしています。形態(カタチ)は同じでも、人間系を含めて中で行われていることは別物と言えるでしょうね。このあたりの解説は今回の本では全部書いてはいませんが、また機会があれば具体的に解説することもできるでしょう。
系列システムの質の違いは、トヨタに対して、日立もNTTの系列企業がちっとも規模的に成長できていないことからもわかるでしょう。
■人が人を評価できる文化
Q:やはり難しいのは人が人を評価するということです。多くの企業はそのへんがうまくいかない。トヨタは社内文化として、「正しい評価」ができているということでしょうか?
酒井 もちろん、 トヨタであっても人間がやることですから、完璧にできているとは思いません。深刻な問題もいろいろあるようです。しかし、やはり豊田英二氏ら、いまのトヨタグループの基礎を作った人達が基本的な仕組み作りという意味で優れた仕事をしてきたということははっきり言えるのではないでしょうか。
本書の冒頭で出てくるように、現在トヨタ本社があるところは、もともとは狐や狸が住んでいて、治安もお世辞にも良いとはいえない地域でした。つまり何もないところから、いまのトヨタが出てきている。
結局、人間の知識とか知恵とか創造性を、皆が、実際に買う商品性をもった製品に結びつけることで成長してきたわけです。豊田英二氏同様、創業者に次いで2代目社長だった石田退三氏は「結局一番難しいのは人間」ということを言っています。
その、価値を生み出す人間のハタラキ、つまり「人間系」がトヨタを含めてどの会社でも一番難しいところだと言えます。最近はこうした問題を英語圏では、タレント性の管理、つまりタレント・マネジメントと言います。
工場のワーカーや、定型的な労働をするタイプの事務系のホワイトカラーのような人達の管理方法は最近では分かっているしだいたい確立されている。一方で、それ以外のタレント性、創造性、知的な創造性を求められる仕事の分野の話、つまりタレント・マネジメントがいまは人間の問題として難しいところです。ここをうまくやらないと、最近は会社そのものがあっという間になくなることすらあるわけです。
特にトップマネジメントの人間系で大きなところで間違いを犯すと、ソニーのように大きな打撃を受ける。前著『タレントの時代』で書いたように、「バカは連鎖する」から です。
ここで「バカ」とは、養老孟司氏の著書『バカの壁』で言う意味での「バカ」のことです。前著では、米国人の言い方では、「リーンとタレント」について体系化してあります。そちらも本書と合わせて参考にしていただきたい。
Q:いまから他の企業はトヨタに学んで会社を変えていくときに、すべきことはなんでしょうか?
酒井 日本は、製造業はとくに、TPSやQC(工場内での品質管理)はしっかりやってきた会社が多い。生産技術や生産管理もよく研究されてきて、国際的にみても比較的まだ高い水準にある。
しかし工場の話ばかり極めていても、売れないモノのために立派な設備を揃えて巨大な工場を作って喜んでいれば、シャープのように台湾企業の下請けとして生きていくことになります。
あるいは巨大な研究所を作って巨額の研究費を使っていたり、研究のための補助金をばらまいていてもちっとも世界で売れる商品性のあるものができてこない。
こうした理由、つまり技術と商品性(価値)・経済的な利益の関係をそろそろ理解していただかなければいけません。こうした問題を理解する上でTPDの本質について学んでほしいのです。
どうもトヨタシステムは日本では正しく理解されていない。ビジネスマンの間だけではなく、中央官庁の役人や政治家も、日本を代表するグローバル企業の仕組みをまともに知らないという事態になっています。
これは、現在のものつくり産業とはどういうものかを知らないに等しいとも言えるので、極めて困った状況です。これは多くのトヨタOBが指摘しているように、東大や一橋の経済学部や経営学部だけでなく、工学部にも問題があったと言えるでしょう。実業を混乱させる間違ったものつくり論や設計論ではなく、 事実にもとづいた正しい設計論・ものつくり論を日本でも展開しなければなりません。
またこれは工学分野に関して特に言えることですが、技術や研究は最終的に商品価値に結びついてはじめて経済的な価値をもつことも理解していなければなりません。
「売れるモノを売れるとき売れる数だけ売れる順番に」作るといったとき、もっとも肝心な、「売れるモノ」の欠落したトヨタ生産方式、売れるモノがどうできてくるのか説明できない、ものつくり論などばかげた話です。伝統的な三河人が昔から言うように、「売れないモノを作るのは犯罪」だからです。売れないモノを作ることは究極のムダに他なりません。
最近では、そうしたオリジナルから逸脱したトヨタ論が日本国内、特に社会系の学者の間で展開されていて、実害をもたらしています。
たとえば、東大ものつくり研究センターの「すりあわせアーキテクチャ論」はその一つと言えるでしょう。私の前著を読んだ多くのトヨタOBの読者から、「変な話が世の中で展開されて迷惑しているから、間違いを酒井さんからも指摘してくれないか」ということだったので本書ではその点にも軽く触れました。
トヨタでは、昔から、「売れるモノ」(TPD)を「売れるとき売れる数だけ売れる順番に」(TPS)作って成功してきた会社です。歴代のトヨタの社長が「当たり前のことを当たり前にしっかりやる」ということはそういうことを言っています。
売れるモノを生み出すことを担当するのがTPD で、売れるとき売れる数だけ売れる順番に担当するのがTPSです。
TPDがないのにTPSだけを頑張っていてもどうしようもありません。TPD+TPSのトータルのトヨタシステムを、日本人である以上、教養として知っておくべきだと考えています。日本を代表するグローバル企業の仕組みをほとんどの日本人よりも一部の外国人の方が詳しいというおかしな事態はいい加減終わりにしなければいけません。
TPSは当たり前として努力を続ける上で、TPDを学び活用することが、日本の負け組企業が再び世界で勝負するための条件だと言えるでしょう。なぜなら、海外の企業はTPDを部分的にでも体得しているのはもちろん、いまも必死で学んでいるからです。
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