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日本人が意外と知らない!? 「トヨタ」が最強であり続ける本当の理由
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48210
2016年03月20日(日) 酒井崇男 現代ビジネス
売上27兆5000億円。営業利益2兆8000億円。日本では圧倒的、世界でも有数の大企業であるトヨタ。ではなぜトヨタはこれほど強いのか? 新著『トヨタの強さの秘密』で、日本ではほとんど語られてこなかったその謎を明かした酒井崇男さんにインタビューする。
■意外と知られていないトヨタの強さの理由
Q:トヨタが強いのは、数字を見れば一目瞭然で日本企業の中では圧倒的。でもたしかに「なぜ強いの?」と言ったときに、いままで正面から語られてこなかった気がします。それを本書ではトヨタの強さは「製品開発」にあると言い切りましたね。逆になぜいままで本書のような本がなかったのでしょうか?
酒井 今回の本のタイトルの副題は、「日本人の知らない日本最大のグローバル企業」となっています。そこで早速SNSの知り合いから、「トヨタって本当にグローバル企業なの?」という質問がありました。変な話ですがトヨタに関しては、まずはそこから説明しなければなりません。
トヨタは27兆円売上、3兆円弱の営業利益、国内生産400万台海外生産600万台で、国内生産のうち半分は輸出です。つまり総生産台数1000万台のうち80%は海外市場向けに製造・販売しています。日本人が買っているのはすでに全体の20%に過ぎないのですよね。またトヨタ本体の社員数はすでに日本人よりも外国人のほうが多い。
こういう数字を見れば、創業者の孫の豊田章男社長が「MADE BY TOYOTA」と言い始めた意味がわかると思うのです。
ただ、トヨタやトヨタ車というと日本ではあまりに身近すぎて、グローバル企業という感覚がないのかもしれません。日本人の生活に溶け込んでいますしね。もちろん、これは何も日本に限った話ではありません。実際、日本だけではなく、米国人はトヨタは米国の会社だと思っていたりする人もいるほど、米国社会にも溶け込んでいます。
米国人の中には、「トヨタはもとは日本の会社かもしれないが、米国人のニーズにあったクルマを米国で米国人が作る米国の会社だ」と自慢している人も最近ではよくいます。圧倒的に強い理由として、まずはこうした世界の人達のニーズに適合したクルマをトヨタは提供しているということはわかりますよね。
ではトヨタはなぜ強いの? というと、日本国内では、だいたいTPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式)や営業力の強さを挙げる人がいまだにほんどなのではないでしょうか。
その理由として、工場の話は目で見てわかる、あるいはわかった気になりやすい世界ですし、営業はさらにわかりやすい。実際、書店に行くと売っているトヨタ本は、ほとんどがTPSに関するもの、つまり工場の話です。例のごとくカイゼン・カンバンとか5Sとか自働化とかの話ですね。
しかし、少し考えてみればわかると思うのです。TPSと日本で戦後発達したQC(工場内での品質管理)のセット、つまり「TPS+QC」は、いまや世界の常識となりました。TPS+QCは米国、中国、韓国はもちろん、メキシコでもブラジルの工場でも立派にやられている。
TPS+QCこそがかつてメディアがMADE IN JAPANと呼んでいた工場内でのノウハウですが、それはいまではフォードでもマツダでも米国のGMでも韓国のヒュンダイでもしっかりやられている。程度の差はもちろんあれ、本質的な差は工場では生まれない時代になっています。TPSはやっていなければ論外である、グローバル競争に参加する資格すらないという種類のものです。
またトヨタは国内の営業がしっかりしているという人もいますが、前述のようにトヨタ車はすでに80%が国外で販売されています。海外でもトヨタの営業はもちろんしっかりやっているはずですが、そういう意味では競合他社だって負けずに営業には取り組んでいる。
では、なぜ相変らず「トヨタ」だけが世界で圧倒的に稼いでいるのでしょうか?
その秘密はじつは昔からTPD (Toyota Product Development:トヨタ流製品開発) にあります。トヨタの強さは昔からTPDにあって半世紀以上その事実は変わっていません。TPSに加えてTPDも圧倒的に強いということです。
TPDとは、1953年に当時常務取締役だった豊田英二氏と元航空技術者の長谷川龍雄さんがはじめた、主査制度にもとづく製品開発のことです。
ではなぜ、肝心のTPDはあまり一般的に知られていないのか?
それは、TPDはTPSに比べると、少し説明が難しかったこともあります。TPDは、TPSのような工場の話と違って目に見える話ではないですし、知識集約型である。
そのため理解するためには、新しい価値を生み出したり、原価を下げたりするために技術的な知識やトヨタ流の設計という概念を理解したりしないといけなくなってきます。従来は、あまり一般の人向けに説明するものではなかった。
研究者でも、社会学系のものつくり分野の学者になるとTPDの話を正確に理解している人は日米ともに皆無です。技術や設計、経済性の知識がないと、人にわかるように説明するのが、少し難しい。一言で言うと、ちょっと込み入った話になるということです。
そこで、TPDは伝えるのが難しいということで、わかっている人がわかっていればいい、知っていればいい人が知っていればいい、という種類のものだったのではないでしょうか。
そのためかも知れませんが、世間でTPSばかりが有名になってしまってTPDはほとんど知られていない。
■製品開発の段階で利益のほとんどは決まる
しかし、トヨタはむかしから、元々ざっくり言えば、「TPD + TPS」の会社です。「売れるモノを売れるとき売れる数だけ売れる順番に作る」といったとき、「売れるモノ」を作るのがTPDつまり製品開発の役割で、「売れるとき売れる数だけ売れる順番に作る」のが工場のTPSの役割です。
歴史的には、TPDの価値や利益に対する貢献度は年々増えて、1970年頃にはTPDとTPSの利益貢献度は逆転し、現在は価値も利益もほぼすべてはTPDで生み出されるようになっています。
つまり、
「消費者が買う商品性(価値)を消費者が実際に買う、あるいは買える価格でありながら、会社にとっては十分な利益を出せる原価構造」
のほぼすべては、現在ではTPDで生み出されています。
だからと言って、TPSが不要になったとかいう話ではなくて、もともとTPDとTPSはトータルの組み合わせで相乗効果を出すための仕組みなのです。でもすでに述べたようにTPSは世界の常識となっているのでそこだけで競争する時代は終わったということです。
TPSが世界で知られるようになったのは、トヨタが系列企業向けにTPSを広める目的があったり、TPSの発案者の大野耐一さんが、ダイヤモンド社から1978年に『トヨタ生産方式』という本を出したこともあるのでしょう。
また、日米でトヨタ研究をした研究者らが、社会学系の学者だったために、彼らでも理解できる、工場での生産の話をもっぱら展開したことも理由としてあるかも知れませんね。
大学関係では、TPDについてきちんと書かれた本は全くといってよいほどありません。でもいまは、実業の世界ではそこで勝負しているのですよね。
■「設計者」の定義がほかの企業と違う
Q:おもしろいのがトヨタにおける設計者の定義です。普通の企業では、設計者が利益や実現手段にまで責任を持つということは少ないのではないでしょうか?
酒井 はい。「トヨタ流設計者」というのが実は、本来の意味での「設計者」のことです。東大名誉教授で、畑村創造工学研究所代表の畑村洋太郎さんは、「世の中では設計者というと、図面を書く人のことだと誤解されていて困っている」ということを言っておられましたが、全くその通りです。実際の設計における設計者とは、
@ 消費者が買う価値:商品性
A 利益(=売価−原価):売価は@の商品性で決まる
B 上記@とAの実現手段:技術開発を伴う
の3つの事柄を主導する役割の人のことです。一般にはこれを広義の設計者と呼んだりもしますが、この上記3つが解決されたあと、つまり全部終わった後、線を引く作業は文字通り作業だということになります。
トヨタですと、車両担当主査(現在のチーフエンジニア)が、各サブシステムの基本設計者達と「消費者が買う商品性を、利益の出せる原価構造で実現する」ための設計を主導することになっています。つまり、トヨタで「製品の社長」とされてきた「主査」は、製品の価値を実現する設計者であると同時に、トヨタ流原価企画の責任者でもあるというわけです。
これは、いまでは何もトヨタに限った話ではなくて、米国でも世界的に成功しているメーカーでは常識的に行われています。
たとえばスティーブ・ジョブズは、こうしたトヨタの主査と同じ役割をしていた、ということに、うすうす気がついている日本の人は多いのではないでしょうか。彼らは広義の設計者と呼ばれる人達で、ジョブズのようなタイプは広義の設計者でありながら会社の社長を兼ねている人達です。豊田喜一郎や本田宗一郎、ソニー創業者の盛田・井深両氏はこうした種類の人達です。
ジョブズが、ソニー創業者の盛田さんを尊敬していたことを知っている人は多いでしょう。彼らは広義の設計者です。リーン開発の分野では彼らをESD型のタレントと呼んでいます。ESD(Entereprenure System Designer)とは起業家的システム設計者のことです。
■低コスト化技術の追求
Q:設計者がデザインや機能を設計するというのは、一般的にも当然のことだと思いますが、原価を下げる(原価低減)ことも、設計の段階でほとんどが考えられているという部分はかなり驚く読者が多いのではないでしょうか?
酒井 本来の意味での設計者の仕事とは、消費者、つまり買い手のニーズを満たしている度合いを高めて、実際に買い手が買う商品を生み出すことです。買い手は設計者が意図した価値を買うわけですから当然です。
いまの企業競争とは、ざっくり言えば、「消費者が持つニーズと商品の価値の適合度が上がるような設計情報を経済的に作り出す」分野で競争していると言えます。そのための有力な手段が技術開発です。
つまり、商品性(価値)を上げるために技術開発をすることはもちろんですが、トヨタでは「低コスト化技術の開発」を積極的に行ってきています。
たとえば、現在市販されているミライのような燃料電池車は、原理そのものや技術そのものは10年も前には確立されています。ただとてもでないが普通の家庭の収入で量産車が買える値段では実現できていなかった。つまり、研究室でできた、ということと、実用化されて、実際にわれわれが普通に買える値段の「商品」になっている、ということはまったく別物なのはいうまでもありません。
ミライの場合も(まだ少し値段は高いですが)普通の人が買えるレベルの燃料電池車になるために、トヨタでは、「低コスト化技術の開発」を行ってきているということなのです。
燃料電池車ミライ〔photo〕gettyimages
また、「自由度」ということを考えれば、前工程(企画・設計)で価値も原価も決まってしまうのは誰でもわかるのではないでしょうか。後工程、たとえば工場で量産段階でなった段階で、大幅な設計変更をして原価を下げることは不可能です。
たとえば、家族が喜ぶおいしいカレーを作ると決めて材料を買って下ごしらえをして最後に煮込んでいる最中に突然、俺たちは今日はカレーは食べたくないから肉じゃがにしたいと言われてももう変更できません。カレー粉は高いからカレー粉を使わないカレーにしてくれと言われても困ります。
ものつくりにかかわらずどんな事柄でもそうですが、後工程で何か変更をする場合には自由度はどんどんなくなる。
価値もそうですが、原価も同じです。何を作るか、つまり企画や設計段階で、可能な限りの情報を集めると同時に優秀な人材を投入して、ほとんどを決めるわけです。後工程でももちろん原価は下がりますが、現実問題可能なのは2〜3%でしょう。
■マネジメント能力
Q:もともとの人材からすると、トヨタだけが特に優秀な人が集まっているわけではありませんよね?
酒井 もちろんそうだと思います。私のようなもともと地元の人間にとっては、ああ豊田市か、という感じで別に三河地方には違和感は全くありません。しかし、もともとトヨタは東京からするとずいぶんと辺鄙なところにあるので、第一希望で就職する人は昔は少なかったと聞きます。
特に年配の人の中には、「東京で育ってトヨタに就職するのは、都落ちのような気持ちになる、三河線に乗っていると泣けてくることがあった」と言っていた元社員の人もいました。三河線とは豊田市を走るローカルな鉄道のことです。
もちろん、豊田市は、いまでは日本一経済的に豊かな自治体になりましたので、東大の工学部の就職希望ではここ数年トヨタが一番だという話が聞こえてきます。いわば「寄らば大樹」ということで、学生諸君は現金なものです。トヨタの将来が心配になりますね。
実際、私が就職するときも、トヨタに行く人もNTTや日立に行く人も学生の資質としては大差はありませんでした。しかしここまで業績に違いが出る。その理由はマネジメントそのものに他なりません。
本書を読むと、その秘密の一端がわかるのではないでしょうか。トヨタが完璧だとは言いませんが、結果から言えば、日立やNTTのようにグローバル化に失敗して凋落してきた企業よりは素晴らしいレベルで優れている、ということです。
あるいはトヨタが良いというよりは、日本企業の場合はトヨタ系以外が論外、人災レベルで劣っていると言ってもよいかもしれませんね。
■米国で始まっているトヨタ流経営の研究
外資企業でも最近は動きがあります。かつて流行したビジネススクール式の経営が組織を荒廃させ、ごく一部の階層を除く米国人を貧しくしてきたと言われ始めたので、トヨタ流の人材育成やタレントの活用方法が調査されているようです。
ハーバードビジネススクールでもトヨタのケースが積極的に取り上げられているということですね。もっとも、ハーバードの人達はほとんどまともに理解ができているというわけではなく、相変らず的が外れた議論を繰り返しているとも聞いています。
2月に長年のトヨタ研究で知られているミシガン大学のジェフリー・ライカー教授と話をしたときに、「トヨタは米国の会社やフォルクスワーゲンのように、MBA的、資本力に頼んだ無理矢理の機械化による成長ではなくて、「有機的な成長」をしてきた会社だ」と言っていました。
彼は、米国企業が、トヨタからいかに学べるかを考えているようでした。ここでライカー教授の言う「有機的な成長」というのは古い米国式の「切った、貼った」の企業経営に対してよく用いられる用語です。
ライカー教授もこの有機的成長の意味を考えていたようですが、彼を含めてあまり合理的な説明をしている人はいません。本書では、トヨタ式のマネジメントのTQMの理論化もしたので、このあたりの意味を合理的に理解していただけるのではなでしょうか。
不思議なことに日本最大のグローバル企業のマネジメントは、日本の経営学科ではまともに研究もされず理解もされず、的の外れたことばかりが言われてきたので、日本人の間では、トヨタ系列以外の人にはトヨタ流経営は全くというほど知られていません。トヨタ系の社員も与えられた仕事をこなすのに精一杯になっているはずなので、もちろん、全体の仕組みを知ったり考えたりする余裕はないのかもしれません。
実は、前著(『タレントの時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』講談社現代新書)の読後の感想の中には、「自分が40年勤め上げた会社のことがはじめて理解できた」というものが複数ありました。企業規模が大きいと全体の構造がどうしてもわかりにくくなることはあると思います。
(後編につづく)
世界が必死で学ぶトヨタの製品開発とは何か?
酒井崇男(さかい たかお)
愛知県岡崎市生まれ。グローバル・ピープル・ソリューションズ代表取締役。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了。大手通信会社研究所勤務を経て独立、人事・組織・製品開発戦略のコンサルティングを行う。リーン開発・製品開発組織のタレント・マネジメントについて国内外で講演・指導を行っている。前著『「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』(講談社現代新書)では、グローバル企業の人材戦略について詳細に解き明かし、大きな反響を呼んだ。
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