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「サイノキングテクノロジー HP」より
「計画倒産」と批判浴びた元エルピーダ社長、日本の半導体技術を中国に売る新会社設立か
http://biz-journal.jp/2016/03/post_14282.html
2016.03.17 文=編集部 Business Journal
2012年2月に経営破綻した半導体メモリー大手、エルピーダメモリの社長だった坂本幸雄氏が、日本の技術と中国の資金を活用して先端半導体の開発・量産に乗り出す。NHKが2月20日6時のニュースで、続いて2月22日付日本経済新聞が報じた。
本当なのかと首を傾げる向きが少なくなかった。これまで坂本氏は、“大ボラ”を吹いてメディアを手玉にとってきた過去があるからだ。
案の定というべきか、2月24日午後1時から開催される予定だった次世代メモリー設計開発会社発足の記者会見は中止になった。中止の理由は報道への対応に追われているからだという。事前にメディアに流して前景気を煽るのが坂本氏の常套手段だが、かえって墓穴を掘ってしまったようだ。
日経新聞の記事はこのような内容だった。
「坂本氏が社長を務める半導体設計会社はサイノキングテクノロジー。日本と台湾の技術者合計10人で立ち上げ、今後は日台と中国を中心に設計や生産技術の担当者を採用して1000人規模の技術者集団にする。
新会社は中国安徽省合肥市の地方政府が進める約8000億円をかけた先端半導体工場プロジェクトに中核事業として参画する。サイノ社側が次世代メモリーを設計し生産技術を供与する。第1弾として、あらゆるものがネットワークにつながるIoT(モノのインターネット)分野に欠かせない省電力DRAMを設計し、早ければ17年後半に量産する」
青写真は壮大だったが、発足会見は中止に追い込まれた。中国との間で最終的な合意ができていたのか、疑問視する向きも多い。
日経新聞の記事では、「サイノ社が設計・生産技術に特化し、数千億円規模の投資が必要な半導体工場の資金負担は中国に任せる国際分業の新しい形態を模索する」となっている。つまり、あくまで「模索」の段階であって、確定する前に坂本氏が大風呂敷を広げ過ぎた可能性もある。
●香港本社と日本法人のCEO
「サイノキングテクノロジーリミテッド、およびサイノキングテクノロジージャパン株式会社のCEO(最高経営責任者)には、私、坂本幸雄が就任しました。サイノ=中国の、キング=王、つまり『中国で圧倒的に優れたDRAMを作っていきたい』というコンセプトのもとに生まれた会社です」
サイノキングテクノロジージャパンのHPは、坂本氏のこのような書き出しで始まり、さらに現状と今後について次のように綴っている。
「香港本社と日本法人を2015年8月に設立、開発ラインを中国に設立し、十分な支援を得られることを合意しています。また、台湾法人『サイノキングテクノロジー台湾』」も設立準備中です。今後、日本と台湾とで、計約二百数十名のengineerを採用していきます。このメンバーの経験と技術力を核とし、2017年中に、日本、台湾、中国併せ、1000人規模のエンジニアを有するメモリー開発会社にする計画です。」
気になるのは、同社HPの会社概要に資本金の記載がない点だ。資本金を載せていない会社概要というのは、信頼性に乏しい。
●再建請負人が“計画倒産”させた?
坂本氏は1970年に日本体育大学体育学部を卒業し、高校野球の監督になるという夢が破れ、義兄の紹介で半導体メーカーの日本テキサス・インスツルメンツ(TI)に入社した。体育会系で半導体に関する知識もなく、倉庫係として資材の出入庫から学び始めたというのが、自慢のエピソードだ。
徹夜もヘッチャラというタフな働きぶりが認められ、TI副社長に上り詰めた坂本氏は、その後、半導体事業の再建請負人となる。神戸製鋼所の半導体本部長、台湾の半導体メーカーの日本法人である日本ファウンドリー(現・UMC JAPAN)社長を務めた。
その手腕を買われて02年にエルピーダメモリの社長に招かれた。同社は99年に日立製作所と日本電気(NEC)のDRAM(半導体を使用した記憶素子)事業を統合して発足。その後、三菱電機の事業も譲り受け、国内唯一のDRAMメーカーとなった。09年に改正産業活力再生法(産活法)の適用第1号に認定され、300億円の公的資金を得ている。
だが、サムスン電子とSKハイニックスなど韓国勢とのシェア争いに敗北。市況悪化も重なり、12年2月に会社更生法を申請した。負債総額は4480億円に上った。
法的処理の過程で、社長の坂本氏は“計画倒産”を仕組んだとの見方も一部で広まった。自ら管財人に就いて、米半導体大手マイクロン・テクノロジーにエルピーダを売却した。13年7月、買収手続きが完了し、エルピーダはマイクロンメモリジャパンと社名を変更した。
エルピーダ倒産のあおりを受けて連鎖倒産した中小企業の経営者が自殺する事件があった。また、購入した株が突然無価値になった株主は激怒し、「経営破綻が予見できたのに、その直前に資金調達計画を発表。会社が存続するかのようにみせかけたのは不当だ」として、坂本氏ら旧経営陣を相手取り1億5000万円の損害賠償請求訴訟を起こした。
しかし、坂本氏は批判などどこ吹く風といった様子で、『不本意な敗戦 エルピーダの戦い』(日本経済新聞出版社)を出版。これによって被害者の怒りは増幅した。
今回の新会社設立構想は、平たくいえば日本の半導体技術を中国に売り込むものだ。「国際的分業」とはいうが、中国が日本や台湾の技術者の頭脳を買うことになる。
●坂本氏を持ち上げた日経
1月4日、『プロフェッショナル』(NHK)の放送開始10周年特別番組として、「よくも悪くもいろいろあった10年。挑戦を続けるプロたちを描く」と題した特集が放送された。
日経新聞も「日経ビジネス」(日経BP)も坂本氏には優しかった。12年2月2日、坂本氏は11年4〜12月期決算発表を発表したが、その様子を日経新聞は「坂本社長は『資金繰りに問題ない』と語った」と書いている。一方、同じ会見に出た朝日新聞は「資金繰りは厳しい」と報道していた。
その後、日経新聞の記者は2月27日の倒産会見で坂本氏に「決算発表では『資金繰りに問題ない』と言っていたではないか」と詰め寄った。これに対し坂本氏は「3月末までは大丈夫と我々は考えていたが、その先はリファイナンス(金融機関からの借り換え)が難しいとわかった。今が(会社更生法申請に)ベストタイミングだと判断した」と悪びれずに語った。
その姿を見た記者たちは、「経営責任」の四文字が欠落しているようだったと表現する。かつて日経グループは坂本氏を「名経営者」「戦う経営者」などと評して持ち上げてきた。
エルピーダは会社更生法の申請に関して、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)といった主要取引先の同意を取り付けていなかった。金融機関は寝耳に水だったようだ。
しかも、エルピーダには公的資金が注入されていた。10年に会社更生法を申請した日本航空の場合も当時の西松遥社長は引責辞任したが、坂本氏はエルピーダに居座った。
倒産と同時に、坂本氏はマスコミの信用も失った。倒産会見の場で坂本氏は、「(メディアが)どこかから聞いてきた話をすぐ記事にしたことが、どれだけ我々の提携環境を阻害したことか」とメディア側を痛烈に批判。本来成功したはずの提携交渉が進展しなかったのはマスコミのせいだと八つ当たりしたのだ。この時、会場からは冷笑が起きた。外国勢を中心に資本・業務提携を持ちかけていたのは事実だが、記者団からすれば「“願望”を自社に好意的な媒体(味方)にリークしてきたのは、坂本氏自身ではないか」といった思いがあるのだろう。
確かに坂本氏はモーレツ経営者だったが、経営力には首を傾げる向きが多く、業界関係者は次のように指摘していた。
「パソコン用DRAMの価格は急落したが、スマートフォン用は十分収益を上げていた。エルピーダは旧来のパソコン用の生産ラインのままだったため、『スマホ時代』に取り残された。つまり、戦略ミスが倒産の最大の原因だ」
また、取引銀行は「実効ある再建計画を打ち出せなかった」と不信を口にした。なお、エルピーダは経済産業省官僚のインサイダー疑惑の舞台になった会社でもある。信用を得られなかったことが失敗の大きな要因だろう。
(文=編集部)
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