中国ゾンビ企業の再編と労働者の苦境会社が未払い賃金の一部を支払い始めたため黒竜江省双鴨山の炭鉱労働者の騒動は、鎮静化に向かうようだ 黒竜江省の炭鉱で起きた労働者の抗議行動とそれに対する当局の対応は、競争力のない国有企業の再編に対する当局の本気度を試している(写真は黒竜江省にある国有企業、竜煤集団の炭鉱そばの民間業者の作業場) By CHUN HAN WONG AND MARK MAGNIER 2016 年 3 月 16 日 15:14 JST 【北京】未払い賃金をめぐる中国黒竜江省の炭鉱労働者の抗議行動に対して、迅速だが予想された対応が講じられた。街頭行動をやめさせるため労働者に未払い賃金を支払うと同時に、やめなければ警察を介入させると威嚇したのだ。こうした当局の硬軟合わせた工作は、労働争議への長年の懸念と、政府が慎重に赤字の国有企業再編を進めようとしているさまを浮き彫りにしている。 黒竜江省双鴨山の騒動は、鎮静化に向かうようだ。同社の従業員によると雇用主である巨大国有企業・竜煤集団が14日、賃金の一部を支払い始めたためだという。双鴨山では先週、同省の陸昊省長が「竜煤には炭鉱労働者への未払い賃金はない」と発言したのに反発し、何百人もの労働者が街頭に繰り出し、警官隊が出動する騒ぎとなった。 竜煤が未払い賃金の支払いに応じ、陸昊省長が未払い賃金で誤った発言をしたと認めたことは、カネと威圧、そして是正策を織り交ぜて労働争議を解決するという過去の中国当局者の対応と同じだ。中国人たちはこの戦略を「安定をカネで買う」と称している。一般市民の怒りを取り除くため政府がよく使う手段だ。 竜煤は、競争力のない国有企業の再編に対する政府の決意を試す試金石となっている。国有企業の再編は政府の経済政策の主要な目標の一つだ。国有企業は資金を枯渇させており、サービスと消費主導型の経済への移行に障害になっている。 双鴨山の労働者は、向こう5年間にわたって中国政府が解雇を予定している鉄鋼・炭鉱労働者180万人の一部だ。緊縮策、そして労働者の解雇、再訓練と配置換えのためのリストラ資金1000億人民元(約1兆7400億円)の拠出は、5カ年経済計画の一環だ。この計画は、北京で開催されている全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が閉幕する16日に採択される予定だ。 エコノミストたちは、中国は過剰生産能力を切り詰めるため一層の削減と、もっと生産性の高い産業への労働と資本の転換が必要だと述べてきた。だが政府はそうする代わりに、しばしば時短や賃下げを通じて労働者を雇用し続けるよう奨励している。 これは、労働争議の急増に拍車が掛かるのを回避するためだが、その結果、経済改革の先延ばしという代価を払うことになる。 苦境にある一部の企業は存続に向けた公的支援が期待できる。竜煤のケースでは減税と現金による奨励措置だ。格付け会社フィッチ・レーティングスは、それが同社の社債のデフォルト(債務不履行)を回避させたと述べている。 フィッチの上海駐在アナリスト、ジェニー・フアン氏は「地方政府にとって、これらゾンビ企業を見捨てるのは容易ではない」と述べた。 企業や政府機関は失業を未然に防ぐため各種の措置を講じている。昨年の一つの支援拡充措置として、企業は政府の失業保険基金から、雇用を維持または再訓練するための資金の払い戻しを申請できるようになった。 竜煤の従業員数は、苦境にある国営企業を多数抱える黒竜江省にとっては膨大だ。同省当局者によれば、同社の総従業員は約22万4000人だという。 同省の陸昊省長は、竜煤について再編の機が熟しているとの認識を示した。石炭生産1万トン当たり労働者48人と、全国平均の3倍の労働力を使っているからだ。陸省長は今月、北京の全人代会合に出席した際、同社は「痛みを伴う削減」を実行しなければならないと述べながらも、解雇労働者は仕事を見つけられるだろうと自信を示した。 陸省長は記者団に対し、黒竜江省の宣伝映画をみせ、牧畜業や観光業の有望さを強調した。これは解雇労働者を吸収できる業種だと述べた。陸省長は、ここで同社に炭鉱労働者への賃金未払いはないと述べた。 この発言が双鴨山の多くの労働者の怒りを買った。双鴨山は人口150万人で、竜煤の保有する40前後の鉱山の一部がある。労働者たちがソーシャルメディアで共有した写真、映像、そして目撃者の説明によれば、群衆が9日、同市にある政府と同社の事務所前に集まり始め、週末にかけその人数がどんどん膨らんでいった。 ヤンという名字だけを明かした31歳の技術者は、同社が2014年から給料を全額支払わなくなったと述べた。最初は1015%少ないだけだったが、昨年は減額が40%、さらには70%に及ぶこともあったという。 これは、中央政府の上層部が認めたやり方でもある。国家発展改革委員会の徐紹史主任は賃金の減額や労働時間短縮によって雇用が維持され同国の労働市場を安定させていると述べた。 労働者の中には、賃金の減額は退職を促すため意図的に行われていると指摘する者もある。 関連記事 中国首相、経済目標の達成に自信−全人代閉幕後の会見で 中国、賃金上昇の抑制図る=関係者 中国政府、試されるゾンビ企業退治の本気度 中国悲観論が加速、指導部への失望感で http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NB903_cprote_M_20160315065111.jpg FX Forum | 2016年 03月 16日 16:00 JST 関連トピックス: トップニュース コラム:全人代後も残る中国経済「2つの不安」=西濱徹氏 西濱徹 西濱徹第一生命経済研究所 主席エコノミスト [東京 16日] - 中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が16日、閉幕した。今年の全人代では、経済・社会の向こう5年間の発展目標を示す「第13次5カ年計画」の詳細が討議された。
習近平政権は発足直後に、中華民族の偉大な復興実現を目標とする「中国の夢」というスローガンを発表し、その後は同国経済が「新常態(ニューノーマル)」に突入しているとして、構造改革の必要性を強調する姿勢を見せてきた。しかし、これまで政権はスローガンや目標といった「青写真」は示すものの、具体的な方策に乏しい状況が続いてきた。ただ、今回は「5カ年計画」の討議などを通じて、具体的な方策に落とし込む作業が進んだとの見方が出ている。 全人代の初日には、「5カ年計画」の大枠として、対象期間中における経済成長率の目標を「平均6.5%以上」とする方針が示された。ただし、この水準は習政権が掲げる「所得倍増計画(2020年の1人当たり国民所得を2010年と比較して倍増させる計画)」の実現を前提に、成長率を逆算すれば算出可能な数値であり、これ自体に特段驚きはない。 また、2016年の経済成長率目標についても、先月末以降、政府関係者から漏れ伝わってきた内容(6.5―7.0%)と同じだ。昨年来の中国発による度重なる混乱が「市場との対話」の欠如に起因してきたことから、これを相当意識したと見られる。 今回示された内容や、足下における経済指標などを見る限りは、昨年以降の度重なる混乱の度に中国景気に対して寄せられた不信感は幾分過剰だった可能性はある。しかし、習政権が取り組むとした構造改革のタイミングやそのペースを間違えると、予想外の形で同国のみならず世界経済に悪影響を与えるリスクはある。習政権にとっては、これまで以上に「市場との対話」に神経を使う必要性が高まっていると言えよう。 <実体経済に対する「過度な不安」は後退> 中国景気自体は確かに減速基調を強めるなど、難しい事態に直面している。特に、近年の経済成長のけん引役となってきた製造業を中心とする輸出産業では、過去の過剰投資に伴う生産設備や在庫、さらに債務の過剰などが活動の重しとなっている。 同様に、2008年の世界金融危機後に当時の胡錦濤政権の下で実施された大規模景気対策を受けて、不動産を中心に過剰債務に裏打ちされた形で過剰投資が行われた結果、関連する分野では、依然として後処理に追われる展開が続いている。 足下ではこうした状況が中国経済の足かせとなる展開が続いている一方、金融市場においては一昨年末以降の人民銀行(中央銀行)による金融緩和や公開市場操作を通じた資金供給の影響で「カネ余り」の状況が続いている。 さらに、原油安の長期化なども重なりインフレ率は政府が掲げる目標を大きく下回る水準で推移。家計の実質購買力の押し上げなども重なり、個人消費は比較的堅調な推移を見せている。折しも、昨年秋以降、政府が小型車を対象にした減税措置を実施したこともあり、自動車販売台数に回復感が出ていることはその証左と言えよう。 また、ここ数年の人民元相場は米ドルと連動する動きを強めてきたため、実質実効ベースでは大幅に高止まりしており、家計部門を中心に実質購買力は大きく押し上げられている。中国国内における所得格差は極めて大きく、それ自体は依然として社会不安を引き起こしかねない水準にあることに注意は必要だが、多くの中国人観光客が世界中で大量の買い物をしているなど、その購買力は一目瞭然である。さらに、中国企業が海外において企業買収などを積極的に展開していることも、中国の購買力の旺盛さを物語るものと捉えられる。 加えて、全人代では、今年が第13次5カ年計画の初年に当たることから、インフラ投資を大幅に拡充することで経済成長を下支えする姿勢が示された。すでに市場では、この発表を受けて、鉱物資源価格が大きく底入れする動きも見られる。 また、2月の貿易統計は依然として外需の弱さを示す内容ではあったものの、輸入については鉄鋼石や石炭、原油などの輸入量の底入れを示唆する動きも確認できる。バルチック海運指数がこのところ上昇基調を強めていることも、こうした中国における需要の堅調さを反映している可能性がある。 政府は今年度の財政赤字幅を国内総生産(GDP)比3.0%と昨年度実績(同2.4%)から引き上げる方針を示しており、それとともに財政構造改革や金融改革を推し進めるとの姿勢を示している。さらに、全人代前に上海で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議の前後には、様々な中国政府要人から「財政余地は大きい」との発言が繰り返しなされた。財政赤字拡大については歳出拡大に加えて、減税や補助金などの取り組みが進むことも期待できそうだ。また、昨年末に開催された中央経済工作会議で、構造改革の方向性として「サプライサイド改革」が強調されていた点も注目に値する。 なお、地方レベルで示されている「サプライサイド改革」については、そのほとんどが「枕詞」的な扱いになっているきらいがあり、具体的な改革の中身を精査する必要はあろう。とはいえ、当面の中国の実体経済をめぐっては下支えにつながる材料は十分に備わりつつあると判断できよう。 <不安は人民元相場と過剰債務問題> このように中国の実体経済への過度な悲観は後退しているが、同国の金融分野については全人代後も引き続き2つの大きな不安が残る。人民元相場と過剰債務をめぐる問題である。 このうち人民元相場は管理変動相場制であり、依然として基準値の設定に当局の恣意性が疑われる。その行方は昨年8月の実質的な人民元の切り下げ同様、引き続き国際金融市場の動揺を招く恐れがある。 当局は人民元相場の「安定」を重視する姿勢に加え、昨年末に発表した13通貨で構成される通貨バスケットを重視する姿勢を見せている。ただし、ここ数年、ドルが「独歩高」の様相を呈してきたことを勘案すれば、一連の動きが市場にとって実質的な「人民元安誘導」と見られる可能性には引き続き注意が必要だろう。 為替動向以上に注意が必要なのは、過剰債務をめぐる動きだ。銀行部門の融資残高は昨年末時点においてGDP比2倍超の水準に達しており、オフバランス資産を勘案すれば、これを大きく上回る水準となる。世界金融危機後に政府が実施した景気対策をめぐっては、地方政府や国有企業が債務を大きく膨らませたが、その財源は銀行借り入れのほか、「理財商品」をはじめとする金融商品などに依存してきた。 こうした状況を勘案すると、中国国内の債務残高をめぐっては相当規模に達している可能性がある上、その不良債権比率についても不透明である。中国ではオフバランス資産は不良債権の概念から外れているため、実勢としての不良債権を把握できない仕組みとなっている問題も存在する。 また、企業部門についても、世界的な「カネ余り」を追い風に社債などを通じた資金調達が活発化した結果、レバレッジ比率は拡大基調を強めてきた。しかも、企業部門においては外貨建てによる資金調達も活発化してきたため、人民元安は債務負担の増大を通じて企業活動の足かせとなる新たなリスクを招く可能性がある。 中国国内の過剰債務調整は不可欠になっているが、処理のタイミングとペースを間違えれば、世界的な信用収縮を引き起こす端緒となるリスクもある。その意味でも、当局には「市場との対話」がこれまで以上に必要になっていると言えよう。 *西濱徹氏は、第一生命経済研究所の主席エコノミスト。2001年に国際協力銀行に入行し、円借款案件業務やソブリンリスク審査業務などに従事。2008年に第一生命経済研究所に入社し、2015年4月より現職。現在は、アジアを中心とする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析を担当。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら) http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-toru-nisihama-idJPKCN0WI0GG 中国首相、経済目標の達成に自信−全人代閉幕後の会見で 中国の李克強首相 By GRACE ZHU 2016 年 3 月 16 日 13:49 JST 更新 【北京】中国の李克強首相は16日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の閉幕後の記者会見で、自国の経済目標を達成できないことは「あり得ない」とし、比較的高い経済成長を実現する中央政府の力を擁護した。 李首相は、中国経済には難題よりも希望の方が多いと指摘した。昨年の経済成長率は6.9%と25年ぶりの低水準を記録した。中央政府は向こう5年間の成長目標を平均6.5%に設定した。 李首相は「中国はしっかりと改革を押し進める」とし、切望される再編が成長目標によって一段と困難になるとの忠告を一蹴した。 「改革と発展は相反するものではない」とし、「われわれは市場の活力を刺激し、構造改革を通じて経済発展を支えられるようにすべきだ」と述べた。 中国の株式市場や為替市場がここ1年で乱高下したことについて問われると、中国には金融システムの改革や改善が必要だと答えた。 また、政府は香港と深セン間の株式相互取引制度を年内に立ち上げる方針だとし、上海と香港間の同様の相互制度は昨年、両市場に大きな恩恵をもたらしたと評価した。 さらに、中国は企業のレバレッジ(借り入れ)を減らすため、デット・エクイティ・スワップ(DES、債務の株式化)を活用していくと述べた。 李首相は中国経済が引き続き下向きの圧力に直面していることを認めたが、一部の部門の経済力は強調した。中国は産業の過剰生産能力の削減に向けて再編する中、大量の人員削減は回避する方針であり、今年は特に石炭・鉄鋼部門の縮小を重視すると語った。 関連記事 中国全人代・政協で飛び出した「独創的」提案 中国、経済より政治優先 影ひそめる現実主義 http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NC460_0316cp_M_20160315233222.jpg Business | 2016年 03月 16日 14:36 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス 焦点:春闘ベア、昨年比大幅減 アベノミクス主力エンジンに失速危機 [東京 16日 ロイター] - 政府・日銀が期待していた今年の春闘は、自動車・電機など大手メーカーのベースアップが昨年水準を大幅に下回り、中小企業を含めた全体のベアは、0.5%未満にとどまる公算が大きくなった。世界経済の先行きが怪しくなってきたことが大きく作用している。 海外からも期待外れとの声が浮上。来年4月の消費増税を前にアベノミクスは、賃金・消費の主力エンジンが失速する危機に直面しそうだ。 <トヨタ社長、経営の「潮目変わる」と指摘> 春闘のリード役、トヨタ自動車(7203.T)のベアは1500円。昨年の37.5%にとどまり、3年間で最も低い水準にとどまった。ホンダ(7267.T)は同36.7%の1100円、日産自動車(7201.T)は満額回答だったものの同60%の3000円だった。 日立製作所(6501.T)などの電機大手は、昨年の50%となる1500円で妥結。一方、2年分をセットで決める鉄鋼大手は、前回14年春闘と比べ25%増の2500円となった。 一方、トヨタなど自動車大手では、一時金の満額回答が相次いだ。トヨタは年間7.1カ月、ホンダが同5.1カ月と、好調だった15年度の業績をボーナスで反映させたかたちだ。 今年のベアに関し、昨年比で50%以下の企業が多かった背景として、年明け以降の世界的な株価下落や円高、その背後にある世界経済の先行き懸念がある。トヨタの豊田章男社長は労使協議の場で「為替の動向も含め、経営を取り巻く環境の、いわゆる『潮目が変わった』とも言える」と指摘した。 <労使協調の低ベア> 先行きに懸念を抱いたのは、経営者だけでない。先進国で最も「経営の先行きに敏感」と指摘される日本の労働組合が、要求段階で昨年の50%水準に「切り下げ」を断行したことも大きく影響した。 中小機械金属産業の労組(JAM)の宮本礼一・JAM会長は「現在の経済環境は、昨年より厳しい。また、物価がゼロ%程度となっている環境も踏まえた」と、内情を打ち明けた。 連合のまとめでは、昨年のベースアップ分(明確にわかる組合分)はおよそ0.7%。労組関係者の中では、今年のベア上昇率は、昨年をはるかに下回りそうだとの見通しが広がっている。 <IMFの批判> このような「労使協調」の低ベア春闘に対し、海外からは厳しい目が注がれている。国際通貨基金(IMF)のアジア太平洋局は14日、リポートの中で日本の春闘を取り上げ「日本では賃金交渉は活発とは言い難い状態。トヨタ労組の要求は、昨年の半分にとどまるなど全体では賃上げ要求はわずか0.5%程度にしかならない」と分析。 そのうえで「アベノミクスでは金融政策の矢がインフレ期待を2%に引き上げ、賃金上昇とインフレがともに起こるメカニズムを作ることを目指した。だが、その役割を果たすことができていない」と指摘した。 実は日本政府の内部でも、IMFの指摘するような懸念がくすぶり続けている。ある政府関係者によると、早い時期から今春闘でベースアップが昨年を下回りそうだと予測していた。 その関係者は「主要国の一員なのに、日本企業は賃上げもまともにできないのかと、そろそろ海外から圧力をかけてもらいたいと思っている」と語っていた。 その後に出てきたIMFリポート。春闘の流れに影響を与えるには「遅すぎたタイミング」だったが、国際機関の厳しい目を意識させることにはつながった。 政府内にあるいらだちは、2つの数字で説明ができる。1つは昨年12月末に355兆円に積み上がった企業の内部留保。過去最高水準を更新し続けているのに対し、人件費の総額は、過去10年で一進一退を繰り返し、トレンドとしては横ばいにとどまっている。 昨年末の官民対話では、高収益企業が率先し、昨年を上回る賃上げ実現を期待することで官民が一致した。 しかし、ふたを開けてみれば、今年の春闘における主要業種のベアは、昨年の半分以下の水準が続出。「このままでは、来年の消費増税分を所得増でカバーできそうにない」と、別の政府関係者は懸念する。 政府内に焦りが生じているのは、足元における個人消費の低迷が続き、今年1─3月期の成長率が2四半期連続のマイナスになれば、アベノミクス下で初めての景気後退に陥り、内外の市場関係者から批判されかねないためだ。 実際、複数の政府関係者は「アベノミクスの成果は、想定より下回っている」と述べている。低調な春闘で、個人消費のエンジンが失速してしまうと、アベノミクスが目指していたプラスの経済メカニズムが働かず、成長率と物価が上がって名目の国内総生産(GDP)を2020年までに600兆円にする目標の達成も怪しくなる。 市場には、財政出動と追加緩和を期待する声が、根強くある。政府・日銀の危機回避策に注目が集まりそうだ。 (中川泉 編集:田巻一彦) http://jp.reuters.com/article/abe-toyota-idJPKCN0WI0GB Business | 2016年 03月 16日 13:48 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス トヨタ、ベア1500円と前年割れ 経営環境の「潮目変わった」と社長 [東京 16日 ロイター] - 2016年の春季労使交渉(春闘)で、賃金相場を引っ張るトヨタ自動車(7203.T)は16日、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分について、労組要求の半額となる月額1500円で決着したと発表した。 ベア実施は3年連続だが、改善幅は過去最高だった前年の4000円から大きく後退。安倍晋三首相が民間企業に賃上げを求めてきた過去2年と比べ低水準となった。 上田達郎常務役員によると、豊田章男社長は労使協議の場で、為替動向を含めて経営を取り巻く環境は「潮目が変わった」との認識を示し、回答結果は「組合員の頑張りや今後に向けた決意、関係各社の皆様との一体感を総合的に勘案した」と説明。「本年ほど悩んだ年はなかった」とも述べたという。 自動車大手の労組は足並みをそろえて月額3000円(昨年は6000円)のベアを要求していた。これに対し、日産自動車(7201.T)は3000円(同5000円)と満額回答で応じたが、ホンダ(7267.T)は1100円(同3400円)とトヨタ同様、要求を大きく下回った。 年間一時金(ボーナス)については、トヨタは7.1カ月、ホンダが5.8カ月、日産は5.9カ月といずれも要求に対して満額回答となった。 *内容を追加します。 http://jp.reuters.com/article/toyota-nissan-idJPKCN0WI07L (白木真紀) Business | 2016年 03月 16日 17:15 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス アングル:企業悩む16年度為替レート、円高リスクで企画と財務に落差 [東京 16日 ロイター] - 2016年度の想定為替レートをどうするか、国内企業が悩んでいる。3月は翌年度の経営計画を立てなければならない時期だが、今年のドル/円JPY=EBSは年初から円高に振れており、先行きも不透明。輸出企業にとっては円高方向の設定が業績下振れに直結するため、経営企画部門と財務部門の思惑がすれ違う。例年に比べ、想定レートの決定は大幅に遅れている。 <円安派と円高派> 「本来なら、ほとんどできていなければならない時期だが、今年は何度もやり直している」──。ある大手自動車メーカーの幹部は、来年度の経営計画についてこう話す。その理由の1つが、業績予想のベースとなる想定為替レートをいまだに決められないことだ。 2015年はドル/円の年間値幅が10.01円と、変動相場制移行後、最も小さい年だった。ところが、16年のこれまでの値幅は10.72円と、すでに前年を上回る変動を見せている。 さらに今年は12年11月以降の「アベノミクス相場」における円安トレンドが終わるかもしれないとの見方が台頭。 一方、米利上げ予想を背景としたドル強気見通しも消えていない。為替アナリストの中でも、円安派と円高派の対立が目立ち、ドル/円相場の見方が大きく割れている。 <部門間の思惑> 「社内事情」も想定為替レートを決めにくくしているという。 財務担当者は、年初からの円高を素直に反映させたいところだが、業績見通しの下振れを嫌う経営企画部門は受け入れがたい。「保守的に1ドル110円としたいところだが、実際に110円にしたら首を絞められそうだ」──。ある輸出企業の財務担当者は、ため息を漏らす。 企業の為替政策に詳しい邦銀為替ディーラーは「輸出企業で経営に近いセクションは、株主受けを考えて業績予想を良く見せたい。できるだけ円安の水準に置きたいというのが本音だ」と話す。一方、「財務セクションは110円に設定して、その水準よりも円安だったらいつでも売れる環境が欲しい」と説明する。「どちらに転ぶかは社内の力関係。結局はサラリーマン的な動きになりそう」という。 15年度の平均ドル/円レートは、120円程度になりそうだ。大和証券が主要事業会社200社を対象に行った試算によると、1ドル=115円を前提にしても、2016年度の経常利益は4%増益の予想となっている。ドルが1円円高になった場合、約0.5%ポイント押し下げられる見通しだという。 <110円と115円> 一方、企業の中には、すでに16年度の想定レートを決めたところもある。輸出をメーンとする機械メーカーの首脳は「115円に設定した」という。「115円あたりが一番居心地がいい。正直、この先どのように動くか分からないが、期待も込めて」と話す。 その半面、大手電子部品メーカー幹部は「円高局面で計画を立てるのは久しぶり。110円前後とみているが、実際にそうなったら業績へのインパクトはかなり大きい」と、円高への警戒感を示している。 中部地区にある大手自動車部品メーカー首脳は「120円に戻ることはないだろうが、これから極端な円高になるという見方もしていない。115円を挟んで行ったり来たりするのではないか」との見通しを示す。 みずほ証券・チーフFXストラテジスト、鈴木健吾氏は「110円と発表する前にワンクッションおきたいという心理だろう」と指摘する。 本決算では115円近辺を前提レートとして発表し、7月末の第1・四半期決算発表までに110円方向にずらすかどうか見極めるというのが「現実的な手法ではないか」とみている。 (杉山健太郎 編集:田巻一彦) http://jp.reuters.com/article/forex-risk-idJPKCN0WI0U7
Business | 2016年 03月 16日 16:48 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス マイナス金利政策、銀行収益にかなり影響=地銀協会長
[東京 16日 ロイター] - 全国地方銀行協会の寺沢辰麿会長(横浜銀行(8332.T)頭取)は16日の会見で、日銀のマイナス金利政策によって「イールドカーブが大きく下がり、銀行収益にかなりの影響が出る」との見解を示した。 寺沢会長は、現時点で地銀各行の収益見通しは良好だが、「(収益で大きなウエートを占める)預貸金収益はマイナスで、有価証券の配当や運用益、与信コストの低下、経費節減、株式の売却益といった要因で経常、当期純利益を維持している状況だ」と述べた。 一方、「日銀の所期の目的を早期に達成してもらうことが一番重要」だと指摘し、デフレ脱却を早期に達成できるなら、マイナス金利の拡大を認めざるを得ないとした。 日本郵政(6178.T)は16日、西室泰三社長の後任にゆうちょ銀行(7182.T)の長門正貢社長が就くと発表した。地銀との提携を模索してきた西室社長が退任するが、寺沢会長は「(長門氏が社長を務めた)ゆうちょ銀行としても、(地銀との提携に)積極的だったのではないか」と話し、地銀各行と郵政グループが提携に向けて議論を進めていく方向性は変わらないと述べた。 *カテゴリーと内容を追加します。 (和田崇彦 編集:山川薫) http://jp.reuters.com/article/t-terazawa-idJPKCN0WI0LD Business | 2016年 03月 16日 14:10 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス マイナス金利による銀行券シフト、起きないだろう=黒田日銀総裁
[東京 16日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は16日の衆院財務金融委員会で、マイナス金利政策のもとでも金融機関や個人による銀行券シフトは起きないだろう、との見解を示した。木内孝胤委員(民維ク)の質問に答えた。 総裁はマイナス金利導入で考え得る副作用として、金融機関や個人による預金から銀行券へのシフトと金融仲介機能の低下を挙げた。 このうち、銀行券シフトについては、金融機関が日銀当座預金から銀行券にシフトした場合の対応措置を講じており、個人も預金金利がマイナスならないため、「銀行券にシフトしていくことにはならないだろう」と語った。 金融機関収益への直接的な影響も、当座預金残高を3層構造にすることで「最小限にしている」とし、マイナス金利導入による「考えられる問題については対応をとっている」と述べた。 また、マイナス金利付き量的・質的金融緩和(QQE)が為替相場に与える影響を問われ、「物価安定目標の早期実現のために行っているものであり、為替相場を目的としたものではない」と説明。一般論としながら、「金融緩和は金利に低下圧力を及ぼすので、他の条件を一定とすれば自国通貨安の方向に作用する」と語った。 その上で、為替相場について「経済・金融のファンダメンタルズを反映し、安定して推移することが望ましい」との考えをあらためて表明した。 2014年4月の消費税率引き上げが個人消費に与えた影響については「予想よりも長引いた」との認識を示した。 http://jp.reuters.com/article/kuroda-b-idJPKCN0WI0FD Business | 2016年 03月 16日 15:55 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス 3月日銀版コアコア物価指数、1%すれすれに縮小へ=渡辺東大教授
[東京 16日 ロイター] - 小売データなどビッグデータを活用した物価・消費動向の分析で知られる東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授は16日、物価の基調を示すとして日銀が注目している生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数(日銀版コアコアCPI)が3月には前年比1%すれすれまで伸びが鈍化するとの予想を公表した。 渡辺教授はスーパーなどのPOSデータを利用して日々日用品の物価動向を分析しており、このデータを活用して日銀版コアコアCPIの動向を予測している。 予測値は昨年11月の前年比1.43%をピークに12月1.42%、ことし1月1.31%、2月1.21%、3月1.16%と毎月プラス幅が縮小する形を描いている。 これに対して日銀版コアコア指数の実績値は11月1.20%、12月1.30%、1月1.10%となっており、予測は実績を若干上回っている。予測での12月から3月の指数低下幅を当てはめると、3月の日銀版コアコア指数は1.04%にとどまると試算している。 http://jp.reuters.com/article/watanabe-cpi-idJPKCN0WI0LY
Business | 2016年 03月 16日 17:26 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス 10兆円規模の複数事業を具体化、骨太に盛り込みへ=諮問会議で再生相 [東京 16日 ロイター] - 政府が3月11日開催した経済財政諮問会議で、10兆円規模の複数のプロジェクトを具体化して600兆円経済を目指すことを議論していたことが、16日公表された議事要旨で明らかになった。民間議員の提案を受け、石原伸晃・経済再生相は6月に作成する今年の「骨太方針」に多くの10兆円事業を盛り込むことに意欲を示した。 議事要旨によると、民間議員の榊原定征・経団連会長が、個人消費が足踏みしている状況への中期的対応策として「たとえば10兆円規模の、GDP(国内総生産)を押し上げる効果があるようなプロジェクトはいくつかあると思う」と発言。米国のように、年末一斉セールの展開や、観光振興拡大、さらに民間設備投資拡大でそれぞれ10兆円の効果が期待できると提言した。 高橋進・日本総研理事長は、消費税を引き上げた後に消費の動きが鈍くなったとして、賃金が上がっても消費が伸びない世代があると指摘。社会保険料の負担増が影響している可能性を挙げた。その上で、消費が弱い要因を分析するよう内閣府に要請、必要な消費喚起策を議論する必要があると述べた。 こうした提言を受けて、石原再生相は「消費を喚起する10兆円プロジェクトを官民を挙げて多く作り、600兆円経済を編み出していくということも、骨太方針の中に入れられるよう頑張りたい」と述べた。 http://diamond.jp/articles/-/87602 Business | 2016年 03月 16日 17:30 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス 全体としては賃上げの流れ続いている=春闘で石原再生相
[東京 16日 ロイター] - 石原伸晃経済再生相は16日、2016年春季労使交渉(春闘)について、過去2年と同様に「全体としては賃上げの流れが続いている」との認識を示した。今後、本格化する中堅・中小企業の回答を見極めたい考えも示した。 主要企業の集中回答を受け、同日夕、都内で記者団の取材に応じた。 2016年春闘は、安倍晋三首相が賃上げを求めた「官製春闘」の3年目。円高や世界経済の減速懸念を背景に、ベースアップ(ベア)が昨年の妥結額に届かないケースも相次いだが、「(賃上げの)流れとしては(過去2年と)一緒」と指摘した。 その上で同相は、中堅・中小企業の回答が本格化する今夏に向けて「賃上げのモメンタムを維持し、積極的な対応をお願いしたい」と語った。 http://jp.reuters.com/article/ishihara-idJPKCN0WI0WW 大きく下がり始めた長期金利と影響(田口美一)日銀当座預金とマイナス金利 マイナス金利が課される日銀の「当座預金」について詳しく見てみます。日銀当座預金とは、都市銀行、地方銀行、信用金庫など、市中の銀行が日銀に預けている預金です。市中銀行は国民や企業から預金を預かるわけですが、かつて取り付け騒ぎと言って、経営が不安視された時に預けていた人が預金を引き上げてしまう騒動もあったことから、制度として準備預金制度というものが先進国中心に設けられています。日本でもそうした法律があり、金融機関に対して、預かった預金の一定割合を中央銀行すなわち日銀に預けることが義務付けられています。
どのぐらい預けるかというと、0.05%から1.3%と極わずかですが、日銀に強制的に預金として置かなくてはいけないことになっています。ただ、割合としては小さいようでも、我々国民が市中銀行に預けている預金とは違い銀行の預金なので、兆円単位の額になります。その0.05%から1.3%程度といってもトータルの額としては大きいのです。そしてこれがそもそもの日銀当座預金であり、現在9兆円程度が所要の準備預金残高ということになります。 また、銀行同士がお金を出し入れする際、コール市場で動かしたり運用したりするのですが、その最終的な資金決済の場としてもこの当座預金が使われています。我々が銀行を通してお金を送金したりやりとりするように、銀行同士も、そのようなやりとりをインターバンク市場でするわけですが、最終的には日銀当座預金で決済すると非常に便利なのです。そもそもの日銀当座預金は、このような形で預けたお金をうまく使っていたわけです。 しかし今、この当座預金にはもともとの9兆円をはるかに凌ぐ、200兆円以上もの莫大な金額が現状預けられています。その理由は金融緩和です。緩和が長く続くうちに、銀行から日銀が国債をオペレーションで購入し、銀行に対してお金を振り込み続けました。つまり、銀行が持っている国債を日銀が買い上げることにより、銀行に国債を買った分のお金を渡してきたのです。そのお金が当座預金に積み上げられてきたのです。そもそも投資するものがないので国債を買っていたわけなので、日銀がそれを吸い上げてお金が振り込まれたところで使いようがないので、それを日銀当座預金に置いておいたということなのです。 しかしその法律として必要な準備預金残高より余分に置いたお金は、「ブタ積み」と言われるように、金利が全く付かなかったので必要以上に積むと全く利益を生まない預金になってしまっていました。銀行も金利が全く付かないと意味がないので何とか引き出そうとしますが、使いようがないため、また国債を買うか金庫に置くかしかないわけです。銀行がお金を入れたり引き上げたりを繰り返すという状態はとても不安定なので、日銀は2008年、ここに0.1%の金利を付け、安定的に銀行が当座預金にお金を置けるようにしました。 こうして作られた「補完当座預金制度」により、日銀当座預金には金利が付くようになり、市中の金融機関は安心してお金を置いておくという事態が発生したのです。これについて口の悪い人は、何もしないで日銀に置いておくだけで0.1%も金利が付いていると批判していて、実際それが現状では2000億円に上っていたのです。そういう批判的な見方もできますが、日銀が当時やったように金利を付けておいたおかげで、銀行が自行の金庫にお金を移したり戻したりというやりとりがなく、安定的に市場を保つことができたとも言えます。 さらに深読みをするならば、将来的に少し金利を上げたい時には、市中の金利は上げられなくても、この付利を上げることによって、金利のコントロールが可能になるという見方をする人もいました。何れにしてもゼロだったものに金利を付けるようになってかれこれ7、8年経過していました。2000億円を日銀が市中の銀行に金利として支払うわけなので、日銀の儲けは減ります。日銀の儲けは国庫金、つまり税金として国に納めるものなので、その分が銀行に利子として回されていたということになります。 大きく下がり始めた長期金利と影響 この金利について、3段階の階層に分けて変更したのが今回のマイナス金利導入です。今まで通り0.1%のもの、さらに0のもの、-0.1%のもの、と三種類にしたのです。210兆円の基礎残高については変わらずに0.1%の金利を付けるとし、現在10兆円から30兆円程度の政策金利残高と言われる部分についてはマイナス金利が課されるとします。マクロ加算残高と言われる部分については金利は付けないということで、法定準備預金の部分もやはり変わらず金利は0としています。黒田総裁は国会答弁などでは、このように3つに分けられていて、大きな部分を占める基礎残高には今まで通り金利が付くので、あまり大きくは変わりませんと言っています。 ただし、現在10兆から30兆円ほどの政策金利残高ですが、年間80兆円を日銀がオペで吸い上げるので、その部分は1年後には90兆円に増えてきます。仮にこの部分にマイナス金利が課されていくと銀行の利ざやはかなり小さくなり、私の試算ではほぼ半減すると予想されます。マイナス金利が付く部分の額が変わらなければ確かに大きな影響はないと言えますが、その額が増えてくると、今後どうなるかわからないということなのです。先々どうなるかわからないことをやると皆、疑心暗鬼になります。日銀は大丈夫と言っているものの、今後が心配されているのです。 このように、マイナス金利は銀行の収益にとって、直接的なプラスにはならない制度だと思えます。しかし、逆に言えば、こうした影響を出すためにやっているとも言えます。何もしなくていい状況なら、マイナス金利などやる意味などないのです。何もしないとマイナス金利を課せられるから貸し出しや他のものへ投資をしてくださいという動きこそが、ポートフォリオリバランス効果なのです。 本当の狙いは、銀行の収益に影響するような事態になるのだから当座預金に置いておくなということであり、ここに置いておけばマイナス効果が大きくなって当然なのです。金融機関は何もしなければ利ざやが減り、収益が悪くなるということです。普通はそのままではマイナスになるので、何かしようとするはずです。国債をさらに買うことが考えられますが、すでに買う動きが出てきているので金利がマイナスになり、もっと下がってきているのでしょう。海外の、アメリカなどの国債を買ったり、住宅ローンも顧客に逃げられないように金利をさらに下げたり、狙った効果が出てきているのは当然のことと言えます。 具体的に金利の動きを見ると、日銀が「金利に強い下押しを加える」と言っているように、実際イールドカーブは発表直後に大きく下がり、今も低下傾向です。10年後の金利すらマイナスということは、10年間利息払いが0%ということになります。1月の時点では、このカーブがどんどん下がるようなことが本当に起こるのかと思いましたが、その後の国債金利の推移は実際に見事に下がる方向に動いています。 発表前から直近までのデータを見ると、実施後には5年ものがマイナスになり、10日後には10年までマイナスになり、その後もマイナス幅が広がっています。さらに長期の、20年債、30年債、40年債への影響を見ても、激しく金利が落ち込んできています。10年債までは20ベーシスから30ベーシス程度の低下で、それでもよく下がったと思う下げ幅ですが、実は長くなればなるほど大きく下がっていて、40年債では75ベーシスも下がっているのです。0.5%で40年間借りられるということになっているのです。 まさに水没現象と言える状況で、相当な効果が現れているのです。金利の付くものがなくなってしまうわけで、運用者はとても焦っていると思います。今のところは、日銀がこれからも80兆円買うと言っているので少しはキャピタルゲインが取れ、勝ちやすいということで勢いづいていて、驚くほどのペースで金利が低下しているということなのです。 講師紹介 ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座 講師 金融経済アナリスト 前クレディ・スイス証券副会長 田口 美一 3月9日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。 詳しくはこちら その他の記事を読む 日銀による「新しい次元の緩和」(藤本誠之) http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/backnumber/20160316-2/ 宿輪ゼミLIVE 経済・金融の「どうして」を博士がとことん解説 【第32回】 2016年3月16日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト] “仮想通貨”は“通貨”になれるのか 最新の法改正から読み解く可能性と課題 仮想通貨に対する法的規制導入の意味 政府は3月4日、「ビットコイン」などの仮想通貨を規制するために、資金決済法などの改正案を閣議決定しました。国会提出法案の名称は「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案(平成28年3月4日提出)」です。本国会(第190回国会:6月1日まで)で決議される予定です。これは仮想通貨に対する初めての法的規制となります。2010年に施行された資金決済法の制定に参加した著者の経験も踏まえて、この法案について解説します。 当初、新しい存在である仮想通貨についてはその定義を始め取り扱いが困難であり、また仮想通貨を重視するのであれば、新しい独立した法律を制定するかもしれないとの話も出ていました。 しかし、実際には資金決済法を改正することとなり、改正案では仮想通貨は「決済手段」の一つには位置づけられたものの、実際に「マネー」いわゆる「貨幣(通貨)」としては認められませんでした。この部分、一部に“前のめり”な誤解があるように感じます。 日本の当局は、これまで仮想通貨を単なる「モノ」としてきましたが、今回一歩進んで、改正案では、不特定の者間における物品売買時の支払や、法定通貨(円やドル等)との交換に利用でき、電子的に移転することが可能な「財産的価値」と新しく定義し、マネーとは一線を画しました。 一般的な「貨幣」はいわゆる「おカネ」のことで、最近では日本銀行を始め「マネー」というようになってきました。さらに「通貨」とは「法的通用性がある貨幣」のことで、厳密には貨幣とは違います。通貨は、日本では円で、米国ではドルのことです(弊書『通貨経済学入門(第2版)』[日本経済新聞出版社]ご参照)。ちなみに、日本銀行においては硬貨を貨幣、お札を銀行券とも呼んでいます。 仮想通貨は「モノ」扱いのため消費税がかかる 今回の改正法案で仮想通貨を一応「財産的価値」と定義しますが、貨幣や通貨ではないため、税法上はあくまで「モノ(資産)」のままで、引き続き「消費税」がかかります。これは、日本では貨幣と認めないという極めて明確な事実です。 仮想通貨が、支払手段であり、通貨としての機能を持つものと定義するのであれば、銀行券等と同様に非課税対象とすることになります。資金決済法で定義した電子マネーなどの前払式支払手段も非課税取引となっています。 実際、オーストラリアは、日本と同様に仮想通貨を物品サービス税(GST)の課税対象としています。欧州ではビットコインを付加価値税(VAT)の適用除外としており、税関を通るわけではないので海外で取引をしたら、課税できません。とすると海外での取引が増え、日本国内の取引は増えにくくなるかもしれません。 一応の定義も定めた今回の法的対応により、仮想通貨の利用は拡大する方向ですが、ビットコインなどの仮想通貨には貨幣としないという方針が感じ取れます。それは、そもそも以前より、金融庁は「モノ」としての方針でしたが、マウントゴックスの事件で多数の被害が出たこと、マネーロンダリング対応のために法改正を行ったという状況です。 このように、定義に加え、特に利用者保護とマネーロンダリングの対応が導入されることになりました。 利用者保護とマネーロンダリングへの対応 最近、仮想通貨、とりわけその9割を占めるビットコインの取引が拡大しています。現在、世界全体で約1000万人が利用しています。日本でもビットコイン利用者は3万人程度で、主に国内の「7取引所」を経由して取引されています。 改正案では、特に事業者としての「仮想通貨交換業(仮想通貨取引所)」の記述が加えられました。その目的は、まず、利用者保護です。 日本ではマウントゴックスの破綻が今回の規制の発端となっています。一時は最大級の取引量を誇るビットコイン取引所だったマウントゴックス(MTGOX)が2014年に破綻し被害者が大量に発生しました。 対応は仮想通貨交換業の「登録制」を導入し、顧客資産と自己資産をわける「分別管理」を導入すること、「最低資本金」を定め、監査法人や公認会計士の「定期監査」も義務づけられてこと、利用者に対し仮想通貨の取引内容や手数料の「情報開示」も徹底するよう指導すること、です。 さらに、仮想通貨交換業は「預金保険法」が適用される「金融機関(銀行)」と異なり、法律上は「一般企業」と同じ位置づけとなります。破綻の場合には、民事再生や破産手続きなどが適用され、顧客は資産を失う可能性があります。 悪質な取引所については行政処分を下し、業務改善命令を出したり、登録を取り消したりすることもできるようになります。 さらに、「マネーロンダリング(資金洗浄)」対応も、今回の法改正(規制)の理由です。イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」へのテロ資金や犯罪資金の送金で仮想通貨が使われているとの噂もありました。そのため、世界の金融当局、特に主要7ヵ国(G7)も仮想通貨の監視強化で合意しています。G7という観点では、時期的に安倍晋三首相が議長を務める5月26〜27日に開催されるG7伊勢志摩サミットに間に合わせたかったのでしょう。しかし、無理な投資勧誘をするような悪質業者の監視などには課題も残っています。 「通貨」になるための課題は多い 「通貨」とみなすための課題とすれば、他の電子マネーとは違い円やドルなどの通貨を使わないこと、しかも、仮想通貨を通貨とするには国の当局の様な公的な機関が発行することが必要なこと。Eメールの様な連絡機能をもち、匿名性があり、国境の概念が希薄で、銀行が行う外為送金のように、海外送金を一件一件チェックするわけではないということ。先にも書きましたが、海外で同様の取引をして税金逃れをしようとすること。投資商品としての過度な勧誘を行う悪徳業者を取り締まることなどなど、今後、対応すべき課題は多いのです。現在は取引量が多くないためそれほど問題にはなっていないだけです。 ただ、金融市場の発展のためには、このような仮想通貨の検討も必要ともいうことができます。たとえば国内2通貨になれば、経済学者のハイエクではないですが、競争原理の導入になり、日本円における量的金融緩和などの不健全な経済政策は行いにくくなり、経済の強化にもつながるとも言えます。 ※「宿輪ゼミ」は2015年9月に、会員が“1万人”を超えました。 ※ 本連載は「宿輪ゼミ」を開催する第1・第3水曜日に合わせて、リリースされています。連載は自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係ありません。 【著者紹介】 しゅくわ・じゅんいち 博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、今年の4月で10周年、開催は200回を超え、会員は“1万人”を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』〈15年12月刊〉、『金融が支える日本経済』(共著)〈15年6月刊〉、『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。 Facebook宿輪ゼミ:https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/ 公式サイト:http://www.shukuwa.jp/ 連絡先:info@shukuwa.jp http://diamond.jp/articles/-/87963
黒田総裁とドラギ総裁、頼みの綱はFRB−緩和強化での通貨安限界に 2016/03/16 16:59 JST (ブルームバーグ):日本銀行と欧州中央銀行(ECB)は今年に入り金融緩和策の強化に踏み切ったが、いずれも景気・物価を押し上げる通貨安にはつながらず、米国の利上げが頼みの綱になりつつあると市場関係者はみている。 外国為替市場では、日銀がマイナス金利政策の導入を発表した1月29日に円が急落したものの、2月に入ると円高が再び加速。11日には対ドルで一時1ドル=110円99銭と2014年10月31日以来の水準まで上昇した。今月10日にはECBが包括的な緩和強化を発表したが、ユーロは対ドルで同日に一時1ユーロ=1.1218ドルと2月15日以来の高値を付けた。 日興アセットマネジメント(オーストラリア)の金利・為替担当チーフ・グローバルストラテジスト、ロジャー・ブリッジズ氏(シドニー在勤)は、「既に量的緩和の為替相場への影響力はこれまでのように強力ではなくなっている可能性がある」と分析。「日欧の金融政策がそれぞれの通貨に影響を与えるかどうかは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ動向に委ねられている」と話す。 この日の米国時間には連邦公開市場委員会(FOMC)が金融政策を発表する。政策金利の据え置きが見込まれる中、市場の焦点はFOMCメンバーが「ドット・プロット(金利予測分布図)」で示す利上げ見通しに集まっている。 FOMCは昨年12月の会合で2006年以来の利上げに踏み切った。年初来の世界的な金融市場の混乱を背景に、金利先物市場に織り込まれた年内の利上げ確率は2月11日には11%程度まで低下したが、足元では約80%に上昇している。ただ、0.25ポイントの幅で誘導目標のレンジを引き上げるとの仮定に基づいた場合、年末までに利上げが2回実施される確率は約3割で、12月のFOMCで示された今年4回の利上げ見通しを下回っている。 みずほ銀の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストは、日欧の金融政策を受けて、「マイナス金利にしてもFRBに対して確証を持てない中では、大して通貨安にならないというのが分かってしまった」と指摘。「弊害だけが多い政策がマイナス金利だということが、日銀とECBの二つの会合を通して分かったこと」としている。 ユーロと円の下落余地という点では、欧州の地政学的リスクや域内銀行セクターの問題などを抱えるユーロに軍配が上がると、バンク・オブ・アメリカ(BofA)メリルリンチの山田修輔チーフFXストラテジストはみる。 BofAメリルリンチは年末に1ユーロ=110円までユーロ安・円高が進むと予想。山田氏は、英国の欧州連合(EU)離脱問題などもあり、「イベントリスクは欧州の方にある」とし、「グローバルリスクに対して欧州の方が脆弱(ぜいじゃく)という面もあり、ユーロ安・円高予想に反映されている」と話す。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O44BLF6S972C01.html 【インサイト】マイナス金利限界2%も−黒田総裁、理論的余地0.5% 2016/03/16 14:09 JST (ブルームバーグ):ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の増島雄樹チーフエコノミスト(日本担当)が英文リポートで指摘した。要旨は以下の通り。* 黒田日銀総裁はマイナス金利の0.5%近辺への下げに理論的には余地と述べた* マイナス0.5%前後が限界と仮定すると0.2%ずつの下げで緩和余地はあと2回* ドラギ総裁はマイナス0.4%で打ち止め示唆、デンマークは同0.65%に利上げ* 現金保有のコストで考えれば、マイナス2%までの利下げも理論的には可能* ECBの論文は現金保有のコストを1ユーロあたり2.3セント、約2.3%と試算* 預金マイナス金利をコストが下回れば、人々の引き出しで取り付け騒ぎにも http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O4486W6JTSE801.html ロンドン外為:ドル上昇−日銀総裁がマイナス0.5%金利あり得ると認識 2016/03/16 18:20 JST
(ブルームバーグ):ロンドン時間16日午前の外国為替市場では、ドルが円に対して3営業日ぶりに上昇。この日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ継続方針が確認されるとの見方でドルが買われた。 日本銀行の黒田東彦総裁が政策金利をマイナス0.5%近くまで下げる公算について、「理論的な可能性としては、そういった余地があることはその通りだ」と発言したことも円売りの材料。 ロンドン時間午前8時44分現在、ドルは対円で0.4%高の1ドル=113円65銭。前2営業日で0.6%下げていた。円は対ユーロで0.2%安の1ユーロ=125円96銭。 原題:Dollar Rises Before Fed as Kuroda Says Minus 0.5% Rate Possible(抜粋) http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O44JK36S972S01.html ECB総裁が階層方式のマイナス金利を否定する理由とは By JON SINDREU 2016 年 3 月 16 日 15:34 JST 欧州で金利をさらにマイナス水準に引き下げるのは至難の業かもしれない。 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は10日の記者会見で、マイナス預金金利に階層方式をとることを否定した。この方式は金利をさらにマイナス水準に押し下げる上で必要な前提条件だとアナリストらは考えている。 いくつかの理由の一つとしてドラギ総裁は、「ユーロ圏においては、規模と組織の異なる銀行が数多くあり、(金融)システムの複雑さが並外れている」と指摘した。 しかし、同じく階層方式のマイナス金利をとっている日本でも、銀行の規模と組織はまちまちだ。ドラギ総裁の発言はむしろ、もっと深刻な問題を示唆しているのかもしれない。中央銀行が何年にもわたり景気刺激に努めてきたにも関わらず、ユーロ圏の金融システムは依然としてかなりばらばらだ。階層方式の採用は状況をさらに悪化させる恐れがある。 本格的な債券買い入れを通じ、ECBは銀行に豊富な流動性を供給してきた。銀行はこの資金を銀行間で動かしている。ECBは現在、市中銀行の超過準備にマイナス金利をつけ、超過準備を保有する根拠を奪っている。だが、ユーロ圏中核国の銀行はその資金を抱え込み、周縁国に融資しようとしていない。 国別の中銀バランスシート(2015年1月末=グレー、16年1月末=茶) ENLARGE 国別の中銀バランスシート(2015年1月末=グレー、16年1月末=茶) PHOTO: THE WALL STREET JOURNAL 中核諸国、特にドイツとフランスの銀行は、実質的にECBに対し正味の貸し手になっている。これに対しギリシャの銀行はECBの預金枠に残高が何も無く、イタリアとスペインの銀行はほとんど無い。 だからこそ、ECBが先週、中銀からの借り入れコストを引き下げたことの恩恵を最も受けたのは周縁諸国の銀行株だったのだ。差し引きして中銀からまだ資金を借り入れているのは、周縁諸国の銀行だけだ。 従って、例えば一定額を超える残高に対する金利をマイナス0.8%とするようなさらに懲罰的な階層方式のマイナス金利は、その大半をドイツやフランスなど格付けの高い国々が負うことになる。金融市場が本当に統合されていれば、こうした銀行間の貸し出しの差異は裁定されて無くなる。ユーロ圏ではその公算が小さいことをドラギ総裁は懸念しているのかもしれない。 市中銀行が中銀に超過準備となっていた流動性を数多くの短期資金市場に供給するので、その影響は拡大する可能性がある。その一例がいわゆるレポ市場だ。レポ市場では、銀行とマネーマーケットファンドなどの非銀行系投資家が、有価証券を担保として資金を貸し借りしている。ECBの統計によると、この有担保市場は無担保市場の約10倍の規模がある。 レポ金利(ドイツ=緑、イタリア=茶)と翌日物銀行間金利(グレー)の推移 ENLARGE レポ金利(ドイツ=緑、イタリア=茶)と翌日物銀行間金利(グレー)の推移 PHOTO: THE WALL STREET JOURNAL レポ市場では、ドイツ国債を担保とする方がイタリア国債を担保とする場合よりも金利が低い。だが、住宅を担保とするローンと同様に、担保価値は金利ではなくいくら借り入れることができるかで決まる。また、こうした金利は特定の資産の需給が影響しないよう、十分な規模の証券の集まりに対して算出される。 いずれにしても投資家がイタリア国債よりもドイツ国債の価格を高く(金利を低く)つけるのは、担保を差し入れる資金の借り手がデフォルト(債務不履行)に陥った場合、貸し手の手元に格付けの高い債券が残るからだと説明できる。ユーロ圏が解体寸前と思われた時期に国ごとで金利が大幅にかけ離れた理由はここにあるようだ。 だが、ECBが金融緩和の規模を拡大したため、この金利差がここ数カ月で拡大している。これは地域的な違いを反映したものだと説明できるかもしれない。ECBの調べによると、大半のレポ市場の取引は局地的なものにとどまっている。だからイタリア国債を担保とするのはイタリアの市場参加者である可能性が高い。全体的にみて、イタリアのレポ市場は他よりも金利が高い。 階層方式を導入すれば、事態はさらに悪化したに違いない。 関連記事 ユーロがECBとFRBの板挟みになっている理由 日銀マイナス金利、より大胆な措置への布石か 中銀の追加緩和一巡、成果の芽を待つ時期に 中銀政策、市場をかえって不安定にしている恐れ http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NB560_MM_ECB_M_20160314142044.jpg http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NB557_MM_ECB_M_20160314141853.jpg 欧州企業が起債ラッシュ−ECBの社債買い入れ見越し ドイツ・テレコムは10日、ECBの緩和策発表後すぐに起債の準備を開始した(写真は同社のロゴ) By CHRISTOPHER WHITTALL 2016 年 3 月 16 日 14:29 JST ドイツ・テレコムは10日、欧州中央銀行(ECB)が社債買い入れの年内開始を発表すると、すぐさま行動を起こした。 事情に詳しい関係者によると、同社の関係者らは同日午後、2013年以来となるユーロ建て債券の発行を準備し始めた。ECBの計画が招くとみられる借り入れコストの急落をうまく利用するためだ。 同社は週明け14日遅くまでに45億ユーロ(約5600億円)の債券を発行した。当初の発行予定額25億ユーロに対し、投資家からの応札は180億ユーロに上った。 こうした迅速な起債と旺盛な投資家需要は、ECBがほぼ史上初とも言える社債の買い入れに乗り出したことで欧州社債市場の様子が変容したことを示唆している。 バンク・オブ・アメリカのマネジングディレクター、ジェフ・タンネンバウム氏は「ECB(の発表)後の市場動向の改善に乗じようと、企業は素早く反応した」とし、「市場はここ1年なかったほど慌ただしく意気揚々としている」と述べた。 ECBの新たな買い入れの詳細はまだはっりしないが、予想外の発表を受け、10日の欧州社債相場は急伸した。 米国の社債市場でも、欧州の明るい地合いが波及し買いが膨らんだ。 相場上昇をきっかけに欧州企業が相次いで発行した債券には、巨大な買い手の参入を見越した投資家の買いが殺到した。 【左】ユーロ建て投資適格社債の発行額、【右】想定元本1000万ドル、5年物クレジット・デフォルト・スワップの年間プレミアム ディールロジックによると、14日のユーロ建て投資適格社債発行額は今年2番目に多い金額だった。 年初から先週までの同発行額は、ソブリン債務危機真っただ中の2011年以降で最も少なかった。 ユーロ建て債券市場の高揚はドル建て債券市場にも広がり、14日にはUBSグループが約2カ月ぶりにドル建てCoCo債(偶発転換社債)を発行した。この新種の高リスク債券の相場は2月に急落していた。 ユーロ建て債券市場では15日にも、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ、バンコ・サンタンデール、ドイツの鉄鋼・工業製品大手ティッセンクルップ、ポルトガルの高速道路管理会社BCRなど、多くの企業が起債した。 ECMアセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、クリス・テルファー氏は「市場はECB(の発表)までほぼ停止していた。(中略)ECBが市場をよみがえらせたことは間違いない」と指摘した。 ECBは社債の買い入れについて金額や対象銘柄を明らかにしていない。 ECBの発表に対する投資家の反応は、質問は後回しにしてまずは買うべし、というものだった。マークイットによると、欧州投資適格社債の5年物クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のプレミアム(保険料)は11日に昨年8月以来の低水準をつけた。 JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ブライアン・ウォレス氏によれば、ECBの発表以降、社債は品薄で流通市場からの買い入れが困難となり、社債を買いたい投資家は発行市場に向かわざるを得なくなった。 だがそれでも、銀行関係者らは起債ラッシュはじきに終わるかもしれないと言う。 バークレイズのマネジングディレクター、マルコ・バルディニ氏は、ECBの発表をきっかけに企業は今後も大量の起債を行うのか、それとも借り入れコストがさらに下がるまで待つのか、判断するのは時期尚早との考えを示した。 また、欧州の企業が必死で資金を借りようとしているかも定かではない。 結局のところ、ECBの買い入れは「根本的に社債市場を変えるものではない。企業はすでに安く資金を調達できている」とテルファー氏は語った。 関連記事 ユーロがECBとFRBの板挟みになっている理由 ECBの政策総動員、効果が疑問視される理由とは http://si.wsj.net/public/resources/images/OJ-AH418_ECBCOR_16U_20160315160306.jpg LSE:ドイツ取引所との合併合意、欧州に巨人誕生−実現に障壁も (1) 2016/03/16 17:38 JST
(ブルームバーグ):ドイツ取引所とロンドン証券取引所グループ(LSE)は合併で合意した。規制当局の承認を得て合意通りに合併が実現すれば、欧州に巨大取引所が誕生する。 16日の発表によると、合併後の新会社の持ち分はLSE株主が45.6%、ドイツ取引所の株主が54.4%となる。両社は2月23日に合併交渉を進めていることを明らかにしていた。両社の時価総額を合計すると、305億ドル(約3兆5000億円)。 ドイツ取引所がLSE買収を図ったのは、今世紀入り後3回目。2000年と05年の試みは頓挫していた。 合併が実現すれば、CMEグループ、インターコンチネンタル取引所(ICE)、香港証券取引所に肩を並べる巨大取引所となる。ただ、当局が競争阻害の懸念から合併を承認しなかったり、他の取引所が対抗案を出したりする可能性がある。ICEは、より好条件の提案を検討している。 合併後のいわば英独連合は欧州で主導的な地位を占め、そこからアジアと米国へ拡大を図ることが可能。欧州で上場されているデリバティブ(金融派生商品)および店頭取引商品の決済大手になる。ユーロ・ストックス50や英FTSE100、独DAX指数などを取引所1社が管轄することにもなる。 原題:LSE to Merge With German Rival to Create European Titan (1)(抜粋) http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O44FRV6K50Z901.html 中国株:上海総合指数が4日続伸、李首相の記者会見受け−大型株高い 2016/03/16 17:46 JST
(ブルームバーグ):16日の中国株式市場で、上海総合指数は4営業日続伸。金融株やエネルギー銘柄を中心に買われた。李克強首相が全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の閉幕記者会見で、国内経済を軌道に乗せ続けるため「革新的な措置」を採用していくと語った。 上海総合指数は前日比0.2%高の2870.43で終了。中国工商銀行(601398 CH)が1.4%上げ、ペトロチャイナ(中国石油、601857 CH)は1.3%高。両銘柄は同指数で大きなウエートを占めるため、当局による買い支えの対象だと長くみられてきた。2015年通期決算で純利益が増加した中国平安保険(601318 CH)は2.5%上げ、4営業日続伸となった。 パートナーズ・キャピタル・インターナショナル(香港)の温天納(ロナルド・ワン)氏は、「李首相の発言には注目に値するサプライズはなく、相場は今後数営業日にわたり値固め局面が続くだろう」と指摘した。 香港市場では、ハンセン中国企業株(H株)指数が0.4%安で終了。ハンセン指数は0.2%安で引けた。 原題:China Stocks Rise After Premier Li’s Address as Large Caps Jump(抜粋) http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O448EB6TTDS001.html 債券上昇、日銀オペ結果強めで買い優勢−入札前でも超長期ゾーン堅調 2016/03/16 15:27 JST (ブルームバーグ):債券相場は上昇。朝方の売りが一段落した後、日本銀行が実施した長期国債買い入れオペの結果が強めだったことをきっかけに買いが優勢となった。明日に20年債入札を控えて売りに押されていた超長期債にも買いが入り、午後は堅調推移となった。 16日の長期国債先物市場で中心限月6月物は、前日比22銭安の150円67銭で開始し、いったん150円62銭まで下落した。その後は持ち直し、午後に入ると水準を大きく切り上げ、151円29銭まで上昇し、結局は38銭高の151円27銭で引けた。 現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の342回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値より2ベーシスポイント(bp)高いマイナス0.005%で開始。徐々に水準を切り下げ、午後はマイナス0.05%まで下げた。 新発2年物の362回債利回りは1.5bp高いマイナス0.14%と、2月2日以来の高水準で開始したが、午後に入るとマイナス0.175%に下げた。新発5年物の127回債利回りは2bp高いマイナス0.125%で開始後、マイナス0.12%まで売られた後、マイナス0.175%まで低下。新発20年物の155回債利回りは一時2.5bp高の0.48%から、0.43%に水準を切り下げた。新発30年物の50回債利回りは2bp低い0.675%に低下した。 野村証券の中島武信クオンツ・アナリストは、「日銀の買い入れオペ結果を反映して、先物は後場に高寄り。5年ゾーンなどが強め」と話した。「中期債は昨日の流れを引き継いでマイナス金利政策が深くなることないとの見方からスワップで受けていたのを払い戻す動き。超長期債はMRF(マネー・リザーブ・ファンド)から超長期ゾーンに流れていたのが消えるからという理由で売られた。半面、国債買い入れ増加の可能性が高まるとの見方から買いも入っている」と言う。 日銀が実施した今月5回目となる長期国債買い入れオペ(総額1.27兆円)の結果によると、残存期間1年超3年以下の応札倍率は前回から低下し、3年超5年以下は上昇。5年超10年以下はほぼ横ばいだった。 20年債入札 財務省は17日午前、20年利付国債の価格競争入札を実施する。発行予定額は前回債と同額の1兆2000億円程度。償還日が前回の155回債より3カ月延び、回号が新しくなる。表面利率は前回債の1.0%から0.5%と、2003年6月の過去最低の0.8%を下回る見込み。 今回の20年入札について、メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、「0.5%台で迎えられれば、何とか需要はありそうだが、タイミング的には年度末を控えたタイミングでもあり、テールが流れるリスクも意識しておきたいところ」だと言う。 野村証の中島氏は、「流れることなく普通に通過できそう。債券残高を積めていなくて買いたい人が多いほか、3月国債償還見合いの需要が入るだろう」と予想している。 前日の国内債市場では、日銀の金融政策決定会合で政策の現状維持が決まったことを受けて中期ゾーンが売られた。2月上旬には新発2年債利回りが一時マイナス0.25%、新発5年債利回りがマイナス0.265%まで低下し、ともに過去最低を更新。その後も政策金利のマイナス0.10%を下回って推移していた反動が出た。 ドイツ証券の山下周チーフ金利ストラテジストは、「日銀の変更はゼロ%適用のマクロ加算残高が増えやすい内容だった。MRFのマイナス適用除外や貸出増加支援オペの新規増加分の倍額をマクロ加算残高に加えること。今まで思っていたよりマクロ加算残高が増えやすい状況になるので、無担保コール翌日物でそこまで大幅なマイナス金利が付かない可能性は市場でも意識される」と指摘していた。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O43QNW6KLVRU01.html 日本株は続落、原油安と米消費低調を嫌気−代金2兆円割れことし最低 2016/03/16 15:37 JST (ブルームバーグ):16日の東京株式相場は続落。原油安や米国個人消費の低調が嫌気され、自動車など輸出株の一角、アナリストの投資判断引き下げを受けたJFEホールディングスなど鉄鋼株が売られた。マイナス金利への警戒が強い銀行株は下落率1位、科研製薬を中心に医薬品株も安い。米金融政策の行方を見極めようと、東証1部の売買代金は2兆円を割り込み、ことし最低だった。 TOPIXの終値は前日比11.58ポイント(0.8%)安の1360.50、日経平均株価は142円62銭(0.8%)安の1万6974円45銭。 アライアンス・バーンスタインの村上尚己マーケット・ストラテジストは、「米国株は年初の水準まで戻ったが、日本株が置いていかれているのはドル・円相場が戻らない固有の問題があるため。米金融当局が利上げできないのではないか、との疑念が市場にある」と話した。 15日のニューヨーク原油先物は2.3%安の1バレル=36.34ドルと続落し、終値で4日以来の安値。制裁解除に伴いイランの先月の原油生産が約20年ぶりの大幅増となったほか、生産水準維持の協定にイランが参加しない可能性をロシアが示唆したことを材料視した。 15日に発表された2月の米小売売上高は前月比0.1%減少、1月は速報値のプラスからマイナスに下方修正された。半面、3月のニューヨーク連銀製造業景況指数は改善するなど、経済指標はまだら模様。米国では16日まで連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる。今回は利上げなしが大勢で、6月の利上げ確率は約54%。米金融当局者らは利上げペースが緩やかなものになり、決定はデータ次第と強調している。 FOMCを前にきょうのドル・円相場はおおむね1ドル=113円台前半で推移、15日の日本株終値時点は113円40銭だった。アライアンスの村上氏は、「ファンダメンタルズからみれば米景気が後退する可能性は低く、やや悲観的になり過ぎている」と指摘。FOMCのドットチャートで年3回の利上げが示唆されれば、タカ派的と捉えられるかもしれないとしつつ、「米景気の下振れリスクが小さくなっているだけに市場は好感する可能性がある」と予想した。 銀行が下落率1位、国際金融経済分析会合など支え きょうの日本株は幅広い業種が軟調となる中、マイナス金利による収益への悪影響が懸念され、1位の銀行をはじめ、証券、保険など金融セクターが業種別下落率の上位に並んだ。日本銀行の黒田東彦総裁は16日の衆院財務金融委員会で、現在0.1%のマイナス金利政策の0.5%近辺への引き下げについて「理論的な可能性としては余地ある」と発言した。 もっとも、日経平均は朝方付けたこの日の安値1万6950円(166円安)は下回らず、TOPIXは一時プラス圏に浮上する場面もあった。岩井コスモ証券の林卓郎投資情報センター長は、「日銀の緩和見送りで短期筋が売った後は、G20会議後の国際協調の危機回避合意の流れから巻き戻しの流れが維持されている」と指摘。政府の国際金融経済分析会合も、「今の相場状況では好影響を受ける」とみていた。 政府は16日、国際金融経済分析会合を初めて開催。コロンビア大学のスティグリッツ教授は、安倍晋三首相に今は消費増税に不適切な時期と語ったほか、金融政策は限界に達し、今は財政刺激策の時期などと述べた。林氏は、「意外感はないが、今の景気の状態ではアベノミクスのためにやらなければならない話」とし、「日銀の4月緩和の可能性もある」と言う。 東証1部の業種別33指数は銀行、鉄鋼、証券・商品先物取引、保険、海運、電気・ガス、非鉄金属、医薬品、鉱業、金属製品など29業種が下落。空運や水産・農林、食料品、その他金融の4業種は上昇。東証1部の売買高は18億6149万株、売買代金は1兆9119億円。代金の2兆円割れは、昨年12月30日の大納会以来。値上がり銘柄数は486、値下がりは1340。 売買代金上位では三菱UFJフィナンシャル・グループなどメガバンクグループが売られ、サーベラスが保有株を売却した西武ホールディングス、提携先の株価急落を嫌気した科研製薬、JPモルガン証券が投資判断を下げた新日鉄住金やJFEホールディングスも安い。半面、「プレイステーションVR」を10月に発売するソニー、野村証券が投資判断を上げたアイフルは買われ、アルプス電気、ニコン、大成建設も高い。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O43QMB6KLVRD01.html 円が反落、政策期待で売り先行−その後はFOMC待ちでもみ合いに 2016/03/16 15:36 JST (ブルームバーグ):16日の東京外国為替市場では円が反落。消費増税延期や財政刺激策への期待から日本株が下げ渋る中、リスク回避の後退に伴い円売りが先行。その後は海外時間に米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表を控えて様子見姿勢が広がった。 午後3時35分現在のドル・円相場は1ドル=113円38銭前後。朝方には日本株の下落を背景に113円02銭までドル売り・円買いが進んだが、日本株が下げ幅を縮小すると一時113円56銭まで値を切り上げた。その後日本株は再び下げ幅を拡大し、円売りは一服。ドル・円はこの日の高値付近でもみ合いに転じた。 IG証券の石川順一マーケットアナリストは、「FOMCがハト派のスタンスを示せば、早期の米利上げ懸念が後退し、米景気先行き不透明感が強まるだろう」と言い、「明日以降に発表される米指標次第で景気後退懸念が広がれば、ドル売り・円高圧力が強まる」一方、景気は良いとの見方になればリスクオンで115円台を目指す展開になると予想。「ドル・円相場が大きく動くのはFOMC後だろう」と話した。 FOMCはワシントン時間16日午後2時(日本時間17日午前3時)に声明と参加者による最新の経済予測を公表し、2時半からはイエレン議長が記者会見する。主要政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジは0.25−0.5%に据え置かれる見通し。ドット・プロット(金利予測分布図)で示される2016年の利上げ回数の見通しは、昨年12月時点の4回から下方修正されるとみられている。 三井住友信託銀行NYマーケットビジネスユニットの海崎康宏マーケットメイクチーム長(ニューヨーク在勤)は、ドル・円は「FOMCを受けた株の動き次第」だとし、「タカ派だとしても、株がしっかりすれば、多分ドル・円、クロス円(ドル以外の通貨の対円相場)はしっかりする」と予想。また、ハト派でリスクオンの形になれば、「クロス円主導でドル・円はしっかりしそう」と話した。 コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授は16日午前、政府の国際金融経済分析会合の初会合で、2016年の世界経済は15年より弱くなるだろうと発言した。同教授は終了後記者団に対し、安倍首相に今は消費増税の時期でないと伝えたとし、金融政策は限界に達しており、今は財政刺激策の時期だと述べた。 16日の東京株式相場は続落。朝方には消費増税延期や政策期待から下げ渋る場面が見られたが続かなかった。中国の上海総合指数は4日続伸。李克強首相は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の閉幕記者会見で、景気を下支えする方針を表明した。 三菱UFJ信託銀行資金為替部為替市場課の市河伸夫課長は、「消費増税の延期そのものは景気や株に追い風となり、その面で円売り材料である。さらに財政の悪化懸念が加わると、その面からの円売り材料になりやすい」と指摘。ただ、「ドル・円は米利上げがクリアになって、それでもリスクセンチメントが崩れないという条件が伴わない限り、115円を超えるのは難しい」と語った。 ユーロ・円相場は1ユーロ=125円台半ばから一時126円01銭まで円売りが進み、同時刻現在は125円82銭前後。ユーロ・ドル相場は1ユーロ=1.11ドル台前半から一時1.1094ドルまでドルがじり高となった。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O43Z8C6TTDS701.html
対談 中国民主化研究 【第9回】 2016年3月16日 加藤嘉一,小原雅博 [東京大学法学部大学院教授] 共産党の優位性を保ち続けながら、中国は構造改革に踏み切れるのか 東京大学法学部大学院教授・小原雅博×加藤嘉一 いまや世界第二位の経済大国に成長し、米国と覇権を争う存在となった中華人民共和国。その頂点に君臨する人物こそ、現国家主席の習近平である。習近平は中国をいかに先導しようとしているのか。在シドニー総領事、在上海総領事などを歴任し、現在は東京大学法学部大学院教授を務める小原雅博氏と加藤嘉一氏の対話を通じて、超大国・中国の実情に迫る。対談第2回。 揺らいではならない共産党の優位性 加藤嘉一(以下、加藤)習近平さんは、共産党総書記就任以来、西側の制度を拒絶するようなことを言い、「中国の道」を強調してきました。また国営企業改革などのアジェンダを見ても、「党の領導の強化」を謳っています。彼の実父・習仲勲は革命によって天下を取った、共産党の地盤をつくった世代であることも、習近平さんに「まずは共産党の権力と威信が固まっていなければ何もできない」という政治信条をいっそう深いものにしているのではないでしょうか。そう見ていくと、西側の政治制度や価値観に対する拒絶や抵抗にも“納得”がいきます。 2005年の胡耀邦元総書記生誕90周年の催しでは、政治局常務委員から温家宝(序列3位)、曽慶紅(序列5位)、呉官正(7位)の3人だけが出席し、談話を発表したのは当時国家副主席だった曽慶紅でした。それに対して、2015年の100周年では、常務委員7人全員が出席し、習近平国家主席が談話を発表しています。私は、この記念イベントを、実父・習仲勲も右腕としてサポートした改革派・胡耀邦に対する“名誉回復”の一過程であると認識しました。日頃、中国各地で交流させていただいている共産党の関係者たちのなかには、「習近平は胡耀邦の名誉を徐々に回復すべく動くだろう」という見方をする人も少なくありません。政治の改革を重視した胡耀邦の“名誉回復”を重視することが、習近平政権が政治体制改革を正視することにどのようにつながっていくのか。私はこの関係性を注視しています。 一方で、先ほど述べたように、習近平さんは「中国の道」や「中国の夢」を強調します。家系的には、彼が政治改革を真正面から批判するような思想の持ち主だとは思いません。ただ私自身の執筆をめぐる政治環境から判断して、いま現在「政治改革」という言葉は使えなくなり、タブーですらあります。胡錦涛さんの時代は、領導人(リンタオレン)や指導者改革という政治改革の重要性について、たとえば『南方周末』や『人民日報』系で書くことができました。しかし、いまは「政治改革」の四文字も使えません。 習近平さんは、胡錦濤さんのようにケ小平さんによって選ばれた指導者ではないが故に、まずはみずからの政策によって権力基盤を固めなければならなかった。そのためには、まず、保守的な“左”に迎合し、ある程度権力基盤が固まってきた時点で経済改革を実行し、その先に、可能であれば政治改革を描いているではないかと私は考えてきました。しかし、胡耀邦さんへの“名誉回復”と「中国の夢」や言論抑圧など左右両極端のシグナルが発せられている状況は、ジレンマに映ります。実際に、政治改革をどこまで、どういうタイミングで進めようとしているのかという意図は、まだまだ見えてきません。 現状に目を向けると、反腐敗闘争によって恐怖政治が蔓延しています。腐敗を撲滅すべく徹底的に取り締まる一方で、改革のための行動を高圧的に促している。現場の役人たちは“二重の恐怖政治”に震え、身動きが取れない状況です。これから構造改革を実行していくうえで、その立案力や執行力を発揮すべき経済官僚たちが集団的事なかれ主義に陥っているのは、不安要素だと考えています。小原さんはどうお考えですか? 小原雅博(こはら・まさひろ) 東京大学法学部大学院教授 東京大学卒業、カリフォルニア州立大学バークレー校修了(アジア学、修士)、立命館大学より博士号(国際関係学)。外務公務員上級試験合格後、1980年に外務省に入省し、国際連合日本政府代表部参事官、アジア局地域政策課長、経済協力局無償資金協力課長、アジア大洋州局審議官、在シドニー総領事、在上海総領事などを歴任。著書に、『東アジア共同体』『国益と外交』(以上、日本経済新聞社)、『「境界国家」論』(時事通信出版局)、『チャイナ・ジレンマ』(ディスカバー・トゥエンティワン)など多数。 小原雅博(以下、小原)私も同じような認識を持っています。中国の現状を見ると、経済的に大きな転換期にあり、指導者にとって舵取りが難しい局面にあります。これまでの中国の経済成長モデルの根幹にあった、安くて豊富な労働力を使って製品を組み立て、それを輸出するという仕組みは競争力を失いました。労賃が上がり、他の途上国の追い上げや世界経済の低迷もあるなかで、投資・輸出依存型の成長パターンが機能しなくなったのです。
他方、賃金の上昇は消費の増大につながります。中国は世界の工場から世界の市場へと変貌を遂げており、中国政府も消費主導型経済成長モデルへの転換を図っています。製造業の過剰生産能力を整理しつつ、サービス産業やハイテク産業を伸ばしていかなくてはなりませんが、産業構造の転換は痛みを伴いますし、地方債務や国有企業改革の問題もあり、大変です。 そんな局面で反腐敗闘争を展開した結果、一般市民の受けはいいようですが、党官僚はいかに自分の身を守るかという安全策に汲々とし、予算は積んであっても手を付けようとしない異常な現象が各地で見られます。李克強首相は仕事をしろと檄を飛ばしますが、党幹部の心理は防衛本能に支配され、経済マインドは冷え込んでいます。 加藤まさにジレンマですよね。 小原そうですね。ほとんどの党幹部が程度の差はあっても腐敗していると言われますし、反腐敗闘争には権力闘争の側面もありますので、反発する人たちは少なくないでしよう。反腐敗は習近平さんの大きな武器ですが、返り血を浴びないためにも慎重に進めなければならないはずです。しかし、これまでの習さんのやり方は有無を言わさぬ強権的なものです。相当な覚悟で権力集中を進め、共産党を立て直し、中国を米国と並ぶ世界の強国に押し上げようとしていると思われます。 しかし、共産党一党独裁を堅持したまま、すなわち、政治改革はやらないで経済の持続的成長や社会の安定をどう確保していくのか。習近平さんの答えは、法治に基づく近代国家です。中国の現状はまだまだ法治とは程遠い。それは中国に住んでみればよくわかります。日本のように国民の遵法意識が高く、安定した秩序が確立されている社会をどう作るか、その答えの一つが「法治」ということなのでしょう。しかし、この法治にも問題があります。それは「the rule of law」ではなく、「the rule by law」だということです。 習近平さんが目指す「法治」はあくまでも中国共産党の支配の下での法治であり、法が党の上にくるわけではありません。法は党による統治の手段でしかありません。そうであれば、司法の独立を確保することはできないでしょうし、腐敗の根絶も困難になるでしょう。 法治に見られる通り、中国共産党の絶対優位を揺るがすような改革はまず考えられません。中国共産党は執政党であり続けるという立場に揺らぎは見られません。従って、政治改革を行うとしても、その範囲の改革でしかないということになりますが、逆に言えば、その一点さえ担保されれば、それ以外はすべて許容するという改革になる可能性もあるということです。 たとえば、「メディアの独立」と言った場合に、共産党支配を揺るがすこと以外は何を書いてもいいとなれば、農地を取り上げて開発業者に売却して、私腹を肥やす悪代官や住民の権利や環境を無視する「ブラック企業」を記者が摘発し、社会的正義が実現されるかもしれません。 習近平さんが本気で中国を近代的な法治国家にしようと思っているのなら、以上のような政治改革は頭の中で描いているかもしれません。建国の父である毛沢東、改革の総設計師であるケ小平と並ぶ偉大な指導者を目指す習近平さんが政治改革を成し遂げるとすれば、その任期は2期10年で終わらず、3期に及ぶかもしれませんね。 中国は西側の仕組みを借りてくるしかない 加藤嘉一 (かとう・よしかず) 1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012〜2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(20142015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。 加藤私もまったく同感です。ケ小平さんが実践した驚くほどのプラグマティズムなどの歴史を振り返ると、中国は、共産党の絶対的優位さえ揺るがなければ、あとは何でもやるつもりなのかな、と考えたりもします。
共産党の絶対的な優位性を守るために“すべきでないこと”は、自由で公正な民主選挙だけなのか。私は、習近平さんの頭の中では“すべきでないこと”の領域が広がっていると感じています。拙書『中国民主化研究』では、公正な選挙、言論の自由、司法の独立の3つが制度的に保証されることが、民主化を構成するボトムラインであるという定義で議論を進めました。中国共産党にとっては、言論の自由も司法の独立も中国共産党の絶対的優位性を脅かすものになりうる、と映っているでしょう。たとえば、天安門事件に対する言論の自由は共産党の絶対的優位性を揺るがしかねないため、当局はそれを全力で押さえ込むと思います。 2011年に呉邦国全人代委員長が言った「五不(ウープーカオ)」は重要でしょう。多党制はやらない、指導思想の多元化はしない、私有制はやらない。三権分立しない、連邦制もやらない、の5つですね。自由民主主義に対する否定を超えて、中国は中央集権国家として歩み続けるという一つの意思表示だったと思います。地理的にも政治体制的にも、中国共産党だけが唯一の指導党であり指導思想であると。習近平さんがいまやっていることは、それとほとんど差はないという感覚もあり、悲観的な気持ちにもなりますね。 『中国民主化研究』を執筆する中で、いろいろな人にインタビューしました。漠然とした質問ですが、「中国はいわゆる西側の民主主義に逃げてくるのか」と聞きました。たとえば、フランシス・フクヤマさんもの主張は一貫していました。彼は中国の「政治秩序の起源」に対して理解を示そうともしていますが、最終的に中国の体制が西側の制度に寄り添ってくる、そうしなければ中国はもたないだろう、と。中国国内でも「中国は民主化するしかない」という人もいれば、「習近平の頭にはそれはない」という人もいます。米国でも中国でも意見は分かれているのが現状だと整理しました。 歴史的な転換期を迎えつつあるように見える中国ですが、「中国は民主化に向かうのか」という問題について、小原さんはどう思われますか? 小原いま、巨大な中国は激動の嵐の真っ只中にいます。文化大革命が終わって、改革・開放が始まったばかりの中国を私が初めて訪れた時から30年以上が経ちますが、この間の変化は人類史上においても稀有なほどの劇的な変化です。 そんな社会を統治する中国共産党にとって「安定はすべてを圧倒する(穏定倒一切)」が最重要課題です。そして、その最大の脅威になってきているのが、社会の正義や公正の問題です。経済成長で物質的に豊かになった面はありますが、同時に拝金主義や利己主義が蔓延り、道徳は廃れ、機会の平等も失われ、貧富の格差は広がるばかりです。役人の腐敗は止まるところを知りません。そんな社会への怒りや絶望が渦巻き、緊張感が高まっています。それはキリスト教や儒教が広がる原因でもあり、最早放置できない状況です。 では、どうすればいいか。ケ小平の経済改革は、西側の市場経済を借りてくることで大衆の物質的豊かさを実現してきました。その成功で中国共産党は生き延びてきました。物質的豊かさの後には、自由や民主といった精神的豊かさへの欲求が高まります。それに応えようとすれば、今度はどうしても政治改革が必要となります。 問題はその中身です。中身をどうするのか、いまのところ習近平さんの言葉からは何も見えてきません。ただ、中国共産党がしぶとく生き延びていくためには、何らかの政治改革が早晩必要になるでしょうね。 小原氏、加藤氏による対談最終回の更新は、3月17日(木)を予定。 http://diamond.jp/articles/-/87868
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