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弁論のため最高裁に入る遺族側の代理人ら。「事故後に結果責任を負わせては、介護は成り立たない」などと主張し、この日に結審していた/2月2日 (c)朝日新聞社
認知症の親が他人に損害与えたら…「国の救済制度が必要」と医師〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160315-00000001-sasahi-soci
AERA 2016年3月21日号より抜粋
認知症の親が他人に損害を与えたとき、家族は賠償責任を負うべきか? 遺族側の逆転勝訴となった最高裁判決は、国の取り組みを促している。
2007年12月7日夕方、愛知県大府市のJR共和駅。豊橋発米原行き快速列車が線路上の男性をはね、死亡させた。当初は自殺とみられたが、その後の調べで男性(当時91)は重い認知症で要介護4と判明。同居している妻(93)がまどろんだすきに自宅兼事務所を出て電車に乗り、1駅隣で下車したことがわかった。JR東海は、妻と長男(65)に振り替え輸送の費用など約720万円の支払いを求めて訴訟を起こした。
裁判は、遺族が民法上の「監督義務者」に当たるか否かが争点になった。重い認知症など法的責任を問えない人の賠償では、監督義務者が負うと定められている。しかし、仮に家族であるだけで監督義務者に当たるとなれば、認知症の人を常に監視し、身体拘束をするなど、時代に逆行した介護を余儀なくされる可能性がある。それらは、徘徊を悪化させる原因にもなる。
1審、2審では遺族の賠償責任を認める判決が下された。だが、3月1日、最高裁はこれを破棄。遺族側の逆転勝訴となった。最高裁は、妻自身も要介護1の認定を受けており、第三者への加害行為を防止できる状況になかったと判断した。長男は20年近く同居していなかったことなどから、監督義務者に当たらないとした。
遺族の代理人を務めた浅岡輝彦弁護士は、判決後の記者会見で「遺族の主張が全面的に採り入れられた画期的な判決」と高く評価した。一方で「これで全てが解決したわけではない。今後、国は政策としてどう取り組むのか」と問題提起した。
判決では、どのような場合に家族が監督義務者となるか、具体的な基準は示されていない。被害者が大企業ではなく個人であっても賠償を免じてよいのか、という課題も残る。
公益社団法人・認知症の人と家族の会副代表理事で、川崎幸クリニック(神奈川県)院長の杉山孝博医師は、認知症の人が第三者に損害を与えた際の救済制度が必要だと考えている。
「認知症の人による事故は、注意しても完全に避けられるものではない。誰もが加害者・被害者の両方になり得る。加入者を限定した保険ではなく、犯罪被害給付制度のように国レベルの救済制度にしなくてはならない」
一案として、公的介護保険に被害者給付を組み込むことを提案する。認知症の人が加害者になった場合、介護保険を財源として被害者に補償するのだ。
「一から新たな制度をつくるより、コストも時間もかからない。介護保険財政はすでに厳しく、誰がどう加害行為を認定するかなど課題は多いが、工夫の余地はあるはずだ」(杉山医師)
(ライター・越膳綾子)
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