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発想の転換はできるか?(iStock)
マイナス金利が変える 「借金は悪」という思考
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160311-00010003-wedge-bus_all
Wedge 3月11日(金)12時30分配信
日銀によるマイナス金利政策の導入から1カ月以上が経過した。現時点までの評価としては否定的な意見のほうが目立つ。例えば、理屈の上ではマイナス金利に下限がないため、企業はさらに金利が下がるのを期待して設備投資や借入の時期を後回しにしようとする。少子高齢化が進む日本では先行きの不安心理を一層助長することになり家計は倹約・貯蓄志向を強めてしまう。現金だけはマイナス金利にならないので現金主義=タンス預金が増える……これらはすべてデフレ的な現象であり、マイナス金利導入で却ってデフレに逆戻りするのではないか、という意見が聞かれる。
実際に、先日全国銀行協会から発表された全国銀行預金・貸出金等速報(2月末残)では貸し出しの伸びが鈍化した一方で、預金は増加。都銀・信託の預金にいたっては前年比で5%台の伸びと過去最高に迫る勢いを記録した。おそらくまだ「金利がついているうちに」という駆け込み預金があったのではないかと推察される。マイナス金利とはおカネの置き場をなくして、世の中におカネを循環させて経済を活性化することを狙った政策である。ところが当初においては狙いとはまったく逆の動きとなっている。
■マイナス金利で銀行が苦しいというのは本当か?
マイナス金利に対する否定的意見のなかで、もっとも多く、そしてわかりやすいものは、銀行の収益に大きな打撃を与えるという見方だ。世の中の金利体系全般に下方圧力がかかり、銀行の貸出金利も低下する。しかし、調達側の預金金利はマイナスにできず限界があるため利ザヤは圧縮される。これでは銀行にとって貸出を伸ばそうというインセンティブが生まれない。貸出は増加せず、銀行の収益面だけが痛むというマイナス効果しかないという批判がある。
金利全般がマイナスになっては銀行の業務に重大な支障があるのは確かだが、少なくとも日銀の当座預金金利をマイナスにすること自体は問題がない。そもそも銀行は預金者から集めたおカネ(つまり人様のおカネ)を日銀に預けるだけ(つまり何もしないで)しかもノーリスクで0.1%の(このご時世からすれば0.1%もの)金利をもらえるのだ。そのこと自体、「甘い」と言える。
しかも、すでに積み上げた250兆円もの当座預金はこれまで通り0.1%の付利がされる。マイナス金利が適用されるのはこれから新たに積み上げる分だ。それがマイナス金利になるから、経営が苦しいというのは甘えに聞こえる。銀行というのは集めたおカネを貸し出したり運用したりするその巧拙によってサヤを稼ぐ商売だ。それができません、というならその時点ですでに銀行という企業の存在価値がないではないか。
■「借金は悪」 バランスシート調整で資金需要が弱い
先行している欧州ではマイナス金利導入で貸出が伸びた。日本については、欧州と比較しても経済状況が大きく異なるため、マイナス金利によるプラスの効果は期待できないとの声がある。日本は「失われた20年」で企業や家計に慎重姿勢が染みついている。金利がさらに下がっても資金需要は高まらないと見る向きが多い。
それは日本が1980年代バブルの後遺症、すなわち「バランスシート不況」をいまだに引きずっているからだ。バブルのときは、こぞって借金して株や不動産を買ったが、バブルがはじけて資産価格が大幅減少。負債は減らないから、結果的にバランスシートが限界まで毀損した。その時負った傷があまりにも大きかったために、「借金をして投資すること」が企業も家計もトラウマになった。だから、金利がゼロでも誰もおカネを借りようとしない。バブル崩壊以降、家計も企業も過剰債務の解消が最優先課題であったのだ。これが資金需要が弱い理由のひとつであり、同時にまたいくら金融緩和をしても効かない理由である。
■卵が先か、鶏が先か 壮大な経済実験
これまで日銀が「量」を中心にした緩和策を行ってきた背景は、金利に働きかけることの限界があったからだ。金利がゼロ近傍まで低下してさらに金利を下げる余地がなかったということ以上に、金利をゼロにしても資金需要が高まらなかったことのほうが金融緩和の限界を示していた。
だったら「量」を強引に増やそうとしたわけだが、その試みは成功しなかった。だが狙いは悪くなかったように思う。つまり、どっちにしろ「壮大な経済実験」である以上、やってみなければわからない、という割り切りである。卵が先か鶏が先か、ということだ。つまり、資金需要がないからマネーが増えないのなら、強引にマネーを増やせば需要はあとからついてくるのではないか、ということを試そうとしたのではないか。
試してみたものの、マネタリーベースを増やしても、それが市中に流れるマネー(ストック)の増加に直結しないという理論通りの結果になった。銀行が信用創造を行わなければマネーは増えない。
だから今まさに信用創造をさせるべく、マイナス金利を導入して「銀行のキャッシュの置き場(=逃げ道)」を塞ぎにいったのである。ところが、ここでまた例の堂々巡りにぶつかる。銀行が貸さないのではなく、企業も家計も借りようとしない。資金需要が弱いから金利を下げても借り入れは増えないという議論だ。前述のようにバランスシート調整のトラウマが払拭し切れていないからだ。
しかし、今回のマイナス金利政策導入によって状況が大きく変わる可能性がある。なぜなら、「マイナスの金利という概念」は、これまで家計や企業に刷り込まれてきた「借金は悪」という考えを覆すものになるからだ。事実、早くも企業のなかには超長期の社債等で資金調達する動きが出始めた。民間の住宅ローンも借り換えが急増している。マイナス金利で極端に金利が低下したおかげで、それなりに資金需要が生まれている。
■資本コストの観点から自社株買い増加 日本株相場の支えに
こうしたマイナス金利政策が推し進められていけば、「借金は悪」という考えから、「借金は得」という考えになるかもしれない。少なくとも企業の資本コストという観点からは、株式(自己資本)コストに対する負債(他人資本)コストの優位性が増す。スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス強化の流れで、企業も株主還元を一層重視している。業績が悪化しても減配などそう簡単にできない。負債のコストは劇的に低下している一方、株式の資本コストは高止まりする。普通に考えれば、割高な資本である株式を買い戻すという判断が働く。ましてや今や、PBR(株価純資産倍率)は1倍そこそこである。簿価で買い戻せるチャンスだ。
スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス強化の流れで言えば、企業の経営者はかなりROE(株主資本利益率)への意識が高まっているだろう。すでに昨年の定時株主総会にかけた経営トップの取締役選任議案では、ROEの低い企業の賛成率が下がる事例が目立った。議決権行使助言会社、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、過去5年間の平均値と、直近の実績がともに5%を下回る企業に対しては、トップの取締役の選任案に原則として反対することを推奨している。こうしたことを受けて機関投資家も議決権行使の基準を明確にする傾向が鮮明となっている。簡単に言えば、ROEを上げないと経営者のクビが飛ぶという危機意識はじわりと高まっているはずだ。
こうしたなか、円安・原油安効果の剥落もあって来期の業績拡大に赤信号がともっている。トップライン(売上)はもう伸びなくなっている。ボトムライン(利益)も減益になるかもしれない。利益が伸びない環境でもROEを高めるには自社株買いで分母を削ればいい。借り入れを増やして財務レバレッジをかけるのも一つの手だ。本来は、本業の利益率改善の努力なしにそうした小手先の財務テクニックでROEを上げても市場の好評価は得られない。しかし、現在の環境に鑑みれば正当化されるだろう。金利はマイナスで株価はPBR1倍そこそこ。この環境では負債を増やして自社株買いで自己資本を削ることの正当性が得られるだろう。
新年度が明けて、3月期の決算発表が本格化する4月下旬から株主総会シーズンの6月までの間には相当の数の企業が自社株買いを発表するだろう。来年度は過去最高を更新すると予想される。その自社株買いによる需給改善効果が日本株相場の支えになるだろう。加えて、日本企業が有効なキャッシュの使途を探り始め、その選択肢として株主還元強化を進めているという姿勢は、特に外国人投資家からの評価を集めよう。
日銀はもうマネーを刷る必要はない。すでに企業の手元にあるマネーを動かすことができれば、それはやがて設備投資やM&Aにも回っていくだろう。まさに活きたおカネの使い方となって日本経済が活性化する。マクロのファンダメンタルズ改善も無論、株式相場の支援材料である。
広木 隆
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