Business | 2016年 03月 10日 18:14 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス 焦点:緩和マネーで膨らむ自社株買いと内部留保、成長阻害も [東京 10日 ロイター] - 日本企業の自社株買いが、今年に入って急増している。2015年度は3月上旬までに3.8兆円と12年度の1.4兆円から2.7倍の規模に増加した。 一方で安倍晋三政権が目指す賃金や設備投資の伸びは相対的に鈍く、355兆円と過去最高に積み上がった企業の内部留保とともに現在の日本経済を象徴する構図になっている。 この状況が継続すれば、経済成長を阻害しかねないと懸念する声も専門家の間で出始めた。 <緩和マネーが自社株買い押し上げ> トムソンロイターのデータによると、自社株買いの金額(注を参照)は2012年度の1兆4183億円から13年度に2兆円、14年度に2.5兆円、15年度は3月7日までの時点で3.8兆円に増加した。 背景には、ここ3年の企業業績の好調さがある。15年3月期は過去最高益を記録する企業が続出。法人企業統計によると、15年12月末の利益剰余金は355兆円と過去最高水準に達した。 企業収益の押し上げには、日銀の量的・質的金融緩和(QQE)の効果が大きく貢献したとみられる。ドル/円JPY=EBSが80円台の超円高水準から、いったん125円近辺の円安水準までシフト。輸出企業にとって追い風が吹いた。 また、資金調達環境も一段と改善、そこへ原油安が急速に進み、幅広い業種で原材料コストも低下した。 自社株買いが、株価上昇に寄与する構図は、株価の推移でもうかがえる。今年に入り500億円以上の自社株取得枠を設定した企業は7社。日経平均JPY=EBSがこの間平均で11.2%下落したのに対し、この7社の株価は5.7%の下落にとどまった。 <相対的に伸び悩む設備投資と賃上げ> 一方、みずほ総研・シニアエコノミストの徳田秀信氏は「(企業のカネ余りの)根本的な原因は、投資機会がないことだ。日本経済の成長期待が伸びない中、日本企業の多くは投資先を見いだせない。このことが内部留保や自社株買いの増加の一因になっている」と指摘する。 安倍政権は、収益増加を起点に設備投資や賃上げを企業に求めている。それらの動きが経済活性化につながり、企業収益を一段と増加させるという拡大のメカニズムを描いていた。 実際、アベノミクスの初期には、株高による資産効果で高額消費やプチぜいたく消費など、個人消費が活気づいた。 ただ、そのプラス効果は株高局面での一時的な現象にとどまり、その後の消費増税による消費停滞に直面。その要因は賃上げによる実質所得の回復が伴わなかった面が大きい、との分析が政府部内にある。 設備投資も収益増加の割に緩慢な伸びにとどまっている。法人企業統計によると、15年の設備投資はプラス8%。金額ベースでは昨年1年間で43兆円程度増加。 もし、自社株買いに費やされた3.8兆円の資金がそのまま設備投資に上乗せされたと仮定すれば、おおむね9%程度押し上げ効果があったはずだ。 この9%という数字は、リーマン・ショックで落ち込んだ08年度の反動増で大幅に増えた09年度の19%以来の大きさだ。 <好循環へ分水嶺> 緩和マネーが自社株買いにシフトすることの「功罪」について、ニッセイ基礎研・経済調査室長の斉藤太郎氏は「株価が下がって株が買いやすい時に、利益を自社株買いに向けるのは、企業にとっては合理的な投資判断かもしれない。ただ、それが行き過ぎると、投資や消費が増えて経済の好循環につながるというアベノミクス本来の目的にとって、阻害要因になるだろう」と指摘する。 政府部内には、内部留保が過去最高水準に積み上がっていることに対し、景気拡大の障害になりかねないと懸念する声も出始めた。 ある政府関係者は「ベースアップで恒常的な所得を上げないと、消費に結びつかない」と指摘。企業は賃金押し上げに資金を振り向けるべきだとの考えを示している。 積み上がる内部留保と増加する自社株買い。対照的に伸びが鮮明にならない賃上げと設備投資。アベノミクスが目指す国内総生産(GDP)600兆円を達成するには、この2つの現象が変化することが欠かせないという見方が、経済の専門家の間で急速に広がっている。 (注)トムソンロイターの自社株買いデータは、 自社株買いをする株式数が公表されている場合は、発行済み株式数の5%以上の(株数の)買付け、(買付)株式数が公表されていない場合は、100万米ドル以上(ドル換算)、または時価総額3%超以上の買付けの場合のみを扱っている。 *見出しを修正しました。 (中川泉、梶本哲史 編集:田巻一彦) http://jp.reuters.com/article/qqe-idJPKCN0WC0KE?sp=true ECBの株価押し上げ、期待は禁物 ECBの金融緩和に対する株式相場の反応は、過去の実績で見る限りまちまち(写真はフランクフルト証券取引所のトレーダー、2月) By MIKE BIRD 2016 年 3 月 10 日 16:03 JST 欧州中央銀行(ECB)は10日の政策会合で追加利下げが広く期待され、量的緩和(QE)の拡大なども可能性があるとみられている。だが、ECBの政策発表を受けて投資家がユーロ圏の株式市場に殺到するとは限らない。 利下げは通常、資産価格を上向けるはずだが、欧州株に関する限り特に過去数年間、ECBの実績はまちまちだ。 期待が事前に織り込み済みなことが多いことも一因だ。実際、昨年12月はECBの緩和措置が期待よりも小さかったことが株価急落のきっかけとなった。 10日の理事会では、現在マイナス0.3%の預金金利を引き下げると大半のアナリストはみている。他にもQEと呼ばれる債券買い入れ措置の規模や期間の拡大などいくつかの変更もあり得るだろう。 広告 2012年以降、ECBはさまざまな方法で政策を緩和してきた。方法は実にさまざまだが、ECBの政策会合から5週間後の株価指数の騰落率は平均わずか0.89%だ。緩和措置を打ち出した過去9回のうち4回は株価指数が5週間後に政策発表時よりも下がった。 ENLARGE ECBの金融緩和後5週間のユーロStoxx50種指数の推移 ECBがQEや利下げを打ち出した15年1月と12月の会合後の反応は、大幅に異なるものだった。1月に予想外の大規模なQEを発表した際、株価は5週間で8%以上も上昇した。QEの拡大が市場の期待はずれに終わった12月には、5週間で同じ程度株価が下落した。 もちろん株式相場を押し上げるのがECBの仕事ではないが、ECBの刺激策がなければどうなっていたかは誰も確証を持てないだろう。ただ、金融緩和は一般に経済を刺激するもので、それに依存する企業の価値を高めるはずだ。 関連記事 ? ECBのQE開始から1年、株式市場は反応せず ? ECB理事会、低インフレ対策で試練に直面か http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-MZ482_ECBmee_M_20160309101901.jpg
出口の財務への影響、手段・順序・金利情勢で変化=日銀総裁
[東京 10日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は10日午後の参院財政金融委員会で、マイナス金利付き量的・質的金融緩和(QQE)の出口における日銀財務への影響について、手段や順序、金利情勢によって大きく変わるとし、現時点で具体的に言及することは適切ではない、と語った。小池晃委員(共産)の質問に答えた。 総裁は、金融緩和からの出口における日銀収益について「どのような手段をどのような順序で進めるかに加え、その時々の金利情勢で大きく変わる」と指摘。こうした認識を踏まえて「不確実なことをあまり早く言うと、かえって市場を不安定にする」とし、「出口について具体的に話をすることは適当でない」と語った。 麻生太郎財務相はマイナス金利政策の財政への影響を問われ、「財政ファイナンスという疑念を抱かれないよう、マイナス金利の影響をよく見極めながら、財政健全化の取り組みを進めていくことが重要だ」と語った。 総裁は、2月の消費者態度指数が前月から2.4ポイント低下したことについて「やや大きめ」と指摘。背景として「世界的に投資家のリスク回避姿勢が過度に広まる中で、金融市場が不安定な動きとなっていることなどが影響している」との認識を示した。 (伊藤純夫) http://jp.reuters.com/article/kuroda-qqe-exit-idJPKCN0WC0J3 超長期債が下落、値動き荒く売り優勢−前日一時取引停止の先物は反発 2016/03/10 15:44 JST
(ブルームバーグ):債券市場では超長期債相場が下落。最近の超長期主導の大幅な相場上昇の反動で売りが継続した。市場参加者からは、値動きが荒く買いに慎重姿勢が強いとの見方が出ていた。一方、前日に一時取引停止となって1円近く急落した先物相場は反発した。 10日の現物債市場で新発20年物の155回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値より0.5ベーシスポイント(bp)低い0.465%で開始後、0.495%まで上昇。いったん0.46%まで戻したが、再び0.495%に上昇し、0.485%で推移している。新発30年物の50回債利回りは8.5bp高い0.795%、新発40年物の8回債利回りは5bp 高い0.805%まで売られた。長期金利の指標となる新発10年物国債の342回債利回りは0.5bp低いマイナス0.025%で始まり、マイナス0.01%まで上昇した後、マイナス0.02%で推移している。 SMBC日興証券の野地慎シニア金利ストラテジストは、「ここ2−3日はボラティリティが高いことの余波が残っている。金利は過去1、2日に下がった後、上昇。先物も上げが落ちてきている。ボラティリティ上昇を心配して、長めのゾーンに売りが出ている」と話した。 みずほ証券の辻宏樹マーケットアナリストは、「中長期ゾーンがもみ合う中、超長期ゾーンは前日の流れを引き継いで売られておりスティープ化」と指摘。「超長期ゾーンの日銀国債買い入れオペが20年債入札後の18日まで期待しづらいことも注意したい」と話した。 長期国債先物市場で中心限月3月物は、前日比10銭高の151円71銭で開始。いったん7銭安の151円54銭を付けたが、すぐに水準を切り上げ、151円78銭まで上昇。午後の取引開始後に大きく水準を切り上げ、一時は151円98銭まで上昇。取引終盤にかけて伸び悩み、結局は5銭高の151円66銭で引けた。 9日の国内債相場は大幅安。最近の急激な相場上昇の反動や日銀国債買い入れオペの弱い結果を受けてまとまった売りが出た。長期国債先物3月物には午後0時32分58秒に即時約定可能値幅制度(ダイナミック・サーキット・ブレーカー)が発動され、取引が一時停止となった。取引再開後に前日比96銭安まで急落する場面があった。 三菱UFJ信託銀行資金為替部商品課の鈴木秀雄課長は、「一昨日にかけての債券市場のラリーが行き過ぎた反動で調整が続いている。調整が続く可能性があるが、今月は償還月でもあるため、プラス金利の超長期には押し目買いのニーズが出てくることが見込まれる」と話した。ただ、「水準観が定まらない中で金利が急低下した後の反動だけに、押し目のめどがつかみづらい。ひとまずは20年債利回りで0.5%、30年債利回りで0.8%での買い意欲を確かめる形になりそうだ」と言う。 5年債入札 財務省が午後発表した5年利付国債(127回債)の入札結果によると、平均落札利回りがマイナス0.142%、最高落札利回りがマイナス0.132%と過去最低を更新し、2回連続でマイナスとなった。最低落札価格は101円17銭と市場予想と一致。小さければ好調さを示すテール(落札価格の最低と平均の差)は5銭と、前回の9銭から縮小。投資家需要の強弱を反映する応札倍率は3.59倍と前回の3.57倍から若干上昇した。 5年債入札について、SMBC日興証の野地氏は、「事前の相場の調整があったので、予想通りに無難な結果だった」と分析した。 欧州中央銀行(ECB)はこの日、金融政策決定会合を開く。ブルームバーグがまとめた市場予想の中央値では、預金ファシリティ金利を現行のマイナス0.3%からマイナス0.4%に引き下げられると見込まれている。 野村証券の松沢中チーフストラテジストは、「ECBは前回の追加緩和で市場の失望を招いてしまったため、その轍を踏まぬよう市場の期待値を十分に読んだ上で、緩和内容やメッセージを打ち出してくる」と指摘。「マイナス10bpの利下げと月100億ユーロの国債買い増しはどうしても超えねばならないハードル」だとし、上積み候補として「階層型の準備預金制度導入と利下げ幅拡大、資金供給オペ延長+オペ金利引き下げ、社債購入実施ないしはその検討に入ったとのメッセージなどに現実味がある」と言う。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O3SMW16KLVRF01.html 日本株4日ぶり反発、原油3カ月ぶり高値と円安−売買代金ことし最低 2016/03/10 15:41 JST 記事をメールで送信 記事を印刷する 共有/ブックマーク ShareGoogleチェックTwitterシェア (ブルームバーグ):10日の東京株式相場は4営業日ぶりに反発。原油価格が3カ月ぶり高値へ反発、為替の円安推移が好感され、輸送用機器やゴム製品、機械など輸出株が高い。アナリストの投資判断引き上げを受けた日本製紙などパルプ・紙株は業種別上昇率でトップ、小売やその他金融株も買われた。 ただし、金融政策を決める欧州中央銀行(ECB)理事会を日本時間今夜に控えるほか、あすは株価指数先物・オプション3月限の特別清算値(SQ)算出もあり、投資家の見送り姿勢から東証1部の売買代金はことし最低だった。 TOPIXの終値は前日比19.84ポイント(1.5%)高の1352.17、日経平均株価は210円15銭(1.3%)高の1万6852円35銭。 富国生命保険の山田一郎株式部長は、「為替が円安に戻っており、ポジション調整の動きが出ている。足元の為替水準では来期増益を若干見込めるレベルで、期待感は残る」と話した。 9日のニューヨーク原油先物は4.9%高の1バレル=38.29ドルと大幅反発、終値で昨年12月4日以来の高値を付けた。米エネルギー情報局(EIA)の週間在庫統計では先週のガソリン在庫が453万バレル減少、強い需要が示されたことを材料視した。9日の欧米株は、米S&P500種株価指数が0.5%高など堅調だった。 為替市場では、前日の海外時間にドル・円は一時1ドル=112円23銭と9日の東京株式市場の終値時点112円56銭から円が強含んだが、きょうは一時113円80銭台と円安方向に戻した。大和証券の鈴木政博シニアクオンツアナリストは、2016年度の経常増益確保の目安は1ドル=108円とリポートで指摘。直近水準なら経常増益見込みとなり、見直し余地があるとしている。 きょうの日本株は原油や為替、欧米株の動きから買い安心感が広がったほか、前日まで3日続落した反動もあり、輸出セクターなどに見直しの買いが先行。朝方の買い一巡後に伸び悩む場面もあったが、日経平均は午後に一時245円高まで上げ幅を拡大、その後もきょうの高値圏で推移した。フィリップ証券の庵原浩樹リサーチ部長は、「投資家心理が好転し、世界的に市場は落ち着いてきた。国内では配当など個別に見れば魅力的な銘柄が多い」と言う。 中国国家統計局が10日に発表した2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.3%上昇、1月の1.8%上昇から伸びが加速した。ローストポークやカモ、海産物、野菜などが大量に消費される春節(旧正月)の連休で、食品価格が上昇した。きょうの中国上海総合指数は0.5%安で始まり、その後も軟調な値動きとなったが、日本株への悪影響は限られた。 ただ、東証1部の売買高は19億8326万株と1月5日以来の20億株割れ、売買代金は2兆431億円と前日から1割減り、ことし最低だった。ECB理事会を控えるほか、あすのSQを前に期先物への乗り換え(ロールオーバー)も進み、先物活況の一巡も売買減少の一因。大阪取引所の日経平均先物3月物の出来高は8日に15.7万枚と膨らみ、9日は12.7万枚、きょうは5.9万枚で取引を終えた。建玉は3月限の27.9万枚に対し、6月限が30.5万枚と逆転した。 東証1部33業種は紙パ、ゴム、繊維、輸送用機器、小売、その他金融、機械、化学、水産・農林、海運など31業種が上昇。電気・ガス、不動産の2業種は下落。上昇銘柄数は1680、下落は198。売買代金上位ではトヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソニー、ファナック、スズキ、インベスターズクラウド、マツダ、富士フイルムホールディングスが上げ、個別ではクレディ・スイス証券が判断を「中立」に上げた日本製紙も高い。半面、大津地裁が高浜原子力発電所3、4号機の運転差し止めを命じる仮処分を下し、関西電力は急落。北海道電力や九州電力、四国電力も売り込まれた。アシックスも安い。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O3SMWB6S972E01.html
ECBのインフレ浮揚力、正念場迎える ユーロ圏経済は正常な状態にない。だから10日のECB理事会はユーロ圏の命運を左右するとみられている(写真は2月に欧州議会で証言するドラギECB総裁)
By SIMON NIXON 2016 年 3 月 10 日 15:28 JST
欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は不安な日々を送ってきた。1年前に開始した大規模な国債買入措置は大きな成果を挙げてきた。 各国政府や企業、銀行の資金調達コストは下がった。ユーロの為替相場が低下した。資産価格が上がり、銀行のバランスシートに対する圧力が緩んだ。昨年のギリシャ危機やポルトガルやスペイン、アイルランド、スロバキアでの結論の出ない選挙結果を受けて不安定化する恐れも、ユーロ圏は乗り切ることができた。 期待されながらも成し遂げられていない唯一の問題が、インフレ率を2%弱の目標水準に戻すことだ。 ユーロ圏の消費者物価上昇率は意に反して、2月にマイナス0.2%まで下がり、変動の大きなエネルギー価格の影響を除いたコアのインフレ率も1月の1.0%から2月は0.7%に予想外に下がった。 ユーロ圏経済が正常ならば、これはそれほど大きな問題ではないはずだ。成長率とインフレ率は現在これまでの予想を下回っているかもしれないが、正常時ならば一時的な弱まりとして中央銀行は問題にしないだろう。JPモルガンは、ECBが2017年の実質域内総生産(GDP)成長率の予想を1.9%から1.8%に、コアのインフレ見通しを1.6%から1.4%に下方修正し、18年については成長率もインフレ率もともに1.7%とする必要があるとみている。つまりインフレ率がほぼ目標に達するのは18年になる。 さらに、現在のディスインフレがECB当局を一睡もさせないほどの自己実現的なデフレスパイラルに展開する証拠はほとんど見当たらない。国際決済銀行(BIS)は、大恐慌期を例外として、物価の下落は過去においては成長を伴ってきたことを示している。 だが、ユーロ圏経済は正常な状態にはない。だから市場は、10日のECB理事会が統一通貨圏の命運を左右する新たな機会になるとみているのだ。問題はユーロ圏の一部加盟国が抱える官民の負債が極めて高い水準にあることだ。超低インフレ下において、こうした債務は対処がますます難しくなっている。 例えば、イタリア政府の債務はGDP比134%だが、インフレ率が2%ならば完全に維持できると思われる。成長率がわずか1%であっても、同じことが言える。政府の支出を凍結すれば、財政赤字は確実に急減しGDP対比の債務比率は低下するはずだ。だが、インフレ率が目標を大きく下回る水準で横ばいを続けるならば、イタリアの債務負担は直ちにもっと困難な姿に見えてくるだろう。だからECBは、市場にはインフレを目標水準にすぐに戻す力と意思があるということを、市場に納得させねばならないのだ。 ECBのドラギ総裁は実際、自らにプレッシャーをかけてきた。ECBが低インフレに断固として取り組まなければ、市場はインフレ目標に対するECBの姿勢を疑い始め、インフレ期待を損なうことになるとECB総裁は警告した。そうなると、投資家は先行きの名目投資収益に対する期待を引き下げ、投資の減少と成長鈍化の悪循環につながる。 ドラギ総裁はさらに、ECBにはインフレを目標に戻す手段があり、それを用いることをいとわないと主張した。だが昨年12月、市場は総裁が自らの言葉をかなえられなかったと判断した。以来、総裁は特定の政策に言及しないよう注意しつつ言葉を強めてきた。もう一度市場の期待を裏切れば、投資家は総裁の言葉を空虚なものと受け止め、まさに総裁自らが警告した悪循環のきっかけを作る危険性がある。 現実には、ECBは低インフレに立ち向かう手段を使い果たしつつある。少なくとも、活用しやすく相当に大きな影響を与える可能性の高い手段は使い果たしている。投資家はマイナス金利が効果よりも害があるのではと次第に懸念を強めている。BISも今週、同様の見方を示したが、ECBはいまのところこの政策を好んでいる。 市場がいま本当に切望しているのは、ECBが現在自ら設定した枠組みを超えて量的緩和を拡大する意欲を示すことだ。そこには、ECBが確実に損をする価格での債券買い入れや、債務再編時に支配的権利を持つ程度まで個別の債券を取得できるようにすること、各国のECBに対する出資比率に応じた厳格な買い入れ枠の撤廃などを含む可能性がある。ただ、これらはいずれも政治的には難しい。財政資金の供給を禁じる欧州連合(EU)の協定に抵触している、という非難をECBが浴びることになるためだ。 ドラギ総裁は、ユーロ相場を押し下げユーロ圏外からの需要を呼び込むことで当面のインフレ率を押し上げる十分な刺激策を打ち出し、市場を当面満足させるような措置を魔法のようにまとめることができるかもしれない。だが、企業に投資を強いることなどできない。ユーロ圏のアニマル・スピリットを抑制している政治的な雲を取り除き、長期的な成長と生産性を高める措置を講じることができるのは各国政府だけだ。 シェンゲン協定で自由に行き来できるEUが崩壊したら、英国がEUを離脱したら、イタリアとポルトガルが巨額の不良債権処理に失敗したら、フランスが労働市場を改革できないなら、改革に反対する大衆迎合派が選挙に勝ち続けたら、ユーロ圏加盟諸国が通貨圏の回復力を高める措置に合意できないならば、とドラギ総裁の不安な日々はまだまだ続くだろう。 関連記事 欧州インフレ期待下げ止まらず、ECBの信用失墜も ドラギECB総裁、市場の信頼を取り戻せるか ECB、あらためてTLTRO活用も http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-MZ751_EUROFI_M_20160309160008.jpg
中国債券市場の開放、国際金融地図に変化もたらす 中国人民銀行は海外機関投資家に対する債券市場の開放度を高めようとしている(写真は上海の金融街) By RICHARD BARLEY 2016 年 3 月 10 日 15:36 JST 相場の動きは、注目度の高い10日の欧州中央銀行(ECB)理事会などのイベントを材料に、わずか数秒で方向転換することがある。だが資本市場を動かす最も強力な要素は、時間をかけながらより大きな効果を表す。 人口動態、規制、金融市場の仕組みは、金融政策ほど変化しやすいものではない。それだけに深く、持続的な影響力をもつ傾向がある。ユーロ債市場の誕生には米国の税制が寄与した。サブプライム(信用度の低い借り手向け)住宅ローンの証券化が世界中に広まったのは、金融規制に隙があったことが一因だった。銀行の安全性を高めるための新規制で、今後は相場の変動率が拡大する可能性がある。 この種の変化で最新の例は、金融市場の開放努力を続ける中国かもしれない。中国人民銀行(中央銀行)は2月下旬、海外機関投資家の債券売買に関する規制を緩和した。その効果はまだはっきりと表れていない。ムーディーズ・インベスターズ・サービスが先週、中国の国債格付け「Aa3」の見通しを「安定的」から「弱含み」に引き下げたことの方が、世界的に強い関心を集めたもようだ。 広告 しかし中国が成功を収めれば、その影響は大きくなり得る。為替レートをめぐる意思伝達など金融市場政策の失敗を考慮すると、実現性が高いとは言い難いが。現時点では世界経済で中国が主要な役割を果たしながらも、国際金融市場ではまだ脇役にすぎない。 重要な経路としては、債券インデックスの形で投資の道筋をつけることが挙げられる。債券インデックスに組み込まれれば購入層が安定するが、これまで海外機関投資家が手を出しにくかった中国の債券は、主要インデックスに採用されてこなかった。中国が2月に債券市場の開放度を高めたことで、海外機関投資家にとって大きな意味を持つこの方向へ一歩前進した。新興国市場を主な投資対象とする資産運用会社の英アシュモアは、米JPモルガンの算出する指数「GBI-EMグローバル・ダイバーシファイド」で中国国債が最終的に10%を占める可能性があると指摘した。 こうした状況を想定する必要があるのは、新興国市場に目を向ける投資家だけではない。米シティグループは、米国債とユーロ圏各国の国債が大半を占めてきた「世界国債インデックス(WGBI)」に中国国債を追加した場合、その割合は4.6%となり、中国市場にかなりの資本流入をもたらすはずだと述べた。 債券インデックスに加わるまでの道のりは長く、確実とは全く言えない。中国市場は当面、外国人投資家の多くにとって遠くから見守るだけの存在であり続けるだろう。だが、金融市場の地図の大幅な書き換えはもう始まろうとしている。 関連記事 中国の資金流出抑制策、企業や個人は悲鳴 中国、経済より政治優先 影ひそめる現実主義
中国の成長目標に込められたもの−「願望」と「単純計算」 全人代財政経済委員会の呉暁霊副委員長(ダボス、2007年)
By CHUIN-WEI YAP 2016 年 3 月 10 日 15:45 JST 経済成長目標にはどんな意味が込められているだろうか。中国の場合、それはあまり多くない。 中国政府が目標の設定に非常に熱心だというのはよく知られるところだ。中国国家発展改革委員会(NDRC)が全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で発表した年次報告の付属文書によると、昨年の目標59項目のうち未達に終わったのは4項目にすぎなかった。そのため、中国の政策立案者はありとあらゆる計算式を駆使して各目標値を導き出したと思われるかもしれない。 全人代財政経済委員会の呉暁霊副委員長によると、答えはノーだ。中国人民銀行(中央銀行)副総裁や国家外為管理局(SAFE)局長を歴任した呉副委員長は、中国の金融政策立案者として高い評価を受けている。 呉副委員長は今週、中国の現行の金融政策(新たな債務不安を引き起こさずに、経済成長を支えられるだけの資金を供給するという両にらみの政策)について説明した際、政府が広義の通貨供給量(マネーサプライ)の尺度となるM2の伸び率目標をどのように設定しているか順を追って説明した。 エコノミストらが中国のM2に注目しているのは、その規模が大きいからだけでなく、経済成長率の2倍の速さで債務を膨らませている原動力だからだ。 中国政府は周到な戦略に基づき、M2を拡大させている。政府は昨年M2の伸び率目標を12%に設定し、13.3%という実績を残した。今年の目標水準は13%だ。 中国当局はどのようにしてこうした水準を導き出したのだろうか。呉副委員長によると、まず、同国の重要指標である国内総生産(GDP)成長率の目標値を設定する。昨年の目標値は7%だったが、今年は経済成長の減速に伴い6.5%?7%に引き下げられた。政府が2020年までの10年間で1人当たり国民所得を倍増させるという壮大な目標を達成するには、最低でもこの水準を達成する必要がある。 次に、このGDP目標値に人民銀が消費者物価指数(CPI)上昇率予想(今年と昨年はいずれも3%)を加算する。さらに、「『不確実性』を考慮して2、3%プラスする」と呉副委員長は述べた。 これらを合計した数字が、政府のその年のM2伸び率目標となる。昨年は12%で、今年は13%に設定された(今年分については、人民銀が便宜上、GDP成長率目標の上限値を用いた)。 中国のM2拡大戦略は同国が独自に生み出したものではない。マネーサプライと経済成長に強い相関関係があることについては、経済学者が長年、理論構築を行ってきた。それゆえ、M2をうまく管理すれば、中央銀行が経済成長に影響を与える重要な手段となる可能性があるのだ。 問題は、呉副委員長も認めているように、マネーサプライを際限なく拡大すると、債務増大やインフレ高進を招くことが往々にしてあることだ。副委員長は「中国ではそれがはっきり見て取れる」とし、「不動産価格は2009年以降に大幅に上昇した」と述べた。 中国にとってもう一つの大きな問題は、こうしたマネーサプライの拡大と通貨安局面が同時進行していることだ。中国では景気減速に対する懸念や指導部がそれにうまく対応できるかという不安を背景に通貨安が加速し、外貨準備高が異例のペースで減少している。 エコノミストらは、ある国が資本逃避リスクをどれだけ抱えているかを知る手掛かりとして、マネーサプライと外貨準備高の相関性に注目している。M2の外貨準備高に対する比率が上昇すれば、あるいは逆に、外貨準備高のM2に対する比率が低下すれば、資本逃避の可能性は高まる。中国の場合、外貨準備高のM2に対する比率は現在15%程度で、アジア金融危機に見舞われた1997年時点のインドネシアの水準とほぼ同じ低さだ。当時のインドネシアでは資本逃避が起き、通貨ルピアは急落し、社会不安が広がった。 呉副委員長など政策立案者は、金融政策が中国経済を下支えする手段として限界に達したとの確信をますます強めている。副委員長は「金融政策を過度に用いると、いずれ消費者物価や資産価格が暴騰する」と語った。 中国政府は現在、財政政策を通じて経済成長の押し上げを図る方針に転換しようとしている。こうした公的資金による成長下支えは、サプライサイド(供給側)経済学とも呼ばれる。これは財政省の管轄だ。財政省は今週、地方政府債務を部分的に引き継ぎ、法人税の一部を引き下げる計画を発表した。 呉副委員長によると、人民銀は近年の過剰生産能力などを生み出す要因になったような金融緩和策はもはや断固認めないだろう。だが、人民銀は金融システム内の流動性を潤沢に保つ必要もある。副委員長は、1月のM2の伸びが14%とやや目標を上回った理由の一つは、市中銀行が人民銀に流動性供給を求めたからだと述べた。また、2015年に延期された大規模な建設プロジェクトが再開されたことにも言及した。 目標を定めることと達成することは全く別の話だ。 関連記事 中国、経済より政治優先 影ひそめる現実主義 中国、リスクの高い成長目標戦略を強化 中国が成長率目標引き下げ、債務依存は変わらず http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-MZ350_wuxiao_M_20160308225435.jpg
TPPに逆風、米国で政治的後押し失う 有権者の不信感強く共和党の支援弱まる 米政権はTPPが中国との競争の鍵になるとみている(写真はTPPに参加するベトナムのハイフォン港) ENLARGE 米政権はTPPが中国との競争の鍵になるとみている(写真はTPPに参加するベトナムのハイフォン港) PHOTO: NGUYEN HUY KHAM/REUTERS By BOB DAVIS 2016 年 3 月 10 日 19:06 JST 歴代の米共和・民主両党の大統領はこれまで何十年もの間、米国と世界の市場開放に努めてきた。しかし、今では両党ともに自由貿易への反感が勝り、環太平洋経済連携協定(TPP)の年内批准はままならぬ状況となっており、世界的な経済交流の長期的見通しも曇っている。 多くの民主党員はこれまでの複数の自由貿易協定について、工業地帯の中西部を中心に多くの雇用を奪い、賃金を押し下げていると批判してきた。中西部地域は日本やメキシコ、中国といった比較的低コストの製造拠点からの競争に長い間打ちのめされてきた。 しかし、8日のミシガン州とミシシッピ州の予備選で大きな驚きの一つは、貿易をめぐる懸念が共和党有権者にどれほど大きく影響しているかということだった。これは、貿易制限の緩和から恩恵を受けるのが誰かをめぐり、右派の心の奥で懐疑心が広がっていることを示す証拠だと指摘する向きが多い。 共和党の指名獲得に向け先頭を走るドナルド・トランプ氏は、TPPをはじめとする貿易協定に強烈な反対を表明している。民主党指名を狙うバーニー・サンダース上院議員も同じだ。民主党指名争いで優勢のヒラリー・クリントン氏も現在、TPPに反対の意向を示しており、サンダース氏と同じくらいはっきりと疑念を表明している。夫であるビル・クリントン氏は1994年、大統領として北米自由貿易協定(NAFTA)に調印した。 ミシガン州とミシシッピ州の予備選ではトランプ氏が大勝したが、特に貿易について懐疑的な有権者の間では、他候補との得票差は全体の差を上回った。ミシガン州民主党予備選でも、貿易問題をめぐる苛立ちがサンダース氏に僅差での勝利をもたらした。ミシガン州では同氏は、ヒラリー・クリントン氏がNAFTAを支援しているとして、また、TPPへの反対でも出遅れたとして激しい非難を繰り返してきた。 ミシガン州予備選での出口調査によると、貿易協定によって国内の雇用が失われると考えている有権者からの得票率は56%対41%でサンダース氏がクリントン氏を上回った。また、ミシシッピ州予備選の出口調査によると、貿易問題が雇用喪失の主因だと回答したのは民主党有権者ではなく共和党有権者のほうだった。同州の民主党有権者では、43%対41%の割合で、貿易が雇用創出を促進したとの回答が多かった。 ジョージ・W・ブッシュ前政権時代にホワイトハウス報道官を務めたトニー・フラット氏は、自由貿易への反対という点で、「ある意味、共和党が伝統的な民主党になりつつある」との見方を示した。現在は貿易問題で企業のコンサルタントを務めている同氏は、ここ数年、有権者は自由貿易支持といった伝統的な共和党の立場に傾倒するというよりも、オバマ大統領への反対が理由で共和党の仲間入りをしていると述べた。 議会でNAFTAが承認されて以来、貿易はますます政治的対立要因となっている。民主党はTPPなどへの反対で主導権を握り、新興諸国での安い労働力によって生産された輸入品のため、米国では数百万の雇用が失われていると主張している。自由貿易に対する民主党内の支持は年を追うごとに低下している。下院では昨年、政府に貿易交渉権限を委ねる貿易促進権限(TPA、通称ファストトラック)をオバマ大統領に与える法案に賛成票を投じたのは、民主党議員では28人だけだった。NAFTAでは民主党議員の102人が賛成票を投じていた。 それほど目立ってはいないが、共和党有権者の貿易に対する支持も低迷している。ファストトラック法案をめぐる採決直後の2015年6月にウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースが共同で実施した世論調査では、自由貿易が米国にマイナスになるとの回答が全体では34%対29%の割合で上回った。しかし、共和党支持者ほうが民主党支持者よりもずっと否定的だった。共和党有権者では、自由貿易が米国にマイナスとの回答が38%対28%で上回った。一方、民主党有権者では、貿易が役に立つとの回答が35%対29%で上回った。 トランプ氏は、メキシコや中国、日本との貿易交渉で米国が不利を被っていると繰り返し主張している。共和党のポピュリストであるパトリック・ブキャナン氏は、トランプ氏は反自由貿易感情を利用し、さらにそれを膨らませていると指摘した。ブキャナン氏は1992年に共和党指名を目指し、貿易問題を取り上げてジョージ・H・W・ブッシュ元大統領に挑んだ。 自由貿易は、銃をめぐる権利や妊娠中絶問題と同様に、ブキャナン氏が呼ぶところの「選挙を決める問題」になっている。つまり、特定の問題に強い関心を寄せる有権者をひきつける問題という意味だ。 実際、8日夜の予備選の結果では、現在の環境で共和党の議会指導者たちがTPPの年内の議会通過を求めることがいかに難しいかが浮き彫りになった。ホワイトハウスはTPPについて、中国と競争するうえでの通商・外交政策上の戦略の要とみている。中国はTPPに参加していない。民主党が激しく反対するTPPは、共和党の支持のおかげで昨年、何とかもみ消されずに済んだ。しかし、共和党の支持はここ数カ月間で大幅に弱まっている。 関連記事 トランプ氏躍進、中国は期待と不安 クリントン氏かトランプ氏か 有権者に究極の選択 TPPで米製造業雇用の伸び鈍化=シンクタンク 【読者の声】TPP合意、日本の生活はこう変わる http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-MZ773_TRADE__M_20160309164841.jpg 【社説】崩壊しつつあるクリントン氏の支持層 ミシガン州の民主党予備選の結果と今後の行方についてWSJのジョー・レイゴ編集委員が解説(英語音声、英語字幕あり) Photo credit: Associated Press. 2016 年 3 月 10 日 18:09 JST 進歩的なジャーナリストや上品ぶった事情通たちは、ドナルド・トランプ氏が巻き起こした米共和党内部の混乱をいい気味だと嘲笑している。それが続いている間に、せいぜい楽しんでおくことだ。8日に行われたミシガン州の民主党予備選でヒラリー・クリントン氏がまさかの敗北を喫したことは、民主党もトランプ氏と同じくらい重い政治的マイナス材料を抱えた弱い候補者を背負い込んでいることを物語っている。 バーニー・サンダース上院議員(バーモント州)がクリントン氏に得票率50%対48%で勝利したことは支持率に関する世論調査が始まって以来の驚くべき番狂わせのひとつだ。ミシガン州で最後に行われた政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の世論調査では、クリントン氏が平均で21.4ポイントのリードを奪っていた。先月実施された世論調査でもクリントン氏のリードが11ポイントを下回ったものはない。ミシガン州は世論調査で把握するのが困難な州だ。だが、25ポイントも誤差が出る世論調査などあるだろうか。 土壇場でのこうした「揺れ」は世論調査機関が調査対象とする有権者の規模や構成で計算違いをしない限り発生しない。この番狂わせはサンダース氏の急浮上か、もしくはクリントン氏に対する一般党員の支持のゆるやかな崩壊のどちらかを示唆している。いや、その両方である可能性が高い。これはヒラリー・ワールドが根本的な部分で衰弱していることを物語っている。 サンダース氏は貿易と経済の現状に激しく反発する選挙運動を展開してきた。出口調査によると、米国経済に関して「かなり憂慮している」という有権者の間で、サンダース氏はクリントン氏を56%対40%で破っている。黒人有権者からの支持でも初めてクリントン氏のリードに食い込んだ。8日に行われた南部ミシシッピ州の予備選では、黒人票が9対1の割合でクリントン氏に流れた。南部では圧倒的な黒人の支持でクリントン氏が勝利するパターンが繰り返されている。 一方、ミシガン州ではクリントン氏の黒人票でのリードは2対1となった。それでも相当強いが、サンダース氏はクリントン氏の支持層のこの中核部分から、ひとつの州で勝利を収めるに十分な有権者を奪い取ることができることと、白人のリベラル派や若者以外にも自身の支持層を広げられることを示した。サンダース氏の地元であるバーモント州バーリントンで、クリントン氏が即興で演奏するジャムバンド「フィッシュ」の若いファン層から、勝利するに十分な票を獲得した姿など想像できるだろうか。 民主党はミシガン州の代議員を得票率に応じて比例配分する。獲得議員数でサンダース氏がクリントン氏に追いつくためには、ミシガン州の2ポイントという差をはるかに上回る平均マージンでこれからの予備選を勝たなければならない。とはいえ、サンダース氏の「革命」は来週再び、クリントン氏を困らせることができるかもしれない。オハイオ州やイリノイ州といったミシガン州と同様に工業が盛んな中西部の州で予備選が行われるからだ。 クリントン氏のミシガン州での敗北により、同氏の選挙戦を守っているのが抵抗力と無関心であることも露呈した。サンダース氏は「正直で信頼できる」指名候補を望むとした有権者の中で、4対1の割合でクリントン氏に勝った。「私のような国民のことを気にしてくれる」大統領を望むとした有権者の中でもクリントン氏に辛勝している。 遊説中のクリントン氏は選挙戦での勝利を当たり前と思っているようだ。オバマ大統領が去った後も影響力を保持していたいと願う労働組合やフェミニスト団体、環境保護団体、マイノリティーなど、民主党の支持基盤にとって、クリントン氏は刺激にはならない代理人だ。だが「良薬」を飲むようにと人から言われるのを好む有権者はめったにいない。民主主義は少なくとも、少し騒々しくて無秩序なものであるはずだ。 こうしたことは全て、なぜ共和党のジョン・ケーシック・オハイオ知事とマルコ・ルビオ上院議員が昨年11月の世論調査上での対戦でクリントン氏に勝ち、テッド・クルーズ上院議員でさえ勝利に近づいたのかを説明している。民主党員は、共和党がトランプ氏を指名するだろうと考えており、そこから慰めを得ている。トランプ氏はほとんどすべての世論調査で、クリントン氏に負けている。しかし、自信を持ちすぎるべきではない。 ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースが共同実施した最新の世論調査で、登録済み有権者の67%がトランプ氏を支持できないと回答した。だが、クリントン氏に投票できないと回答した有権者も56%に達していたのだ。クリントン氏を否定的にみている有権者は51%にのぼった。夫のビル・クリントン氏が大統領選に出馬した1992年まで遡ってみても、これほど突出して高い数字になったことはない。トランプ氏は共和党にとっての災難になる可能性がある。だが、政治の舞台ではあまり知られていない人物であるため、トランプ氏が大統領役を演じようと決断すれば、良い面が出てくることもあるだろう。一方、クリントン氏はこれまで長い間政治の舞台に登場し続けていたため、イメージを変えるのに苦労するだろう。 民主、共和両党とも、一般国民の大多数から嫌われている候補者を指名しようとしているというのが本当のところだ。クリントン氏とトランプ氏の戦いになれば、たちまち情け容赦のない「底辺への競争」になるだろう――まだそこには至っていないとしての話だが。それに、最後には誰かが大統領にならなくてはいけないのだ。どんなことでも起こり得る選挙の年には(それにもういろいろと起こっているが)、「トランプ・シャーデンフロイデ(他人の不幸を喜ぶ気持ち)」はクリントン支持者の後悔になり得るのだ。 関連記事 底力示したサンダース氏、ミシガンで接戦制する クリントン氏かトランプ氏か 有権者はどちらも不支持=WSJ調査 トランプ氏が「第2のシュワルツェネッガー氏」になれない理由 ルビオ氏が反省する「トランプ氏が失禁」発言 米大統領選特集 底力示したサンダース氏、ミシガンで接戦制する 15日に予備選が開かれるフロリダ州マイアミで演説するバーニー・サンダース上院議員(8日) ENLARGE 15日に予備選が開かれるフロリダ州マイアミで演説するバーニー・サンダース上院議員(8日) PHOTO: ALAN DIAZ/ASSOCIATED PRESS By AARON ZITNER AND DANTE CHINNI 2016 年 3 月 9 日 16:01 JST 8日にミシガン州で行われた民主党の予備選で、バーニー・サンダース上院議員の「支持連合」――つまり若者、リベラル(自由主義者)、無党派の人々――が依然として強大な力を持っていることが浮き彫りになった。8日にはミシガン州のほか、ミシシッピ州で民主党の予備選が行われた。 一方、共和党はミシガン、ミシシッピの2州に加え、アイダホ、ハワイの2州でも予備選・党員集会を開いた。 クリントン氏とサンダース氏との差縮まる=WSJ調査 民主党のミシガン州予備選ではサンダース氏がクリントン氏と予想外の接戦を演じ、勝利を収めたことで、自身の支持層が強い影響力を維持していることを証明して見せた。今後、指名争いはミシガン州と似た性格を持つ、オハイオ、イリノイ、ウィスコンシンなど中西部の州に移行することになる。 ミシガン州では有権者層に占める黒人の割合がわずか25%程度と小さく、クリントン氏には分が悪かった。 開票率92%の段階で、サンダース氏の得票率は50%、クリントン氏は48%。同州の代議員(130人)は比例配分される。 初期段階の出口調査によると、30歳未満の有権者のうち80%がサンダース氏に投票した。45歳未満では3分の2を超える有権者が支持した。CNNをはじめとする主要メディアの出口調査によると、クリントン氏が黒人有権者の圧倒的な支持を得た一方で、サンダース氏は白人有権者の60%近くから支持を得た。 一方、ミシシッピ州ではサンダース氏の支持層は存在感が薄く、ヒラリー・クリントン氏が有権者層の60%超を占める黒人票に支えられ、圧倒的な勝利を収めた。 米4州予備選・党員集会と各候補の様子 11月の米大統領選へ向けた候補者指名争いは8日、民主党がミシシッピとミシガンの2州で予備選を開き、共和党がこの2州にアイダホ、ハワイを加えた4州で予備選・党員集会を行った。各地の投票所や、この日の各候補者の様子を追った。 Republican presidential candidate John Kasich meets with supporters after speaking at the Lansing Brewing Company in Lansing, Mich. The Ohio governor came in second place in Michigan. Betty Reed casts her vote in Jackson, Miss. Republican Donald Trump and Democrat Hillary Clinton won their respective primaries in the state. Democratic U.S. presidential candidate Hillary Clinton applauds as she arrives to speak to supporters at her campaign rally in Cleveland, Ohio March 8, 2016. REUTERS/Carlos Barria Published Credit: carlos barria/Reuters Marion Kaneshiro, a volunteer for the Republican Party of Hawaii, helps a caller find the location of their polling site in Honolulu. Results from the state’s Republican caucuses are expected after 1 a.m. Eastern time. Mr. Trump speaks during a news conference at the Trump National Golf Club in Jupiter, Fla., after his wins in Michigan and Mississippi. A woman votes in Boise, Idaho. Republicans took part in the state’s presidential primary; Idaho’s Democrats will vote on March 22. Detroit resident Love McMiller collects signatures outside of the polling station at Fire Station 11. The state’s primary is the first in the U.S. manufacturing belt and puts the spotlight on the economic health of post-industrial urban America. Democratic presidential candidate Bernie Sanders acknowledges his supporters at a rally in Miami. The U.S. senator from Vermont was ahead of Mrs. Clinton in early results for the Michigan primary. A resident, right, checks in to vote in the presidential primary election at a polling station in Detroit. The state-by-state fight for the presidency now centers on Michigan, home of Detroit's record $18 billion bankruptcy and a crisis over toxic drinking water in the city of Flint. Republican presidential candidate Marco Rubio poses for a selfie with a supporter during a campaign rally in Sarasota, Fla. The U.S. senator from Florida came in fourth place in the Michigan and Mississippi primaries. Voters cast their ballots in Madison, Miss. Mr. Trump has won every Southern state so far by large margins, except for Louisiana, where a surge by late voters on Saturday pushed Sen. Ted Cruz to within 3 percentage points of the front-runner. U.S. Rep. Gregg Harper (R., Miss.) receives a voting voucher and a "I Voted" sticker from poll worker Janice Vanderford in Pearl, Miss. Republican presidential candidate Ted Cruz waves to supporters before speaking at the Central Baptist Church in Kannapolis, N.C. The U.S. senator from Texas came in second place in Mississippi. Republican presidential candidate John Kasich meets with supporters after speaking at the Lansing Brewing Company in Lansing, Mich. The Ohio governor came in second place in Michigan. Betty Reed casts her vote in Jackson, Miss. Republican Donald Trump and Democrat Hillary Clinton won their respective primaries in the state. 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EUGENE TANNER/ASSOCIATED PRESS Mr. Trump speaks during a news conference at the Trump National Golf Club in Jupiter, Fla., after his wins in Michigan and Mississippi. LYNNE SLADKY/ASSOCIATED PRESS A woman votes in Boise, Idaho. Republicans took part in the state’s presidential primary; Idaho’s Democrats will vote on March 22. OTTO KITSINGER/ASSOCIATED PRESS Detroit resident Love McMiller collects signatures outside of the polling station at Fire Station 11. The state’s primary is the first in the U.S. manufacturing belt and puts the spotlight on the economic health of post-industrial urban America. SEAN PROCTOR/BLOOMBERG NEWS Democratic presidential candidate Bernie Sanders acknowledges his supporters at a rally in Miami. The U.S. senator from Vermont was ahead of Mrs. Clinton in early results for the Michigan primary. ALAN DIAZ/ASSOCIATED PRESS A resident, right, checks in to vote in the presidential primary election at a polling station in Detroit. The state-by-state fight for the presidency now centers on Michigan, home of Detroit's record $18 billion bankruptcy and a crisis over toxic drinking water in the city of Flint. SEAN PROCTOR/BLOOMBERG NEWS Republican presidential candidate Marco Rubio poses for a selfie with a supporter during a campaign rally in Sarasota, Fla. The U.S. senator from Florida came in fourth place in the Michigan and Mississippi primaries. STEVE NESIUS/REUTERS Voters cast their ballots in Madison, Miss. Mr. Trump has won every Southern state so far by large margins, except for Louisiana, where a surge by late voters on Saturday pushed Sen. Ted Cruz to within 3 percentage points of the front-runner. ROGELIO V. SOLIS/ASSOCIATED PRESS U.S. Rep. Gregg Harper (R., Miss.) receives a voting voucher and a "I Voted" sticker from poll worker Janice Vanderford in Pearl, Miss. ROGELIO V. SOLIS/ASSOCIATED PRESS Republican presidential candidate Ted Cruz waves to supporters before speaking at the Central Baptist Church in Kannapolis, N.C. The U.S. senator from Texas came in second place in Mississippi. JASON MICZEK/REUTERS Republican presidential candidate John Kasich meets with supporters after speaking at the Lansing Brewing Company in Lansing, Mich. The Ohio governor came in second place in Michigan. CARLOS OSORIO/ASSOCIATED PRESS Betty Reed casts her vote in Jackson, Miss. Republican Donald Trump and Democrat Hillary Clinton won their respective primaries in the state. JUSTIN SELLERS/THE CLARION-LEDGER/ASSOCIATED PRESS サンダース氏の「支持連合」を構成する有権者層を踏まえると、中西部の各州でもミシガン州と同じく大接戦が予想される。製造業に根差した中西部の有権者層は、これまでに予備選・党員集会が行われたどの州よりもミシガン州に似ている。 ミシガン州の人口に占める白人と非ヒスパニック系の割合は76%で、オハイオ州の白人80%、ペンシルベニア州の同78%、ウィスコンシン州の同82%によく似ている。大卒の25歳以上がミシガン州の人口に占める割合は26%だが、これも他3州と横並びだ。ミシガン州の世帯収入の中央値は4万9000ドル。近隣の3州も中央値が4万9000ドルから5万3000ドルの範囲に収まっており、いずれの州もブルーカラー労働者が産業を支えてきたという長い歴史を持つ。 サンダース氏はミシガン州に加え、すでに中西部のミネソタ州を制している。ミネソタは予備選ではなく、党員集会が開かれた。 ミシガン州の結果は民主党の両候補者に、それぞれメッセージを送ることになった。クリントン氏にとっては、富裕層とウォール街を敵に回した「政治革命」を呼びかけるサンダース氏と同じくらい説得力のある論拠とメッセージが必要だということだ。「政治革命」は民主党の最も若い世代の心をつかんでいる。 一方のサンダース氏にとっては、人種面で多様性のある民主党の指名を勝ち取るためには、白人以外の有権者から支持を得なければならないということだ。 サンダース氏は南部の州で黒人から支持を得られず、クリントン氏に大敗を喫したが、南部以外の多人種で構成される州ではもっと広い支持が得られる可能性がある。ミシガン州でサンダース氏は黒人票の30%を獲得した。これは出口調査が行われた州で最も高い支持率であり、南部州の予備選で1桁台しか獲得できなかったことに比べれば、はるかに大きな数字だ。 他にも特筆すべきことがある。ミシシッピ州の出口調査によると、民主党有権者に占める男性の割合が40%未満だったのに対し、女性の割合は61%に達した。これまでに実施された予備選・党員集会の女性の割合は平均58%だったため、これを上回る数字となった。ミシシッピ州を制したクリントン氏は男性、女性の両方から圧倒的に支持された。 関連記事 米4州予備選・党員集会と各候補の様子 トランプ氏躍進、中国は期待と不安で熱い視線 民主サンダース氏、長期戦の構え トランプ氏の矛盾が容認されている理由 米大統領選、候補者の横顔 米大統領選の主要日程 http://si.wsj.net/public/resources/images/BN-MZ283_primar_M_20160308210554.jpg
ドイツ銀など外銀が反対−大きくてつぶせない問題の米規則案は不公平 2016/03/10 18:39 JST (ブルームバーグ):HSBCホールディングスやドイツ銀行など外国銀行が、銀行の「大きくてつぶせない」問題を解消することを目指した米連邦準備制度理事会(FRB)規則の導入に反対している。米国以外の銀行の米部門の扱いが不公平だと主張している。 FRBが昨年10月30日に公表した草案では、外銀の米部門は総損失吸収能力(TLAC)に算入される証券に加えて、危機時に債務減免ができる債券を親会社に保有させることを求められる。この追加分も「直ちにベイルイン対象になる」とされている。 サンタンデール銀行を含む業界ロビー団体や国際銀行協会(IIB)は、同等規模の米銀にはこの要件が課されないため規則は不公平だとコメント。さらに、損失を親会社に負担させることは危機の波及を防ぐという規則の目的に反すると指摘した。 FRBの報道官は銀行側の反応についてコメントを控えている。 原題:Deutsche Bank, HSBC Fight Fed’s ‘Unfair’ Too-Big-to-Fail Plans(抜粋) 記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン John Glover johnglover@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: Patrick Henry phenry8@bloomberg.net Jesse Hamilton 更新日時: 2016/03/10 18:39 JST http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O3TGB26K50XS01.html
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