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公的年金を「賭場」に持ち込んで大金をスッたGPIF。所管する厚労省のトップが塩崎大臣だ〔PHOTO〕gettyimages
「年金」がどんどん溶けていく 〜責任逃れの素人集団に「運用」を頼んだ覚えはない! 長生きするほど減額の憂き目に
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48032
2016年03月01日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
誰が「虎の子」の老後資産を株で運用してくれと頼んだだろう。年明けからの暴落で「悠々自適の年金暮らし」は不可能に。年金が無くても優雅に老後を過ごせる安倍総理や塩崎大臣が羨ましい。
■10年でなくなる?
「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、すでに昨年の7~9月期で7・9兆円の巨額損失を計上しています。この間、日経平均株価は14%下落しました。今年に入ってから、日経平均株価は約15%下がっている。単純計算すれば、年明け以降、9兆円くらいの運用損が出ていても不思議ではありません。
しかも、これは現時点での試算です。年末まで株価が今の水準で低迷すれば、さらに5兆円の運用損。1万5000円を割り込む水準にまで下がれば、合計で20兆円もの年金資産が消える可能性があります」(民主党衆院議員・山井和則氏)
私たちの老後資産である年金積立金が株価の下落に伴い、ものすごいスピードで溶けている。
安倍晋三総理をはじめ、政府は「長期的な視点で見るべきだ」と取り繕うが、実際に長期的に見れば、より危機的な状況にあることは明らかだ。
社会保険労務士の大曲義典氏が警鐘を鳴らす。
「現在の年金給付総額は45兆円ですが、保険料収入は25兆円。不足分は税金と積立金の取り崩しで穴埋めしているのが現状です。毎年5兆円程度を取り崩していますが、このままでは現在、約135兆円あると言われる積立金はいつかなくなってしまいます」
'04年に自民党と公明党が、「100年安心」を謳って年金制度を「改正」したことは記憶に新しい。その際、5年に一度、年金財政を検証することを定めた。'14年に行われた財政検証では、最も悪いシナリオで'51年に年金積立金が枯渇すると試算。しかし、この見通しでさえ甘いのでは? と大曲氏が疑問を呈する。
「この試算は、物価上昇率が年0・6%、実質賃金上昇率が年0・7%を前提としています。現状から見ればこの前提でさえ、バラ色の未来を想定しているとしか言えません。なにしろ昨年は物価上昇率こそ0・8%でしたが、実質賃金上昇率はマイナス0・9%でしたから」
政府と日銀が躍起になって推し進めている物価上昇率2%の「インフレターゲット」は一向に達成する気配がない。その上、実質賃金は低下している。年金が「100年安心」だとする根拠は大きく揺らいでいるのだ。
「実質賃金上昇率が、年金の試算には非常に重要な意味を持ってきます。賃金上昇は年金の保険料収入に直結し、これがマイナスということは保険料収入が減ることを意味するからです。それを考えれば、'51年よりも前に積立金が枯渇してしまうでしょう」(前出・大曲氏)
物価上昇率と実質賃金上昇率を0%とし、運用利回りを1%としたある試算では、年金積立金は'30年で底を突く。
現在の株価水準が続けば、'15年度の運用利回りはマイナス5%にもなりかねない。政府は、安倍政権になってからGPIFは30兆円超の利益を出したと強弁するが、これはGPIFの資金を株式市場に注ぎ込んで株高を牽引した「自作自演」に過ぎない。
円高株安でアベノミクスが逆回転を始めれば、含み益はいとも簡単に吹き飛んでしまう。リスクを大きく抱えた以上、被害は甚大で'30年よりもっと前、10年後にも枯渇する可能性さえある。
■毎年、金額が下がっていく
現在、厚労省はモデルケースとして、サラリーマン世帯(妻は専業主婦)の場合、厚生年金と基礎年金を合わせて月額22万1504円としている。自営業者や非正規雇用者など、国民年金だけの加入だと一人月額6万5008円だ(いずれも'16年度)。年金積立金が枯渇すると、年金額はどうなるのか。
「経済の見通しが不透明なので、あくまでイメージですが、サラリーマン世帯(妻は専業主婦)の年金が月額15万円程度、国民年金だけだと5万円程度になってしまうかもしれません。
実際には年金積立金の枯渇を少しでも先延ばしするために、支給開始年齢を引き上げると思います。'18年に年金の改正が予定されていますが、その時に支給開始年齢を現在の65歳から67~68歳に引き上げる可能性が高まりました」(ファイナンシャルプランナー・深野康彦氏)
さらに政府と厚労省は年金支給額を減らすために別の方法も用意している。「マクロ経済スライド」がそれだ。
「年金は物価上昇時には上昇率に伴って支給額が増額されますが、これは年金給付額の伸びを物価上昇率よりも0・9%程度抑える仕組みです。'16年度は物価上昇率が低く、年金が増額にならなかったため、発動しないことになりました。
そう遠くない時期、デフレで『マクロ経済スライド』が発動できずに実施できなかった給付の削減分について、翌年以降の物価上昇時にまとめて実施できるようにする法案が提出されるでしょう。
これが成立すれば、1年に1~2%ずつ年金支給額が下がっていくおそれがあります。最悪の場合、30年後には現状に比べて3割以上も支給額が減っていることもありえるでしょう」(前出・大曲氏)
あなたが現在50歳だとしたら、15年後の65歳時点での厚生年金の月額は18万5000円程度で、85歳になると13万円。今から50年後には月々10万円というふうに減額されていくのだ。
年金で老後の暮らしが安心なんて夢物語。生きていくためには65歳を超えても、働き続けなければならない。病気になって年金だけでは生活できなくなったら、悲惨な暮らしが待っている。
残念ながら、これからそういう老後がやってくる。もっと若い世代は言わずもがなだろう。
■これからもハイリスク
GPIFの運用による損失拡大が、悪夢のような未来をさらに近づかせる。私たちの年金資金が巨額の損失を抱える可能性のある「ハイリスク・ハイリターン」の市場に持ち込まれたこと自体が問題だと、埼玉学園大学経済学部(金融論)の相沢幸悦教授は指摘する。
「政権の意を受けた運用委員会の意見に従って、GPIFは'14年10月に基本ポートフォリオを入れ替えました。それまでそれぞれ12%ずつだった国内と海外の株式の割合を25%にまで倍増させ、国内外の株式に全資産の50%を投資できるようにした。外国債券の割合も11%から15%に高めましたから、実に65%の資産が大きな変動リスクに晒されている。
世界中で株価が下落すれば、リスクを避けるために資金が円に集まり、円高になるため、外債でも損をします。年金積立金は、ダブルで損失を被る危険があるわけです。現在のポートフォリオは、国民の老後資産を支える年金の運用としては考えられないことです」
国民の老後資金を株式市場に突っ込んだのは、アベノミクスを政権の御旗に掲げた安倍内閣の思惑からにすぎない。相沢教授が続ける。
「安倍内閣は株価を維持することが支持率の生命線と化した『株価連動内閣』なので、こうしたことが行われたのでしょう。
たしかに、一昨年の秋からGPIFが株を買い始めたことで日経平均株価も上がり、円安も進んだわけで、大きな含み益は出ました。しかし現在、中国や欧州で経済的なリスクが高まり、米国経済も盤石ではない。
市場が変動することで積立金が大きく上下する状況は、公的年金の運用として到底正常とは言えません。少なくとも、運用の方針を大きく転換するときには、国民の承認を得るべきでした」
■責任逃れの素人集団
GPIFが運用する資金は約135兆円。すべて年金加入者の保険料だ。つまり、国民一人あたり100万円を預けていることになる。4人家族なら、400万円もの老後資産の運用をGPIFに一任しているのだ。それを勝手に株式市場にぶち込まれて、大損させられているのだから堪らない。
「株式投資が盛んな米国ですら、公的年金にあたる『社会保障信託基金』は、すべて市場で売買できない債券で運用されています。135兆円もの巨額資産の半分をリスクのある株式で運用している公的年金は、世界を見渡してもGPIFくらいしかありません。
安倍総理が国会で『(GPIFの運用で)想定の利益が出なければ当然、(年金の)支払いに影響してくる』と述べましたが、老後の収入の柱となる年金の受給額がどうなるかわからないと、国民の不安は募るばかりです」(前出・深野氏)
そもそも老後資金の運用を一任されているGPIFは、運用先として適切な組織なのだろうか。
「理事長の三谷隆博氏は日本銀行OBで、総務・企画担当理事の藤原禎一氏は厚労省OBの天下りです。最高運用責任者の水野弘道氏は民間の金融機関出身ですが、世耕弘成官房副長官のお友達ということで運用のトップになっただけ。何十兆円という株を動かした経験もなく、運用での実績もありません。
本来は政府から独立し、専門的な判断で運用すべき最高幹部がこのように政府や政治家にべったりなのですから、ブラックジョークもいいところ。政府の意向に唯々諾々と従って、株価維持のためにGPIFの資金を株式市場に投じたわけです」(全国紙厚労省担当記者)
その一方でGPIFの組織改革をめぐっては、政権と塩崎恭久厚労大臣、そして厚労省の三者の足並みは揃っていない。
「塩崎大臣はGPIFの独立性を高め、独自の判断で個別の株式に直接投資する『自家運用』の解禁まで提唱していました。さらにリスクを取って運用益を出そうという考え方です。
一方の厚労省は、自家運用はリスクが高すぎるし、GPIFが民間企業の株主になることの弊害を指摘して、待ったをかけた。従来どおり、自分たちのコントロール下に年金を置いておきたいということでしょう。
塩崎大臣が香取照幸前年金局長と怒鳴り合いの喧嘩をしたのも、組織改革をめぐってです。結局、官邸は厚労省に軍配を上げ、抜本的な改革は見送られることになりましたが、誰もが年金運用が失敗した時の責任を押し付けあっているようにしか見えません」(前出・厚労省担当記者)
危機が表面化する10年後、安倍総理も塩崎大臣も厚労省の幹部もGPIFのトップも、誰一人としてその地位にはいないだろう。かくして誰も責任を負わないまま、国民の老後資産が傷んでいく。
世界経済に奇跡でも起きない限り、年金は減っていく。絶望的な老後が、あなたを待ち受けているかもしれない。
「週刊現代」2016年3月5日号より
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