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日本の家計は想像以上に厳しい状況に追い込まれている(写真はイメージ)
しゃれにならない深刻さ、日本の消費が危ない 日本の家計はすでにギリギリの状況
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46181
2016.2.29 加谷 珪一 JBpress
2015年10〜12月期のGDP(国内総生産)は、消費の低迷によって再びマイナス成長に転落した。石原経財相は「記録的な暖冬による影響」との見解を示したが、多くの人はそうではないことを実感しているはずだ。このところ、日本の家計は相当厳しい状況に追い込まれており、消費を増やす余力がほとんどなくなっているのが現実である。
これまで日本経済は、何とか消費だけは維持されることで、それなりの成長が続いてきた。もし、今回の消費低迷が一時的なものにとどまらなかった場合、事態は少々深刻である。今の経済状況において構造的な消費低迷に陥ってしまうと、政策的に打つ手がなくなってしまう。
■マイナス成長は事前に予想されていたが
内閣府は2月15日、2015年10〜12月期のGDP速報値を発表した。成長率は、物価の影響を除いた実質でマイナス0.4%、年率換算ではマイナス1.4%となった。4〜6月期に続いて2回目のマイナス成長である。今回、マイナス成長となることは、多くの関係者が予想していたので、市場に驚きはなかった。
過去3カ月の鉱工業生産指数は、10月が前月比プラス1.4%、11月がマイナス0.9%、12月がマイナス1.4%と冴えない数字が続いていた。需要サイドの統計である家計調査の結果も同じである。2人以上の世帯における実質消費支出は、10月がマイナス0.7%、11月がマイナス2.2%、12月はマイナス1.0%であった。この統計にはネット販売の分が考慮されていないといった特殊要因を考慮しても、消費が著しく弱くなっていることは確実である。
10月から12月にかけての輸出は金額ベースで約4000億円(貿易統計、季節調整済)、率にして2%のマイナスとなっていた。設備投資の先行指標である機械受注だけはまずまずの数字となっており、代表的な指標である船舶を除く民需の10〜12月期見込みは、前期比プラス2.9%であった。
消費が大きく落ち込んでいることや、輸出が伸び悩んでいることなどから、専門家の多くがマイナス成長を予測していたが、フタを開けてみると実際その通りであった。
GDPの中でもっとも大きな割合を占める個人消費がマイナス0.8%と全体の足を引っ張っている。住宅が占める割合は低いものの、伸び率はマイナス1.2%とさらに落ち込みが激しい。一方、設備投資は事前の予想通りプラス1.4%となっており、これによって大幅なマイナスを回避した。輸出入については輸出以上に輸入が落ち込んだため、全体として寄与度はプラスとなっている。
■日本の家計はすでにギリギリの状況
GDPのマイナス幅自体はそれほど大きなものではなく、今回の結果によって、日本経済が景気後退に陥ったと断言するのは早計だろう。だが、頼みの綱であった個人消費が低迷しているというのは、今後の景気見通しを考える上で、気になる結果である。
これまでの日本経済は、個人消費があまり落ち込まなかったことで、何とか成長を維持してきた面があった。だが消費の弱さが継続する事態となれば、影響は長期に及ぶことになる。1〜3月期のGDPにおいても消費が弱かった場合には、少々深刻なことになるかもしれない。
当たり前のことかもしれないが、消費が落ち込んでいるのは、家計の経済状況が苦しいからである。家計調査の結果を見ると、それは一目瞭然である。2人以上の世帯における実質消費支出は、何と21カ月連続の前月割れとなっている。つまり、過去2年間、ほぼ毎月消費が減っているという状況なのである。
家計が苦しいことは別の指標からも明らかである。家計の豊かさを示す指標として多く人に知られているエンゲル係数が急上昇しているからだ。
昨年(2015年)12月における家計の消費支出は31万8254円だった、この月の食料品支出は8万8327円であり、エンゲル係数を計算すると27.8%となる。12月は食料品支出が増えるのでエンゲル係数が増加することが多いが、2014年12月の数値は25.9%だったことを考えると、昨年と比べてかなり上昇したとみてよいだろう。
2013年までは、エンゲル係数が25%を超える月はほとんどなかったが、2014年に入ってから25%を超える月が増加。2015年になるとその傾向がさらに顕著になり、昨年5月以降は、毎月25%を超えている。
■携帯電話料金論争のベースにあるのは家計の貧しさ
食料品には、生活を維持するための最低限度の支出水準というものがあり、嗜好品と比べて極端に節約することができない。生活が苦しくなってくると、家計支出に占める食料品の割合が増加するという一般的な傾向が見られることから、エンゲル係数は生活水準を示す指標としてよく使われている。
もっとも、先進国においては消費が多様化しており、必ずしもエンゲル係数の上昇が生活水準の低下を示すとは限らない。単純にエンゲル係数の上昇から家計が貧しくなっていると断定するのは危険だが、現在の日本においては十分に当てはまると考えてよいだろう。実は、日本における家計支出の絶対値はここ15年、一貫して減少が続いており、家計が貧しくなっているのはほぼ確実だからである。
2000年における家計の平均支出は32万円だったが、2015年はとうとう29万円を切っている。家計の支出が減っているのは、世帯収入が減少しているからである。平均的な世帯年収は過去15年間で15%ほど減少しており、これに伴って支出を切り詰めていると考えられる。
昨年秋、安倍首相が突然「日本の携帯電話は高すぎる」と発言し、これを見直すよう指示。株式市場では携帯各社の株価が下落しちょっとした騒ぎとなった。日本の携帯電話料金が不透明であることは事実だが、国際的に見て不当に高いというわけではない。総務省が行った内外価格差調査によると、同一条件下での通信料金は、ニューヨークが1万601円、東京が7022円、パリが4911円、ロンドンが7282円であった。
この話は、昨年9月に開催された経済諮問会議の場における民間議員の指摘がきっかけであり、安倍首相がこの状況を詳しく把握していたのかは不明だが、携帯電話料金を高く感じるという現実は間違っていない。家計における通信費の割合は年々上昇が続いており、2015年は通信費が全体の4.4%を占めるまでになった。15年前の調査では約3%だったのでかなりの上昇である。通信費の割合が上昇しているのは、スマホの普及でネット接続料金が増加していることもあるが、家計が貧しくなり、支出の絶対値が大きく減っていることの影響も大きい。
■賃金が上がっても手取り収入が思いのほか増えない理由
家計の支出が減っている最大の理由は、実質賃金が上昇していないことである。労働者の実質賃金は毎年減少が続いており、これが家計を圧迫している。物価の上昇に対して賃金の絶対値が追い付いていない。
安倍政権は、経済界に対して賃金を上げるよう異例の要請を3年連続で行っているが、あまり効果は上がっていない。大企業は賃上げに応じることができても、中小企業にはその体力がないところも多い。
さらにいえば、大企業の社員についても、賃上げ分が可処分所得の拡大につながっていないのが現実である。賃金が増えても、その分、社会保険料の負担が増加しているからである。
サラリーマンは、社会保険料の半額を会社が負担する仕組みになっている。例えば、年間の収入(給与と賞与)が500万円の人は、現在、約90万円の年金保険料を納めており、この金額を個人と会社で折半する。賃上げが実施される前の2013年には、この金額は年間約85万円であった。年収500万円だった人が、2年連続の2%賃上げによって年収が約520万円に上昇した場合、年金保険料は約95万円となり、個人負担分は約5万円増加することになる。賃上げされた分は20万円だが、保険料率の上昇などで約5万円が打ち消され、実質的には15万円しか手取りのお金は増えていない。これは年金だけの数字なので、医療や介護などを含めると、さらに少ない金額になる可能性が高いだろう。
また、安倍政権は成長戦略の一環として企業に対してROE(株主資本利益率)の向上も強く求めているが、これも賃金に対して悪影響を与えてしまう。ROEを向上させるためには配当を増額する必要があるが、配当は企業の最終利益の中から捻出される。つまり賃金支払後の利益が配当を決めることになるため、配当の増額と賃金の上昇は、理論的にトレードオフとなってしまうのだ。
■構造的な消費低迷に入ってしまうと手の打ちようがない
政府がROEの向上を強く求める理由は、苦しい年金財政を何とか維持するためである。現在、年金は保険料の徴収よりも保険料の支払いが上回っており、このままでは運用積立金が枯渇してしまう。公的年金を維持していくためには、企業からの配当を増額させる必要がある。
年金は資産のない高齢者にとっては唯一の所得であり、勤労者の賃金に相当する。つまり、勤労者の賃金を上げれば、高齢者の年金が減るという皮肉な状況になっているのだ。
こうした状況を打開するためには、企業の生産性を向上させ、企業が生み出す付加価値を増大させる以外に方法はないが、状況は厳しい。
現在、日本経済には強い逆風が吹いている。中国経済の失速に加え、頼みの綱であった米国の景気にも失速懸念が生じている。これに加え、マイナス金利政策が裏目に出たことで、市場では円高が進んでいる。このままの状態が続いた場合、日本企業の業績が下振れすることはほぼ確実であり、これによって設備投資や消費が冷え込むという悪循環に陥る可能性がある。
これまで日本企業は、賃金の抑制や非正規社員の拡大、下請けに対する値引き要請など、場当たり的な手法で利益の拡大を続けてきた。本来、こうした手法は持続不可能だが、しばらく続いた円安が賞味期限を延ばしてしまった。
教科書的にはビジネスモデルの転換が必要ということになるわけだが、経済的な基礎体力が弱っている時に大規模な改革を実施するのは困難である。もし、次の四半期以降、本格的に消費が低迷するようであれば、政策的には打つ手がなくなってしまうかもしれない。
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