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親介護による職場離脱、企業の存続を脅かし始める…職場混乱、退職・採用で甚大なコスト
http://biz-journal.jp/2016/02/post_13895.html
2016.02.21 文=鬼塚眞子/一般社団法人介護相続コンシェルジュ代表、保険・介護・医療ジャーナリスト Business Journal
内閣府によると、介護や看護を理由とした離職・転職者数は、年間10万人を突破している。離職者数の多さに目を見張るが、意外なほど検証されていないのが、企業や経営者にとっての介護リスクだ。従業員が介護問題に直面した場合、どんなリスクを秘めているのか、考察してみたい。
内閣府が発表した「平成27年(2015年)版高齢社会白書」によると、11年10月から12年9月の1年間で、介護や看護を理由とした離職・転職者数は10万1,100人であった。10万人超という数字の大きさに驚くが、介護をしている人の年齢割合はどうなのだろうか。
12年度の総務省「就業構造基本調査」によれば、「有業者」は男性が130万9000人、女性が160万1000人のうち、15歳以上の男女で介護をしている者は557万4000人で、男性は200万6000人、女性は356万8000人となっている。年齢階級別にみると、60〜64歳が108万2000人ともっとも多いものの、40歳未満では約50万6000人、40代では約77万6000人、50歳から54歳は72万1000人、55歳から59歳は約93万人となっている。つまり、介護をしている人の年齢は幅広いということがいえるだろう。
ところで、団塊の世代が後期高齢者に突入する「2025年問題」まで、残り10年を切った。
厚生労働省の「今後の高齢者人口の見通しについて」では、65歳以上は3657万人(全人口に占める割合は30.3パーセント)、75歳以上は2179万人(同18.1%)と予測されている。この通りだとすれば、わずかあと9年で全人口の3人に1人は65歳以上ということになる。
このデータは、もうひとつの見方もできる。高齢者の子供は、働き盛り真っただ中の世代ということだ。
さらに、企業や経営者にとって突っ込んで考えなければならないのが、介護はそれを行う従業員ひとりの問題だけにとどまらないということだ。同じ部署内で、同時に、従業員の両親と配偶者の両親の介護問題に直面することが起こりうる可能性もある。「そんな大袈裟なことを」と笑い飛ばすほど悠長なことを言っていられなくなる時代が、そこまでやってきているのだ。まさに企業にとって無視することのできない「介護ビッグバン」が、ほどなく訪れることを理解する必要があると考える。
■負の空気感染
従業員の介護リスクは、これだけにとどまらない。
ひとつは、本人はもとより、ほかの社員の仕事へのモチベーション低下も起こりうることだ。
従業員が介護休暇(介護休業)を取り、穴埋めのために、ほかの社員の負担が増えるとする。そうした場合、社員同士の関係性が希薄だったり、ほかの社員に介護経験がなければ、「なぜ介護を理由に仕事をたびたび休むのだろう?」と不満や疑問が次第に募っていくことは十分に考えられる。
こうした感情のすれ違いから、本人が孤立に陥り、職場のモチベーション低下を招き、やがては生産性の低下にも通じるといった“負の空気感染”を巻き起こす。
介護問題を抱える従業員がキーマンだった場合、社内だけの問題で終わらないケースもある。実際、クレームやトラブルの発生にも迅速に対応できなかったことが続いたとして、部下の信頼を失い、組織としての求心力も弱まり、ついには異動を命じられた実例もあるほどだ。
問題で業務に支障をきたしてしまうことが起こったなら、企業としての業務バランスが大きく崩れることは、頭の片隅に置いておきたいものだ。
■採用コスト問題
業務以外にも、雇用や育成にも影響を及ぼすことに注意が必要だ。中小企業の従業員が抜けた穴の大きさは、大企業のそれとは格段に違うことを知っておく必要がある。大企業であっても、育成に時間のかかる技術職や特殊な業務に就いている人の穴埋めは、簡単にはいかないことは容易に想像ができるだろう。
採用コストの問題も深刻だ。介護離職のたびに退職と採用コストが発生する。良い人材を確保するために採用コストは無視できないが、広告費が今後上昇するとの見方もあるなか、介護離職に伴う採用コスト問題は、大きな課題になるに違いない。
そして、企業にとって介護ビッグバンの最大の課題は、抜本的な体制整備が構築できていなければ、今後高齢化が進む日本において、退職・採用を繰り返してしまうことに尽きる。
企業にとっての介護リスクが声高に検証されていないこともあって、「そのうちに考えるつもり」と明かす経営者や人事関係者も少なくない。
だが、従業員の介護対策が後手後手になったばかりに、本来なら失わなくてもいい人材を失うだけでなく、ひいては技術継承や企業文化の喪失につながることも考えられる、逆にいえば、介護に優しい企業は、企業としての新たな付加価値につながるように思えてならない。どうやら、企業にとっての介護対策は、企業の新たな生命線ともいえそうだ。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人介護相続コンシェルジュ代表、保険・介護・医療ジャーナリスト)
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