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シリア・ラムラン近郊の石油精製所(資料写真)。(c)AFP/FABIO BUCCIARELLI〔AFPBB News〕
10ドル?250ドル?どちらもあり得る原油価格 これほど見通しの振れ幅が大きい理由
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46105
2016.02.20 藤 和彦 JBpress
米WTI原油先物市場は、OPECが協調減産に合意するとの期待から上昇した先週の流れを継続し、1バレル=30ドル前後で推移している。
きっかけは、2月11日にUAEのエネルギー相が「OPEC加盟国に減産協力の用意がある」と発言したことだった。これを受ける形で2月14日にナイジェリアの石油資源相は、「世界的な原油相場安について“どのように歯止めをかけるべきなのか決断すべき”とのコンセンサスがOPEC内部で形成されつつある」との認識を示した。
2月16日にはカタールの首都ドーハで、サウジアラビアとロシアの石油相が、カタールやベネズエラという他のOPEC加盟国の石油相も交えて原油市場について協議した。また、ロシア国営石油会社ロスネフチのセチンCEOも、2月10日、原油価格を上昇させるために「主要産油国による日量100万バレルの協調減産」を提案した。
同17日、テヘランでカタール、イラク、ベネズエラと協議を行ったイランの石油相がサウジアラビアとロシアが合意した原油の生産量維持案に支持を表明したことを市場が好感したため、原油価格は1バレル=31ドル台後半まで上昇した。しかし米国の原油在庫が86年ぶりの高水準となったことが判明すると、原油価格は同30ドル台に下落した。
■イランは増産、ロシアも減産しない
中東、ロシアでは協調減産の動きが活発化している。だが、筆者は協調減産の可能性は極めて低いと見ている。
まず大きな理由は、イランの制裁解除後の増産ぶりが明らかになっていることだ。イランは2月15日、経済制裁解除後では初となる欧州向け原油を荷積みした。欧州向けには計400万バレルの輸出を計画している。イランの1月の原油生産量は、日量40万バレル増加の同286万バレルとなった。
イランの石油相は2月10日、「国際原油市場の状況についてサウジアラビアと話し合う用意がある」と述べた。だが、OPECが全体として減産を行う可能性は低いと言わざるを得ない。
ロシアも減産には大きな障害がある。油田が老朽化し、生産された原油に水が混じっているため、生産を停止すればパイプが凍結したり、貯留層に悪影響が及び、生産能力が減少するリスクがあるからだ。さらに減産分を貯蔵しようとしても、同国では設備が不足しているという難点がある。
■シェール企業の大量破綻が金融危機を引き起こす
減産が進まない中で数少ない明るい材料といえるのは、米国のシェール企業の生産がいよいよ減少しそうだという観測である。
大手資源サービス、ベーカー・ヒューズによれば、石油リグ(掘削装置)稼働数は2月12日までの2週間に59基減少し、2015年4月以降で最大の落ち込みを示した。米エネルギー省も、3月のシェールオイルの生産量は9.2万バレル減少し、日量492万バレルに落ち込むとの予測を発表した。
さらにエネルギーコンサルタントのIHSは、「既に60社のシェール企業が破綻を申請した。今後、さらに約150社が破綻する可能性がある」という事態を、「原油価格が底入れしたことを示すシグナル」として楽観的に捉えている。
だが、はたしてそうだろうか。
2月12日付ウオール・ストリート・ジャーナルは「経営難に苦しむ複数のシェール企業が、銀行融資枠を既に使い果たしている」と報じた。もはや目先の運転資金不足を補うことができないということだ。
全米でシェール企業は4000〜5000社あると言われているが、米メデイアCNBCの分析によればシェール企業の3割が1年以内に手元の現金が枯渇する見通しである(米監査法人デロイトも2月16日、シェール企業の約3分の1が年内に破綻に陥る危険性が高いとの見解を示した)。
例えば、中堅シェール企業であるパラゴン・オフショアは、27億ドル相当の債務再編で連邦破産法第11条の適用を申請した(2月13日付ブルームバーグ)。
また、2月9日に米格付け会社S&Pは、シェール企業最大手であるチェサピーク・エナジーの格付けを「持続不可能な債務」を理由に1段階引き下げた。チェサピーク・エナジー側は「流動性の危機に直面している」との観測を否定し、「破産法の適用を申請する計画はない」としているが、株価は40%以上下落した。
S&Pは、エネルギー与信の比率が高いテキサス州やオクラホマ州に本社を置く地方銀行4行についても格下げを行った。シェール企業の経営破綻が今後頻発するようであれば、銀行によるシェール企業向け融資の焦げ付き懸念が現実問題となり、ブームに乗ってシェール企業のジャンク債の購入を膨らませてきた投資家が巨額の損失を被る恐れがある。
シェール企業の大量破綻を契機に信用不安が広がり、米国の資産バブルが崩壊すれば、シェール企業の減産というプラス効果よりも、世界最大の原油需要国である米国の金融危機の発生によるマイナス効果のほうが大きいだろう。
■「原油価格下落の最悪期は終わっていない」
中国の原油需要も心配である。
中国の2015年の原油輸入量は前年比8.8%増の3億3550万トンと堅調な伸びを示していたが、2016年1月の原油輸入量は前年比4.6%減の2669万トンとなった。
中国からの資金流出は今年に入って勢いを増している。大量の不良債権を抱える銀行の破綻が懸念視される中にあって、原油需要のみが増加し続けることはありえない。
世界経済を支える米中両国で金融危機が発生すれば、世界全体の原油需要が減少に転じる可能性が高い。需要面からの価格下押し圧力も要注意である。
2月9日にロンドンで開かれた国際会議「IP Week」(国際石油週間)に集った世界の石油業界関係者の間では、「原油価格下落の最悪期は終わっていない」という重苦しい空気が支配していたという。
中でも前出のロシアのセチン氏は、「原油価格は1バレル=25ドル以下になるだけではなく、同10ドルになる可能性がある」との極めて悲観的な見通しを吐露した。
また、ゴールドマン・サックスは2月11日、「原油価格は今年下期まで1バレル=20〜40ドルのレンジ内で激しく変動し、価格トレンドは見られない。1バレル=20ドルを割り込むこともあり得る」との見方を示している。
■サウジの危機で原油価格が高騰する可能性も
一方、原油業界誌「オイルプライス」は2月12日、「可能性は低いが」との注釈付きで「サウジアラビアとイランとの紛争が激しくなれば、原油価格は1バレル=250ドルにまで上昇する」との見解を示した。
低油価による悪影響が湾岸産油国の雄であるサウジアラビアを直撃しており、財政悪化に苦しむ政府が通貨リヤルを切り下げるとの観測が日増しに高まっている。
サウジアラビアはリヤルをドルにペッグしているが、リヤルの先安観の高まりから、政府はペッグ制を維持するため相当規模のリヤル買いドル売り介入している。それにもかかわらず、先渡し取引の相場が年初に急落、現物との乖離幅は20年ぶりの高水準となっている。
サウジアラビアの外貨準備の規模は中国・日本に次ぐ世界第3位を誇っている(6000億ドル超)。だが中国以上のペースで外貨準備が減少しているため、1986年の逆オイルショック時以来の通貨切り下げを行わざるを得ない状況に追い込まれている。30年前は1ドル=3.65ドルを3.75リヤルに切り下げるだけで済んだが、今回の場合は「リヤルは25%下落する」(仏ソシエテ・ジェネラル)のではないだろうか(S&Pは2月18日サウジアラビアの信用格付けを2段階引き下げた)。
2016年の予算案で公務員数の伸びを抑制したため、若者の雇用状況は悪化しており、そのうえ輸入インフレによる物価高騰を招いたら、サウド家に対する国民の不満は爆発するだろう。
サウジアラビアの北朝鮮ばりの「先軍政治」も気がかりである。英国の国際戦略研究所(IISS)が2月9日発表した報告書によれば、サウジアラビアの昨年の国防費は819億ドルと前年に続いて世界3位となり、GDPに占める割合は12.9%と世界一の軍事大国である。
2015年3月から実施しているイエメンでの軍事行動では、既に375名のサウジアラビア人が死亡した。また、今年2月に入り、シリアの反政府勢力を支援するサウジアラビア政府は、シリアへの地上軍派遣の必要性に言及した。これに対してシリア政府をはじめイランが猛反発している。
2月15日、サウジアラビア軍は、シリアでの過激派組織イスラム国(IS)に対する作戦を強化するため、戦闘機約20機をトルコの空軍基地に派遣した。トルコ軍とともに地上作戦に踏み切ると、イランとの間で小競り合いが発生する可能性が高くなる。紛争が起きれば大産油国からの供給に懸念が生じ、原油価格が1バレル=80ドル以上に高騰する可能性があるだろう。
■原油価格の見通しはますます不透明に
以上で見てきたように、この先の原油価格は「10ドル」と「250ドル」という2つの極端な見通しが混在している。
現在の米国の原油在庫は86年ぶりの高水準に達し供給過剰懸念が続いているが、「価格が底入れした」と考える者と、「さらに下落余地がある」と考える者との大乱戦が起きており、原油先物とオプションの売りポジションと買いポジションの合計が過去最高に増加しているという(2月8日付ブルームバーグ)。
原油市場における供給過剰量は日量200万バレルと言われているが、日量約9500万バレルの生産量と比べると微々たる量である。このことは原油供給の過剰と不足の境界は非常にマージナルなものであることを意味する。
新たなリスクが発生するたびに原油価格の見通しを変更せざるを得ない、不透明な時代に入りつつあるといってよいだろう。
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