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[FINANCIAL TIMES]新興国危機は米バブルから
エマージング・マーケッツ・エディター ジェームズ・キング
2007〜08年の米国の住宅バブル崩壊を描いた映画『マネー・ショート』の面白い点は、見ていると登場人物に忠告したくなってくることだ。バブルがもうすぐはじけることを観客は知っているが、映画の中ではごく一握りの人たちしか予見できない。
ブラジルなど新興国は経済減速に悩む(サンパウロの外貨両替店)=ロイター
私たちは、貧しい住宅購入者の住宅ローンの資金源として利用された複雑な金融商品がひどい代物だったことを知っている。また、バブルは悲惨な結末に終わるが、最終的に米国が事態を切り抜けることも知っているのだ。
人の不幸は見ていて楽しい。だが、新興市場で現在進行しているドラマに、そのような楽しみは見つけられない。「銀行と格付け会社と政府」の幹部らによる陰謀はどうやら存在しないようだし、悪者が当然の報いを受ける見込みもほとんどない。
新興諸国を苦しめる経済崩壊はゆっくりと、だが確実に進んでいく。経済成長の減速と失業率の上昇は何年も前から続き、中南米とアフリカ全体を芯までむしばんでいる。
こうして見ると、08年の米国の危機と現在の新興国が抱える問題は違う。だが、新興国を泥沼に引きずり込もうとしている問題点はどんどん重みを増しており、かつての米国の危機との間に見過ごせないつながりがある。また、現在の世界の経済成長の大半は新興国に負うものであるため、新興市場が落ち込めば欧米先進国にもその影響が及ぶ。
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南アフリカに拠点を置く投資運用会社インベステックのストラテジスト、マイケル・パワー氏は、新興国の潮の満ち引きを決めてきたのは「2つの月」だったと言う。その片方の月が欠けてきたことが、新興国の不調に新たな症状をもたらしている。
一方の月は中国だ。途上国が輸出する資源に対する中国の需要が減退したことで分かる通り、片方の月は沈んだ。だがそれはもう昔の話。今、市場を驚かせているのは、もう一つの月がもたらす干満の変わり目だ。こっちの月を代表するのは、世界の金融に流動性を与える最終的な源である米連邦準備理事会(FRB)である。
中央銀行の中銀と呼ばれる国際決済銀行(BIS)は、過去15年にわたり途上国の成長を後押ししてきた貸し付けの拡大は既に止まり、債務返済に伴う悪循環が始まるかもしれないと指摘する。
潮目が変わったのは15年の7〜9月だ。BISが今年2月に公表した統計でそれを明らかにした。新興国の政府や企業、家計に対するドル建て信用の総額が、債券と銀行融資を合わせて15年6月末の3兆3600億ドルから9月末には3兆3000億ドルへと減少に転じたのだ。
この潮目の反転は、世界経済の再調整という物語の、新たな暗い章の始まりを告げるものだ。ストーリーの第1章は『マネー・ショート』に描かれた米国の住宅バブル崩壊だ。続く金融危機で欧米は歴史的な低金利時代に突入した。そのため米国や日本、そして欧州からは少しでも高い金利を求めて新興市場へと資金が流れ込んでいった。
安くカネが借りられるという誘惑は抗し難いものだ。それゆえに、この資金の流れはまた別の行き過ぎを生んだ。ブラジル、タイ、トルコでは一般世帯が収入以上の支出をするようになった。中国企業もこの流れに乗り、その債務総額は国内総生産(GDP)の160%に達した。企業債務のGDP比がこれほど高い国は世界でも数えるほどだ。
アフリカでは、コモディティー(商品)への中国の需要がなくなった上、一部の国は債務が積み上がり、深刻な事態となっている。この状況は危機へと移行しかねない。
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BISの資料によると、新興国企業の債務レベルは先進国企業を上回る。しかし投資利益率は先進国の水準を割り込んでいる。新興国企業が借り入れをして投資すると、利益率はさらに下がっていくと思われる。中国が好例だ。慢性的な生産能力過剰により生産者価格が大幅に下落した結果、15年の工業利益は縮小した。
これを見た投資家は新興市場の資産を一斉に見切った。国際金融協会(IIF)によると、15年の1年間で新興国から流出した資本は7350億ドルと見積もられ、1998年以来の純流出となった。資本流出は通貨価値の下落を呼び、それがまた投資家の逃避心理をあおる。
BISの調査部門責任者を務めるヒュン・ソン・シン氏は、新興市場のこれらの問題に取り組むには、いくつかの国が構造改革を成し遂げるしかないと指摘する。ただ、国により適切な対応は異なるとも付け加えた。
それができなければ世界はこのまま暗闇に滑り落ちてしまうだろう。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は4日、新興市場に迫る危機が世界経済の成長を脅かしていると警告した。
(11日付)
[日経新聞2月14日朝刊P.15]
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