2016年02月12日(金) 長谷川 幸洋 円高・株安は断じて「アベノミクスの限界」ではない!〜中国の大不況が原因なのに、政権批判に転じるマスコミは破綻している【PHOTO】gettyimages 慰安婦報道で懲りたはずでは? 円高と株安が進行している。日銀がマイナス金利を導入した直後だったので、安倍晋三政権を批判したいマスコミは、ここぞとばかり「アベノミクスの限界」と大合唱した。だが、中国をはじめとする世界経済の先行き不透明感こそが真の原因だ。スタンス優先報道の危うさは「慰安婦問題」で懲りたはずではなかったのか。 たとえば長期金利がマイナス圏に突入し、株価が急落した翌日の朝日新聞は「新政策決定後の円高・株安は、安倍政権の経済政策『アベノミクス』の行き詰まりも示す」と書いた(2月10日付朝刊)。毎日新聞は10日付の社説で「マイナス金利(が)逆に不安を広げている」、東京新聞も同じく「マイナス金利政策が…招いた異常事態」と酷評している。 こうした報道に触発されたように、民主党の細野豪志政調会長は10日の衆院予算委員会で「マイナス金利によって円高・株安になった」と批判した。 こうした主張は正しいか。そもそも株安が進んだのは日本だけではない。米国も欧州も中国も株価は下がっている。日本経済新聞によれば「世界で株価の時価総額は過去最大だった2015年5月末に比べて1600兆円も減少した」(11日付朝刊)という。 この点だけを見ても「株安はアベノミクスが失敗したからだ」という議論が破綻しているのは明白である。上に挙げた各紙は「アベノミクスの失敗で欧米や中国の株価も下がった」とでも言うつもりなのだろうか。まったくありえない。 左派系マスコミは、とにかく理由を見つけては政権批判をしたがる。日銀が新しい政策を始めれば「それはダメ」と批判し、株安が進めば「ほら、みたことか」と嵩にかかって「アベノミクスは破綻した」と唱える。こういう報道を見ていると、朝日の慰安婦報道問題で散々批判された「スタンス優先報道」の病気がいまや経済記事にも伝染したか、と呆れてしまう。 野党政治家は政権批判が仕事だから百歩譲って、それでも良しとしよう。最終的には選挙で国民が審判を下す。 だが、マスコミは政権批判が仕事ではない。まず真実を伝えるのが本来の使命である。真実を伝えようとする結果、政権批判に至るのはまったく健全だが、政権批判の結論が先にあって、肝心の真実究明や客観的分析が後回しになると慰安婦問題のようになる。ここを勘違いしている輩がマスコミ業界を含めて、あまりに多すぎる。 左派系マスコミがダメな根本的理由はここだ。本来、政権に対してニュートラルであるはずの経済記者までが事象を客観的にしっかり分析せず、政権批判を優先しているようでは、ますます「読むところがない」と言わざるをえない。 理解していたのはたったの2紙だけ 円高・株安はなぜ進んだのか。一言で言えば、世界経済が先行き不透明で「安全資産」とみなされた円に投資マネーが集中したからだ。中国のバブル崩壊やそれを一因とした原油安、欧州の金融不安、米国の利上げなどが重なって世界経済の不透明感が強まった。 そんな中で世界の投資マネーが日本円と日本国債に逃げ込んだ。だから円高、長期金利の低下になって、かつ円高が株安を招いたという構図である。日銀のマイナス金利政策は導入直後のマーケットがそうだったように本来、円安・株高につながるが、政策効果を帳消しにするほどグローバルな投資マネーの勢いが強かったのだ。 このあたりをきちんと理解して書いていたのは読売新聞(11日付)やフィナンシャル・タイムズ(10日付)の社説くらいである。 総じて左派系マスコミは日本の財政赤字の大きさを強調して、国債暴落危機を煽る点でも共通している。だが、そもそもそんなに危ない日本国債や日本円に世界の投資マネーが集中した事実をどう理解しているのだろうか。 その分析をすっ飛ばして円高と金利安、株安をアベノミクスの失敗と批判するのは、目に見えた事実を単純に政権批判に結び付けただけで、分析でもなんでもない。床屋政談レベルと同じである。 日本国債が安全資産とみなされているのは、日本に増税余力が残っているからだ。たとえば日本の消費税は8%と世界的には低い水準で、いざとなれば日本は一段の増税をする「のりしろ」がある。だから投資家は「まだ大丈夫」と思っているのだ。 ただし「増税余力がある」という話と実際に増税する必要があるかどうかは、まったく別だ。余力があっても増税なしで景気を回復させ税収を増やせれば、それに越したことはない。のりしろは減るわけではないし、それがあるからこそ円や日本国債が安全資産であり続けるのだ。 以上を指摘したうえで、肝心の問題である「世界経済はなぜ不透明感が高まっているのか」に触れよう。 中国はいま究極の選択を迫られている 根本にある不安材料は中国経済である。私は1月22日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/47495)で触れたように、中国の外貨準備高が急減している点にもっとも注目している。中国の外貨準備は2014年6月の3兆9900億ドルをピークに減り続け、直近の16年1月には3兆2300億ドルにまで落ち込んだ。 外貨準備の減少が何を意味するかといえば、中国の金持ちたち(ほとんどが共産党幹部)が人民元を見限って売り払い、外貨のドルやユーロを買い漁っている事実だ。放置すれば、人民元相場が暴落してしまうので、中国人民銀行がドル売り人民元買い介入で暴落を阻止している。だから外貨準備が急減している。 最近は月1000億ドル減のペースである。1年で1兆2000億ドル減だから、単純計算だと3年弱で外貨準備がゼロになる(!)異常な減り方である。実際には外貨準備が底を突くはるか前に、金融市場で「やがて輸入代金決済の外貨支払いに窮するはずだ」とみなされ、投機筋から人民元の空売り攻勢に遭って通貨危機に陥る。これが古典的な経常収支危機だ。 そうみなされないように、中国人民銀行が必死に防戦しているが、それでも人民元相場がジリジリと下げ続けているのが現状である。 ところが、ドル売り人民元買いで問題が解決するかといえば、解決しない。なぜかといえば、人民元買いは市場から人民元を吸収する金融引き締め政策になってしまうからだ。それでなくても景気が悪いのに中央銀行が人民元を吸収して金融を引き締めてしまえば、景気はますます悪化する。 ようするに、中国は景気悪化を犠牲にして人民元相場を維持するか、それとも人民元相場の下落を放置するか、という究極の選択を迫られている。これは、どちらに転んでもいい結果を生まない。相場下落を放置すれば、やがて通貨危機が迫る。かといって、介入を続ければ景気が悪化するのだ。 「批判ありき」では頭が腐る 問題の根本にあるのは、繰り返すが、いま中国人自身が人民元を猛烈に売り払っている現実である。共産党の幹部たちが息子や娘、愛人たちに加えて外貨を国外に持ち出しているのだ。これは国の将来を見限っている、なによりの証拠ではないか。 中国経済の楽観論者は「中国は財政金融政策の発動余地があるから大丈夫」と主張している。だが、実際には金融緩和どころか、すでに事実上の金融引き締め政策を展開しているのである。それが外貨準備の急減になって表面化している。 これは有名な「国際金融のトリレンマ」で説明できる。 安定した為替相場(固定為替制度)と自由な金融政策、自由な資本移動の3つは同時に成り立たず、どれか1つを犠牲にしなければならないという定理である。中国は自由な資本移動(爆買いでドルを日本に持ち出すのもその1つ)を認める一方、安定した為替を求めて市場介入しているから、結果として金融政策を自由にできず引き締め政策になってしまう。 もしも金融を緩和したいなら、介入をあきらめて人民元の下落を放置しなければならない。それが嫌なら別の選択肢として自由な資本移動を認めず(爆買いを禁止)、資本規制に踏み切らざるをえない。 だが、そうなると国際通貨基金(IMF)が先に認めた人民元のSDR(特別引出権)通貨入りプロセスが暗礁に乗り上げてしまう。資本規制はIMFが中国に求めた人民元改革とは反対の方向であるからだ。IMFは自由な資本移動と変動相場を認める(安定した為替相場を犠牲にする)代わりに、自由な金融政策を認める立場だ。 いずれにせよ、中国経済の苦境は明白である。破綻しているのはアベノミクスではない。左派系マスコミの「批判ありき報道」に惑わされていては、あなたの頭が濁るだけだ。 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47855 とれんど捕物帳 自律反発も期待したいが、来週は中国勢が戻ってくる 掲載日時:2016/02/13 (土) 09:20 配信日時:2016/02/13 (土) 09:10
【自律反発も期待したいが、来週は中国勢が戻ってくる】 週末にはようやく一服したものの、今週も市場の混乱が続いている。銀行の信用不安なども浮上しており、きな臭さが強まっている。 今週の最注目イベントであったイエレンFRB議長の議会証言が上下院と2日間に渡って行われたが、かなり素直に述べていた印象だ。「ドル高は予想されたが、その度合いは想定外だった。金融市場の動向がどのように経済に影響するか再評価。原油の下落は想定外」などと述べている。 そして、個人的には驚きだったのが中国に直接言及していたこと。「中国の経済見通しや為替政策をめぐる不透明感により世界の成長に対する懸念が増幅され、原油など商品の直近の価格下落につながった」と指摘している。 予想通り慎重姿勢は滲ませたものの、さすがに利上げの旗は降ろしてはいない。ここで降ろすことになると、昨年末に実施した利上げが間違いだったと認めることになる。よほどでない限りそれはないだろう。また、週末に発表になっていた米小売売上高の底堅さからすれば、いまのところはその必要もない。 ただ、今週の議長の証言からすれば、3月利上げの可能性はほぼ無くなったものと見られる。3月FOMCは市場の混乱、海外情勢の米経済への影響など、事態を検証する会合になるのではと思われる。 市場は利下げの可能性を織り込む動きまで見られていたが、現時点ではそれは行き過ぎと思われる。 個人的な見解として、現時点での次の利上げ確率は3月が10%、6月以降を90%と、3月の確率を前回(25%)から更に引き下げたい。 ドル円は瞬間的ではあるが、110円台を一時付けている。心理的節目で強いサポートとして意識された115円を割り込んだことで、一気に投げが出たようだ。ファンド勢の円ロングも加わった格好だろう。 円安が最大の拠りどころだった日本株も見切り売りが強まり、週末の日経平均は1万5千円を割り込んでいる。この動きに日本の当局も慌てたようだ。 市場では日本政府の介入を警戒する声も出ている。ただ、急激に下落したとは言え、ドル円はまだ3桁だ。現水準での介入は海外の目を考えてもあまりスマートとは言い難いだろう。ただ、最近は何をするかわからないので、来週以降も注意は必要と思われる。 先週も言及したが、アベノミクスの最大の原動力はドル高で、日銀はあくまでその流れに乗っただけと考えている。ドル高の流れが巻き戻されるようであれば、日本単独ではなかなか対処は難しいであろう。 さて来週だが、週末にはリスク回避も一服していた。さすがにやり過ぎとの印象は否めない。リバウンドを期待したいところであるが、材料はあくまで過熱感だけであり、自律反発の域は出ないであろう。 週末の動きで、一部からはセリングクライマックスを指摘する声も早速出ていたようだが、あまり楽観視しないほうが良いと思われる。 OPECの協調減産でも決まれば、よいきっかけとなるのかもしれないが、こちらもまだまだ未知数だ。 イベントはけっこう盛りだくさんで、マイナス成長が予想されている日本GDP速報値や、FOMC議事録などがある。 ただ、最大のイベントリスクは中国勢が春節のから戻ってくることだろう。何も無いことが最大の好材料だったのだが、来週は貿易収支など中国の指標もいくつか予定されている。今週の市場の動きを受けて、中国市場がどう反応するか要警戒ではある。 想定レンジだが、ドル円は自律反発も期待したいが、あくまで自律反発の域は抜けないと見ている。ちょうど2月に入ってからの急落のフィボナッチ38.2%戻しの水準が115.00付近にきており、この水準の上値抵抗は強まっているであろう。下値サポートは今週の安値付近の111.00を想定。レンジとしては111.00〜115.00と、申し訳ないが少し広めに想定したい。 一方、ユーロドルは利益確定売りも出そうだが、200日線の1.1050水準は強いサポートとなっているものと見る。想定レンジは先週と変わらずだが、1.1050〜1.1350を想定したい。 (Klugシニアアナリスト 野沢卓美) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 筆者の都合により、来週の配信はお休みします。次回は2月27日(土)の午前を予定しております。ご了承ください。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ()は前週 ◆ドル円(USD/JPY) 中期 中立から下へトレンド変化 短期 ↓↓↓(↓) ◆ユーロ円(EUR/JPY) 中期 上から中立へトレンド変化 短期 ↓(↑↑↑) ◆ポンド円(GBP/JPY) 中期 下げトレンド継続 短期 →(→) ◆豪ドル円(AUD/JPY) 中期 中立継続 短期 ↓↓(→) ◆ユーロドル(EUR/USD) 中期 上げトレンド継続 短期 ↑↑(↑↑) ◆ポンドドル(GBP/USD) 中期 下から中立へトレンド変化 短期 ↑↑(↑↑) 【概要】 幾つかのシグナルを合成し、各通貨ペアの中期と短期のトレンドを示しています。中期は先週末からのトレンドの変化を言葉で説明。短期は矢印でトレンドを表記、矢印の本数は強さを示します。強ければ最大3本の矢印が表示されます。 http://www.gci-klug.jp/fxnews/detail.php?id=298806
|