ドイツ銀行、手元資金潤沢も自己資本に懸念 ドイツ銀行のジョン・クライアンCEOは増資の必要はないと話す PHOTO: REUTERS By PAUL J. DAVIES 2016 年 2 月 10 日 14:16 JST ドイツ銀行を見れば、欧州の銀行を苦しめているものが何かほぼ分かる。 収益性の改善には時間がかかるため、ドイツ銀行が資本基盤を強化するのは極めて難しい。一方で同行は2019年までに自己資本比率を引き上げる必要がある。 株式・債券投資家は、微妙なバランスの上に立つ同行の計画を頓挫させるようなことが起こり配当金や金利が支払われなくなることを懸念している。 ドイツ銀行の株価は年初来で40%近く下落している。株価純資産倍率(PBR)は0.3倍に届かず、身動きが取れなくなっているように見える。危惧されるのは、株価が回復し次第、同行が新たな資金調達に乗り出すことだ。 ジョン・クライアン最高経営責任者(CEO)は、増資の必要はないと述べている。しかしその本当の意味は、同行の戦略を支えるための増資はこれ以上必要ないということだ。問題は、訴訟や罰金、再編、デフォルト(債務不履行)などによる予期せぬ損失で資本が必要になる、または少なくとも配当金の支払いや一部の債券の利払いを中止する可能性が高いことだ。 ドイツ銀行の大半の劣後債(「その他ティア1」と呼ばれる資本)の保有者が株式保有者と同じくらい気をもんでいるのはそのためだ。そこで、ドイツ銀行は8日に同行の利払い能力に関する声明を発表した。 同行は、今年と来年の既発債の3億5000万ユーロ(約450億円)の利払いに充てる資金は十二分に確保できるとの見通しを示した。また、今年の利益と予想される資産売却の効果を除き、17年に手元資金はこの利払い額の7.5倍以上になるはずだとした。ドイツ銀行は今後も劣後債を発行する必要があるため、これは重要だ。 公平を期すために言うと、ドイツ銀行は多くの再編費用を前倒しで計上しており、15年は10億ユーロを計上した。さらに、訴訟費用として約80億ユーロを想定している。うち55億ユーロは引当金、22億ユーロは見込み額だ。 巨額ではあるが、まだ足りないかもしれない。例えば、ロシアでのマネーロンダリング(資金洗浄)調査に関連する問題が費用を大きく押し上げる恐れがある。 このほかドイツ銀行は、向こう2?3年のうちに導入される可能性のある「カウンターシクリカル(景気循環の影響を抑える)資本バッファー」を考慮に入れていない。 規制当局はドイツ銀行に対し、普通株式等ティア1比率を年内に10.75%、19年初めまでに12.25%に引き上げることを義務付けている。これにはカウンターシクリカル資本バッファーは含まれない。同行は19年初めまでに普通株式等ティア1比率を12.5%以上に引き上げる計画だ。 何年も投資家への還元を他行より抑えてきたのだから増資は避けたいというクライアン氏の考えは正しいかもしれない。だが実際はごみのような資産を減らす必要がある。 しかし、自己資本比率とリターン向上への道は簡単ではなさそうだ。途中で普通株式等ティア1比率の要件を満たすことができなければ、配当金や劣後債の利払いに回せる資金が減ることになる。 この綱渡り的な行動は今後も投資家をはらはらさせるだろう。 関連記事 欧州銀行株、なぜ下がる ドイツ銀行、金融危機後初の通期赤字 ドイツ銀行、2年間で3万5000人削減へ 2016年 02月 10日 11:48 JST 関連トピックス: トップニュース コラム:問題児に転落したドイツ銀のハイブリッド債 Neil Unmack [ロンドン 9日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ドイツ銀行(DBKGn.DE)の利払いをめぐる騒ぎを機に、金融規制の看板娘だったはずの新型ハイブリッド債が、一転して問題児に姿を変えようとしている。 ドイツ銀は8日、「CoCo債(偶発転換社債)」の一種であるAT1債(その他Tier1債)の利払いが遅れるという懸念の火消しに努めた。同行がこうしたハイブリッド債の利払いを中止したとしても、本来なら一大事ではないはずだ。同行は昨年秋、普通株の配当支払いを2年間中止すると発表しているし、AT1債はそもそも、同行が健全性を保ちながら損失を吸収するために設計されたものだ。2008年に世を騒がせたようなハイブリット証券との違いはここにある。ところが、新型ハイブリッド債の損失吸収機能が発動(トリガー)される可能性があると知って、市場のボラティリティは抑えられるどころか、かえって高まっているのだ。 銀行株は経済成長への懸念を背景に下落し続けてきた。その波がついに、AT1債にまで及び始めた格好だ。ドイツ銀は収益率が低く、資本が比較的薄い上、ドイツのAT1債会計の特殊性がもたらす不透明感も加わり、とりわけ売られやすい状態にある。 ドイツ銀の永久債(AT1債)は表面利率が6%だ。1月初め、同債の予想償還期限は2022年で、利回りは7%前後だった。しかし株価が下がると、投資家はAT1債に株式並みの利回りを要求するようになり、価格は下がった。利回りが上がると、ドイツ銀が2022年にこの債券を償還(コール)しない可能性が高まるので、予想償還期限は伸び、投資家の損失は大きくなった。そして最後に利払い停止の懸念が再燃し、短期的なキャッシュフローが減っているのではないかとの懸念が広がった。最初は比較的短期の債券であるかに見えた証券が、長期のゼロクーポン商品に変化する恐れが出てきたわけだ。年初に額面の93%だった価格は、8日には72%まで下がった。 規制当局、投資家の双方にとって問題なのは、こうした一切合財が無限ループを生み出していることだ。AT1債の価格が下がったとき、投資家は売る先がほとんど見つからない。銀行は、仲間の銀行が発行した低落した債券のマーケットメークなど行いたくないし、ハイブリッド債の大口の買い手であるアジアのプライベートバンクは、8日は春節で休みに入っていた。投資家は仕方なくクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を取引した。この結果ドイツ銀のシニアCDSスプレッドは270ベーシスポイント(bp)超と、ユーロ圏債務危機以来の水準に上昇した。とはいえ、ドイツ銀が破綻する可能性はまず考えられない。同行の有形資産の簿価は530億ユーロと、2011年に比べて40%も増えている。 AT1債の死のスパイラルは、現在の市場の激動に鑑みれば小さな構成要素に過ぎない。しかしこの一件は、株式を債券であるかのように装うことのリスクを浮き彫りにした。規制当局は、新顔のハイブリッド証券が危機前のそれよりも損失吸収に役立つと期待した。確かに証券自体の損失吸収能力は高まったが、市場はそうではない。 ●背景となるニュース *ドイツ銀行は8日、2017年にAT1債の利払い43億ユーロを実施できるだけの資金を備えていると発表した。表面利率6%の永久債であるAT1債は8日、額面の72%まで下落した。年初の価格は93%だった。 *ドイツ銀の期間10年のCDSスプレッドは8日、277bpと、2011年11月以来の高水準に達した。1月13日にはスプレッドが128bpだった。 *筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 http://jp.reuters.com/article/column-deutsche-bank-hybrids-idJPKCN0VJ04M
|