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マイナス金利政策の落とし穴 欧州で珍事続発(女性セブン)
http://www.asyura2.com/16/hasan105/msg/336.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 2 月 07 日 17:41:20: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

マイナス金利政策の落とし穴 欧州で珍事続発
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160207-00000016-pseven-bus_all
女性セブン2016年2月18日


 日本銀行が1月29日、初めて「マイナス金利」導入を決定。2月16日からマイナス0.1%の金利が適用されることになった。ちなみに、昨年までに、EUの中央銀行(ECB)やスイス、デンマーク、スウェーデンでは導入されている。

 マイナス金利が導入されると、住宅ローンの金利が下がる。これは、家やマンションの購入を検討している人にとってはチャンス到来といえるだろう。今、住宅ローンを借りている人も、借り換えをして安い金利に切り替える絶好の機会だ。

 ニッセイ基礎研究所シニアエコノミストの上野剛志さんはこう語る。

「マイナス金利導入によって実際、住宅ローン金利は下がり始めています。三菱東京UFJ銀行はこの2月からの金利を年1.05%(10年固定型・最優遇金利)に引き下げました。これは過去最低の金利です」

 では、そのまま金利が下がり続けたらどうなるのか。デンマークでは一部の住宅ローンがマイナス金利になり、「借りたらお金がもらえる」という信じられないような状況が現実に起きている。

「デンマークの例は特殊な条件下であって、実際に日本で住宅ローンのマイナス金利が起きる可能性は極めて低い。銀行は損をするだけなので、それならば貸し出さないほうが得だからです」(上野さん)

 ところが、同様にマイナス金利を導入しているスイスでは、住宅ローン金利が逆に上昇している。中原さんは「マイナス金利の影響で銀行は貸出の金利を下げざるを得なくなり、収益が悪化しました。その穴埋めのために住宅ローンの金利を上げた」と説明する。

 さらにヨーロッパではATMなどの手数料を引き上げる動きもある。エコノミストの中原圭介さんはこう予測する。

「日本でもマイナス金利が長期化すれば、銀行がなんとかお金を稼ごうと、ATM手数料や振込手数料を上げる可能性は高い」

 さらに、先んじて導入されたヨーロッパでは気になる状況が起こっているという。

「マイナス金利を導入したヨーロッパ諸国では年金の運用がまともにできなくなり、スイスでは“将来、年金が支給されるかどうか”という事態に陥っています」(中原さん)

 日本の年金は、安定的な投資先である日本国債などで運用されてきた。だが、マイナス金利によって国債の金利が低くなれば、予定していた運用益が上がらなくなる。

「切羽詰まってリスクのある株式などに投資するしかなくなりますが、株価が暴落すれば、運用益どころか大きな損が出てしまう」(中原さん)

 影響を受けるのは年金だけではない。同様に日本国債などを中心に運用されてきた貯蓄性の高い生命保険や、年金の足しにと加入していた終身保険、学資保険などの運用も悪化し、「当然、利率は下がることになる」(中原さん)。

 マイナス金利政策は、私たちの暮らしに、マイナスの影響を与えるかもしれないことを知っておこう。

 

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コメント
 
1. 2016年2月07日 19:22:11 : D1umP3V5Sj : pfmlhCufWew[5]
もうすでに、年金は大赤字。

アベはトータルでプラスでいいじゃないかと国会答弁しているが、

GPIFに株を交わした張本人が盗人猛々しい。

リスクのある内外株式で50%、更にジャンク債で運用。

アベやクロダはそんなポートフォリオで運用しているのだろうか?


2. ダイビング[9] g1@DQ4Nyg5ODTw 2016年2月07日 20:26:32 : GLUiH1o95U : z_48yBWfvSI[13]

> アベやクロダはそんなポートフォリオで運用しているのだろうか?

アベやクロダのスイスの口座には外資からの論功行賞で着々と入金して
ますわ。


3. 2016年2月07日 20:33:20 : 19XYXXzg4k : f7LxKR8FKhw[52]
ATM手数料を取ったり増やすと言うのならATM使わずに僅かの人達が直接銀行の窓口に行って出し入れすればいい→銀行が音を上げる。
窓口でも手数料を取るというなら銀行を解約すれば良い、色々な支払いは直接集金に来いと言えばいい。

4. 2016年2月07日 23:41:58 : jXbiWWJBCA : zikAgAsyVVk[227]
Vol.350:『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む>

    テーマ:政府・日銀のリフレ政策の経過と方向
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
     HP: http://www.cool-knowledge.com/
無料版の登録/解除: http://www.mag2.com/m/0000048497.html
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     感想/連絡:yoshida@cool-knowledge.com
           Systems Research Ltd.  吉田繁治

おはようございます。先週の増刊号では、<ついにマイナス金利に
踏み込んだ日銀>の論考を送りました。結論は、経済への大きなプ
ラス効果は生まないということでした。

日銀が、当座預金の増加分を0.1%とは言え、マイナスの金利にし
た目的は、「経済を上向かせ、賃金が上がり物価も上がる好循環に
もってゆくこと」です。(黒田日銀総裁の国会答弁)

1月29日の、マイナス金利の発表直後から、
・円が〔$1=117円付近〕から121円に向かって下がり(-3.4%)、
・円安になると上がる日経平均は、1万6500円付近から1万79000円
(+8.5%)になりました。

マイナス金利の発表直後は、金利が下がれば、他の条件が同じなら、
通貨は下がり、株は上がるという当然の反応だったのです。

(注)外為と株の取引市場では、超高速の自動プログラムで取引を
するHFT(High Frequency Trading)の売買額が、50%から60%
を占めています。HFTでは、日本株に対しては、「円安→株価先物
買い」というアルゴリズム(算法)を組み込んでいるものが多い。
このためドルに対して1円の円安につき、300円から500円くらいの
幅で、日経平均(225種:先物)が上がりました。円の下落が先で、
下がった円につれて、株価が動きます。以上から、日経平均の予測
に当たっては、「ドル/円」の予測が欠かせません。

▼マイナス金利後の、円と株価の奇妙な動きの理由

【利下げ効果とは逆に、円高になり、株価は下がった】
ところが、その後は、マイナス金利の効果とは逆の動きです。

・〔$1=116.8円(2月7日:午前9時)〕に向かって円高になり、
・同時に日経平均も、1万6542円に下がっています。
(注)日経平均は、わが国の代表的な企業225社の単純平均の指数
です。現在の日経225は、もっとも期近(3月)の先物価格です。

マイマス金利の効果は、1週間で消えてしまったかに見えるのです。

日経平均の下落には、2016年3月期の企業純益がかねての予想(前
年比12%増加)より低い5%増という、利益の減額予想が混じって
います。円高と純益の減少予想は、株価を下げる要素です。

【奇妙な動きは、「織り込み」という現象から生じる】
それにしても、金利が下がれば、普通なら下がると予想できる円が、
逆に、上がるのは変です。

ここには、外為市場の売買では、日米の金利差の3か月くらい先の
予測を「織り込む」ことからくるものがあります。数か月先を予想
して、今日の取引に織り込むという行動があるため、「円の利下げ
が円高」という逆の動きになっているのです。

FX(外国為替証拠金取引)をしている方は、注意が必要です。株や
外為は、「数か月先の予想を予想する」ことで市場の価格が作られ
ています。

事実を言えば、米国FRBは、12月16日に、0%〜0.25%だったFF金利
を、0.25%〜0.50%のレンジに利上げしました。FF金利は、米国の
短期金利です。

【フォワード・ガイダンスという将来予想】
実はこの時に、2016年には、0.25%ずつ4回の利上げをし、16年末
のFF金利を1.25%にまで上げるという、暗黙の「フォワード・ガイ
ダンス」があったのです。

フォワード・ガイダンスとは、中央銀行が先行きの金融政策を示唆
することによって、金利を誘導することです。

【FRBの利上げ前の2015年10月から、
ドル高(=円安)が始まっていた】
近い将来を予測する外為市場では、12月にFRBが0.25%の利上げを
するということがほぼ確定していた15年の10月から、「ドルの1%
の利上げを予想し、ドルの売買に織り込む」という行動をしていた
のです。

このため米ドルは、利上げがされていない2015年の10月から、〔$
1=120円〕から〔$1=123円〕付近にまで、あらかじめ上げていた
のです。

【利上げがあったときから、ドルは下がり円高傾向になった】
2016年の利上げ1%を織り込んですでに上がっていたドルは、実際
に利上げになった12月からは、逆に下げる方向だったのです。

この、反対の動きの理由は、米国の景気が15年10月や11月での想定
より悪いため、次に予想されていた2016年3月のドルの利上げ(1回
分は0.25%)がないだろうという見通しに変わったからです。

10月から11月のドル高に織り込まれていた年4回(0.25%×4回=1
%)の利上げ予想が、米国と世界の景気の悪化から後退したため、
ドルの売買では、上がったドルの金利が下がったかのように、ドル
を下げる動き(ドル売り)になったのです。これは、ドルについて
の2016年の、外為市場での「予想金利」が下がったからです。

【2016年は円高傾向;理由は、わが国の経常収支の黒字の増加】
2016年は、円高が予想されると予想しています。理由は、日本の経
常収支の黒字の増加傾向です。(注)経常収支=貿易収支+所得収

わが国の経常収支は、2011年は$1298億(15.5兆円)の黒字でした
が、2013年は円安による貿易赤字の増加のため、$407億(4.8兆
円)、2014年は$244億(2.9兆円)に減っていました。

この経常利益の急減が、2013年、2014年の円安の基本の理由でもあ
ったのです。

原因は、2013年からの円安にもかかわらず、輸出数量の増加がなく、
一方で円安のため輸入資源と商品の価格が上がり、貿易赤字が増え
たからです。原油と資源は一定量が必要なため価格が上がっても輸
入は減りません。円安でも輸出数量が増えないのは、市場の誤算で
した。

しかし2015年には、経常収支の黒字が$1243億(14.9兆円)に増え
ています。原因は、原油と資源の国際価格の下落です

2014年6月まで、1バーレルが約$100だった原油は、2015年1月には
$60に下がり、16年1月には$30付近と、さらに半分に下がってい
ます。原油以外の資源も、中国と新興国の需要減少から下がってい
ます。

経常収支の黒字は、通貨の基本部分での高さをきめるものです。
2016年も、原油と資源価格の低さが予想されるため、わが国の経常
収支では、15兆円レベルの黒字が予想されます。

このため2016年は円高傾向になると見ています。(注)経常収支の
黒字は、外為市場では「ドル売り/円買い」を示し、円を上げる要
素です。

日銀の1月29日からのマイナス金利は、2016年の円高傾向(=ドル
安傾向)を、3日間だけは円安にブレさせたものの、1週間でその効
果が剥(は)がれたということでしょう。

【確認】
確認したいことは、現代の外為市場と株式市場における「3か月か
ら6か月先の状況の、織り込み」という予想現象です。株価では、
3か月から6か月先の企業利益と経済環境(ファンダメンタルズ)の
予想を織り込んだものが、今日の株価になっています。

そして実際に3か月後、6か月後が来ると、今度は、逃げ水のように
次の3か月後や6か月後の企業利益と経済環境を織り込むのです。

マイナス金利に関連して円と株価の動きを書きました。

本稿のテーマは、<『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む>で
す。1月16日に出版されたものです。ノーベル賞経済学者のポー
ル・クルーグマンと、内閣官房参与の浜田宏一氏の対論です。

クルーグマンは『流動性の罠』の論を書き、浜田宏一氏は内閣府の
参与として、政権に異次元緩和というリフレ策を提唱しています。
両氏は、2013年4月からの異次元緩和の仕掛け人です。リフレ策と
はインフレにもって行く政策セットを言います。

異次元緩和は、日本経済と財政の将来を大きく決めるものでもある
ので、3年間、重大な関心を持ち続けています。両氏のリフレに関
する本は、出版されたほとんどを読みました。

この本は、クルーグマンと浜田氏の対論を、翻訳家の大野和基氏が
訳してまとめたというものです。口語調になっていますが、裏には、
経済理論があります。読んでいて、両氏の基本認識に誤りがあるの
ではないかと感じたことが、本稿を書く動機になったのです。<>
内は引用です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<Vol.350:『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む>
        2016年2月7日:無料版

【目次】

1.「インフレ目標」の前提になった消費論
2.インフレターゲットの本来の意味について
3.誤りを認めて、政策を修正することが必要

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■1.「インフレ目標」の前提になった消費論

<浜田宏一氏:インフレ目標が必要なのは、人々におカネにしがみ
つくのをやめさせて、失業を解消したり所得を増加させたりして、
日本社会をよりよいものにするためです。本来の「目標」はそこで
あって、インフレそのものが目標なのではありません。いわば、お
だやかなインフレは「手段」です(同書 P80)>

【解釈】
インフレ目標が必要なのは、人々がお金にしがみついて使わないか
らだと浜田氏は言っています。「お金にしがみつく」とは、所得の
うち貯蓄にまわすものが多いということでしょう。

マクロ経済では、「所得=消費+貯蓄」です。貯蓄が大きいと、消
費が少なくなります。50万円の月収の人が15万円(30%)を貯蓄す
れば、消費は35万円です。消費は企業の売上です。世帯全体の、貯
蓄が増えて消費が少なくなれば、260万企業の売上は減ります。作
られた商品が売れない。つまり不況になります。

浜田氏は、幾度も、貯蓄が多いのは、人々が物価は先になれば下が
ると考えているからだと言っています。今年は1000円ですが、来年
は950円に下がると思えば、人々は消費を先延ばしにするでしょう。
つまり消費は減って、貯蓄が増えます。

貯蓄が増えることを、浜田氏は「お金にしがみつく」と表現してい
ます。その上でもっとお金を使ってもらうためには、インフ目標が
必要だと論じます。ここが「リフレ必要論」の根幹です。リフレは、
金融政策でインフレを起こすことを言います。

【貯蓄率についての誤り】
ここに、浜田氏の認識の誤りがあります。わが国の5300万の世帯は、
1990年代までのようには貯蓄していないからです。事実で言います。
原データから抽出し、3年毎に示します。

(内閣府:国民経済計算の8ページと9ページ)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h25/sankou/pdf/point20141225.pdf

     可処分所得  消費  貯蓄  貯蓄率
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1995年   300兆円 274兆円 29.2兆円  9.9%
1998年   307兆円 283兆円 27.0兆円  8.8%
2001年   292兆円 283兆円 10.4兆円  3.6%
2004年   288兆円 283兆円  5.0兆円  1.7%
2007年   290兆円 289兆円  1.0兆円  0.3%
2010年   278兆円 278兆円 -1.9兆円 -0.7%
2013年   287兆円 289兆円 -3.7兆円 -1.2%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(注)可処分所得は、総所得から税金と社会保険料を引いたもの。
年間2兆円くらいの年金準備金の減少は省略しているため、この表
だけでは、その分合計が一致していません。

1990年代まで、わが国の世帯には、平均で可処分所得の8%から10
%の貯蓄がありました。しかし、退職者が増えた2000年代から、貯
蓄率は急減して、2010年にはマイナスになっています。65歳以上の
退職世帯は、厚生年金(世帯平均20万円/月)では足りないため、
年間で60万円の預金を崩すことも、この要因のひとつです。

主要国の比較でも、わが国世帯の貯蓄率の低さは、イタリアを下回
り、先進国のなかで最低である0%付近です。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4520.html

以上の事実は、世帯は所得以上に消費していることを示す以外では
ないでしょう。お金にしがみつくのではなく、所得以上に使ってい
るのです。1995年の可処分所得だった300兆円が、2013年には289兆
円(1世帯あたり545万円)に減っているため、貯蓄の余裕がなくな
っているのです。

以上の事実を無視し、あるいは知らず、浜田氏は「人々は、消費を
せず、おカネにしがみついている」と断じています。重大な、事実
認識の誤りがここにあります。

【所得が上がらない中で物価が上がると、スタグフレーション】
世帯が可処分所得以上にお金を使っていて、貯蓄ができなくなって
いるとき、店頭の物価が上がればどうなるか。貯蓄を崩さない限り、
買うことができる商品の量が減るでしょう。

物価が上がる中で消費が減るのは、「スタグフレーション」です。
わが国のように、所得が増えていないとき、あるいは世帯の総所得
が上表のように減っている中で物価が上がれば、需要が増える好況
どころか、消費は減って不況になります。

【家計消費の減少】
事実、2014年4月に消費税が上がった後の家計消費は、減っていま
す。最も近い2015年12月の、5300万世帯の家計消費は、物価上昇を
引いた後の実質(=買った商品の数量)で、4.4%も減っています。

異次元緩和開始後、2年9か月が過ぎましたが、ボーナスを含む12月
の世帯所得は、名目で2.7%、物価上昇を引いた実質で2.9%減って
います。以上が「現実」です。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.htm

【家計貯蓄率に関する若干専門的なこと】
世帯の消費には、帰属家賃が含まれています。持ち家の世帯も、借
家の世帯と同じように家賃を払ったと仮想したものです。2014年度
で28兆円です(消費額のうち10%)。実際には家賃としては払われ
ていないので「貯蓄」であると主張する人がいます。

しかし持ち家世帯の多くは、住宅ローンを支払っています。住宅
ローンの支払いは負債の返済なので、国民経済計算では貯蓄勘定で
す。実際の消費支出ではありませんが、ローン支払いが貯蓄なので、
多くが相殺されます。帰属家賃28兆円が含まれているから、実際の
貯蓄はもっと多いという論は、成立しません。

【結論】
「物価が下がるから、人々がお金にしがみつき、消費を増やさな
い」という浜田氏とリフレ派(クルーグマンを含む)の立論は、
2000年代になって世帯所得が減り、貯蓄率が大きく減っている日本
では、誤りです。(注)リフレ派のエコノミストがこの誤りを無視
したのは、不思議です。

誤った事実認識が前提のリフレ論は、結論まで間違えてしまってい
るのです。

クルーグマンは専門的に、物価が下がっている日本では、消費や投
資より、現金と預金を好む「流動性選好」が生じていると言ってい
ます。お金を貯め込むことを専門語で言ったのが「流動性選好」で
す。

これをもとに、現金を貯め込んで使わないという『流動性の罠』を
説き、日本に、円を増刷してインフレを起こす異次元緩和を奨めた
のがクルーグマンです。インフレになれば、人々はお金を多く使う
という前提からです。消費が増えれば好況になる。好況になれば、
企業の利益が増えて賃金も上がる、賃金が上がれば消費が増える好
循環になるというのが、日常語で言ったリフレ理論です。

ところが上表が示すように、日本の世帯では、「流動性選好」は生
じていません。逆に、所得が減ったため消費を増やすことができな
くなっているのです。所得が減ったため、消費も貯蓄も増えないと
いう状況が生じているのです。

(注)260万社の企業合計では、中小企業ではなく、大手企業を中
心に、設備投資が減って貯蓄を増やす流動性選好が生じていますが、
世帯では生じていません。

日本のデフレ対策は、日銀がマネー発行量を増やすことでなく、
「賃金を年5%上げる」ということを、リフレ策にしなければなら
なかったのです。

【賃金上昇奨励法の奨め】
無謀なことを承知で言いますが、世界に類のない賃金上昇奨励法を
制定することで、これが可能になります。一定率以上の賃金を上げ
た企業には、大きく減税をするのです。

1980年代までの賃金は、年齢加算を含むと、5%〜7%は上がってい
ました。企業では、毎年5%程度の賃金を上げることは、事実上、
義務化していたのです。今からでも、遅くはない。賃金上昇の奨励
政策を実行することです。ただし企業では、生産性上昇が年3%は
必要です。

企業が賃金を上げれば、売る商品の価格を上げねばならない。商品、
ホテル代、理容費、医療費、交通費、通信費の価格が3%上がって
も、1年に5%賃金が増えれば、消費(=企業の売上)は増えるから
です。

21世紀になって、わが国世帯の、平均所得が減っていることを見る
につけて、忍びなくなります。ほぼ20%の世帯は所得が増えていま
すが。80%の世帯は減っているのです。お金にしがみつくのではな
く、しがみつく所得が減っているのです。

■2.インフレターゲットの本来の意味について

<浜田宏一氏:アベノミクスが目指す2%のインフレ・・・それは
「物価を毎年、常に2%ずつ上げていく」ということです。しかし
インフレはモノの値段が上がるということですから、「物価高=
悪」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。
しかし物価が上がるということは、企業が儲かるということです。
すると、設備投資や雇用も進みます。もちろん、給料も上がります。
インフレとはこのような経済全体の上昇を指しているわけです。
(同書P83)>

インフレには、浜田氏が、ここでいう、所得上昇と設備投資を生む
好循環のものだけではなく、悪循環を生むもの(後述の2種)があ
ります。よいインフレは1種で、あとの2種は悪いインフレです。確
認して、整理します。

▼1種目:よいインフレ:デマンドプル型のインフレ

これが、浜田氏がいう上記のインフレです。所得の増加期待がある
社会で、物価が上がると、人々は消費を増やす。消費は企業の売上
だから、売上が増えれば、利益が増える。

利益が増えれば、企業は賃金を上げて、雇用も増やすだろう。将来
のための設備投資も行い、経済は成長する。これが上記です。デマ
ンドプル型のインフレです。つまり所得が増え、需要が増えること
によるインフレです。

▼2種目:悪いインフレ:コストプッシュ型のインフレ

これが、異次元緩和後の日本で起こったことです。安倍内閣になり、
日銀が円を増発するという予想から、2012年10月から$1=80円が、
まず100円に、次に120円に向かって下がりました。増発される通貨
は、通貨価値が下がり、売られます。50%もの円安です。

この円安と、2014年6月までは、1バーレル$100だった原油価格と、
輸入の金属資源、穀物やコーヒー、砂糖、油脂など食料の原材料を
含むコモデティの価格のため、輸入物価が50%も上がったのです。
国際コモデティは、米ドルで取引されるからです。

輸入物価の上昇は、資源を輸入に頼るわが国工業の、商品原価を上
げ、卸価格も上がって、物価は上昇に転じています(2013年から)。
これはエネルギーと原材料の価格が上がることによる、コストプッ
シュ型のインフレです。需要が増えることによるデマンドプル型と
はまるで異なります。

コストプッシュ型のインフレでは、製造原価が上がるので、その分
商品価格が上がっても、企業利益の増加がありません。利益の増加
が見込めないと、賃金は上がりません。雇用も増えない。設備投資
も増えません。

これが、2013年、14年とアベノミクスで上がった物価の正体でした。
政府と日銀は、コストプッシュ型の物価上昇を「デフレ脱却」と言
っていますが、これは、実は「悪いインフレ」です。

浜田氏は、インフレを区分せず、「物価が上がることは企業が儲か
る」ことだと単純化し、異次元緩和のリフレ策を推奨しています。

ここに、インフレの3区分をしていない浜田氏と、浜田氏にリフレ
策の経済理論の根拠を提供したクルーグマンの誤りがあります。

3種のインフレを無視し、よいインフレであるデマンドプル型のイ
ンフレに単純化しているからです。

▼3種目:悪いインフレ:通貨価値の下落と、
資産バブル型のインフレ

通貨が増刷され、その通貨が投機に使われて、資産価格(株価、フ
不動産、債券)の価格が上がるインフレです。この場合、消費者物
価は、あまり上がらない。資産価格が2倍、3倍になるインフレであ
り、これは「通貨価値の下落」です。これも、経済に好循環を生ま
ない悪いインフレです。

資産価格のインフレが進み、消費者物価の上昇になって行くと、物
価が数倍に上がるインフレになることがあります。

資産バブル型のインフレの怖い点は、負債で行われた投機的な投資
によって上がった株価と不動産が暴落する時期が、必ず来ることで
す。

そのとき、不良債権の発生(マネーの不良化)により、バブル後の
恐慌か、恐慌に近くなる。1990年から日本のバブル崩壊、2008年の
リーマン危機で起こったことがこれです。原因は、資産価格のバブ
ル的なインフレでした。

■3.誤りを認めて、政策を修正することが必要

以上のように、インフレには、
(1)デマンドプル型(いいインフレ)、
(2)コストプッシュ型(悪いインフレ)、
(3)資産バブル型インフレ(わるいインフレ)の3種があります。

実際インフレは、3種が混合した形で起こることも多い。「インフ
レ=善の結果を生む」と、単純な線的論理では、言えないのです。

浜田氏は、ここでも誤りを犯しています。
誤りなら、誤りを認めて修正せねばならない。

異次元緩和によるリフレ策の誤りが、論理的に指摘されることは少
ない。これが、本論を書いて送る目的です。

経済政策は、人々を経済的に幸せにするものでなければならないと
思うからです。

【後記:新刊書】
『膨張する金融資産のバラドックス』:吉田繁治著:¥1944

http://www.amazon.co.jp/gp/product/482841858X/ref=s9_simh_gw_p14_d1_i1?pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_s=desktop-1&pf_rd_r=0BRPYVFC8KRB6YEPXCD9&pf_rd_t=36701&pf_rd_p=263612849&pf_rd_i=desktop

日銀「マイナス金利」6つのポイント〜円安を招くがデフレには効果なし=吉田繁治

2016年1月31日 ニュース

日銀がついにマイナス金利に踏み込みました。これは追加緩和策です。審議委員のうち5名が賛成し、4名が有害な副作用を考慮して反対という僅差の決定でした。このマイナス金利がデフレ脱却に効果を生むかと言えば、それはほとんどないでしょう。数%の円安により輸入物価が上がる分の卸価格の上昇だけが起こります。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

日銀がついに踏み切った「マイナス金利」で何がどう変化する?

1.世帯や企業にとっては間接的な関係しかない

円相場と株価は、マイナス金利導入の決定が報じられるほぼ30分前から反応していました。1ドル118.6円だった円は、瞬間に、121円にまで2.4円(2%)下がりました。同時に、日経平均は1万6900円から1万7700円付近まで800円(4.7%)も上げたのです。

外部イベントに瞬間で反応するHFT(高頻度取引)が作った動きでした。1円(0.8%)の円安に、300円(1.8%)の株価が対応する感じでした。今朝(1月30日)は$1=121円、シカゴ日経平均先物(円建)1万7850円です。

経済学では、名目のマイナス金利を想定した経験も理論もなく、未知の領域です。現在の金融・経済が異常な時期にあることを示します。

ただしマイナス金利の対象は預金の金利(世帯と企業のマネー・ストック)ではない。銀行が日銀に預けている当座預金(マネタリー・ベース)です。

マネタリー・ベースは、世帯や企業にとっては間接的な関係しかないので、金融のテクニカルな領域のものとも言えます。

2.先行事例はユーロ、スウェーデン、スイス、デンマーク

2014年6月から、当座預金の金利を-0.1%に下げた後のユーロを見ると、ユーロ安にする効果は生みました。マイナス金利のユーロが売られ、米ドルと円国債が買われたからです。

2014年6月の1ユーロは$1.4でした。2015年1月には$1.1に下げて、現在も$1.1です。

ユーロのマイナス金利は、ユーロ経済の不調、及びギリシア危機という2つの要素と合わさって、米ドルに対し、8ヵ月で$0.3(21%)も下げたのです。

ユーロ/米ドル 週足(SBI証券提供)
ユーロ/米ドル 週足(SBI証券提供)
2015年に海外からの円国債の買いが増えた理由は、ユーロがドルに対して20%も下がり、円は相対的に上がる通貨になったからです。ユーロのようなマイナス金利は「自国の通貨売り/外貨買い」を増やして、通貨安をもたらします。

今回、東京市場の瞬間反応は、金利が下がる円が売られて、2.4円(2%)の円安でした。前日には0.229%だった10年債の金利は、瞬間で0.1%という極限値に下がっています。

これは平均残存期間7年の国債100万円が100万9000円に上がったことを示します。

日本の場合、売買額の50%以上を占めているHFT(超高速取引)で、最近、円安と株価は同時に動くようにプログラムされているので、円安=株価上昇になります。

今回、1円の円安につき、日経平均で300円(1.8%)の上昇が観察できました。リアルタイムの先物価格で眺めているとはっきり見えます。

Next: 3.通貨安にはなっても、デフレ対策としてはほとんど効果なし

ドルと円に対するユーロ安を生んだマイナス金利も、銀行融資をそれ以前より増やして、設備投資を生み、デフレの気分と行動を払拭(ふっしょく)する点では、影響を及ぼしていません。

0.1%〜0.7%程度のマイナスでは、影響がないのかもしれません。
(※注)デンマークとスイスは-0.7%です。

このためもあってか、日銀は「マイナス金利の幅を0.1%から大きくすることもある」という含みをもたせています。これが、「フォワード・ガイダンス(時間軸政策)」つまり金融政策の先行きを示唆して、金融市場を誘導することです。

4.マイナス0.1%の金利の適用範囲は、当座預金の増加分のみ

マイナス金利の内容を見ると、「現状の当座預金では0.1%の付利のままとし、マイナス金利は、今より増えた当座預金にのみ適用」とあります。

現在の当座預金残高は256兆円(16年1月22日)と巨大です。準備預金としては5兆円しかいらないので、251兆円もが、超過準備になっています。

全部の当座預金に対して-0.1%の金利なら衝撃は大きかったでしょうが、銀行の受け取り金利が減って経営を圧迫するという理由から避けられました。

現在は当座預金に特例として0.1%の金利をつけています。金額では、1年2560億円の補助金的な金利です。これを-0.1%に下げれば、銀行が、逆に金利2560億円を日銀に払うことになります。差引5000億円の差ですから、いかにも大きかった。

これを避けたため、マイナス金利が銀行のポートフォリオをリバランスする効果は弱まりました。具体的にいうと、数%の円安という効果は生んでも、銀行の融資を増やす効果は弱いままということです。

(※注)ポートフォリオ・リバランスは、日銀のゼロ金利策、マイナス金利、及び量的緩和によって、銀行が、そうではなかったときの資金運用を変えることです。具体的には、貸し出しを増やすこと。

量的緩和の目的は、このポートフォリオ・リバランスを起こすことですが、GDPゼロ成長予測から企業の借り入れ意欲が弱いため、リバランスは起こっていません。

今回のマイナス金利でも、日銀が目的にしているポートフォリオ・リバランスは起こらず、ドルを買った円が海外流出するだけです。これが円安です。その円安によって株価が上がるという経路です。

株価が上がって円安ではない。円安が先にあって、株価の上昇です。円高になると、株価は下がります。外為市場での円の売買は1日100兆円以上と、株の売買額(2.5兆円/日)よりはるかに多いからです。

Next: 5.日銀の国債の買い超はどうなるか/6.銀行はどう対応する?

5.日銀の80兆円(年間)の国債の買い超はどうなるか

マイナス0.1%の金利の場合、日銀が金融機関から国債を買うオペレーションはどうなるのか?(1年に80兆円の増加枠)

新聞ではあまり報じられませんが、今回のマイナス金利の導入前に、満期までの期間4年以内の国債ではマイナスの金利がついていました。

国債1年物-0.024%、2年物-0.026%、3年物-0.015%、4年物-0.003%、5年物+0.011%、7年物+0.033%、10年物0.229%、20年物0.834%です。

国債のマイナス金利は、額面金額より高い価格で日銀が買い上げているということを意味します。0.01%の金利で100万円の額面だった残存期間5年の国債の金利がマイナス0.1%に下がると、その国債は以下の価格に上がります。

国債価格=(1+0.01%×残存期間5年)÷{1+(-0.1%×残存期間5年)}=1.0005÷0.995=1.0056

つまり100万円で流通していた国債(5年物のケース)を、100万5600円で日銀が買うのが、金利をマイナス0.1%に下げることの実際です。この国債を満期までもつと、100万円の償還しかないので、5600円の損をします。マイナス金利では、国債の保有者が損をするのです。

国債を満期までもつと、償還される金額が買った価格に足りないため損をしますよというのが、マイナス金利です。プラス金利のときは償還金額が下回ることはありませんが、マイナス金利では、国債の流通価格を償還金額が下回ります。

このためマイナス金利になると、金融機関は保有国債を高く買ってくれる日銀に一層多く売る方向になります。

6.当座預金金利のマイナス0.1%に金融機関はどう対応する?

その国債を売って日銀当座に預けていた代金には、従来は0.1%の金利がついていました。金利のつく国債を保有したままの金利効果があったのです。

今後は、現在より増えた日銀当座の預金の金利はマイナス0.1%です。1年に0.1%の金利を日銀に取られます。

金融機関はどうするか?国債を日銀に売って得た円で、プラス金利の米国債を買う動きになるということです。これが、瞬間に3円程度の円安(=ドル高)になった理由です。

このマイナス金利がデフレ脱却に効果を生むかと言えば、それはほとんどないでしょう。数%の円安により輸入物価が上がる分の卸価格の上昇だけが起こります。

日銀は、原油と資源価格の下落により「物価目標2%」の達成の見込みがなくなって焦っています。それを示したのが今回のマイナス金利でした。これを受けて日経平均が上昇、ドル円は下落(円安)となりましたが、ハリケーンではない。真冬の一陣の風です。

【関連】異次元緩和は失敗だった。クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む=吉田繁治
http://www.mag2.com/p/money/7247/3


 
「2016年2月19日、米ドルは完全崩壊する」元連邦.議会議員ロン・ポールの予言
2016年2月4日ニュース

ここに来て、ロン・ポールやドナルド・トランプらが「ドルは完全崩壊する」と口を揃えて言い出しました。元連邦議員や大統領候補に選ばれるかもしれない人間の発言です。(『カレイドスコープのメルマガ』)
すでに秒読み段階?通貨危機の最初の兆候は「急速なドル安」
連邦議員や大統領候補と目される人々が「アメリカの終焉」を言い出した
元連邦議会議員のロン・ポールが、再び新たな予言を出しました。
全米の金融システムが崩壊寸前で、金本位制の復活が予想される、というような内容です。
それが、2月19日、ドルの完全崩壊とともに始まる、という予言です。
これまで何度か、彼は議会をはじめ、公式の場で、明らかに予言とされる謎めいたスピーチを行ってきました。たとえば、2013/08/23配信の「米国崩壊!ロン・ポールの予言と金融メルトダウン前夜の恐怖」などです。
ところが、今度は、ロン・ポールだけでなく、ドナルド・トランプも、例のシュミ─タの謎を解き明かしたユダヤのラビ、ジョナサン・カーンも、その他、どこかのコメンテーターも、一般の陰謀論を解明しようとしている人々も、すべて「2016年2月19日にドルが完全崩壊して経済が破壊される」と訴えています。
一大キャンペーンが展開されているのです。
ロン・ポールは、米国の通貨危機は回避不能である、と警告しています。そのとおりです。
彼は、「1980年代のある日、レーガン大統領と海兵隊機に乗っているとき、大統領は金本位を捨てた大国は、大国のままでいることはできない」と。当然です。ドルの前は、英国のポンドが基軸通貨でした。
英国は、1931年9月21日、金本位制を停止する律法を可決し、これを廃棄しました。その後、ポンドは基軸通貨の座を降りて、ドルの覇権が始まったことは周知です。
金本位制どころか、国の通貨が基軸通貨となった国家は、やがてその座を降りる運命を背負わされるのです。
中国は賢明ですから、国際通貨基金(IMF)が提唱するSDRの構成通貨として人民元を組み込みましたが、基軸通貨にさせようという意図はまったくありません。
20〜30年前、FRB議長のアラン・グリンースパンは、「金本位制を採用していない国において、インフレが進行した場合、実質的な“没収”(通貨の購買力が減る、つまり、減価される)から保護する手立てはない」と言いました。
金本位制が撤廃されると、その国の政府の財政支出をコントロールする手立てを失います。どんなに制御しても、政府というものは財政赤字を積み上げていくものなのです。
日本をはじめ、各国がそうであるように、赤字国債の発行は例外的措置ではなく、むしろ常習化して、いつの間にか標準的な措置になってしまうのです。
そうなれば、金本位が廃棄された場合、通貨の裏付けとなるのは政府の信頼だけです。
その国の金融秩序であり、経済力であり、総合的な国力を統合している政府に、世界の人々がどれだけの信頼を置いているかが、通貨の裏付けとなるのです。
しかし、通貨を発行しているのは政府が1ドルたりとも出資することができない中央銀行なのです。中央銀行の役目は、政府の信用を元にドルを印刷するだけです。
ロン・ポールやドナルド・トランプたちが「ドルが崩壊する」と言っている意味は、アメリカ政府は信用できない、と言っていることと同じです。
このことを、元連邦議員や大統領候補に選ばれるかもしれない人間自らが言っている意味を考えてください。
Next: アベノミクスが木っ端みじんに。危機の最初の兆候は急速なドル安

ロン・ポールによると、通貨危機の最初の兆候は、ドルの価値の急激な下落として表面化する、ということです。
そして、ドルの崩壊は、インフレの突出をもたらすだろう、ということです。つまり、通貨が急激に購買力を失うということ。
これは、私たちの目には見えないものの、物価の高騰という形で認識することになります。
実際は、モノの価値が上がったというより、通貨の価値が減価されたと言う方がより正確です。それを私たちは、「物価が上がった」と言っているだけです。
インフレは当然、米国の金利上昇につながります。
結局、ロン・ポールの予測は、全米の金融システムが崩壊すると言っているのです。米国の金融システムが現実に崩壊するならば、それはそれで全てのグローバル金融システムに及ぶことになります。
米国の負債は、公式発表だけでも18兆ドル以上に上ります。そして、米国に対して最大の債券保有者は、第2位の中国と第3位の日本です。
米国の崩壊は全世界を荒廃させます。そのとき、アベノミクスは、どうなるでしょう。それが起こるのは今年の2月19日である、と警告しているのです。
渦巻く不満、暴動の勃発…すでに秒読み段階に入っている
1776年の独立宣言から2008年までのの米国連邦の全負債はわずかに10兆ドルそこそこでした。
しかし、2008年のリーマン破綻からは、一気に借金を増やし、その後も何度も債務上限の切り上げを行ってきました。
結果、20015年までの過去7年で、米国連邦の全負債額は18兆ドル以上に膨らみ、それまでの2倍に膨れ上がったのです。
これは、誰かの計画?米国の金融システムを破壊するための?
もし、仮に米国が破綻せず、借金をし続けることができるとすれば、2019年までには、全負債額は20兆3000億ドルを超えると試算されています。
金利は確実に上がります。その影響は連邦政府ならびに日常的なアメリカ人にも影響が及びます。
金利の上昇は、政府の資金調達コストを増やします。それによって利払いも多くなるので、負債は、今まで以上に速いスピートで積み上がります。自転車操業、いわゆるポンジスキームです。
そうなれば、金利がわずかに上がっただけでも、さらに負債を積み上げさせることになり、完全に制御できなくなります。
Next: 中流階級に対する徹底した増税によって「大暴動」が発生する

で、結局、社会福祉制度を維持することさえ不可能になるので、フードスタンプさえ廃止の対象になるでしょう。
この事実だけでも、大規模な暴動につながります。「このまま餓死するなら、残っている最後の力を振り絞って立ち上がれ!」と。
それを抑えようと、政府の最後の手段は、まずは、ガス抜きのため、わずかに生き残っている中流階級に対して徹底した増税を行います。
さらには、「1%」の中の「1%」の超富豪だけを除いて、富裕層からも搾り取ろうとするでしょう。
とっくに経済的に死んでしまった中流層は、それこそ拍手喝さいです。
最終的に、連邦政府は、決して手をつけてはならないと言われてきた401Kと年金をターゲットに、政府歳入の財源を求めるでしょう。
ロン・ポールは、これを指摘しており、さらに普通預金や他の資産に対して新たな課税が設定される可能性を示唆しています。
米国は、日本の安倍政権に思いやり予算の増額を言い出しました。安倍政権は、それをあっさり受け入れたことで、世界中から非難を浴びています。
これは、国防と切っても切れないアメリカ国民にとっては、増税を認めさせる効果があるのです。「米軍の予算をカットし、果ては日本に今まで以上に依存することになるのだから、アメリカ国民は、もっとも我慢しなさい」ということです。
すでに米国崩壊に続く導火線に火がつけられ、無秩序がはびこるまで、そう時間はかからないでしょう。
本質的には、有権者の間にかなりの鬱積した欲求不満が渦巻いています。例えば、いったい誰がファーガソンや、ニューヨーク、ボルチモアで抗議運動が勃発するなどと考えたでしょう。これは野火のように広がっていくでしょう。
そして、政府の機能停止が起こりうることは明らかです。
しかし、ロン・ポールは、「大きな通貨危機が襲った後、本当の通貨改革がやってくるだけだ」と、あっさり言います。
Next: ドルの廃棄を宣言して新しい通貨に切り替える可能性も

近年、中国は、ドイツ、インドその他の国々で貿易を活発に行うようになり、準備通貨としてのドルを除外しました。やがて、米国は世界の準備通貨として地位を失うことになるでしょう。
すでに貿易の決済通貨として、10ヵ国がドルを段階的に排除していくことに署名したということです。
国際通貨基金(IMF)は、新しい世界準備通貨システムを提案しました。世界の準備通貨として、米ドルが君臨する日は、数えることができるくらい短いでしょう。
米国のオピニオン・リーダ─の何人かは、米国経済が回復基調にあって、株式市場が順調だ。したがって、事態はそれほど悪くないのだと、言っています。
日本の安倍晋三、官房長官の菅義偉は、すべての経済指標に目をつぶり、これを、オウムのように記者会見で繰り返しています。「米国経済が回復基調にあることは間違いない」と。
ドイツ、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、チリ、日本、中国、ウクライナ、イタリア、アイルランド、ポルトガル、スペイン・・・米国の現状と類似 した困難に直面しています。
ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズをはじめとして、世界的に有名な投資家たちは、「今の状況は2008とそっくりだ。いや、それ以上に悪い」と警告しています。
多数の国の市場を崩壊させてきた彼らは、老境に入って多少の仏心を出すようになったというのでしょうか。
いえいえ、彼らは控えめです。
彼らが警告してくれるのであれば、「今の状況は2008に酷似している」ではなく、「今の状況は、人類史上経験しなかったほどの大きな経済災害を引き起こす兆候が出ている」と言わなければならないのです。
それで、彼らはなぜ、「2016年2月19日にドルが100%崩壊する」と言っているのでしょう。
米国の財務長官ジャック・ルーが、去年、「米国の債務上限の勘定日が11月5日へと向かって進行している」と言ったことに多くの人が注意したことを思い出してください。
米国は、度重なる債務上限の切り上げを行って、ひたすら借金を積み上げてきました。さらに、債務上限を引き上げる法案を提出して議会を通過したとしても、世界の誰もそれを認めないでしょう。
だから、アメリカの借金額は18兆ドルのまま止まっています。
そんな馬鹿な!
考えられることは、いつくかあります。
その最有力候補は、かねてから言われてきた新通貨「Amero」の登場かも知れません。ドルを廃棄して、「Amero」を基準に各国の通貨に対して新しい評価額を割り当てるのです。
繰り返しますが、ロン・ポールは、こう言いました。「大きな通貨危機が襲った後、本当の通貨改革がやってくるだけだ」と――
【関連】英国大手銀行RBSが異例の警告「極めて深刻な事態、投資家は全てを売るべきだ」
http://www.mag2.com/p/money/7294/4 


 


まやかしのリスクオフ後退〜究極の波乱要因となる「中国株暴落」の条件

2016年2月2日 ニュース

日欧中央銀行のサプライズで、昨年12月来続いていた「年明けからマーケットが急変するリスク」シナリオは一旦は終了し、新しい前提に立った上で相場見通しの再構築をする必要があります。ここで最大のリスクは中国と言えるでしょう。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

各国金融政策の見通しと押さえておきたいリスクオン/オフ要因

ハイペースのリスクオフには一旦歯止めも油断は禁物

先週は原油安の落ち着きもあり新興国通貨や世界の株式はこじっかりでしたが、週末の日銀政策決定会合で再度サプライズ的な追加緩和を決定したことで、週末にかけてリスクオフからの巻き戻しが各資産一斉に起きました。

先週の米国株は、原油市況が落ち着いていた事で下げ渋っていたところ、FOMC声明でこのところの金融情勢に関してのハト派的メッセージがなかったので再度調整に入るかと思われましたが、金曜の日銀政策決定会合での追加緩和に救われて+2.48%の大幅上昇になったことで、結局S&P500は週間で+1.75%の上昇になりました。

一方の日本株は中国株が冴えない展開が続いていたので、木曜までは神経質な動き弱含んでいましたが、金曜の日銀政策決定会合でのサプライズで大幅高になったことで、週間でも+3.30%と高い伸びとなりました。

年明け後の日本株の下げが突出して大きかったのは、昨年末の最終週から世界の主要国株価が原油下落や資源安を嫌気する形で下落していたのに掉尾の一振的な無理な買いで上げ続けた反動が大きいことに加え、世界のリスクオフの発信地である中国に隣接していることや、リスクオフ時は円が買われるため企業収益悪化懸念が台頭するためです。

しかし、黒田氏が消極的発言を繰り返していたこともあり追加緩和予想がほとんどない中でのサプライズ緩和になったので、3ヶ月パフォーマンスでは、日本株独歩のディスカウントは一旦解消された形になっています。

1年パフォーマンスではどの国も依然としてマイナスに沈んでおり、先週独歩で上げた日本株も先進国並みのパフォーマンスに留まっています。

基本的に1年パフォーマンスのような長めのパフォーマンスで見ると、日欧のようにマネー増加の裏づけのある地域の株式市場が強く、引き締め傾向にある地域の株式市場が冴えないパフォーマンスになっています。

12月初旬の欧州の追加緩和は失望を招きましたが、先週アナウンスされたように依然として追加緩和期待が残っています。一方の日本は昨年12月に非常に中途半端な追加緩和もどきをしたことで出尽くし感が広がっていことも、このところの独歩安の原因の一つでしたが、2カ月連続の緩和もあり過度なディスカウントから抜けることに成功しました。

しかし、世界の株式市場が恐れている中国が隣にあるという地政学的リスクに加え、企業収益に対する為替感応度が高いのにリスクオフ時は円が独歩で買われるという性質から、緩和サプライズが落ち着き中国安が再燃してリスクオフに転じた場合、日本株は再び独歩で売られ易くなるでしょう。

一方の新興国市場は、年明け後の下げがきつくリーマンショック時以来の下げとなっていましたが、20日のECB理事会後のドラギECB総裁発言で一旦落ち着きを見せています。

ECBの追加緩和発言やロシアやサウジの協調減産の可能性で原油が急反発したことでCRB指数も下げ止まり反発していますが、減産はこれから協議されるだけで、実際はOPECの1月産出量は過去最高レベルであることから、原油市況のトレンドが上昇に変わった可能性は低いと思われます。

基本的に、資源価格は株式と違い実体経済にリンクしているので、一次産品の最大需要国である中国経済が減速している以上、本格的な上げトレンドに転じる可能性は低いでしょう。

そう考えると、新興国株式の反発も一時的で持続性に乏しいと思われます。

とはいうものの、日欧の緩和でこれまでのようなペースでのリスクオフは一旦歯止めがかかった可能性が出てきました。

米国の利上げに伴って世界中にばら蒔かれていたドルが米国に還流することと日欧の緩和が当面ないために、マネーはゼロサムどころかマイナスサムの世界になるところに、日銀のマイナス金利導入とECBの3月追加緩和発言が下げ相場のブレーキ役として登場したのです。

もちろん、突如起きた1月のリスクオフ相場は米国の利上げを恐れてのものではなく、中国株安や経済不安からくるので、日欧マネーが中国への過剰流動性供給に関係ない以上、中国が崩れれば再び世界はリスクオフになる可能性は高いです。

しかし、日欧の緩和政策で、過度なセンチメント悪化は和らぎ、新興国からの資金流出のペースは落ち着くと思われるので、1月のような急ピッチで連続した下げはなくなりました。

今後は、期待と楽観から来るアヤ的な上昇相場と、中国や新興国不安からくるリスクオフが交互にやってくるようなマーケットに変わる可能性が高いです。

日欧中央銀行のサプライズで、昨年12月来書き続けていた「年明けからマーケットが急変するリスク」シナリオは一旦は終了し、新しい前提に立った上で、相場見通しの再構築をする必要があります。

Next: 先週の日米欧中銀の会合を踏まえた「要人発言」が極めて重要に

今週は日欧の緩和を好感した買いが続き易いですが、それは中国株が崩れないという前提のもとで可能なので、中国株が再度崩れることにベットして、リスクオン的な動きの時にショートを作る戦略が有効かと思われます。

<今週の注目材料>
今週は中国PMIと週末の雇用統計が最重要です。

2/1(月)中国PMI、米個人消費支出、ドラギECB総裁発言
2/3(水)黒田氏発言、ADP雇用統計
2/4(木)ドラギECB総裁発言
2/5(金)米雇用統計

雇用統計は日本株の引け後なので、今週の相場へのインパクトはありませんが、米利上げ回数がFOMCの見方より減少するかどうかの判断材料になるので非常に重要です。

また、中国PMIは恐らく操作されるでしょうが、それでも事前予想49.6を下回る場合は、実態が非常に悪いことを示唆しているので要注意です(編注:中国1月PMIは49.4と市場予想を下回った)。

今週のマーケットは、これら経済指標に加え、先週の日米欧中央銀行の会合を踏まえた要人発言が非常に重要になるでしょう。「特に、FOMCは声明文のみだったため、ハト派的メッセージを補足するような発言が求められています。

マネーの方向性

リーマンショック対応から始まったFRBの量的緩和が2014年10月のFOMCで終了し、2015年12月16日にはリーマンショック初となる米国の利上げが決定されました。

2014年10月の量的緩和終了で他に供給する基軸通貨マネーが無いとマネー逆流になり過剰流動性相場は完全終了するところでしたが、間一髪のタイミングの昨年10末に日銀が追加緩和をしたことで、先進国に関してはリスクオフには歯止めが掛かりました。

その後、原油安やギリシャ政情不安が出てきたところでタイミング良く2015年3月から欧州ECBによる量的緩和も始まり、昨年10月理事会後の定例会見で今年12月には更なる緩和があるとECBがアナウンスし、先月理事会で予定通りに追加緩和を決定しています。

何もなければリスクオフになるところを、日欧の中央銀行が必死にマネー供給してリスクオンマーケットを維持しているというのが現状なのです。

しかし、12月中旬の日銀政策決定会合での追加緩和もどきで、日米欧の当面の金融政策は出尽くしました。日欧の追加緩和は出尽くし、米国は今後粛々と利上げをしていくのみなので、日米欧中央銀行の金融姿勢は先々週を境にして完全に引き締めサイドに転じたといえます。

Next: FRB金融政策の今後のポイント〜利上げ回数と利上げ幅はどうなるか?

初回利上げが決まったので、FRB 政策の今後のポイントは利上げ回数と利上げ幅、そして債券回収時期です。本格的なマネー逆流はFRBの保有債券売却(市中からドル札を吸い上げる)でB/Sを削減し始める2017年以降ですが、利上げをするだけで対外ドル資産が米国に還流するので、米国以外の地域でのドルの過剰流動性は減少します。

リーマンショック以降長く続いた緩和政策を大きなショックなく引き締め転じるために、FRBは文言を少しずつ変更し慎重に利上げに向けた地ならしを進めてきました。

ステップ1(〜2014年11月):「相当な期間ゼロ金利を維持」
ステップ2(2014年12月〜):「相当な期間」と「辛抱強くなれる」の併用
ステップ3(2015年1月〜):「辛抱強くなれる」
ステップ4(2014年3月):「辛抱強くなれる」を削除
ステップ5:利上げが適切かどうかについて毎回議論 → 2015年5月から
ステップ6:2015年12月16日のFOMCで利上げ決定

12月FOMCで決定された初回利上げ幅は25bpsと想定通りでしたので、今後は、利上げペースと利上げ幅と来年末時点での金利水準で、それがマーケットの期待値とどれだけ乖離しているかが重要になります。

その理由は、FRBは3ヶ月に一度FOMCメンバーの金利見通し(ドットチャート)を公表するのですが、マーケットは当事者の見通しを全く気にしないで暴走するためです。過去数年はFOMCの見方がハト派的に修正されていったので、楽観的なマーケット参加者の見通しが正しかったですが、今回は年内利上げを見込むFOMCメンバーに対しマーケットは直前まで来年3月以降の利上げを織り込んでいたために混乱が生じました。

昨年12月のFOMCで公表されたドットチャートを前回9月と比較すると、来年末のFFレートの平均値は変わっていませんが、分布が平均値近辺に収斂しました。

1%以下の極端に経済に悲観的な見方が減った反面、2%以上というタカ派的な見方も消えたのが今回の特徴です。

この結果、マーケットとの解釈相違は以下のようになります。

マーケットの期待値はもっとハト派的で依然として乖離が大きい
今回のメンバーはハト派で、来年からタカ派主導のメンバー構成になる
このため、私は年初までは以下のように考えていました。

マーケットは早晩FOMCのドットチャート並みの利上げペースを織り込む
しかし、FOMCメンバーのタカ派色が強まるので、3月FOMCで更にドットチャートのFF金利先物見通しは上方修正する
いたちごっこが続くので、マーケットのリスクオフは半年程度続く可能性がある
しかし、年明けからの急激な株安で、米国株が急落した13日を境に要人発言が一気にハト派的になったことで、従来のタカ派的な見方を修正させました。

従来から多くのFOMCメンバーは「利上げで株が下がるのは当然なので、株安位では利上げの見直しはしない」といったニュアンスの発言をしていましたが、トーンが変わったのは下げ方が急過ぎる為です。

1月最終週こそ上昇しましたが、それまでの下げは年初来では歴史的な下げでした。

株式のボラティリティを考えると、年間2割程度の下げ、3ヶ月で1割程度、月間で5%程度の下げが金融引き締め時の一般的な下げ相場になりますので、FOMCの要人もこの程度の下げを想定して「最高値圏から株式が調整するのは当然」と発言していたでしょう。

しかし、年初からの下げが半月で1割を超えると言う異常事態を受け、多くの要人の見方が変わってきたと思われます。

先週開催のFOMCの声明文では、経済判断を下方修正したほか、海外情勢を注視するといようにリスクを加えましたが、明確に利上げ時期を繰り延べするメッセージはありませんでした。

声明文では、「海外経済と市場動向 を念入りに注視する」と盛り込み、世界的な株安や原油安に懸念を示したほか、米経済も「昨年終盤に減速した」と判断を下方修正しました。しかし、利上げペースに関しては、従来通りの「緩やかに進めるが、ペースは今後の経済指標次第だ」という文言だったため、直後の米国株は失望で大幅安になりました。

この声明文の意図するところは、要人発言で補うしかないのですが、先週の要人発言では、中立派及びタカ派のメンバーが12月のドットチャートよりハト派的なメッセージを出しています。

中立派のウィリアムズ総裁は、利上げペースが従来の見方より「やや緩やかな正常化ペースが望ましい」と発言しています。従来よりやや緩やかというのは、4回より少ないという事です。

また、昨年12月から就任したカプラン総裁はこれまでのメッセージではタカ派と目されていましたが、就任後初めての発言では今回会合ではかなり見方に変化があったことを窺わせています。

氏によると、「経済見通しに対するリスクは安定している」の「安定している」という文言を除いたことが重大な決定と言っているのです。

だとしたら、現在のFOMCメンバーは、今の情勢は「持続的に利上げするほど安定していない」と解釈しているという事でしょう。

たった1カ月でここまで見方が変わってしまったのです。しかし、マーケットは更に楽観的な見方になってしまっています。

Next: 楽観的な市場見通しが、FOMCの見方に収れんする

3月限のFF金利先物こそ先々週末と変わらずの37.5bpsでしたが、6月限FF金利先物の予想利回りは更に低下しています。

実際、1月FOMC直後の利上げ時期の確率は更に後連れになり、最頻値は6月と7月になりました。

また、今年末のFFレート見通しは1週間で63bpsから55bpsまで低下しましたので、今マーケットは今年1回しか利上げを想定していません。

FOMCメンバーもハト派的になりましたが、マーケットは更に楽観的な見方になり、12月ドットチャートでは超ハト派ですら想像していなかった年1回の利上げが主流になったのです。

常にマーケットがFOMCの見方より楽観的なわけではないので、FOMCがハト派的になった現時点でも、マーケットがFOMCの見方に収れんすると引き締め的な反応になる可能性が高いのです。

従って、今週の相場見通しを作成するための前提も先週と同様に、「昨今の株安を受けてFOMCメンバーはハト派的なトーンに変わったものの、マーケットはそれ以上に非現実的なくらいのハト派になってしまったので、マーケット正常化の過程では、楽観的な市場見通しがFOMCの見方に収れんする」という見方をしたいと思います。

以上を整理すると、以下のようになります。

FRB マーケット
次回利上げ時期 3月→ずれ込みそう 4月以降→6月くらい→7月の可能性も
来年利上げ回数 4回→減りそう ほぼ1回
来年末FFレート 1.3%→低下しそう 60bps→55bps
常にFOMCより先走ってハト派的な見方になっているマーケットの見方は、過度に楽観的で3月FOMC時に公表されるドットチャートが出るまでに引き締めサイドに収れんするという見方は変わっていません。

なお、私の利上げ予想は先週と同様です。
次回利上げ時期:3月(2割)、4月(5割)、6月(3割)
来年利上げ回数:3回
来年末FFレート:0.75%〜1.0%

初回利上げをしたばかりでいきなり襲ってきた株安で、タカ派のメンバーも見方も大きく修正せざるを得なくなったと判断しています。

何度も書いていることですが、利上げを2回ほどしてから今起きているようなリスクオフになると、マーケットは「そうは言っても、定規で引いたようにこの先も利上げが続く」という慣性が働きますし、FOMCの修正も困難になります。

しかし、初回利上げ後直ぐにリスクオフになると、次回利上げを延期し続けることも可能ですし、最悪利下げをして再度ゼロ金利に戻してしまうことも可能です。

なので、今年前半のマーケットが「マネー逆流の恐怖でリスクオフになる」というシナリオの確度はかなり低下したと思われます。中国株が落ち着けば再度マネー逆流懸念は出てきますが、現在は中国情勢をトリガーにした世界的な新興国リスクの高まりでFRBの出口戦略が修正を迫られつつあると考えています。

今週も先週に引き続いてFOMC声明を補足する要人発言が最重要になります。

従来より「やや緩やか」というのは年1回なのかそれとも3回なのか。また海外情勢の注視は数カ月程度の時間が必要なのか、それとも完全に落ち着くまでは様子見が望ましいと考えているのか。

先週発表のFOMC声明文ではこういった点が全く不明ですので、今週はマーケットがもっとも関心を持っている次回利上げ時期、利上げペースと年末のFFレート見通しに関する示唆が得られるかどうかが重要になります。

Next: 欧州ECB金融政策の今後のポイント〜ドラギ「3月追加緩和」の行方は?

12月上旬のECB理事会での追加緩和は、事前に期待させすぎたのでネガティブサプライズになりましたが、これに懲りずドラギECB総裁は1月21日のECB理事会後の会見で、再度「3月に追加緩和をする可能性がある」と発言をしました。

その後原油が反発基調になるなど、発言は一定の効果を挙げていますが、ドラギECB総裁は3月理事会で追加緩和を再考する必要があると言っただけで、昨年10月の「12月に追加緩和をする」というほど明確に言っていません。

昨年12月理事会での決定が、市場が期待した国債買い入れ額増額ではなく、従来からやっていたマイナス金利幅拡大しかできなかったのは、ドラギECB総裁以外の理事が追加緩和に消極的だからですが、今回も21日の理事会後に消極的な発言が続いていました。

このため、この発言の持続性は3月理事会まで持たないと思います。つまり、今回のECB発のリスクオンの持続性は長くないでしょう。

今週以降、ドラギECB総裁以外の理事が3月の緩和に消極的もしくは否定的な見方を発言してくると、欧州発のリスクオンの寿命は予想以上に早く消失してしまうでしょう。

このため、今週はドラギECB総裁以外のECB理事の発言も非常に重要になります。

日銀金融政策の今後のポイント〜金融政策の効果はサプライズの有無で決まらない

散々追加緩和に消極的な発言を繰り返していた黒田氏が昨年12月にまたもや市場を騙まし討ちにしました。と思いきや。先週の1月会合でも再度ダマシ討ちです。

先週金曜の日銀政策決定会合で再度追加緩和を行い、日銀では初めてとなるマイナス金利を導入することにしました。

先週のこの欄でも書いたように、黒田氏の性格を考えるとコンセンサス追加緩和予想が少ないため追加緩和をしそうだし、春闘を待つまでもなく目標達成が困難になった以上は必要性も高まっている。

しかし、直前まで今は必要ないと言っているし、政権サイドでも様子見と言っている。一方で、反対派が増えているので議案を上げても通らない可能性もあるので、これらを考慮すると、先週末時点ではやらない可能性の方が高いと書きました。

しかし、水曜木曜の記事では、追加緩和を予想する人が少ないので、やる可能性があるので、やっても死なないようなポジション構築と、500円上がったときにやるべき推奨アクションを書いておきました。

結果的には、甘利経済相が辞任しても関係なく、サプライズを重視したようです。

なお、日銀総裁は嘘をついて良いと考えている人が多いし、「正直に言ってもしょうがない。事前に漏れないようにするため、隠すのは当然」と思ってる人も多いので、改めて書いておきます。

政策決定にサプライズは必要ではありません。金融政策の効果はサプライズの有無で決まるのではないです。中央銀行が気にすべき事は物価目標が適切に達成できるかどうかもそうですが、それと同じ位に安定した金融市場というのも重要です。

過度な悲観や楽観でマーケットが極端になっている場合、ビルトインスラビライザー(調整弁)的な役割を果たすのも中央銀行に仕事です。

政策決定会合は月に1度しかないですが、マーケットは日々動いているので、上下の行きすぎは常に生じます。それを均すために、欧米中央銀行トップは行きすぎを戒める発言をしたり、事前にメッセージを流すのです。

これは情報を漏らす悪い行為ではなく、市場と適切なコミュニケーションを常に図ることで、市場の暴走を日ごろから防いでいるのです。

特にリーマンショック以降の金融市場はデリバティブが幅を利かしているので、従来にも増してマーケットのボラティリティが上昇してきました。こういう中では、会合まで意図を秘匿してサプライズを狙うより、常日頃からコミュニケーションを図り、マーケットの行き過ぎを阻止する方がはるかに大切だと私は考えます。

特に、黒田氏は今回も直前の参院委員会で「マイナス金利に否定的な見方」をしました。事前に言質を取られたくないのでしたら、全ての可能性は従前から検討しているので、マイナス金利も同様。ただし、それを速やかにやるかどうかは別であり、今必要かどうかについては今後の会合で検討することになる、のような言い方はいくらでも可能なのです。

マーケット参加者を驚かしても何の意味もありませんん。事前に今のマーケットの下がり方は尋常じゃないので、場合によっては追加緩和を検討しないといけないかもしれないと日銀政策決定会合の数週間前に発言していれば、マーケットはここまで行き過ぎなかったのです。

上下変動を大きくするのが中央銀行トップの仕事ではない以上、私は黒田氏のサプライズのやり方は現在の中央銀行トップとしては不適切だと考えています。

このマイナス金利は、金曜の記事で書いたように、ECBでは2年前から導入されており、効果が薄かった経緯もあるので、海外メディアの論調は決してポジティブではありません。

マイナス金利にすれば市中に金が大量に流れるはずだとECBは考えましたが、実際欧州では、低額預金者から手数料を徴収する例が出たきた反面、期待した融資増は、借り入れニーズが低いために増えませんでした。

日本は付利はありましたが、2年前から成長分野向けの低利融資制度も設けています。しかし、それでも融資増には結び付かなかったのです。

なので、このマイナス金利の導入は、話題性はありましたし、マーケットをびっくりさせたのも十分な効果はありましたが、インフレ率の引き上げにはつながらないでしょう。

そもそも融資が増えてもインフレ率上昇に直結しません。最もインフレ率上昇に影響を与えるのが労働需給のひっ迫で、失業率が低い日本の場合は、労働者の賃金が明確に上昇する事です。

しかし、2015年の組合平均の賃上げ率(除く定昇分)が0.69%なのに対し、今年は企業収益が不透明ということで、昨年以下の伸びになる可能性が高いと見られています。
このような環境下で、企業が設備投資を積極化することは考えにくいですし、春闘が成功しない以上、マイナス金利を導入してもインフレ率上昇には効果が低いと思われます。

従って、昨年12月の追加緩和もどきよりはネガティブではないものの、今回のマイナス金利で日本発のマネーに変化は見られません。

つまり、過剰流動性は変わらないのです。

日欧中央銀行が同時に行動することを予想できた投資家は恐らく1%も居ないと思いますが、先週はそのレアケースになったため、日欧発の緩和姿勢変化を好感する動きはもう少し続くかもしれませんが、日欧中央銀行のアクションとも先月のアクションと大差ない以上、リスクオン的な流れの持続性は乏しいものと判断します。

このため、先月日銀政策決定会合時の株式のような上ヒゲにはなりませんが、昨年10月〜11月のリスクオン相場のようなマーケットにはならず、今来週で楽観は終了する公算が高いと見ています。

以上を整理すると、今週はFOMCを踏まえたFOMCメンバーの補足発言と、ドラギECB総裁以外のECB要人発言が重要になります。

Next: 押さえておきたいリスクオン/オフの要因〜すべては中国次第

2014年10月の米国の量的緩和終了前後から新興国はリスクオフに転じましたが、同時期に発表された日銀マネーと昨年3月に始まったECBの量的緩和に救われ先進国は今まではリスクオンが継続していました。

12月初旬のECBではマーケットが期待した国債買い入れ増額は決定されなかったので、昨年3月以降の日米欧のマネー供給ペースに変化はありません。

しかし、昨年12月16日に決定された米国の利上げで、いよいよ基軸通貨マネーの逆流が本格化します(なお、日銀の追加緩和は日本株ETF買いなので、世界のリスクオフ解決には無関係です)。

先進国のリスクオフ、特に米国株のリスクオンが終わる場合の可能性は上海株安を加えて4つありましたが、ギリシャ問題が片付いたので、地政学的リスク以外でマーケットが気にすべきリスクオフになるトリガーは3つに減っています。

リスクオフになるトリガー

米の利上げによって過剰流動性相場が本格的に終了すること
昨年1月のように新興国のリスクオフが深刻化しフラジャイル5など比較的大きな国の危機が勃発する
中国経済懸念(上海株安/元切り下げ)をきっかけにした世界株安
この3点はいずれも密接に関係しており、特にFOMCで利上げ先送りの理由を海外発の物価下落による影響としたことで、全てが相互的に絡んでいますが、その根源は中国経済に尽きます。

つまり、

新興国危機は中国経済減速に起因
米国が9月から利上げを躊躇していたのは、世界的な商品市況安の見極めをしていたためなので結局は中国経済
です。

そのいずれかがおきても、玉突き的に他のリスクが現実化するので、結局は全てが起こる可能性が高いのです。

新興国危機が起きる事態になると利上げは先送りになるだろうが、中国経済はもっと酷いことになっている
米国が利上げをすると、新興国危機に拍車がかかり、中国からの資金引き上げも加速し、中国危機に繋がる
中国経済がクラッシュすると、新興国だけでなく世界的な混乱に繋がる
こうして見ると、元をただすと中国経済要因が独立リスクかつ一番の問題だということになりますが、ここではそれぞれ別個に検討することにします。

まずは米発のマネー逆流懸念、引き締め懸念から来るリスクオフシナリオです。リーマンショック以降続いていた量的緩和が2014年10月に終了したので、以降のマーケットは日欧の緩和だけで支えられてきました。

しかし、いよいよ米国の利上げが始まったので、リスク資産からもマネーが逃げ出し始めたのです。

昨年6月以降のマーケットのリスクオンとリスクオフの揺らぎを整理すると以下のようになります。

昨年6月中旬以降の世界のマーケットの調整感

FRB:利上げ時期前倒し懸念台頭→もともと9月以降の見方だったが、もしかしたら7月という見方も
ECB:2016年以降も緩和は続くが、ボラティリティ容認(=債券買い入れピッチが緩む懸念)
日銀:追加緩和打ち止め観測→毎回の会合で木内委員の緩和終了の動議が出される
昨年10月以降のリスクオン

FRB:利上げは来年3月以降に先送りとマーケットが勝手に判断(10月発表の弱い雇用統計で)
ECB:12月に追加緩和をする、あらゆる手段を検討しているとドラギECB総裁が発言
日銀:去年もそうだったので10末の追加緩和があるとマーケットが勝手に判断
きっかけは弱い米国雇用統計を受けて、マーケットコンセンサスの利上げ時期が後連れしたことですが、日米欧の中央銀行の全てがマネーを緩める方向に動くという見方になってしまったために、マーケットは勝手な妄想的なリスクオンになったのです。

ほぼ同時期にFOMCのタルーロ理事とブレイナード理事が相次いで年内の利上げに反対する発言をしたこともその理由ですが、他の要人は引き続き年内利上げに賛成する意見が主流でした。FOMCメンバーで最もハト派の二人がこの時期に発言をしたことで、結果的にマーケットをミスリードさせることになったのです。

10月の楽観相場において、中央銀行と市場との見方の違いは以下のようになっていました。

FRBは再三、年内利上げと発言⇔マーケットは来年3月以降
日銀は追加緩和の必要ない→⇔マーケットは10月緩和、そうでなかったら11月緩和
欧州ECBは追加緩和決定(預金金利引下げの可能性大)⇔マーケットは最も効果がある債券購入増額期待
つまり、欧州ではベストシナリオの追加緩和を織り込み、日米は当局が否定しているのに緩和的行動を織り込んでいたことから、12月初旬のECBの追加緩和の内容が市場が期待する債券購入プログラムの増額ではなく預金金利引き下げに留まったのでショックを受けたのです。

10月以降のアヤが数ヶ月に亘り長大になったのは、リーマンショック以降のマネーの大量供給で、いまだかつてないくらいに中央銀行の影響力が大きくなっているのに、中央銀行の情報発信力が応え切れていないのと、市場参加者の咀嚼能力も十分でないためでしょう。

しかし、今年に入ってマーケットがリスクオフに転じ、その調整スピードが速過ぎることを懸念したためか、1月中旬からFOMCメンバーの発言が一気にハト派的になりました。このため、そもそもFOMCの見方より楽観的だったマーケットは更に楽観的な見方へと変更されましたが、FOMCの見方もマーケットにすり寄ってきました。

加えて、先々週先週日欧中央銀行がサプライズ的な緩和姿勢を表明しました。

ECB:3月理事会で追加緩和を検討
日銀:マイナス金利導入、必要なら追加も
米国株の急落で、FOMCの要人発言のトーンが一気に変わった13日以降から、「マーケットを注視しているのは市場参加者だけでなく、中央銀行トップも同様で、彼らはシナリオを描き変える能力も持っている」「中国株が落ち着くと、短期的には再度昨年10月以降の楽観マーケットに戻る可能性が高まっている」と書きましたが、結局、21日のECBドラギECB総裁の追加緩和示唆発言以降、マーケットはリスクオン気味になっています。

数週間前の記事で、下げピッチが速いと当局のアクションも想定外のモノになるので、シナリオは変更せざるを得ないと書きましたし、「暴落の中にこそ暴騰の芽が出始める」とも書きましたが、催促相場的な1月の急落で、日欧の中央銀行の姿勢が変わってしまったのです。

変わった以上、今年中央銀行発のリスクはかなり低下したと思われます。

もちろん、株式市場がリスクオンになり数カ月も続いた場合、当局は再度引き締めを模索するため、下期にリスクオフの仕切り直しが来る可能性は高いですが、そこまでマーケットが強くない場合、日米欧中央銀行のハト派的な姿勢で急落はある程度オフセット出来ると見ています。

先々週のこの欄で以下のことを書きましたが、その通りの事態になったようです。

つまり、日欧中央銀行の緩和は当面出尽くしと取られていますが、FRBが緩和的なメッセージを打ち出してきましたために、当面(この数カ月)は、米の利上げをトリガーとしたリスクオフにはなりにくくなりました。逆に、昨年10月のような楽観相場になるトリガーになる可能性が高まり始めました。

ここが先週から変わった最大のポイントです。

日欧中央銀行のアクションはマネー総量増加に結び付かないため、昨年10月以降のマーケットのようなリスクオンにはならないでしょうが、急激な株け下落は何としても食い止めるし、まだ追加措置もありうるという当局の姿勢が明確になった以上、中央銀行の金融政策におびえるマーケットは当面心配しなくて済みそうです。中国がよほどの事態にならない限り、1月のボラは出ないでしょう。

Next: 新興国発のリスクオフシナリオはやはり中国がポイントに

次に新興国発のリスクオフシナリオですが、年明けからの中国株安と元切り下げをきっかけに売りこまれていた新興国通貨は、ECBの追加緩和示唆で一旦下げ止まりを見せています。

米FOMCのハト派的メッセージでドルも上がる環境ではないのですが、日欧の通貨安競争に負けため、ドルインデックスは結果として上昇しています。

それでも、新興国通貨が下落していないので、ECB発の追加緩和期待と日銀の追加緩和で新興国危機は一息ついた形になりました。

新興国危機は、新興国自らの内部崩壊で起きるというより、中国発のデフレによる資源価格下落か日米欧中央銀行の引き締め的な金融政策によって限界的な市場から資本流出する事で顕在化すると見ていたので、日欧中央銀行の緩和政策への変更は新興国危機の発生をある程度防いでくれるでしょう。

もちろん、先の項目で見たように、欧州の追加緩和は3月に検討するだけで今は何もしていないし、日本のマイナス金利導入で新興国へリスクマネーが行くわけでもないのでその効果の持続性はあまり長くないです。しかし、一定程度の抑止効果がある以上、フラジャイル5クラス程度の主要新興国が急激な外貨準備減少でデフォルトリスクが出るなど突発的なリスクが顕在化しない限り、日欧中央銀行の緩和姿勢で1カ月程度は新興国危機は延命した可能性が高いと思われます。

最後は中国経済懸念(中国株だけでなく元切り下げリスクも出てきたのでリスクを中国経済全体にします)です。昨年8月のショック以降3ヶ月ほど、景気対策期待や株の買い支えもあって上海総合指数は落ち着いていましたが、年明けから急に壊れ始めました。

元の介入で買い支えているのに先週も1週間で6.1%も下げているので、もはや打つ手なしの状態です。

現時点で、最も危険かつ終わっていないリスクは更なる中国株安と中国経済不安です。

重要なことは、昨年8月の元安ショック相場では当局の介入ラインと見られていた3000ptをあっさり切ってその後も下落が止まらない事です。

かねがね私が指摘している2500ptが現実味を帯びてきました。

これに対しての当局の手立てが限られてきています。昨年9月以降経済対策期待を何度も匂わせましたが、実際大型予算がついた対策は出ていません。中国の国家予算もかつかつなので、株価浮揚のための対策に回す金がないのです。なので、リップサービスと金利引き下げという金融政策くらいしか手段がないのですが、このうちの金利引き下げについては「元安誘導になってしまう」ため、当局は消極的になっています。

金利を下げれば魅力度が低下すると判断したマネーが海外に流出するので元は下がりますが、元が下がると世界に危機をまき散らすということで中国の信認が揺らぐため、簡単に金利を下げることが出来なくなってしまっているのです。

つまり、このようにどう転んでも中国発のリスクオフになり易いのです。

景気対策のため元を切り下げる→世界の新興国が危機に陥る→世界的なリスクオフ
元を維持する→株安の対策がなくなる→中国株安が更に進む→中国経済懸念で世界的なリスクオフ
統計操作しても、足元の鉄道貨物輸送量は前年同期2割近い落ち込みです。

中国のエネルギーの過半を占める石炭火力は、鉄道貨物で石炭を運んでいるので、鉄道貨物が2割落ちているということは、工場稼働などエネルギー需要がかなり落ちているとしか考えられません。発電量も再びマイナスになっているので、実態は日を追うごとに悪化していると思われます。

今週はPMIが発表されます。

他国に比べ低位安定しているように思える中国PMIですが、PMIが鉱工業生産とほぼい同義であることを考えると、エネルギー需要との統計格差が大きすぎるのが判るでしょう。

株式市場に抜本的な対策が出ていない中で経済が悪化し続けている以上、今後も中国株は下げ易いと見るべきです。

このため、かなりの確度で現在は「中国株暴落シナリオ入り」していると思われます。

Next: 上海総合指数2500ポイント割れで、投資家のこの1年の買いがすべて含み損に

元が一定でも株の急落に歯止めがかからない以上、今来週のうちに従来から重要ポイントと指摘してきた2500ptを切る可能性も出てきています。

2500ptというと大幅安に思えるかもしれませんが、2014年11月はこの程度で、昨年初も3000pt程度だったのです。2500ptはこの1年程度で買った全ての投資家が含み損になる水準なので、年金などの長期資金も全ての投資主体が売却を迫られる水準です。なので、これを切ると、売りが更に加速する可能性が高いので、今回の暴落はは完全にバブル崩壊でしょう。

世界第2位のGDP国で、資源の馬鹿食い国家のバブルが崩壊する以上、これからがリーマンショックのような事態になるのです。つまり、日欧の緩和期待で多少は落ち着いても資源はこれからまだ下がるし、新興国通貨もまだ下がります。

以上から、今週世界のマーケットがリスクオンかリスクオフになるかの唯一にして最大のポイントは、中国発のリスクオフです。一方、中央銀行リスクは当面無くなりましたし、新興国発の危機も中国ショックが起きない限りは顕在化しにくいです。

中国株安や統計悪化が極端な場合、日欧の緩和期待にも関わらず資源価格は再度下落に転じるでしょうし、その場合新興国危機も勃発します。

中国だけがリスクになっています。

地政学的リスク

現在マーケットに影響を与えるリスクは以下のものです。

ドイツの難民問題
イラクとサウジの緊迫化
中国人工島への「航海の自由作戦」
この数カ月散発的に地政学的リスクが出てきますが、今のところマーケットを震撼させるマグニチュードにはなりません。

それは問題が小さいからではなく、あまりにも米国利上げや新興国危機、中国問題の方が大きいため、相対的に地政学的リスクの影響が低下しているだけです。

本来であれば、イランとサウジの断交は世界のマーケットを急落させるだけのインパクトはありましたので、現在のマーケットは地政学的リスクに関してはやや不感症になっていると言えます。

このため、今週も地政学的リスクよりは中国株安や新興国危機、そして日米欧中央銀行の見方に市場コンセンサスが収斂する過程で起きるリスクオフ的な動きのほうが相対的に重要かと思われます。

Next: 日本株を取り巻く環境と気になる安倍内閣支持率

ファンダメンタルズ
上場企業の中間決算は、売上+2.1%、営利+25.0%、当利+20.7%なので強い基調でしたが、7-9期だけで見ると経常は2.4%増益と大幅に鈍化し、10-12期は減益が予想されています。10月日銀短観でも下期の下方修正をする企業が多かったので、企業収益のモメンタムは明らかにピークアウトしています。その理由は、トヨタの下期見通しやキャノンの下方修正の要因のように中国経済の減速がメインです。

中国を理由にした下方修正は欧米企業では一般的ではないので、日本株はやはりどの先進国よりも中国の影響を受け易いといえますので、中国経済への懸念が残る以上はファンダメンタルズでは買い続けるのは難しい状況です。

また、リスクオフ時は円が買われ易いので、企業収益の下方修正懸念が高まりますので、世界のリスクオフ時は他の先進国以上に新興国に連動して下げやすいでしょう。

一方の米国企業は、7-9期で-0.8%の減益になり、10-12期も減益が予想されています。

このように、企業収益では日米株価は最早買う事は困難になっています。こういった場合でも株価が上がるには、マネーの総量が増える過剰流動性相場が持続することが不可欠ですが、今まで観てきたように、マネー総量はむしろ減少する方向にあるので、株価を押し上げる材料がほとんどありません。

バリュエーション
日銀の追加緩和のお陰で突出してマネーが集まる市場となった日本株は、どの国よりも過剰流動性相場の恩恵を受けPERが上昇しても良さそうなのに、なかなか PERが上がりませんでした。しかし、日米欧中央銀行が引き締めバイアスをかけたことで過剰流動性相場は終了しそうです。

過剰流動性相場は業績以上に株が買われる相場なので、過剰流動性相場時はPERは上昇しますが、過剰流動性相場が終焉するのと世界的なリスクオフに伴い、日本株のPERは今後も切り下がっていくでしょう。

需給
一昨年10月末のGPIF改革で発表された新基本ポートで日本株の標準ウエイトは25%です。昨年4月以降ずっと新基本ポート比較でアンダーでしたが、7月に入ると2万円超の日経平均に炙り出されたのか猛然と買い始め、結果として9末で7兆円程度の運用損を計上してしまいました。

しかし、10月に入っても買い越し基調が続き、11月こそは売り越しましたが昨年12月の米国の利上げ以降のマーケットで一番の買い主体は信託銀行になっています。

年明け後の3週間ずっと買い続けています。16000円を付けた週はさすがに売り叩いたかと思いましたが買い越しています。

世界的なリスクオフの中で買い向かう暴挙がいつまで続くか不明ですが、基本的に信託銀行はリスクが顕在化すると水準に関わらず、損益に関わらず売ってきます。実際、チャートを見ると判るように、2013年5月のバーナンキショック、2014年初頭の新興国危機、昨年3月のギリシャ問題顕在化、昨年8月の新興国危機時はいずれも売り越しに転じています。

このため、今後本格的なリスクオフになった場合、一転して売り手になるでしょう。

一方の外人投資家は、6月以降アベノミクス始まって以来最も弱気なポジションにしたのが裏目に出て、世界的にリスクオンになった10月11月と踏み上げられましたが、ショートカバーは終了した模様です。そして、年明け後は中国発のリスクオフで日本株の売り姿勢を再度強めています。

日経平均先物の外資合計の建玉残高がショートに転じたのは昨年6月からですが、6月以降、外人投資家が急激に日本株に対してネガティブになった点は以下の通りです。

追加緩和期待が消えた → 再び醸成
政権支持率の低下→当初は安保、今は小康状態(内閣支持率51% 甘利氏問題は影響せず)
アベノミクスへの疑念(成長戦略がいつの間にか財政再建に代わってしまった)
隣に中国がある
(新)政局混乱 甘利経済大臣問題
最近の毎日新聞の支持率調査では、政権支持率に変化はありませんので、甘利経済大臣の問題は日本人としては一旦終わったようですが、外人からすると「アベノミクスとTPPの旗振り役が不祥事で辞任した」と映りますから外人にとってはネガティブです。

これに対して後で見るように財政期待などのポジティブ要因もありますが、6月以降の政府や日銀の対応で、アベノミクスは既に終りという認識をもたれてしまっているので、見方を変えて強気になるにはしばし時間が必要かと思われます。


元ヘッジファンドE氏の投資情報
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日本株のファンドマネージャーを20年以上、うち8年はヘッジファンドマネージャーをしてきたE氏による「安定して稼ぐコツ」「相場の見方」「銘柄情報」を伝授していきます。


【関連】日銀「マイナス金利」6つのポイント〜円安を招くがデフレには効果なし=吉田繁治

http://www.mag2.com/p/money/7277/9


5. 2016年2月07日 23:43:57 : lXSgWGzsTE : jQbyZfltmKQ[2]
>3

現金主義への回帰、つまり金融システムの崩壊だな。アベクロコンビは金融システムを破壊したテロリストとして経済史上記憶されることになるだろう。もちろんGSの使い走りドラギ君も一緒。


6. 2016年2月07日 23:51:23 : lXSgWGzsTE : jQbyZfltmKQ[3]
>5

崩壊は言いすぎ。機能不全くらいに言い換えておく。だが、アベクロコンビの行為が破壊工作である事実は変わらない。


7. 2016年2月08日 20:27:51 : OVF2JczG9U : xb40nZ3KWXs[68]
もうすでに、年金は大赤字。

アベはトータルでプラスでいいじゃないかと国会答弁しているが、

GPIFに株を交わした張本人が盗人猛々しい。

リスクのある内外株式で50%、更にジャンク債で運用。

アベやクロダはそんなポートフォリオで運用しているのだろうか?


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