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[核心]予定調和の福島廃炉計画
6年間の現実、直視を
編集委員 滝順一
東京電力福島第1原子力発電所の事故から6年を前に事故対応のあり方が重要な転機を迎えている。
経済産業省は昨年12月、廃炉や賠償などに必要な費用を大きく見直した。これまで11兆円と見積もられてきたが、ほぼ2倍の21兆5千億円になるという。
福島第1の廃炉費用は2兆円から8兆円に膨れあがった。福島第1の現場は今も汚染水の処理にてこずり本格的な廃炉作業はまだだ。にもかかわらず6兆円ものコストアップである。
その根拠は大ざっぱ。あたかも明細なき請求書だ。
1979年の米スリーマイル島原発の事故で溶融燃料(デブリ)を取り出し処分場まで運ぶのに約10億ドル(約1千億円)かかった。福島のデブリはスリーマイルの約6倍。デブリが圧力容器から落ちて飛び散っているため取り出しはより難しい。費用は最大で25〜30倍程度になるとみて、さらに物価上昇を勘案し50〜60倍の約6兆円を見込んだと、経産省の資料にある。
注意が要るのは、これがデブリ除去までの費用の最大値とされている点だ。スリーマイルでも約1%の燃料の取り残しがあり、2030年以降の原子炉解体では被曝(ひばく)を避ける慎重な作業が必要になる。
福島第1ではデブリが1カ所に固まっていないのできれいに取り切るのは容易ではない。通常の原子炉よりはるかに大きな費用が解体にかかるとみるのが自然だ。「作業の進め方の工夫で費用は節減できる」と廃炉事情に詳しい関係者は話すが、果たしてどうか。
やっかい事のひとつは建物内の放射能汚染の広がりがつかめないことだ。東京電力は内部を観察するため配管を伝ってロボットを入れようとしているが、配管入り口周辺の汚染が高く作業を阻んでいる。
「福島の状況はスリーマイルと(86年に史上最悪の事故を起こした)チェルノブイリ原発(ウクライナ)の中間だ」と大西康夫・米ワシントン州立大学非常勤教授は言う。教授は米施設の除染などに長く関わってきた専門家だ。放射線を遮る水を内部に張れれば作業は少しは楽になるが、損傷した原子炉を冠水するのは難しいと考えられている。
計画では、17年度にデブリ取り出しの基本方針を決め、18年度には最初にとりかかる号機を決める段取りだ。これから1年が見極めのヤマ場だが、状況がわかるにつれ困難さもはっきりみえはじめた。
一方、費用負担では廃炉費用の8兆円は東電が利益の一部を積み立てて充てる方針が固まった。
廃炉に約30年。単純計算で年間3千億円弱が要る。賠償の費用(東電負担分4兆円)などもあり、年間5千億円を超える利益を東電は計上し続けなくてはならない。
送電の託送料が有力な原資に見込まれる。合理化で送電コストを圧縮し利益をひねり出す余地は十分あるらしい。しかし合理化分を廃炉の積み立てに回したのでは電力自由化で下がるはずの託送料が高止まりする。送電網への前向きな投資もしなければならない。相反する二兎(にと)、三兎を追う構想だ。
さらに経産省のシナリオでは、国が負担する除染費用を政府保有の東電ホールディングス株の売却で賄うことになっている。そのために東電の企業価値を7.5兆円にまで高める必要があるという。原発事故前の時価総額の2倍を超える。廃炉や賠償など事故の清算をやり終えないとできない相談だろう。
柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働で生まれる利益も計算に入れているが、今のところ動かせるメドはたたない。
廃炉の技術面だけでなく収支の面でも綱渡り。どちらでつまずいても行き詰まりかねない。実現可能性よりも「実現させねば」との経産省の意図が前面に出る。21.5兆円のシナリオはそんなガラス細工にも似た危うさをはらむ。
廃炉費用が大きく膨らみそうなことが報道され始めてからスケジュールを根本から見直す意見を耳にするようになった。30年での廃炉は困難とみてより長い期間をかけよという。放射能の減衰を待つ狙いで、チェルノブイリのようにコンクリートで原子炉を固めて封止する「石棺」をモデルとする。
昨年夏、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が作成した廃炉の「戦略プラン」の案に「石棺」という言葉がいったん盛り込まれて福島県などが強く反発した。石棺は帰還を目指す地元の人びととの約束を破るものだ。支援機構の山名元理事長は「石棺にはしない」と弁明に終始した。
石棺は合理的に聞こえるが、30年を100年に延ばしたところで放射能が作業を阻むリスクであることには変わりない。建物の耐久性や、東電への支援をどこまで続けられるかを考えれば、長引くのは得策とはいえない。また原子炉の内部を調べて事故の詳細を報告することも原子力を推進した政府や電力業界の使命だ。フタをして済むことではない。
ただ最善を尽くしても、できないこともあろう。そんな事態も想定する必要がある。予定調和的なシナリオだけでなく、最悪のケースも含めた将来像を福島の人びとも加わって議論する場を設ける時ではないか。専門家や有識者だけでは決められないことだ。
[日経新聞1月16日朝刊P.7]
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