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「もんじゅ」崩壊…三人よっても知恵足りず
「燃やさない文明」のビジネス戦略
相次ぐ原発慎重派知事誕生が示唆する未来
2016年10月27日(木)
村沢 義久
高速増殖炉「もんじゅ」。その名前は、若狭湾に面する天橋立南側にある智恩寺の本尊「文殊菩薩」に由来しているらしい。文殊菩薩は知恵をつかさどる菩薩で、「三人寄れば文殊の知恵」ということわざの元になっている。凡人でも三人で集まって相談すれば、文殊に劣らぬほどよい知恵が出る、という意味なのだが…。
政府は9月21日、原子力関係の閣僚会議を開き、高速増殖炉「もんじゅ」について、年末までに廃炉を含む抜本的な見直しをすることで合意した。1994年の稼働から22年。事故とトラブル続きで実際に稼働したのはわずか250日。遅すぎた決断である。
高速増殖炉「もんじゅ」
(写真:写真:日本原子力研究開発機構)
「夢の原子炉」のはずだったが…
「もんじゅ」は高速増殖炉(FBR)の一種。キーワードは「増殖」。原子炉を運転しながら、消費した以上の核燃料を生産できることを表している。
通常の原子炉(軽水炉)では、核燃料としてウランを使う。ただし、「燃料」とは言っても、実際に燃えて(核分裂して)エネルギーを生み出すウラン235は全体の3〜5%程度しか含まれておらず、残りはエネルギーを生み出さないウラン238である。いわば、「つなぎ剤」のようなもの。
では、このウラン燃料を原子炉内で使用した後はどうなるか。ウラン235の原子核は中性子を吸収すると2つに分裂する。これが、核分裂で、この時に膨大なエネルギーが放出される。核分裂反応では様々な核種が生成されるのだが、代表的な生成物はイットリウム95とヨウ素139。
また、この際に多くの中性子が放出され、それによって自律的に反応が続くのだが、そのまま制御しなければ核分裂が暴走し、大量のエネルギーが一気に解放され核爆発を起こす。これが原爆だ。そのため、原子力発電ではホウ素、カドミウム、ハフニウムなどでできた制御棒を挿入し余分な中性子を吸収している。
これが原子炉がエネルギーを発生させる反応だが、原子炉内では、もう1つ重要な変化が起こる。燃えない「つなぎ剤」であるウラン238が原子炉内で、プルトニウム239に変わるのだ。
プルトニウムとは何か。長崎に投下された原子爆弾の材料である(広島に投下された原爆の材料はウラン)。プルトニウムはウランと同じように原爆の材料になる。ということは、原発の燃料としても使えるということである。
プルトニウムの悪夢
ここがやっかいなところ。プルトニウムは、使い方によって、@原発の燃料になり、A原爆の材料にもなる。しかし、使用しなければ、B「核のゴミ」。しかも、半減期が数万年という非常にやっかいなゴミである。
Aの原発の燃料として使う1つの方法が高速増殖炉だ。投入した以上のプルトニウムが生産される。と言っても、プルトニウム自体が「増殖」するわけではない。
高速増殖炉の燃料としては、軽水炉から得られたプルトニウムとウランからなるMOX燃料(プルトニウム・ウラン混合酸化物)を使用する。その組成は、燃料となるプルトニウム239が20〜30%で、残りはほとんどが核分裂を起こさないウラン238。
ここでも量的に一番多いのがウラン238であり、「つなぎ剤」だ。高速増殖炉の中では、プルトニウムが燃料として燃えて(核分裂して)エネルギーを生産する。この時に、「つなぎ剤」であるウラン238に中性子が当たり、プルトニウムが生産される。つまり、高速増殖炉の中では、ウラン238を原料としてプルトニウムが生産されるのだ。
こういう「夢」に資源小国日本が飛びついたこと自体は理解できる。「もんじゅ」は1991年5月に完成し試運転開始。3年後の1994年4月5日午前に臨界に達し、翌1995年8月29日には待望の発電が開始された。この時点では、正に「夢の原子炉」。期待が盛り上がった。
しかし、絶頂期はあっと言う間に終わる。発電開始からわずか4カ月後の同年12月8日にナトリウム漏洩による火災事故が発生。事故自体も深刻なものだったが、それ以上に影響が大きかったのはこの事実が一時隠ぺいされたこと。そのため、国民の信頼を一気に失うこととなった。「もんじゅ」の命運は、実質的にはこの時に終わってしまったのだ。
その後、運転再開のための本体工事が行われたが、2007年の工事完了までに12年もかかってしまった。そして、2010年5月6日に試験運転を再開したが、同年8月の炉内中継装置落下事故により再び稼働ができなくなった。以来、年間200億円の維持費を食い続ける「金食い虫」として、大きな批判にさらされ続け今日に至っている。
ナトリウムの呪い
「もんじゅ」計画崩壊の元凶はナトリウムの漏洩。ナトリウムは水と反応すると激しく爆発する。だから、火災が起こっても水で消すことができないという厄介な物質だ。何故そんなものを使ったのか。ここで重要になるのが「高速増殖炉」に関わる第2のキーワードである「高速」。
前述のように、高速増殖炉内では、ウラン238を原料として、プルトニウムが作られる。この反応は普通の軽水炉内におけるのと同じだが、違いは、プルトニウムの生産量だ。高速増殖炉では、使った以上のプルトニウムが生産されるのだ。
これを可能にするためには、中性子が「高速」であることが必要。核分裂で生成される中性子は元々高速だが、普通の軽水炉には速すぎるので減速させる必要がある。軽水炉では、冷却材として水を使うのだが、うまいことに、水は中性子の減速材としても適しているのだ。
一方、高速増殖炉を機能させるためには、中性子は高速のままであることが必要だ。そのため、冷却材は、中性子に対して減速効果が小さくその運動を衰えさせないものでなければならない。さらに、高速増殖炉では、出力が軽水炉よりもはるかに大きくなるため、熱伝導率の良いものが望ましい。
こういう目的に適した物質の1つがナトリウムというわけだ。ただし、目的には適しているのだが、扱いが難しい。そのナトリウムが「もんじゅ」の命取りになってしまったのだ。
「もんじゅ」ではナトリウムを使わざるを得なかったことに根本的な問題があり、さらに言えば、プルトニウムを使う高速増殖炉という原子炉そのものが無理だったとも言える。実際、世界には、高速増殖炉の計画はいくつかあったが、現在でも推進しているのはフランスとロシアだけだ。
原爆の材料を蓄積してはならない
前述のように、普通の軽水炉からもプルトニウムが生産される。そのため、日本にはすでに大量のプルトニウムが蓄積されている。
ここで、問題になるのが、プルトニウムが持つ第2の顔=原爆の材料だ。長崎に投下された原爆で使われたプルトニウムの量は6.1kg。各種データによると、現在の核兵器に使われているのは4〜8kgという。もの凄い破壊力からは信じられないほどの少ない量だ。
それに対して、日本のプルトニウム保有量は実に47トン。1発当たり6kgのプルトニウムが必要として、単純計算で8000発近い原発を作れる量だ。プルトニウムの純度が違うので、実際に作れる量はもっと少ないのかも知れないが、厖大な保有量であることは間違いない。
この保有量に対して海外から批判の声が上がっている。2015年10月20日、国連総会第1委員会(軍縮)において、中国の傅聡軍縮大使は、「日本が保有している分離プルトニウムは千発以上の核弾頭を製造可能な量に達している」と主張し、日本を非難した。
仮に「もんじゅ」を稼働できたとしても、この問題はなくならない。何しろ、消費した以上のプルトニウムが生産されてしまうのだから。
プルサーマル炉も行き詰まる
そこで、注目されるのが、プルトニウム239とウラン238から成るMOX燃料を通常の軽水炉で燃料として使う方法。これがプルサーマル型原発だ。ところが、こちらも上手く行っていない。
現在、日本に存在するプルサーマル型原発は、東京電力柏崎刈羽3号機、九州電力玄海3号機、関西電力高浜原発3、4号機、四国電力伊方3号機などがある。この内、高浜原発3、4号機は、2016年初めに相次いで再稼働したが、同年3月には司法判断で運転が差し止められている。
柏崎刈羽については、10月16日に行われた新潟知事選で、再稼働慎重派の米山氏が当選したため再稼働の目処は立たず、玄海も周辺の伊万里市長らが反対するなど、先行きは不透明だ。
このような状況下、2016年10月末現在、国内で稼働中の原発は九州電力の川内原発2号機(鹿児島県)と四国電力の伊方3号機(愛媛県)の2基だけで、このうち、伊方3号機が唯一のプルサーマル発電所だ。
結局、国内の軽水炉から出てきた大量のプルトニウムは、ほとんど消費されないということになる。ここで、プルトニウムの第3の顔(核のゴミ)が現れる。結局、プルトニウムは核のゴミとして単純に処分するしかないのではないか。
しかし、その実現性も現状では限りなくゼロに近い。高レベルの核のゴミとなると、数万年間も安全に保管しなければならないのだが、そのような施設は世界中にまだ1カ所もなく、建設中のものがフィンランドとスウェーデンに1カ所ずつあるだけだ。日本には候補地さえないし、そもそも、地層の不安定な日本では建設不可能という見方もあるぐらいなのだから。
原発は「問題の増殖炉」
日本が目指す「核燃料サイクル」とはこうだ。まず、軽水炉でウラン燃料を消費して発電する。その時に副産物として生成されるプルトニウムを使って高速増殖炉を動かし、さらにプルトニウムを量産する。それで、増えたプルトニウムを今度はプルサーマル炉で消費する。
普通の軽水炉だけだと、貴重な核燃料は一度しか使えないが、高速増殖炉とプルサーマルを使えば、その何倍も有効に使えるというわけだ。
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ところが、高速増殖炉「もんじゅ」が廃炉の瀬戸際にあり、さらに、プルサーマルの再稼働も進まず、結果として、進んでいるのは核廃棄物の増加だけ、という状況だ。そして、その最終処分場がない。正に無間地獄。
こういう状況では、原発はただ問題を増やすだけの「問題の増殖炉」と言わざるを得ないことになる。原発が存在する限り、問題は解決できないことだ。
政府は「もんじゅ」については廃炉も含めた見直しを進めるが、その一方、核燃料サイクルと高速炉開発は堅持する方針。官民で高速炉開発会議を立ち上げ、フランスで計画中の高速炉「ASTRID(アストリッド)」での共同研究を検討しているようだ。
研究の継続そのものには価値があるのかも知れない。しかし、「ASTRID計画」にも不透明なところが多く、これに参加してどんなメリットがあるのかは現時点では不明だ。
鹿児島(三反園氏)、新潟(米山氏)と、相次いで原発慎重派知事が誕生。有権者に原発再稼働への抵抗感が強いことが明確になった。そもそも、原発は必要なものなのか、また、現在の人類が扱えるものなのかどうか、考え直す良い機会だ。
このコラムについて
「燃やさない文明」のビジネス戦略
いま、大きな変革の節目を迎えようとしている。時代を突き動かしているのは、ひとつは言うまでもなく地球環境問題である。人口の増大や途上国の成長が必然だとしたら、いかに地球規模の安定を確保するかは世界共通の問題意識となった。そしてもう一つは、グローバル化する世界経済、情報が瞬時に駆け巡るフラット化した世界である。これは地球環境という世界共通の問題を巡って、世界が協調する基盤を広げるとともに、技術開発やルールづくりでは熾烈な競争を促す側面もある。
筆者は「燃やさない文明」を提唱し、20世紀型の石油文明からの転換を訴える。このコラムではそのための歩みを企業や国、社会の変化やとるべき戦略として綴ってもらう。
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