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何が起きた? 新型H3ロケット直前停止/水野倫之・nhk
2023年02月28日 (火)
水野 倫之 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/480072.html
「メインエンジンスタート。SRB3点火。ゴー・・・。さきほどメインエンジンは着火しましたがSRB3は着火しなかった模様です」
今月17日に行われた日本の新型ロケットH3初号機の打ち上げは、直前に停止された。
その原因や影響について、水野倫之解説委員が解説。
エンジンから煙も上がってるのに、打ち上がらない直前停止、私も取材で経験したことあるくらい、打ち上げでは時々ある。
ただ今回、新規開発ロケットとしては、ほぼ30年ぶりの打ち上げということで、種子島の発射台が一望できる公園には多くのファンが訪れていて、残念がる声があがったほか、涙ぐむ人の姿もあった。
今回は打ち上げ直前に機体の異常が検知された。
H3初号機は、16日夕方に組み立て棟から姿を現し、発射点へと移動。
そして打ち上げ予定の17日午前10時37分に向けて順調にカウントダウン作業が進み、打ち上げ6.3秒前にメインエンジンに着火、燃焼しはじめ白煙が上がるのも見えた。
異常が起きたのはその直後、発射0.4秒前に2本の補助ロケットに点火されるまでの間。第1段の制御装置が検知し、補助ロケットへの着火信号が送られず、打ち上げは直前で停止。
今回は失敗の定義にもよるが、回復不可能とはなっていないし、安全システムが働いて止まったので失敗とは言えないと思う。
ロケットは打ち上げ後は、人が遠隔操縦することはできないので、打ち上げ前にトラブルの芽を完全につんでおくことが重要。
そこで機体の制御装置が打ち上げ直前まで様々な部品やシステムに異常がないか自動的にチェック。
これは何もH3だけでなく、世界のほとんどのロケットに同じような仕組みがあり、今回はこのシステムが働いて、機体や衛星もろとも失ってしまう失敗を防いだわけで、安全システムの信頼性が実証されたとも言える。
異常の原因は解析の結果、制御装置からメインエンジンへの電力が数秒間途絶えた事がわかっている。電気回路のスイッチが何らかの理由でオフになったとみられる。
JAXAでは再現実験を行うなどして電力が途絶えた原因を究明中で、対策を取った上で、打ち上げ期限の3月10日までの打ち上げを目指すという。
なぜ3月10日までなのか。
ロケットの打ち上げはいつでもできるわけではなく、JAXAと地元自治体、漁業者など関係者との話し合いで期間が決められている。
というのもロケットは打ち上げ後、分離された補助ロケットやメインエンジンが次々海へ落下。打ち上げ当日は広い海域で船舶の航行が制限されたり、漁も休まなければならず影響が大きいため期間が定められ、それが今回3月10日までで、この期限を延長するのは簡単ではない。
3月10日まであまり余裕はない。天候がどうなるかもあるので、遅くとも今週中には対策を済ませ打ち上げ日を再設定する必要がある。
それができないとH3本来の目的である衛星打ち上げビジネス参入に向けて大きな打撃も予想される。
H3はすでに打ち上げ延期が相次いでいて、日本のロケットの強みだった、最初に設定した打ち上げ日程から天候以外の理由で延期しない「オンタイム打ち上げ率」の高さに疑問符がつきかねないから。
今運用中のH2Aは成功率98%と世界一高い信頼性を誇るが、価格が100億円とかなり高く、衛星打ち上げビジネスでは苦戦。
ただ機体のトラブルが少ないためオンタイム打ち上げ率が88%と、世界の主要ロケットが50〜70%なのに対して際だって高く、強みとしてきた。
オンタイム打ち上げ率が高いと衛星事業者としては、打ち上げた衛星でいつビジネスが開始できるか見通しが立てやすくなるメリットがあり、その点を重視してH2Aを選んだ事業者もあり、少ないながらも5回海外衛星を受注。
こうしたこと教訓に、信頼性はもちろん「安く、そして早く」をかかげ衛星打ち上げビジネスへの本格参入を目的に開発されたのがH3。
H2Aよりコストを半減し50億円に設定、また打ち上げの受注から1年以内のオンタイム打ち上げを目指す。
そうした開発者の決意は機体にも表れていて、まずH2Aでは国産と言うことでNIPPONとローマ字表記だったが、H3はというと。
JAPANと英語表記。世界の市場を意識している。
またイラストなどではオレンジ色のH2Aに対してH3はより薄い黄色で描かれているが、これはむき出しの燃料タンクの断熱材の色で、もともとは白、製造後時間経過とともに紫外線で日焼けして黄色に、さらにオレンジ色に。
H3はH2Aよりも日焼けする間もなく頻繁に打ち上げるんだという決意から黄色で描かれている。
ただそうした決意とは裏腹に開発は難航。
コスト削減のカギを握るロケットの心臓部、メインエンジンでトラブルが相次いだ。
新エンジンでは、燃焼方式を大胆に見直すことで部品を3分の1に減らし、構造をシンプルにしてコスト削減を目指した。
しかし燃焼試験で異常な振動が発生、対策のため打ち上げをすでに2回、2年延期しており、今回こそはと万全の体制で打ち上げに臨んだはずだった。
それが、失敗は防いだとは言え、また期日に打ち上げられず出遅れたわけで、さらに打ち上げ期間も守られないという事態は避けなければならない。
というのもこの間、世界の衛星打ち上げ市場の競争はますます激しくなってきているから。
小型衛星を中心とした衛星需要の急増を受けて、世界のロケット打ち上げ回数は毎年最多を更新。
アメリカが多く、中でもイーロンマスク氏のスペースX社が61回と最多。
機体を再利用するなどして1回65億円の安さを実現、毎週のように打ち上げを行い、一人勝ち状態に。
これに対し日本はH3の完成が遅れたことが響いて去年は打ち上げ成功ゼロ。
成功ゼロは18年ぶりで、世界との差は大きく広がっている。
ただ衛星需要が伸びている中、ウクライナ危機でロシアがロケット打ち上げサービスを拒否していてロケット不足となっているので、H3にもチャンスはある。
それをものにするためにはまずは打ち上げ成功実績の積み上げが必要。
そのためにも今回のトラブルの対応や機体の点検を急ぎ、まずは期限内の打ち上げを実現していかなければ。
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