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アラブの春5周年(上)強権の崩壊は大卒失業者の反乱で始まった〜強権支配で民衆を黙らせることで国が安定する時代が終わった…/川上泰徳
2016年02月15日(月)
http://www.newsweekjapan.jp/kawakami/2016/02/post-9_2.php (から抜粋)
民主化への期待から混乱へ
「アラブの春」から5年が経過した。2011年2月11日はエジプトでムバラク大統領の辞任が発表された日であり、1月25日にデモが始まって18日目だった。当時、私は毎日のように広場に通って取材をしていた。…あれから5年たって、中東はとどまることを知らない混乱の中にある。エジプトでもムバラク辞任の後、軍政の下で議会選挙と大統領選挙が実施され、いったんは民政に移行したが、軍のクーデターによって民選大統領は排除された。その後に行われた出直し大統領選挙は、クーデターを指揮した元国防相のシーシ氏が97%を得票する無風選挙となり、さらに昨秋に実施された議会選挙の投票率は28%と低く、議会は翼賛体制となった。若者たちのデモも禁止された。あの若者はいま、何を思うだろう。
「アラブの春」で独裁体制が崩壊したのは、エジプトの他にチュニジア、リビア、イエメンだが、民主化が残っているのは、昨年のノーベル平和賞を受賞したチュニジアだけだ。そのチュニジアでさえ、昨年、外国人観光客を狙った2つの大規模テロがあり、政治の危うさが浮き彫りになった。リビアは選挙で議会が生まれたが、政治が分裂し、内戦を戦った反政府勢力から生まれた民兵の抗争もからみ、国の分裂へと進んでいる。
最も悲惨な状況に陥っているのは内戦化したシリアで、5年で死者25万人以上、難民は420万人以上という第2次世界大戦後、最悪の事態となっている。さらに、イラクとシリアにまたがる過激派組織「イスラム国(IS)」の出現によって国際的な脅威となっている。
長期の強権体制の矛盾が噴き出す
チュニジア、エジプトでの平和的デモによって長年続いた強権体制が倒れたことから、「アラブの春」は中東民主化の始まりとして世界の注目を集めたが、いま完全に暗転してしまった。中東の混乱は強権体制が倒れたために起こったと考え、「アラブの春」を否定的に捉える意見が出るのは止むを得ない反応ではある。しかし、私が長年、ニュースの現場から中東を見てきた経験から思うのは、強権支配で民衆を黙らせることで国が安定する時代が終わったという理解を持たなければ、新たな安定を構築することもできないということである。
「アラブの春」の後、中東で半世紀以上続いた独裁体制や強権体制のひずみや矛盾が噴き出した。現在の中東の混乱は、強権支配でたまった膿が一気に出てきた結果であって、「アラブの春」はそのきっかけをつくったにすぎないと私は考えている。さらに現在、中東を覆っている恐怖政治やテロや民兵の暗躍など「アラブの春」の後の混乱も、長期強権体制の暴力性が表面化したものである。中東の安定化の鍵は、社会に回った強権体制の毒を中東の人々がいかにして克服するかであり、国際社会がそのために手助けすることである。
20代の若い社会と深刻な失業問題
「アラブの春」が起こった要因の中で、最も重要なのは若年人口の増加である。2011年のエジプトの人口中央値は24歳だった。人口の半分が24歳以下ということである。中東・北アフリカ地域の人口中央値は22歳である。世界ではサハラ砂漠以南の地域に次いで若い地域である。若年人口が多いということは、豊かな労働力があるというメリットにもなるが、アラブ世界では15歳から24歳までの若年層の失業率は23%と世界の平均よりも10ポイントほど高く、若者の失業が問題化していた。最初に若者たちのデモが起こったチュニジアの若者の失業率は42%だった。
さらにアラブ世界で特徴的なのは、大卒など高等教育を受けた若者の失業率が軒並み50%を超えていることだ。背景にはアラブ世界での大学の一般化がある。例えば、エジプトのカイロ大学は25万人の学生を抱えるマンモス大学だ。70年代、80年代に大学が急激に一般化し、学生数が増えて、雇用で吸収しきれなくなった。
「アラブの春」は若者の反乱であったが、デモを主導したのは大学生だった。就職し、住宅を取得して、結婚するという人生の一大事を前にする大学生が、失業という最も厳しい試練にさらされていたことになる。
かつて日本も通った道
ムバラクの辞任を求めて連日タハリール広場に集まっていた若者たちのかなりの割合が、大学生だった。学生たちはツイッターやフェイスブックが使える携帯電話を持ち、あちらこちらで携帯電話のカメラで、写真や動画を発信し、まさに「若者たちの解放区」が生まれていた。
アラブ世界は父親や祖父の権威や発言権が圧倒的に強い伝統社会である。若者は「シャバーブ」と呼ばれるが、20代、30代だけでなく、40代、50代になってもそう呼ばれ、家族でも社会でも年長者が決定権を持っている。
このような伝統的な社会構造にあって、自由もなく、就職も困難となれば、携帯やインターネットという革命的な情報ツールを手にした若者たちが社会に不満を持つのは、自然なことにも思える。「若者の反乱」といえば、私は1968年5月に大学制度の改革を求めるパリ大学の学生のデモから警官隊との衝突など混乱が広がった5月革命を思い浮かべる。日本もちょうど学園紛争、大学紛争が広がった時期だ。60年代後半の日本の年齢中央値は27歳から28歳だった。「アラブの春」の社会状況は、かつて日本が通った道でもある。
「アラブの春」についても、さらにその後の中東の混乱を見る場合も、若者人口の増加によって、アラブ世界が「若者の反乱」の時代を迎えているという認識が必要だろう。私は「イスラム国」もまた若者たちの反乱の続きだと考えている。若者問題への対応を抜きにして、混乱の収拾はありえないと考えている。
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