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危険エリアに128万人 独自指標で分かった「危ないのに人気の街 東京編」〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170306-00000080-sasahi-soci
AERA 2017年3月13日号より抜粋
東京23区 危険なのに値上がりしている町丁 1位〜10位/【表の見方】 [上昇率]東京カンテイの調査。2012年から16年にかけて、東京都内の各「町」で売り出された中古マンション(30平方メートル以上の物件が10事例以上売買されている場合)の平均価格...
東京23区 危険なのに値上がりしている町丁 11位〜20位/【表の見方】 [上昇率]東京カンテイの調査。2012年から16年にかけて、東京都内の各「町」で売り出された中古マンション(30平方メートル以上の物件が10事例以上売買されている場合)の平均価格から算出した。町丁(市区町村内の住居表示に用いられる区分で都内に約5000ある。世田谷区北沢1丁目など)ではなく町単位の調査のため、例えば世田谷区北沢1〜5丁目の上昇率はすべて同じ数値となっている(小数点以下は四捨五入) [賃料][築年数]スタイルアクト「住まいサーフィン」の調査。東京都内の町丁について、町丁内で16年に取引された賃貸物件の平均賃料(42平方メートルあたりに換算)と平均築年数を示した。賃貸物件が3件以下もしくは平均築年数が0年または35年以上の町丁、平均賃料が10万円未満の町丁は除外した [地盤][地盤増幅率]防災科学技術研究所「地震ハザードステーション」から。埋め立て地や三角州、湿地は地震被害を受けやすいとされ、数字が大きいほど揺れやすい [危険度]東京都が13年に公表した地域危険度測定調査に基づく。都は建物倒壊危険度、火災危険度、総合危険度(いずれも災害時活動困難度を考慮した数字)を5段階で示している。表では総合危険度で最高・高に分類された町丁をピックアップ。それぞれの建物倒壊危険度と火災危険度を併記した。数字は全町丁における順位で、数字が小さいほど危険
新宿区須賀町の中心部、須賀神社に続く大階段は「君の名は。」で一躍有名に(撮影/編集部・福井洋平)
東日本大震災から6年がたつ。被災地の復興は道半ばで、「余震」とされる地震も続く。2016年には最大震度7の地震が2度、熊本を襲った。だが、不動産の値動きを見る限り、震災の記憶は薄れ、東京だ。AERA 2017年3月13日号で、「震災と不動産」を大特集。データを駆使して、「ていると言わざるを得ない。その代表例が危険度が高いのに値上がりしている人気の街」を浮かび上がらせた。
* * *
たどり着いたのは、2016年に日本で一番有名になった「階段」だった。
1400人(17年3月現在)が暮らす東京都新宿区須賀町。須賀神社など寺社が多いこともあり、都心とは思えないほど静かで、古い町並みが残る。ドラマや映画のロケにも使われ、16年に大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」で主人公2人がすれ違うシーンのモデルになったのが、須賀神社の境内に続く階段だった。いまや国内外からファンが訪れる「聖地」となっている。
ここが、東京23区で最も「危険度が高いのに値上がりしている人気の街」だと知ったら、聖地巡礼中の観光客も驚くだろう。
有史以来、数々の大地震に見舞われてきた東京都は、1975年から「地震に関する地域危険度測定調査」を行い、都内の市街化区域5133町丁について、地震で建物が倒れる危険性、火事が燃え広がる危険性をランクづけしてきた。「町丁」とは市区町村内の住居表示に用いられる区分のことで、地盤が弱かったり液状化の可能性があったりして建物が倒れやすい地区は建物倒壊危険度が、燃えやすい木造住宅が狭い路地を挟んで密集している地区は火災危険度が高くなる。
最新の13年調査によれば、両ランクを総合的に見て、災害時の救助の難しさを考慮した総合危険度で、5段階のうち「危険度最高」「危険度高」と分類された368町丁はすべて東京の中心である23区内にある。そのエリアに、128万人(15年時点)が暮らす。
●知らずに住む外国人も
本誌は今回、不動産情報サイト「住まいサーフィン」を運営するスタイルアクトのデータをもとに、総合危険度が高いのに、16年に取引された賃貸物件の賃料の平均が42平方メートルで10万円以上の町丁をピックアップ。不動産情報会社東京カンテイのデータを元に算出した、その町丁が含まれる地区の中古マンション売り出し価格の上昇率(12年から16年まで)を重ねることで、「危険度が高いのに値上がりしている人気の街」を浮かび上がらせた。
須賀町は中古マンション価格の上昇率が高く、42平方メートル換算の賃料も13万円超と高め。JR中央線の信濃町駅と四ツ谷駅に東京メトロ丸ノ内線の四谷三丁目駅を加えた3駅からいずれも徒歩10分程度と交通の便もいい。長くこの地で暮らしてきた住民が高齢化し、代替わりのタイミングで土地が出るようになった。地元町会長の清水啓二さん(74)はこう話す。
「マンションが建ち始め、新しい住民が増えています」
表の上位には、ここ数年の街歩きブームで人気の台東区谷中や根岸、豊島区雑司が谷、新宿区神楽坂、足立区千住など、須賀町と同様に「交通の便がいい下町」が多く並ぶ。
東京カンテイの上席主任研究員、井出武さんの分析はこうだ。
「これまであまり注目されてこなかった『価格上昇の余地があるエリア』の価格が、実際に上昇してきている」
少子高齢化が進み日本全体の人口が減少に転じる中、東京都では16年まで20年連続で、転入する人が転出する人を上回る「転入超過」の状態が続いている。12年の政権交代以降、株高、円安の流れを受けて東京の新築マンションは2割以上値上がりし、一般消費者の手の届かない存在になった。だが、11年の東日本大震災で帰宅困難者があふれ、職場のある都心から遠いところに暮らすことへの不安は残る。結果、地盤が弱かったり木造住宅密集地域だったりしてハザードマップでは「危険」とされても、都心にあって交通の便がいい、いわゆる下町地区の需要が高まった──というわけだ。
東京都の地域危険度は「相対評価」。全体の防災力は調査開始時点に比べれば高まっているが、他のエリアに比べれば「危険」とされる土地で物件を売ろうとするディベロッパーの中には、「ハザードマップを強調しないようにしているところもあるそうです」とある不動産業者は打ち明けた。「住まいサーフィン」の澤邦夫さんは言う。
「外国人も増加しています。彼らは土地勘がないので、あまり安全ではないと思われる土地に知らずに住んでいることも多い」
●町内会に入らない住民
冒頭に登場した新宿区須賀町を歩くと、町内の道は細く入り組んでいて、車がすれ違いにくいところがある。街を一躍有名にした大きな階段があることからもわかるように高低差が大きく、目の前は崖という場所も存在した。地元住民は、「火事が燃え広がったりすると、場所によっては逃げ場が少ない」と自覚している。
危険度を下げるには耐火建造物への建て替えや道路の拡幅が必要だが、一朝一夕で済む話ではない。町会長の清水さんは、増え続ける新住民とのコミュニケーションが防災のカギになると考えている。
「新住民で町内会に入る人は少なく、いまは回覧板すら回せない状態。でも、ひとたび災害が起これば、町内の人の心を一つにしないと命は守れない。防災訓練が何よりも大事だと思うようになりました」
足腰が弱く一人で逃げられない人をどう救うか。入り組んだ道をどう通り抜けて避難場所に向かうか。一部でいまも残る「余ったおかずが隣から回ってくる」関係性の維持が防災上の課題だと清水さん。実は「住民間のコミュニケーション」は、「危険度が高いのに値上がりしている人気の街」に共通の悩みだ。
●無電柱化のメリット
JR常磐線、東京メトロ日比谷線、千代田線、東武伊勢崎線、つくばエクスプレスが乗り入れる北千住駅はその利便性が再評価され、大学誘致も進んだことで若い世代が流入。洗練された町に変貌しつつある。地元の不動産関係者によれば、駅付近の家賃は年とともに上昇中で、
「築浅物件だと学生向けでも7万円以上。ファミリー世帯も新築マンションには手が出ないので、築30年くらいのリノベーション物件が人気です。それでも、60平方メートル台の3LDKで3千万円はします」
駅周辺の街には古くからの戸建て密集地も残り、高齢者が多く住む。親の代から千住中居町に暮らす75歳の男性は言う。
「防災はダメだね。一応、火事になったときは、足の不自由なお年寄りを若いもんがリヤカーに乗せて移動させることになってる。でも、若者たちは昼は家にいないし夜も遅い。実際は難しいだろうね」
千住仲町の町内会副会長の宇田川匡男さん(75)も、
「若い世代と年寄りは、ほぼ交流がない。300円の町内会費すら払ってくれないんだから(笑)。マンション価格が上がったと言われても、恩恵を感じることはありません」
手をこまねいてはいられない。
やはり新住民が増えているという新宿区神楽坂6丁目では阪神・淡路大震災後、地元商店街を中心に年に1回、「神楽坂防災ふれあい広場」を開催している。地元の消防署と連携し区の助成金を得て、消火体験コーナーや商店街のスタンプラリー、防災食品の炊き出しなど、メニューはさまざまだ。商店街は03年ごろまでに、資金を出し合って無電柱化も実現した。商店街理事長の勝村忠三さん(74)は、
「道路が広くなって明るい雰囲気。消防車が通りやすくなって、交通事故も減った。防災面で大きなメリットがありました」
●地震以外のリスクも
表に名前のない街が「安心」だというわけではない。不動産コンサルティング会社さくら事務所の長嶋修さんによれば、昨今怖いのは「ゲリラ豪雨」だ。
「沿岸や川沿いではないところでも、下水の処理能力を超えれば浸水は起こる。『半地下』のある物件は要注意。想定以上の降雨を考え、浸水実績だけではなくハザードマップでチェックしたほうがいい」
例えば世田谷区。北部、中部は特に武蔵野台地の安定した地盤に支えられ、地震や水害に強いとされてきた。だが、世田谷区水害被害記録によると、台風や集中豪雨に伴い広範なエリアで床上浸水が発生している。
有名人も多く住む東急田園都市線沿いの高級住宅地でも、直近15年以内に14件の床上浸水が確認されている。付近はすり鉢状の地形で、傾斜を伝った雨が低地にたまりやすい。周辺には大手ディベロッパーが建設した瀟洒(しょうしゃ)な新築マンションも目立つが、そのうち少なくとも3物件は、1階部分が地面よりも低い「半地下」だった。
半地下は容積率が緩和され、建物全体の高さ制限にも資するため、低層住宅街の新築マンションに多く見られる。
確認した3物件は「低地」ではなかったが、前出の長嶋さんは今後、地震や洪水などのハザードマップが不動産価値を決めるようになる可能性があると指摘する。18年度から全国で本格的に「不動産総合データベース」の運用が始まる予定だからだ。
「不動産総合データベース」では、不動産に関する過去の取引履歴から住宅の情報、インフラ整備状況、用途地域などの法令制限データまで、これまで別々になっていた地域の情報が一元的に見られるようになる。国や各自治体が作るハザードマップもひもづけられる。
「一般公開されれば、ハザードマップで危険とされたところの不動産価値は上がりにくくなるでしょう。地盤が弱いと判断された場合は、地震保険の料率にも関わってくるかもしれません」(長嶋さん)
(編集部・福井洋平、作田裕史 編集協力/川越広慈、一ノ宮翔)
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