02. 2014年8月15日 19:18:32
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【日本株週間展望】堅調、内需優位に−ジャクソンホール警戒 8月15日(ブルームバーグ):8月3週(18−22日)の日経平均株価 は、1万5000円台前半で堅調に推移しそうだ。消費税増税後の最初の四半期に落ち込んだ国内景気は、政策対応期待もあり、回復に向かう可能性が高い。ウクライナなど地政学リスクは拭い切れず、パフォーマンスは業況の良い建設など内需株優位が見込まれる。 大和証券投資戦略部の日本株シニアストラテジスト、高橋卓也氏は「ミクロを見る限り、4−6月決算を終え増税後の一番厳しい今上期に増益を確保できる見通しになった」と指摘。マクロ面でも「海外投資家にいい顔をするため、アベノミクス再起動の可能性が高い」とし、政治イベントの多い秋口に向け、企業業績、株主資本利益率(ROE)など投資指標面からの再評価が進むと予想する。 第2週の日経平均は3.7%高の1万5318円34銭と反発、週間上昇率は4月以来の大きさとなった。ウクライナをめぐる欧米とロシアの対立、米国によるイラク空爆など地政学リスクへの行き過ぎた警戒が薄れ、欧米株式の反発 、前の週の1ドル=101円50銭台から102円台に戻した為替の円安推移が好感された。米国株オプションの指標で、投資家の恐怖心理を示すシカゴ・ボラティリティ指数(VIX )は今月初に4月以来の17台まで急騰した後、直近では12台まで低下している。 13日公表の日本の4−6月期国内総生産(GDP、1次速報)は、物価変動を除く実質で前期比年率6.8%減と大幅なマイナス成長となった。消費税増税前の駆け込み需要の反動で個人消費が落ち込み、減少率は東日本大震災のあった2011年1−3月期(6.9%減)以来の大きさ。バークレイズ証券のチーフエコノミスト、森田京平氏も「同期の景気が惨憺(さんたん)たるものであったことを示した」と振り返る。 既に上向き統計も、1997年との違い ただ森田氏は、7−9月期GDPについては年率3%増と「潜在成長率を十分上回るスピードで伸びる」と予測。景気先行指標の公共工事請負金額、住宅建設工事受注額などが上向き、7、8月の製造工業生産予測指数が水準を切り上げている状況に言及した。公共工事前払金保証統計によると、直近公表分の7月の請負金額は前年同月比3.5%増となっている。 バークレイズ証では、前回消費税率を引き上げた1997年は公共投資の削減、消費税以外の家計負担増、アジア通貨危機による輸出減少、国内金融システム問題を背景にした設備投資の急減、在庫過剰感の急上昇があったと指摘。しかし、今回はこうした動きが見られず、7−9月以降の景気回復をメーンシナリオに置く。通常国会終盤を憲法解釈問題に費やした安倍晋三首相は、月刊誌「文芸春秋」の9月号にアベノミクス第2章起動宣言を寄稿。経済成長こそ私の政権の最重要課題とし、景気回復の実感が全ての国民に行き渡るまで手を打ち続ける、と記した。 仏運用会社のコムジェストで、日本株ポートフォリオ・マネジャーを務めるリチャード・ケイ氏は最近来日し、50社以上の上場企業を訪問した。製造業の設備投資回復、人手不足に伴う賃金上昇、五輪開催をにらむインフラ投資などは「世界情勢、消費税増税にかかわらず、何回も出てきているテーマで、これらの底堅い実態が株価に反映されるのは時間の問題」と、日本株の先高観を維持している。 QE3後の予想図に注目 一方、地政学リスク、米国の量的緩和策の縮小(テーパリング)に伴うマネーフローの変化には不透明感が強く、海外要因には引き続き警戒が必要だ。欧米とロシアの制裁合戦に発展したウクライナ情勢は、特に近隣の欧州経済にダメージを与えつつある。ユーロ圏最大の経済規模を持つドイツの4−6月GDP はマイナス成長に転換、8月の独景況感指数は8カ月連続で低下した。 米国では、21日からワイオミング州のジャクソンホールでカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムが開かれ、連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が出席する。リーマン・ショックの後遺症が続いた4年前のシンポジウムでは、当時のバーナンキ議長が講演で非伝統的手段を通じた金融緩和策の追加発動を示唆、その後11月の連邦公開市場委員会(FOMC)で6000億ドルの米国債を買い取る量的緩和第2弾(QE2)に踏み切った。 FRBは7月のFOMCまで6会合連続で毎月の債券購入額を縮小しており、10月には量的緩和第3弾(QE3)が終了する。労働市場の余剰感から、イエレン議長は終了後も相当な期間、低金利を維持する公算が大きいとしているが、「いずれどこかで利上げするため、金融相場から業績相場への移行期に株価が下がることに警戒感がある。その方向性を今回示すのかどうか、注視される」と大和証の高橋氏は話す。 FRB首脳が重要な発言をするとの認識が市場で浸透しており、ジャクソンホール待ちの姿勢が株価指数の上値を抑える可能性がある。第2週の東証1部業種別33指数は、海運や保険、建設、鉄鋼、空運、パルプ・紙、陸運などが上昇率上位 に並び、相対的に内需関連株が強かった。第3週も建設 や紙パなど地政学リスクに左右されにくい業種優位の展開になりそうだ。 記事についての記者への問い合わせ先:東京 院去信太郎 sinkyo@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:Sarah McDonald smcdonald23@bloomberg.net浅井真樹子, 院去信太郎 更新日時: 2014/08/15 16:04 JST アングル:民間の物価見通しが日銀にすり寄る、「追加緩和は後退」の声 2014年 08月 15日 16:48 JST [東京 15日 ロイター] - 2014年4─6月期国内総生産(GDP)を受けて、民間調査機関では14年度成長見通しを下方改訂する動きが相次いでいる。
その一方、物価見通しは据え置き、ないし上方修正の動きが浮上。結果として、日銀による14年度消費者物価指数(CPI)見通しに民間が徐々にすり寄った形になっている。市場では、日銀による追加緩和決断の理由が乏しくなってきたとの声が広がっている。 <成長率大幅下方改訂、物価見通しに影響せず> 4─6月期GDP発表後に経済見通しを見直した第一生命経済研究所では、14年度の成長率を6月の0.8%成長から0.4%成長に下方改訂した。だが、コアCPI(増税を除くベース)見通しは1.2%で据え置いた。 日本総研も、成長率は0.4%に下げながらCPIは1.3%で据え置き。三菱総研はCPIを増税込みで5月の3.0%から今回3.3%にむしろ上方修正している。 日銀が公表している14年度の物価見通しは1.3%、増税込みで3.3%であり、3社ともほぼこれに見合った見通しとなっている。 民間調査機関40社以上の見通しをまとめたフォーキャスト調査では、このところ毎月のように物価見通しが上方修正されており、8月調査では平均で14年度1.14%まで上昇している。 年初から一貫して上方修正が続いており、民間見通しが日銀見通しの1.3%にかなり接近するのは時間の問題と言えそうだ。 <人手不足や賃金上昇で、成長率低下と物価上昇が両立> こうした民間見通しには、成長率の低下と物価の上昇は両立しうるという認識が映し出されていると言えそうだ。 通常であれば、GDPが下方改訂されれば需給ギャップがマイナス方向に拡大し、物価に下押し圧力がかかるはず。 だが、今回そうした見方はさほど広がっていない。年度の成長率見通しを下げた調査機関が多いが、その大きな要因は4─6月の悪化で14年度の発射台が低くなったことだ。7─9月以降の各四半期成長率はプラス1%台を超え、ゼロ%台半ばの潜在成長率を大幅に上回ると予想されている。 潜在成長率を上回る成長が継続すれば、需給ギャップは改善傾向をたどり、物価上昇方向に働くという「論法」だ。 さらに、日本総研では「成長率は下がっても、人手不足という構造的な状況は変わらない。特に非製造業では賃金上昇は変わらず、そのために物価上昇基調も続く」(下出裕介・副主任研究員)との見通しを打ち出している。 実際、リクルートによる「アルバイト・パート募集平均時給調査」を見ると、3大都市圏では足元で賃金上昇に拍車がかかっている。5月は前年より1%、6月も0.8%と、アベノミクスが始まって以来例を見ない上昇幅を記録しているほか、あらゆる職種で時給上昇の現象が起きている。 一方で、増税に伴う物価上昇の大きさに所得増が追い付かないとの見方が根強い。だが、内閣府は足元での実質所得の目減りが今は大きいとしても、夏のボーナスや公務員の人事勧告の実現など、今後徐々に増加方向にトレンドが転換することに自信を示している。アルバイト・パート賃金の上昇傾向が強まっていることも、そうした自信を裏付ける1つの材料となり得るだろう。 民間でも、三菱総研が「消費税の3%分の世帯当たり負担額は平均で6.7万円。春闘の結果から試算した収入増加額は年間5.3万円、就業者の増加で世帯当たり2.6万円分に相当する分を加味すると、マクロ全体では消費増税分を吸収できる計算」(チーフエコノミスト・武田洋子氏)と指摘する。政府や日銀の強気な見方をサポートする分析と言える。 <14年度の日銀物価見通し実現へ、追加緩和なしか> もともと日銀では、14年度の物価見通しを立てる際に、昨年の円安や原材料高の転嫁が1年のタイムラグを経て、今年本格化するとみていた。 加えて失業率が3%台半ばまで下がると賃金上昇は避けられない、との見通しも持っていた。いずれも、その見立て通りの展開となってきたと言えるだろう。 マーケットではつい数カ月前まで、エネルギー価格のプラス寄与縮小によりCPIコアの上昇率が鈍化し、CPI上昇率は1%を割れるとの見方が主流だった。しかし、今やそうした見方は少数派だ。 第一生命経済研究所では「上昇率が最も低下するとみられる14年秋でも、消費税要因を除くベースでプラス1%を下回らない」と予想。むしろ「14年後半にはエネルギー価格の上昇に頼らない形での物価上昇が実現することになり、物価上昇の質は改善するだろう」(主席エコノミスト・新家義貴氏)としている。 それでも市場の一部では、4─6月の景気が悪化すれば、追加緩和の可能性が高まるとの見方も残っている。 ただ、多くの民間調査機関は、成長率が悪化しても物価上昇見通しに影響はないとの見立てを打ち出しており、少なくとも14年度については日銀見通しの実現の可能性も否定できなくなっている。 「10月の展望リポートで成長率見通しを下方修正しても、物価が見通しに沿っている限り、追加緩和するとは思えない」(SMBCフレンド証券・チーフマーケットエコノミスト、岩下真理氏)といったBOJウォッチャーらの見立てが、今後の市場で一段と浸透してもおかしくなさそうだ。 (中川泉 編集:田巻一彦) コラム:GPIF爆弾の衝撃、円安効果6円は絵空事か=植野大作氏 2014年 08月 15日 12:26 JST 植野大作 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト
[東京 15日] - 近い将来に開陳されることになりそうな公的年金運用改革への期待が、外国為替市場関係者の間で、具体的なイメージを伴いつつ一段と高まっている。 きっかけは、昨今相次ぐ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用比率見直しに関する報道だ。 今月7日、ロイターは複数の政府・与党関係者への取材を通じ、「GPIFの運用改革は、焦点となっている日本株への配分を20%超に増やすことを想定し、9月末にかけて調整を本格化させる見通しである」と報じた。 10日付の日本経済新聞によれば、5日に開かれたGPIFの運用委員会で、9月に新たな資産割合を決めるまでの暫定措置として、現在は「基本12%(かい離許容幅は上下6%)」と定められている国内株保有比率の上限の撤廃を決めていたことも明らかになっている。国内債券に偏重していた従来型の公的年金の運用スタイルは、デフレ脱却を国是に掲げる安倍政権のイニシアチブの下で前倒し気味に加速しているようだ。 安倍首相が今年1月のダボス会議で述べた「GPIFの運用をフォワードルッキングに見直す」との国際公約が、年金運用の「脱・デフレ仕様へのモデルチェンジ」という形でいよいよ具体的に動き出しそうな気配が濃厚だ。 <2011年の為替介入では4円近く円安に> 今後の焦点となるのは、各種投資資産への具体的な基本運用配分だ。これまでに伝えられた諸々の観測報道によれば、現在60%に設定されている国内債券の比率を40%程度まで引き下げることは概ね決まっているようである。 浮いた20%分の資金の振り向け先としては、1)現在12%に設定されている日本株への投資比率を20%超に引き上げるほか、2)外国債券への投資配分を現行の11%から16%程度に引き上げる、3)外国株式への投資比率を現在の12%から17%に引き上げる、4)インフラ投資やプライベートエクイティなどの代替資産に数%程度の新規投資枠を設ける、などの案が浮上しているようだ。 周知のように、GPIFは直近の運用資産総額が約126兆円に達している世界最大の年金基金である。機械的な単純計算によれば、「1%ポイントの運用資産配分の変更が1.2兆円を超える資金フローインパクトを各種アセットクラスに及ぼす」との印象を与えるため、現在報じられているような思い切った運用配分の見直しが「確定報道」の形で公表されれば、外国為替市場で「円安系の需給トーク」を刺激するのは、ほぼ確実である。 例えば上記のような形でGPIFの運用比率見直しが実施された場合、日本株への運用配分が引き上げられるだけでなく、外国債券、外国株式への運用配分もそれぞれ5%ポイント、合わせて1割程度増えることになるため、「GPIFの運用指針変更の結果として相当な金額が外貨資産の購入に向かう」との思惑が生まれることになる。 運用資産126兆円の1割なら12.6兆円にもなり、現在の日本の貿易収支赤字の1年分にも比肩できる金額になる。筆者も含めた外国為替市場関係者は、「他人の売り買いに関する噂話」を非常に好むという性質を持っており、マーケットの期待形成に影響を与えることはほぼ確実だ。 仮に上記の単純計算で「メカニカルに12.6兆円もの円売り・外貨買いが発生する」との期待が外国為替市場に流布した場合、おそらくは「ドル円相場の水準が6円以上動くかもしれない」との思惑が発生する可能性はあるだろう。 「まとまった規模の為替ノーヘッジ資金」が動く際にドル円相場が示す反応は、その時々の外為市場の地合いによってマチマチだろうが、例えば2011年10月31日の午前10時25分頃から財務省が8兆0722億円のドル買い・円売り介入を実施した際のドル円相場のプライスアクションをみると、1ドル=75.60円台から79.50円台へと、最大瞬間風速で約4円近くも吹き上がっている。 「8兆円で4円」の円安インパクトがあったという事実が目撃されていることを勘案すると、「12兆円の外貨買いなら6円の円安」といった程度の連想がシンプルなだけに共有されやすいだろう。結構な円安期待が発生する可能性がある。 <効果の半分はクロス円に分散か> もちろん、GPIFの基本運用配分の変更によって実際に動く年金資金の量は、当該時点における保有資産の時価を反映して日々変化する「実際の運用資産比率」と「新たに決まった運用配分」との高低差によって決まるため、「基本ポートフォリオの変更幅×運用資産残高=新規に動く資金量」になるとは限らない。 仮に上記の試算で弾き出されたのとほぼ同額の資金移動が発生した場合でも、全てがドル円相場を直撃するわけではなく、恐らく半分ぐらいはクロス円相場に分散する形で染み出ていくとみられる。 また、「年金資産運用」と「為替市場介入」では外貨を購入する目的や方法が全く違うため、実際にGPIFの運用資金が動く場合のインパクトは、瞬間的には目に見えず、漢方薬のようにジワジワ出てくる可能性もある。その場合、GPIFマネーが動くことによって生じる為替相場へのインパクトは、ハッキリと目視できない可能性もある。 これらの諸点を考慮すると、「GPIFによる約1割の外貨資産運用配分引き上げで6円程度のドル円相場押し上げ要因」とのイメージは、相当割り引いて3円程度とみておくほうが無難、との考え方もあるだろう。 だが、上述の試算の根拠となった11年10月31日の10時25分頃に開始されたドル買い・円売り介入は、全てが「成り行き注文」でドル円相場の水準押し上げに投入されたのではなく、11時45分頃から15時00分頃まで、1ドル=79.20円付近に大量の「指値買い注文」を入れる形で下値サポートに回った分が相当あった。 相場にタラレバはあり得ないが、もしも当時のドル買い・円売り介入が、途中からドル円相場の下値サポートに回らずに、全部成り行き注文で水準押し上げに使われていたとしたら、ティックの吹き上がり幅は多分4円で済まなかったはずだ。もしもそうなら、「8兆円で4円」という円安インパクトの見積もりは、潜在的にはもう少し大きかった可能性がある。 また、もしもGPIFが今年の秋頃までに思い切った資産配分の見直しに着手した場合、今後GPIFとの統合が決まっている年金基金やその他の民間年金基金などの資産運用スタンスにも類似の影響が及び、「日本の年金マネー全体=200兆円超」を母体にして外貨資産に染み出ていく資金量が、時間差攻撃のような形で増える可能性もある。 為替市場に過去と同一の局面は存在しないので断定はできないが、これらの諸点を勘案すると、「GPIFによる約1割の外貨資産への運用配分引き上げで6円程度のドル円相場押し上げ要因」とのイメージは、あながち間違っておらず、もしかするとそれを凌駕するインパクトが及ぶ可能性もあるだろう。GPIF爆弾が炸裂した場合のドル円相場へのインパクトは、保守的にみて3円、積極的にみると6円超の円安期待を産むのではなかろうか。 いずれにしろ、GPIFによる運用資産配分の見直しは、そう遠くない将来、「注目のヘッドラインニュース」として報じられることになりそうだ。その際、新たに決定された運用比率見直し幅の大きさによっては、その瞬間のドル円相場、あるいはクロス円相場における「ティック仁王立ち要因」になる可能性がある。 本稿で述べたように、その後、実際に外国為替市場に持ち込まれる外貨買い・円売りの資金フローがもたらすプライスアクションへのインパクトを定量的に見積もるのは困難だが、当該資産配分の移行が完了すると推測されるまでの期間において、相応の円安期待を刺激することは間違いないだろう。 筆者の勝手な思惑だが、恐らく安倍首相が消費増税第2弾の是非を決断すると言われている今年11月下旬から12月上旬までの前にはGPIF運用スタイルのモデルチェンジの具体像が公表されるのではなかろうか。心静かに「その時」が訪れるのを待ちたいと考えている。 *植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here) *本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
日銀が14年度成長率を下方修正へ、4回連続−追加緩和の公算も (1) 8月15日(ブルームバーグ):日本銀行は2014年度の実質国内総生産(GDP)見通しを4回連続で下方修正する可能性が浮上している。期待していた輸出の回復が遅れていることで、消費税率引き上げ後の個人消費の落ち込みをカバーできず、4−6月の実質成長率が大幅に落ち込んだことが背景にある。関係者への取材で明らかになった。 日銀の現在の14年度実質成長率の見通し(政策委員の中央値)は1月に1.5%から1.4%へ、4月に1.1%へ、7月に1.0%に下方修正された。関係者によると、10月31日に新たに策定する展望リポートで4度目の下方修正となる可能性がある。 実質成長率見通しがさらに下方修正されれば、日銀が2%の物価目標の実現に向けて重視している需給ギャップの面から物価を押し上げる力が弱まるため、黒田日銀が追加緩和に追い込まれる可能性が高まってくると市場関係者はみている。 モルガン・スタンレーMUFG証券の山口毅エコノミストは13日のリポートで、14年度実質成長率の日銀見通し(1.0%)を達成するためには、残り3四半期で平均前期比年率4.4%程度の高成長が必要で、「もはや非現実的」と指摘。再度の下方修正は不可避だろうとした上で、「10月緩和の可能性を過小評価すべきでない」としている。 黒田東彦総裁は8日の会見で、「中長期的に物価上昇を決定していく大きな要因としては、需給ギャップの動きと人々の予想物価上昇率の動きの2つが非常に重要であるということは、いろいろな研究で示されている」と指摘。「2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するという政策を考える上でも、この2つに注目している」と述べた。 日銀のシナリオに逆風 日銀は需給ギャップ改善と期待インフレ率上昇を背景に、15年度を中心とする時期に物価安定目標の2%に達するとしている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは、成長率見通しが一段と下方修正されれば、「日銀のシナリオに逆風だ」と語る。 六車氏はさらに、「日銀は展望レポートでゼロ%台に成長率の見通しを下方修正することとなろう。そうなると、物価見通しの根拠の1つである『需給ギャップ改善』は滞る」と指摘。「その時点でコアCPIが鈍化したままで再加速の気配がみられていなければ、日銀は追加緩和を検討せざるを得なくなってくる」という。 黒田総裁は8日の会見で、「私どもの見通しでは潜在成長率を上回る成長が14年度、15年度、16年度と続く見通しであり、需給ギャップは引き続き改善し、プラス幅をさらに拡大していくとみている」と指摘。また、「物価に重大な影響を与える要因に動きがあり、目標達成にリスクが生じることがあれば、当然、金融政策の調整は行う」と述べた。 「潜在成長率下回る可能性あまりない」 展望リポートで14年度の成長率を一段と下方修正し、0.5%前後とみられている潜在成長率近辺まで成長率が下がった場合、ちゅうちょなく調整を行うのか、という記者の質問に対し、黒田総裁は「0.5%前後、あるいはそれ以下と言われている現在の潜在成長率を下回る可能性はあまりないと思う」と言い切った。 4−6月のGDPの発表を受けてブルームバーグ・ニュースが13日から14日にかけて実施したエコノミスト調査では、14年度の実質成長率見通しは平均で0.4%増まで低下した。 日銀が重視している需給ギャップ改善と期待インフレ率上昇のうち前者に疑問符がつき始めているが、後者も決して盤石ではない。黒田総裁は「予想物価上昇率は全体として上昇している」と繰り返しているが、日銀内では期待インフレ率はほとんど動いていないとの声もある。 関係者によると、コアCPIの伸び率が目先1%台前半まで鈍化することで、期待インフレ率はむしろ低下するのではないかと懸念する向きもある。 異なる2つのチャート 7月14、15日に開かれた金融政策決定会合の議事要旨によると、ある委員は「各種アンケート調査における家計や市場参加者の予想物価上昇率をみると、分布の上方シフトがみられる一方、平均値は明確には上昇していない」と指摘した。 市場のインフレ予想について、黒田総裁と木内登英審議委員が最近の講演で示したチャートが市場の一部で話題となっている。総裁が引用した物価連動国債から導かれるBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)は上昇しているように見えるが、木内委員が示した新物価連動債のBEIとインフレ・スワップ・レートはほぼ横ばいにとどまっている。 JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは総裁のチャートについて「過去に物価連動国債の発行が中断されていたこともあり、旧物価連動国債の残存年限は5年を下回っているほか、市場が極端に薄いこともあって需給で価格形成が行われる傾向が強く、期待インフレ率とは異なるというのが市場での平均的な見方だ」と指摘。 一方で、木内委員のチャートを見る限り、「過去1年間の市場で計測される期待インフレ率はおおむね横ばい圏内であったことが分かる。木内委員の添付チャートの方が適切に思える」という。 三井住友アセットマネジメントの武藤弘明シニアエコノミストは成長率の大幅な落ち込みで「年度後半以降の物価上昇加速のためのハードルは一層切り上がった」と指摘。シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「市場では追加緩和はもう見込めないとの見方も増えてきたが、むしろその可能性は高まったように思われる」としている。 記事についての記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:Brett Miller bmiller30@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net上野英治郎, 崎浜秀磨 更新日時: 2014/08/15 14:12 JST |