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ワタミ過労死、なぜ1億5千万の懲罰的慰謝料請求?ワタミは責任認めず、争う姿勢
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140719-00010000-bjournal-bus_all#!bhW5Vy
Business Journal 7月19日(土)3時0分配信
居酒屋チェーン大手ワタミの新入社員(当時26歳)が月140時間を超す残業の末に過労自殺した2008年6月の事件をめぐり、昨年12月、亡くなった社員の両親は、同社と渡邉美樹前会長(現参議院議員)らを相手取り、遺族一人につき7650万円(計1億5300万円)の慰謝料支払いを求め、東京地裁に提訴した。
一般的に生命侵害の慰謝料の場合、遺族一人につき2500〜3000万円が相場といわれている。にもかかわらず今回の請求が通常の2〜3倍と高額なのは、ワタミに対する「懲罰的」な判決を出すことを、遺族が裁判所に求めているからだ。
日本では聞き慣れない「懲罰的慰謝料」とは、いったいどのようなものなのか? 今回は、国を相手に勝訴した東京海上火災保険過労死裁判【編註:同社横浜支店長付き運転手の過労死が2000年、最高裁で認定】などで代理人を務め、本件でも遺族側代理人を務める玉木一成弁護士に、その法理と認められた際の影響などについて聞いた。
●日本における懲罰的慰謝料の実態
--訴状には「本件のような過労死を招来した場合に、慰謝料を含む損害賠償額が高額に認容されなければ、企業による過重労働の悪弊を抑止できない」とあります。ワタミに対する懲罰と、悲劇の再発阻止を目的に慰謝料を通常より高額にすべきであるとの主張ですが、そもそも「懲罰的慰謝料」とはどのようなものでしょうか?
玉木一成弁護士(以下、玉木) 「懲罰的慰謝料」や「制裁的損害賠償」は、基本的にはアメリカやイギリス、オーストラリアなど英米法の国で認められているものです。ただし英米法のすべての国が認めているわけではなく、アメリカの中でも規定がある州もあればない州もあります。
原告女性が1億5000万ドルの懲罰的慰謝料を請求した北米トヨタ自動車セクハラ事件(06年8月和解)などは、日本でも比較的よく知られている裁判でしょう。
--これまでに日本国内で認められたことはあるのでしょうか?
玉木 日本における損害賠償制度は、被害者が受けた損害を元に戻す「填補」であると考えられているため、認められたケースは基本的にはありません。学会でも、制裁的損害賠償や懲罰的慰謝料を認めている法学者は現在のところごく少数派です。
--ではなぜ今回の提訴では、あえて懲罰的慰謝料を請求されたのですか?
玉木 たしかにこれまでの判例などからは、日本の裁判所が懲罰的慰謝料を正面から認めるのは難しいのですが、被告の犯した行為がきわめて悪質だったり交渉態度が誠意を欠いている場合は、これにより被告が「いっそうの精神的苦痛を受けた」という理由で慰謝料の増額を認められるケースがあるからです。交通事故をめぐる慰謝料請求でも多いですし、02年に三菱自動車製大型トレーラーのタイヤが脱落し、直撃を受けた母子3人が死傷した事故では、07年、死亡した主婦の母親が起こした裁判で、多額の慰謝料支払いを最高裁が認めました。
この裁判では、原告は当初1億6550万円を請求しており、そのうち約1億円が懲罰的慰謝料とされていました。この時も最高裁は、懲罰的慰謝料の請求は棄却していますが、通常の裁判で認められる一般的な慰謝料が200〜300万円といわれているところ、550万円の支払いを命じています。
--建前では懲罰的な性格を認めなくても、裁判官は実質的には懲罰的な意味で慰謝料を増額することがあり、その額が事実上の判例として機能していくということでしょうか?
玉木 そう考えてよいと思います。慰謝料だけで2〜3億円という話になれば裁判所としても裁量の範囲外ということになるでしょうが、今回のような額であれば、増額は妥当であるというのが私たちの考え方です。
--これが認められれば、過労死の抑止力になるでしょうか?
玉木 ワタミのような企業が従業員を長時間残業させることで得ている利益は、すさまじいものがあります。そうした企業にとって、1億円はさほど財務が痛む額ではないという考え方もあるでしょう。
しかしそれだけ高額な慰謝料が認められるということは、すなわちその会社が常軌を逸して悪質な人事政策を行っていたことを、裁判所も認定したということになります。企業のブランドイメージは相当の打撃を受けるはずです。
そうした意味では、今回の訴えが認められれば社会的な影響が非常に大きい判決になるでしょうし、私たちも認めさせなければいけないと思っています。
●機能しない、刑事罰・行政的制裁
--ただ一方で、民事ではなく刑事罰や行政的な制裁で対応すべき、という考え方もあり得るのでは?
玉木 最高裁がこれまで懲罰的慰謝料を課さないのも、そうした考え方に基づいてのことです。ただ日本の場合は、労働基準法に違反した企業を刑事で罰するのはきわめてハードルが高いという現実があります。36協定【編註:企業が法定労働時間を超えた時間外労働を従業員に命じる場合に、労働組合などと締結する協定】で特別条項を結んでさえいれば事実上青天井の時間外労働をさせられる日本と違い、他の先進国では長時間労働自体が厳しく規制されています。
もちろん日本の労働基準法にも刑事罰はあるのですが、労働基準監督官が絶対的に不足していることもあって、実際に刑事罰が適用されるケースは非常に限られていますし、仮に有罪が確定しても20〜30万円の罰金で済むことが多いと思います。本来行われるべき刑事・行政による制裁が機能していない以上、こうした過労死のような被害が生じた場合には、懲罰的な損害賠償をする合理的理由はあると思います。
--今後、裁判はどのような展開になると予想していますか?
玉木 ワタミ側は争ってくるでしょうし、遺族も和解には応じないでしょう。ワタミは今回の提訴に先立って民事調停を申し立てており、それ以前に相当額の和解金を支払うという案は提示しています。ただそれはあくまで損害賠償額を確定させるのが目的であって、自らの法的責任、安全配慮義務違反は一切認めようとしませんでした。「ここでお金だけをもらって終わりにしたら、私たちは娘を2度殺したことになる」という覚悟で闘っている遺族にとっては、到底受け入れがたいものだったのです。遺族は自分の娘と同じような目に遭っている労働者がいまも無数にいることを知っています。仮に今回の損害賠償が認められないとしても、その時は悪質な労務管理を規制する別の方法が議論されなければならないでしょう。遺族も私も、そうした問題意識を持って裁判に取り組んでいます。
※本稿は「ZAITEN」(財界展望新社/3月号)掲載記事を加筆・修正したものです。
構成=古川琢也
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