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福島第1原子力発電所の吉田昌郎元所長=福島県大熊町で2011年11月、代表撮影
福島原発:吉田元所長の聴取書 検察、差し押さえ
http://mainichi.jp/select/news/20130204k0000m040126000c.html
毎日新聞 2013年02月04日 02時30分
東京電力福島第1原発事故の刑事責任の有無を捜査している検察当局が、政府の事故調査・検証委員会が作成した吉田昌郎(まさお)・元同原発所長の「聴取書」などを差し押さえたことが分かった。元所長は体調不良で事情聴取が難しいとされ、立件の可否を判断するには聴取書が不可欠と判断したとみられる。だが、政府事故調は原因究明重視の立場から刑事責任を追及しない前提で聴取書を作成しており、議論を呼ぶ可能性もある。
政府関係者らによると、政府事故調は原発事故発生から約5カ月後に吉田元所長の聴取を開始。やりとりは録音し、聴取は複数回、計数十時間に上った。これに基づき聴取書を作成し、その上で事故の報告書をまとめ、12年7月に公表した。
報告書によると、東電は08年、従来の想定を大幅に上回る最大15.7メートルの津波を独自に試算。吉田元所長は当時、東電本店の原子力設備管理部長で具体策を検討する立場だったが、「(15.7メートルは)第1原発に最も厳しい試算をした結果に過ぎず、津波は来ない」などと考えて対策を先送りしたとされる。
検察当局は12年夏から業務上過失致死傷容疑などの告訴・告発を受けて捜査を開始。立件には「津波による全電源喪失を予見できたか」が最大の焦点となるため、吉田元所長への聴取を打診した。しかし、東電関係者らによると、食道がんや脳出血があったと公表されている元所長の体調は、政府事故調に聴取された時よりも悪化し、実施はほぼ不可能という。
こうした状況から検察当局は、当時の検討状況が記載されているとみられる聴取書の入手が欠かせないと判断。必要な部分を選んだ上で、裁判所に差し押さえ令状を請求し、認められた。【吉住遊】
◇吉田元所長の政府事故調に対する証言骨子
・15メートル超の想定津波は、三陸沖の地震が福島県沖に仮に発生するとした場合の最も厳しい試算であり、実際には来ないと考えていた
・設計基準を超える自然災害が発生することや、それを前提とした対処を考えたことはなかった
・(複数の原子炉の全電源喪失という)これまで考えたことのなかった事態に遭遇し、次から次に入ってくる情報に追われ、重要情報を総合的に判断する余裕がなくなっていた
・(1号機の海水注入について)本店から中断の指示があったが、原子炉の状態が悪化の一途をたどるだけと考え注水継続を指示した
=報告書より
◇解説 訴追目的に慎重論も
検察が政府事故調の「聴取書」を差し押さえるという異例の対応をとったのは、事前の津波対策や原発事故の現場指揮にあたった「キーマン」の認識を把握することが不可欠とみているためだ。だが、刑事訴追を前提としない事故調査のあり方に影響を与えることも考えられる。
大規模事故に対し、捜査当局は業務上過失致死傷罪などが成立するか否かに眼目を置くのに対し、事故調は原因究明を主眼とする。97年に三重県上空で日航機が乱高下して1人が死亡し13人が重軽傷を負った事故では、検察側は航空事故調査委員会(当時)の調査報告書を証拠として請求。業務上過失致死傷罪で起訴された機長(後に無罪確定)の弁護側は「調査の目的は事故防止にある」と反発。この時は裁判所が刑事裁判への利用を認めたが、慎重論も根強い。
原発事故でも政府事故調の畑村洋太郎委員長は「責任追及は目的としない」と強調。吉田元所長ら東電関係者が黙秘権を告げられることはなく、作成された聴取書は公表されていない。こうした経過を念頭に置いてか、検察関係者は「(差し押さえは)必要な範囲にとどめたはずだ」と説明する。
池田良彦・東海大法学部教授(刑事過失論)は「原因究明をより重視するのは世界的潮流。過失犯の処罰のあり方を含めたルール作りも急ぐべきだ」と話す。【吉住遊】
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