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≪鼎談―「中東混迷」を読み解く≫≪ヨーロッパ、アラブから見た「トランプ問題」≫
宮家邦彦 イギリスとフランスはやり方が微妙に違います。フランスは、あなた方はムスリムだろうが何だろうがいいですよ、自由ですと。その代わりフランス人になりなさい。そして、あなたの心で何を考えてもいいけれど、フランス人になって、フランス語をしゃべって、フランスの価値を重んじなさい。だからスカーフはダメですよと。
本音はスカーフなのではなく、ムスリムがイヤなのです。しかし、フランスの国是からそんなことは言えない。
イギリスは全く逆。どうぞ、皆さん、イギリスに来てください。文化もそのままで結構です。だけど、あなた方は、私たちの住むところとは別のところ、郊外に行って下さい。そこで自由にやって下さい。モスクでも何でも建てて下さい。だけど、あなた方をわれわれの世界には入れません。これがイギリスのやり方です。私は英仏どちらも失敗したと思います。
ドイツは英仏とも違い、外国のイスラム教徒はお客さまのままです。うまくいっているのかどうか分かりません。
≪フランスは「同化」、イギリスは「放置」、ドイツは「共存」≫
山内昌之 私も同じだと思います。少し整理すると、フランスは基本的に同化政策。
宮家 そうです。
山内 したがって、フランスの共和国憲法と三色旗。フランス革命の理念の自由・平等・博愛が厳然としてあり、そのもとにおいて、すべての人間はは民族や信仰の差は問われないというものですね。
誤解のないように言っておくと、脱カトリック。ライシテ(世俗主義)つまり政教分離政策を進めて、政治を宗教から離脱させてフランス市民としての帰属を基本としてきました。
イギリスは、宮家さんのご指摘どおりですが、敢えて言うと「放置主義」「放置政策」。受け入れるけれども、放置しておく。まさに都市近郊集落のことに触れられましたが、たとえばシェフィールドから10キロ離れたロザラムで起きた事件はあまりにもおぞましい。パキスタン系男性たちの性暴力を放置した結果、文明論的な復讐心や劣性・優位のコンプレックスなどが相まって、社会に対する不満を持つ若者が、イギリスの白人少女など1400人を拉致監禁し人身売買する事件が起きた。いつの間にかムスリムが多数派になった共同体との文明論や宗教上の軋轢を避けたい地元警察は人種差別問題にすり替えられることを危惧して関わろうとしない。こうしたスキャンダルがフランスやドイツでは起こりにくいのに、イギリスで起きた一因は放置主義政策を取っているからです。
ドイツは、ナチスのホロコースト(の経験から)…単純に他民族、他信仰、他人種を排除したり、差別したり、あるいは同化することを、なかなかできない。また、放置することもできません。そうすると、「共存」を理念としては認めざるを得ない。ドイツ人は、「受け入れなければならない」という強迫観念にも似た義務感を持っていました。それは理想としては立派だが、実際に受け入れてしまうと、善意や使命感だけではなかなかうまくいかないという現実に、一番リアルに直面しているのがドイツ人なのでう。
≪アメリカは「多からなる一」から創出する≫
山内 一方、アメリカは、これらの国々と比較すると、「融合」から「創出」するという側面がありました。
もともと「多」から成っている「一」なのです。北米大陸に多くの民族や人種が最初は欧州からやってくる。それが時にはメルティングポット、人種の坩堝の中で融合することが理想とされ、「多からなる一」としてアメリカ人を無から作り上げてきたという「神話」です。アングロサクソン、WASP、だけでなく、のちにカトリックもやってくる。ユダヤ教徒も入国してきた。そのあとアジアから仏教系や、神道系、儒教系の移民も入って来る。そして今大きな存在になったのがムスリム市民なのです。
そのときにアメリカは伝統的に作ってきた「多からなる一」としてのアメリカ人の創出が本当にできるか、できないか。おの根本原理がかなり挑戦を受けています。それをある意味で白人、すなわちWASPなどに繋がる古典的なアメリカ人によるアメリカ観への回帰を強調したのが、今回のトランプだと思います。
宮家 そうです。
山内 しかし、このメルティングポットであるかどうかも本当は疑義があります。
【出展】
「中東とISの地政学〜イスラム、アメリカ、ロシアから読む21世紀」」山内昌之編著/朝日新聞社’17年
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