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≪はじめに−悲劇の氾濫の中で/姜尚中≫
一つは、人間が、歴史が、そして世界史が大きく旋回していくのは、悲劇的な出来事によってであるということ。
もう一つは、すべてがどこかで繋がっているというたった一つの世界であり、世界史と言える歴史を生きているということである。
第一章 液状化する国民国家とテロリズム
内田 フランスはイスラム系の移民を500万人(人口の1割)近く抱えている。そしてこの1割の市民たちはフランス社会に適切に統合されていない。パリ郊外の(バンリュー)と呼ばれる巨大なスラムがあります。イスラム系市民はそこに押し込められている。そこで生まれた移民の子どもたちは、社会的上昇の機会を制度的に奪われている。
バンリューを舞台にした映画『憎しみ』や『アサシンズ』がある。移民の青年たちの日常生活をドキュメンタリータッチで撮った作品で、社会的に排除された青年たちがしだいに凶悪な犯罪に手を染めて行く様子が活写されています。
バンリューの中学校に勤めていた女性教師と話したことがあるが、彼女によると、バンリューには文化的なものが何もない、と。美術館も図書館もコンサートホールも本屋も映画館もない。だからバンリューで生まれた子どもたちは、文化資本を獲得するチャンスから制度的に遠ざけられている。
姜 ゼロだと思います。実際行ってみて僕もそう感じました。
内田 そういう文化資産は成人してからの学習努力で身に付くものじゃない。「生まれ育ち」で決まる。勉強のできる子どもなら、奨学金をもらえば大学まで行けるだろうが、学歴では文化資産の差は埋められない。そういう若者はフランスのような階層社会では、大きくチャンスを損なわれている。レースへの参加資格そのものが、文化資産を持たない若者たちには与えられない。
≪収奪を尽くした植民地支配のツケ≫
内田 19世紀末にドレフェス事件というのがあった。でも19世紀のフランス人たちは自力でこの問題を解決してみせた。エミール・ゾラを始めとする知識人たちが団結して、同胞であるユダヤ人の人権を守り抜いた。
この時期の知識人たちの書いたものを読むと、本当に話がすっきりしている。ねじれたレトリックもなく、堂々たる雄弁を持って近代市民社会の理想を語ったり、整った論理と品格のある言葉で、迫害されている少数者の権利を守ろうとした。立派なものです。
でも、今のフランスには当時の知識人を思わせるような堂々たる論陣を張る知識人は見当たりません。奥歯に物が挟まったような物言いをする人や、一ひねりも二ひねりもしたややこしいロジックで結局何を言いたいのかわからないような話をする人はいるが、政府を相手に「ムスリムの人権を守れ」と堂々の論陣を張るようなタイプの知識人は出て来ない。フランスも衰えたな、と思った。
≪敗戦国の総括をしなかった後遺症≫
なぜ現代のフランスの知識人たちはドレフェス事件や対独レジスタンスのとき見せたような堂々たる倫理的態度や理路整然とした発言ができないのか。それは1930年代から後のフランスの政治的経験の総括がちゃんとできていないからだと思うのです。知性の明晰さ、批評性の確かさというのは、自分たちが犯した失敗や罪過に対する冷静な吟味によって担保される。
最大の罪は「フランスは敗戦国である」という事実を隠蔽したことです。フランスはヴィシー政権の間、事実上の枢軸国であり、ナチスドイツの協力者であった。でも、その事実を徹底的に隠蔽した。戦後、あたかも戦勝国のような顔をして国際社会に登場し、国連の常任理事国になった。
姜 しかし、他の国々では、フランスが先の大戦で敗戦国だったという認識はないですよね。
内田 ないですね。それは第二次世界大戦については。「敗戦の総括」にどこの国も失敗しているからだと思います。フランスを責めることができるほどきちんとした「敗戦の総括」をしている国なんかないですから。
内田 総括がきちんとできていたら、その後のフランスはもっと「まともな国」になっていたと思います。アルジェリア戦争も、ベトナム戦争も、現実に起きたこととは違った展開になっていただろうと思う。戦後のフランスの迷走は、自分たちの戦争犯罪と敗戦の事実を隠蔽して、汚れた手を「白い」と言い張って、国民的欺瞞を演じたことに由来すると思っています。
内田 シャルリー・エブド銃撃事件の後も、その後のテロ事件の後も、国際的汎通性のある知見を語ったフランスの知識人がいません。かつてはサルトルとかカミュとか、個人の知性を賭して天下国家を論じた人がいたのに、そういう平明な知性がもういない(エマニュエル・トッドは吟味に値する、と)。
≪アメリカとフランスは、なぜテロの標的に?≫
姜 アメリカとフランスの右傾化は、国民国家が解体していく過程での「きしみ」や「絶叫」との見方は、私も非常にそんな感じがします。
内田 アメリカの場合は、自分たちがネイティブ・アメリカンを虐殺し、その土地を奪ってできたものだという建国時点での「原罪」を認めて、それについての国民的規模の謝罪をしないと病気は治らないと思いますね。
フランスもそうです。反ユダヤ主義もファシズムもフランスが発祥の地なんです。…その歴史的事実を平明に認めればいいのです。自分たちが病んでいるということを認めない限り、治療は始まらない。
フランスもアメリカも自分たちが罹患している病気から目を背けている。
姜 逆にいうと、自分たちが正義だという思い込みは、建国以来ハンパじゃないですから。
【出典】「世界“最終”戦争論〜近代の終焉を超えて」内田樹・姜尚中/集英社新書‘16年
- (政治板)日本の知識人の方が、例えば仏国の知識人より質が高く層も厚く感じる 仁王像 2017/7/19 20:49:24
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- 内田樹『米国は、先輩の英国が半世紀前に世界帝国を縮小した実例を見ている。米国も「帝国縮小」戦略を真剣に検討しているはず』 仁王像 2017/7/10 20:01:07
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