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「私の生き方って魅力ない?」女性管理職の悩み
ここでひと息 ミドル世代の「キャリアのY字路」
2016年7月22日(金)
山本 直人
順風満帆だけど、心に穴が
人の悩みには、傍から見てわかりやすいものもあれば、「わかりにくい」ものもある。順調に人生を送っているような人ほど、そうした見えにくい思いを抱えていたりする。
Vさんはまさに、そんな1人だろう。新卒で入社以来勤めているメーカーでは、数少ない女性管理職だ。順当にいけば、さらに上にいくだろう。それは、本人も自覚している。
総合職で入社した頃は、まだまだ典型的な男社会だった。消費財のメーカーで、主たるターゲットは女性だったが要職に登用される人は少ない。しかし、30歳を過ぎた頃に転機が訪れた。
バブル崩壊後の後遺症が抜けず、経営自体が荒波にもまれた。外部から資本を注入し、併せて社長を外から迎え、大規模なリストラも行われた。いろいろと大変だったが、Vさんの世代は結果的には陽の当たる場所に出ることになったのだ。
彼女は宣伝やマーケティングの仕事を担当していたが、チャンスが来た。会社としては、いわゆる「止血」を終えて攻めに出る頃だったのだ。反攻に向けた戦略商品を担当したが反響も大きく、仕事も評価された。
その頃は転職してくる者も多く、外資系から来た同年代の女性と競ったこともある。ただ、Vさんは淡々としていた。むしろライバルの方が力み過ぎて、周囲がついて行けなかったりする。
そんなこともあって、自然に昇格して40歳を過ぎた頃にはマネージャーになった。
比較的早く結婚して、子どもも生まれた。苦しかった家庭と仕事の両立も、周囲に助けられ、もう一段落した。40代半ばを過ぎてとても順風満帆に見える。
ところが、彼女には何とも言えない心の空白感があった。それは、自分の将来についてではない。部下の女性たちに対して、物足りなさを感じているのだ。
「もう十分」という後輩たち
Vさんが仕事が楽しいと思えるようになった30代半ばごろには、若い女性の後輩が職場に増えてきた。業績も回復してきて、会社の広報からも声がかかる。いわゆる「女性チーム」として、取材を受けることもあった。
忙しかったけれど、若いチームなりの成果は出てくる。インターネットを駆使したキャンペーンをいち早く仕掛けて、話題をさらったこともあった。
仕事はもちろん、私生活の相談に乗ることもある。結婚式に出て、思わず感極まったこともあった。
当時の後輩も、みな元気に働いている。結婚や出産を経て、苦労しながらも前向きに取り組んでいる。
ところが、ここに来て予想してなかったことが起こった。Vさんは管理職として、部下と定期的に面談をしてキャリアの希望を聞くのだが、女性たちがことごとく「Sコース」を希望してきたのだ。
Vさんの会社では、最近になっていわゆる「複線型人事制度」を採用した。大きく分けると、マネージャーを経て組織リーダーになるコース、通称「Mコース」と、自らの得意分野を活かして現状の職種で腕を磨いてスペシャリストを目指す、通称「Sコース」がある。
将来的に「大きな責任を負う仕事」をするMコースの方が待遇はいい。しかし、それだけだとポスト不足なども起きるし、そんな中で働き甲斐を維持するために考え出されたのが「Sコース」だといわれている。
ところが、30代の女性たちがことごとく「Sコースでいい」と言う。迷っていて、「今回は保留します」と言った社員が1人いただけだった。
理由はハッキリしない。でも、Vさんには何となくわかる。みな、共働きで、世帯収入は十分にある。仕事も、おもしろい。簡単にいえば「もう十分」なのだ。
これ以上、頑張る理由はないのである。
足元に“楽園”が見える
Vさんの心の空白は、たしかに傍からはわかりくい。後輩たちが上に行くことを望まないのは、それぞれの価値観の問題だ。
男性のほとんどは、マネージャを目指す「Mコース」を希望する。それで、会社は回っていくのだろう。それでも、どこかスッキリしない。
「ガラスの天井」という言葉がある。女性の昇進には目に見えない「天井」がある、という意味の比喩だ。英語のglass ceilingの訳で、米大統領候補のヒラリー・クリントンも言っていたくらいだから、女性の社会進出が遥かに進んでいる海外でもそういう感覚はあるのだろう。
しかし、いまVさんが感じているのはガラスの天井ではない。どちらかと言えば、足元にある「無人の階段」が気になるのだ。自分の後を歩こうという人は、そんなにも少ないのか。
階段の下の踊り場には、“楽園”が見える。彼女たちは、自分とは異なる世界で生活していくのだろう。それは、仕方ない。彼女たちの選択だ。
しかし、いくら言い聞かせてもVさんの心はどこかザワザワしている。
「自分の生き方は魅力的に見えていないのだろうか?」
そんな不安はあっても、確かめようがない。その一方で、別の誘惑もある。
「もう、昇進の話があっても断ろうか…」
そんな前提の話を考えること自体、バカバカしいとは思っている。それでも、ついつい想像する。これだけ頑張ったのだから、マイペースの50代もいいんじゃないか。
その頃のことだった。夜ニュースを見ていたら、ある女子サッカー選手のインタビューを報じていた。長年チームを引っ張ってきたエースだったが、引退することになったのだ。
彼女の口から語られる仲間とのいろいろな思い出話が、Vさんの心にはとても沁みたという。
1人で階段を上る恐さ
そんな思いで日々を過ごしていた時に、Z氏から呼ばれた。Z氏は、かつての上司でありVさんのことを目にかけていた。また、早くから人材育成に熱心で、ことにキャリアプランの多様化への対応については特に心を砕いていた。
いまは、人事部門などを管掌している常務執行役員である。旧知でもあるが、最近は仕事上の報告を行うことは少ない。
テーマは見当がついた。例の「Sコース志望」の件だろう。別に咎められることもないだろうし、そういうことを言う性格の人でもない。ただ、今の時期に顔を合わせるのには、あまり気乗りもしなかった。
Z常務は、挨拶もそこそこに切り出した。
実は、Vさんの同年代の女性マネージャーが退社するという。競合へ転職するというわけでもなく、常務はあきらめ顔で「まあ若隠居だよ」と言う。夫も十分な稼ぎがあるようで、「一度は主婦をしてみたい」とか言っていたらしい。
そういうわけで、ちょっと変則的な時期の異動があるかもしれない。また、その時は新しい仕事に取り組んでもらうかもしれないし、責任も大きくなるだろう。ただし、それ以上は今はまだ言えない。
そんなようなことを、一方的に言われた。
予定されていた面会時間も短かったので、自分が言いたいことを口に出せる雰囲気でもなかった。しかし、帰り際にZ常務はこんなことを口にした。
「もう下がついて来るとか、来ないとか悩んでる場合じゃない。結局、自分の仕事をしっかりやっていくことしか、やることはないんだ」
Vさんは「ああ、見透かされてたんだな」と感じた。ガラスの天井がない環境なのに、1人で階段を登るのがどこか怖かったのだ。
自分の仕事を全うする先にしか答えはない
そして、Z常務はこう続けた。
「まあ振り返ってみると、仕事が本当に“面白い”なんて感じるのは、30代の数年くらいじゃないか」
仲間と話すとみんなそう言うんだよ、後は面倒ばっかりでな。そう言いつつも、常務は笑顔だった。
しばらくして、Vさんは人事部門に異動して、職位も上がった。女性でこのポジションに就くのは初めてということもあり、周囲は相当に驚いた。
ただ、Vさんの気持ちは今までになく充実しているという。
「自分の仕事を通じて、満足できる職場をつくる」
それが、いまのVさんの目標だという。
■今回の棚卸し
女性をめぐる職場環境は大きく変化した。まだまだ課題は山積みだが、活躍の場は着実に広がっている。一方で、女性社員の間には生活や将来設計において価値観の違いが目立つケースも多い。そして「あえて上を目指さない」志向を持つ人は男女を問わずそれなりにいる。
多様性を認め合う風土づくりはマネージャーの大切な仕事だ。その一方で、ミドル世代は、部下を含めた周囲の評価を心の支えにしていると、どこかの段階で行き詰まる。管理職となれば、下からは称賛を得にくい仕事も当然増える。
管理職は孤独だ。ロールモデルが少ない女性は、特にそうなりがちだ。それだけに、周囲の言動を頼りにし過ぎると、先に進みにくくなる。自分が担う仕事に、ただシビアに取り組む。そうした先にしか答えが見つからない場合もあると心しておきたい。
■ちょっとしたお薦め
英国のミステリーに「女には向かない職業」という名作がある。主人公の22歳の女性が探偵稼業に挑戦するストーリーだ。タイトルの意味は最後まで読んでいただければ、お分かり頂けると思う。
「女性と仕事」を論じてるわけではないが、さまざまな人間模様が絶妙に描かれる。作者のP.D.ジェイムスは英国を代表する女性作家で、他にも傑作が多い。まず一作読むにも、本作はちょうどいいだろう。夏休みの読書に、お勧めしたい作品だ。
このコラムについて
ここでひと息 ミドル世代の「キャリアのY字路」
50歳前後は「人生のY字路」である。このくらいの歳になれば、会社における自分の将来については、大方見当がついてくる。場合によっては、どこかで自分のキャリアに見切りをつけなければならない。でも、自分なりのプライドはそれなりにあったりする。ややこしい…。Y字路を迎えたミドルのキャリアとの付き合い方に、正解はない。読者の皆さんと、あれやこれやと考えたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/032500025/071900009
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