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「最強妊婦」たちに映る絶望
遙なるコンシェルジュ「男の悩み 女の嘆き」
子育ての不安が消えない、この貧相な社会
2016年7月22日(金)
遙 洋子
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ご相談
子どもを授かりました。とてもうれしいのですが、不安がないと言えば嘘になります。産休後の復職はスムーズにできるだろうか。保育園は確保できるだろうか…。改めてこんなことを言うのも何ですが、日本は先進国で経済大国なんですよね? なぜこれほど子育てに不安を感じる環境なのでしょう…。(30代女性)
遙から
都知事選がかまびすしい。東京都に山積する問題の一角に少子化があり、その解決案が公約として並ぶ。しかし私には、データが示す少子化と周囲の現実とがうまくマッチしていない。
出産ラッシュ
というのも、私の周りは出産ラッシュなのだ。出演番組の共演者たちはフツーに妊娠し、フツーに出産休暇を取り、フツーに元の番組に戻る。タレントでもアナウンサーでも代役は山ほどいるから番組的には誰がいつ妊娠してくれても大丈夫な状況下で、それを謳歌するようにみんな、もう敢えて"みんな"と言いたい。みんな結婚し妊娠し出産している。
ある日の収録時、妊娠9カ月目に入る女性タレントたちが楽屋で互いの出産について話しているのを、距離を置いて眺めていた。その時に彼女たちのある共通項に気づいた。
その@ 美しい。
そう。妊娠している女性タレントたちの多くは、一般に美しいと言われる容姿の持ち主である。
そのA 気が強い。
1人の妊婦タレントが言った。「私は産む役だから、あなたは育てる役ね、と夫に通達済み。私は産むだけ。育児負担は夫の役目」。優しく子煩悩な夫なのか、ひたすら尻に敷かれているのかなどは定かでないか、妻がそう言い切れる夫婦関係がある。
そのB がっちり自立している。
女性たちはみな、フツーの自立じゃなく、しっかり自立というのも超えて、がっちり自立している。タレント弁護士だったり、タレント女医だったり、局から独立したアナウンサーだったり。どれもこれも夫の庇護のもとの弱者婚ではなく、いつでも別れるわよ系の強者婚の流れの妊娠だ。
だから言える。「私産むから、あなた育ててね」。
相手が従順になるほどに惚れさせる魅力を持ち、なおかつ気が強く自立しているから、気に入らなければ夫が捨てられる。実際に別れるかはともかく、いざとなれば自力で何とかできる自信を持っている。
「遙さん、夫と3人で食事しましょう」と、美貌自立系妊婦にお誘いをいただいた。
計画的人生
想像どおり夫は見るからに優しそうな男性だった。その夫と同席すると彼女は私の知らない一面を見せた。
私は一応、芸能界における先輩にあたるので、いつも気を配ってくれるし、立ててもくれる。が、夫に対しては、まさに"女王"だった。
私の周りの“一般妻”は、夫と一緒にいる時は夫のことをひたすら立てる人が多い。が、夫を前に突然命令形の口調になる“独立系妻”の姿を見た時、惚れさせた者勝ち婚だと思った。
夫も素敵な男性だ。そして、医師だ。
ここもツボだ。美貌自立系女子は、社会的に経済的に安定した男性を獲得している。
私の友人たちは違う。そこそこ自立系の女子の中には、ヒモのようなろくでもない男に引っかかり、金を貢がされたりしている者も少なからずいて、仕事と恋愛でグチャグチャしている間に出産適齢期を過ぎ、キャリアを積むということはそういうことなのだと自らを慰めていた。
美貌自立系は違う。人生がとても計画的だ。あらゆる目的を達成する。職業的な夢も達成し、皆がうらやみ妬む職業の男性を掴まえて、キャリアを積んで、出産年齢ギリギリにちゃんと妊娠する。そのうえ、なぜかつわりも軽く、9カ月目まで働くことができる。
欲しいものを全部手に入れた女性たちの9カ月目の楽屋の立ち話姿を私もまた、うらやましく眺めた。
美貌自立系女子ご夫妻と食事をしながらの会話によれば、彼女の次なる目標は「いつ職場に復帰するか」だった。まだ産んでもいないのに、計画性のある人生とはこれほどに先を思い描くことなのだ。私のような行き当たりばったりとはまるで違っている。
「〇〇女史は出産2週間後には復帰したわ」と鼻息が荒い。
あらゆる夢を叶えてきたタイプは、無事出産し無事復帰し無事今後もキャリアを積もうとしている。そうやって人生の夢を実現してきたのだから、それはそれで素晴らしいことだろうが、私の意見は少し異なる。
最強か?
出産という大事業を成すのだから、無理せず焦らず身体を大事にして復帰に急ぐことはない。そう助言した。
出産2週間後に復帰したという頑張り女子の武勇伝があるが、果たしてそれは世間を揺るがすほどの事件だろうか、と思う。まず、出産2週間後にテレビに出ることはそれほど偉いことなのだろうか。テレビはそれほどの職業か、と思う。
自分の頑張りに見合うほど世間は気にしてはいない。「産後すぐ退院した」とニュースになったのはイギリスのキャサリン妃だからであって、あるタレントがテレビに出ようが消えようが、しょせんテレビの向こう側の話で、しゃかりきに復帰戦に挑むほどには費用対効果は高くないと私は見る。それより、母子ともに元気に過ごす生活のほうがよほど重要だと思う。
仮に、復帰戦をし損ない、失職したところで夫に十分な経済力があるのだから、それで生きていけるじゃないか。
…と考えるのは当人たち以外で、ひたすら夢を叶える美貌自立系女子は違う。出産を機に家に入る気などさらさらない。だから、9カ月に入っても出演し続ける。中にはつわりが重く、体調を崩しながら出演している妊婦もいる。
休んだほうがいいよ。だって妊婦なんだから。
でも夢実現組は青い顔色をしながらも出演し出産し優しい夫に家事育児を頼み、そして早期復帰を目指す。彼女たちには、いわゆる託児所不足問題は存在しない。がっちり自立系である彼女たちは、その夢を叶えられるだけの家族や夫の助け、また、ベビーシッターを頼めるだけの経済力を持ち合わせている。
諸々考えるに、こうした美貌自立系女子は「最強」か、と言えば、私の答えはノーだ。
夢をすべて叶える彼女たちの努力には敬意を表するが、条件が許すなら、子どもと一緒に過ごす時間をしっかり取ったほうがいいと素直に思う。
これは、3歳になるまで子育てに集中しましょう、といった3歳児神話と間違えないでいただきたい。一週間を焦って現場に戻りたくなるカリカリした競争心ってどうよ、という提言だ。職場に居場所がなくなり休むほどにジリ貧になる一般女子ではないがっちり自立系が、焦る。
託児所問題は主に、子育ての助けを個人調達できない人手不足の女性と、経済力が潤沢ではない女性にとって深刻な問題だ。
そうした世の多数を占める女性たちの多くは、子供たちを他人に預けたいわけではない。子どもたちと過ごしたいが、主に経済的な問題から働くことが必要な女性と、働きたい女性が、やむなく子どもたちを預けている。
彼女たちからみれば、羨ましい選択肢を持つはずの美貌自立系女子が、現実には、どうにもあくせくして見える。
私みたいな挫折組にいい所があるとしたら、人生がうまくいかないことに慣れているということだ。挫折への免疫がある。が、夢をことごとく叶えてきた完璧女性たちにとって挫折は許されない。
「完璧な自分は子育ても仕事も完璧にこなせる」。そう思っていたものの、子育てはそう甘くない。思い通りにいかないとわかってくる。そうして初めての挫折を知った先には、?慣れで思い通りにいかない子育てと、本来の自分に戻れる仕事の板挟みが待ち受ける…。子育てを優先したらキャリアが後退するというジリジリとしたジレンマが、完璧を誇るほどに追い詰めもしよう。
老ける?
いよいよ出産休暇に入る直前、ある美貌自立系女子が言った言葉が忘れられない。
「やっぱり、産んだら老けるんでしょうか?」
もはや切ない、しかし切実な感情だ。成功してきた彼女たちはその理由のひとつに自らの美貌も重要なツールであることを自覚している。その美貌が、子供のために衰えたらどうしよう…。
「それは昔の話や。今は老けない老けない。アイドル見てごらん。安室奈美恵見てごらん。松田聖子見てごらん。誰も老けてないやろ」と言い、成功し続けてきた女性ならではの不安と悲哀を感じつつ、出産休暇に入る女性の背中を見送った。
青臭い言い方だが、この社会の競争原理は間違っている。
新たな命を授かる出産という、人生で大きく幸せであるべき瞬間を、「老けないか」「早く戻らねば」という焦りに変えてしまう価値観ってなんだ?
間違えた
少子化問題とは、託児所不足を解決したら道が開けるような浅い問題ではない。産んだり育てたりということが幸福や期待感に包まれるどころか、焦りと不安に苛まれるこの価値観を作ってしまったことこそが深刻な問題だ。そして、成功しても成功してもそこに幸福がない、ということの不幸さが「老けませんか」という言葉に集約されているように思う。
子育てに関して、一般女子は不安を感じながら、がっちり自立系の選択肢を羨ましく見る。そんな構図かと思いきや、諸条件的に最強と目される美貌自立系女子さえも幸福感が薄い。総子育て不安社会。なんとも希望のない、貧相な社会に私たちはいる。
いる、というか、作った。戦後の焼け野原から豊かさを目指して経済発展に邁進し、世界有数の経済大国になったはずが、子どもを育てるのに、これでもかと不安や怯えを抱えねばならない。どこで間違ったのか。
折しも報道によれば、4月時点の都内の待機児童数は8466人で、2年ぶりに増加に転じたという。
都知事候補の子育て対策をあれこれ比較している場合ではない。やれることは全部やる。誰かに変えてもらうのではなく、みんなで変えなくては変わらない。
子育てばかり重視するのはバランスを欠く? 原資が足りない? これまでのバランスが正しかったのなら正論だが、そもそもの配分が間違っていたことを認めるところから始めなくては、いつまでもこのままだ。
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このコラムについて
遙なるコンシェルジュ「男の悩み 女の嘆き」
働く女性の台頭で悩む男性管理職は少なくない。どう対応すればいいか――。働く男女の読者の皆様を対象に、職場での悩みやトラブルに答えていきたいと思う。
上司であれ客であれ、そこにいるのが人間である以上、なんらかの普遍性のある解決法があるはずだ。それを共に探ることで、新たな“仕事がスムーズにいくルール”を発展させていきたい。たくさんの皆さんの悩みをこちらでお待ちしています。
前シリーズは「男の勘違い、女のすれ違い」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213874/072100029/
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