01. 2013年1月17日 02:35:58
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JBpress>日本再生>日本経済の幻想と真実 [日本経済の幻想と真実] アベノミクスで始まった「日本売り」 円安で喜んでいるのは今のうちだ 2013年01月17日(Thu) 池田 信夫 円安・株高が急ピッチで進んでいる。特に平均株価はバブル経済絶頂期の1989年以来の9週連続の上昇で、株式市場は「アベノミクス景気」に沸いているが、この相場は普通の経済理論では説明できない。 2012年11月のコラムでも指摘した通り、金利がゼロに張りついている現状では日銀が物価を上昇させる手段はない。財政支出の効果が乏しいことも、前の自民党政権末期に証明済みだ。ではなぜ為替と株が大きく動いているのだろうか? 安倍首相は奇蹟を起こしたのか これについてプリンストン大学教授のポール・クルーグマンが興味深い考察をしている。安倍晋太郎首相は無知なので他の国の首脳のようにインフレ政策のリスクを心配せず、結果的に大胆な政策が取れるというのだ。 安倍晋三は、驚くべきケインズ的な政策で日本を浮揚させた。彼の政策[公共事業や日銀に対する圧力]は古い自民党の地元利益を追求する汚い目的で行われたものかもしれないが、それは問題ではない。[中略]インフレ予想を起こすことによって、安倍は劇的な変化をもたらしたのだ 彼は15年前に「日銀はインフレ予想によってデフレを解決できる」という論文を書いたのだが、それは実現しなかった。日銀は量的緩和で世界最大級の通貨供給を行ったにもかかわらず、デフレが続いてきた。 アメリカでも同じ現象が起こり、FRB(連邦準備制度理事会)がバランスシートを3倍にふくらませたのに、景気回復もインフレも起こらなかった。このためクルーグマンは、最近はもっぱら大規模な財政政策を主張している。 円高が続いた最大の原因は、デフレによって円の価値が相対的に上がったことだが、日銀がいくら追加緩和してもインフレにならないので円高も是正できなかった。ところが安倍氏は、わずか1カ月で日銀の見果てぬ夢だった円安とインフレを実現した。彼は奇蹟を起こしたのだろうか? 1ドル=110円になってもおかしくない 日本の専門家の多くは、そう見ていない。次の図のようにインフレ率の差などを勘案した実質実効為替レートで見ると、2008年まで毎年3%ぐらいずつ下げていた円が「リーマン・ショック」の影響でトレンドから外れたことが分かる。 ドル/円の名目為替レート(緑)と実質実効為替レート(赤)、日銀調べ 拡大画像表示 これまで円が割高だったのは、ユーロ危機で投機筋がリスクを避けるリスクオフのモードだったためと言われる。ギリシャなどの財政が破綻するとユーロが暴落するので、比較的安全な円に逃避したのだ。 それが2012年後半にECB(欧州中央銀行)が各国の財政支援を約束したことで、一時的に財政破綻の危機が遠のいた結果、円やドルからユーロに資金が環流するリスクオンに変わった。それがたまたま安倍内閣の誕生と重なったのだ――というのが多くの市場関係者の見方である。 上の図の破線のように1999年以降のトレンドを延長すると、実質実効レートは今より2割ぐらい下げてもおかしくない。つまり1ドル=110円ぐらいになる可能性があるのだ。 その原因は、日本の経常収支の悪化である。2012年11月の経常収支は2224億円と、史上2番目の赤字になった。これは原発の停止に伴う燃料輸入の増加などの一時的な要因もあるが、貿易赤字はすでに定着しており、所得収支(金利・配当など)を加えた経常収支が赤字基調になることもそう遠い将来ではない。 変動為替相場は経常収支の不均衡を為替の変動で調整するためにできた制度だが、外為市場で動く資金の大部分は投機資金で、貿易決済は1%しかないため、為替レートに影響するのは金利と物価である。日本の物価上昇率はアメリカより2%ぐらい低いので、短期的には円高になりやすく、これが上の図で名目レートと実質実効レートの差になる。 このように為替レートを決める要因は短期と長期で異なり、心理的な要因と経済的な要因が混在しているので、合理的に決まるわけではないが、大ざっぱに言うと短期的には心理的な要因が大きく、長期的にはファンダメンタルズを反映した合理的な水準に収斂してゆくことが多い。 円安で日本人は貧しくなる こう考えると安倍首相の一連の発言は──彼の意図とは別に──短期的な鞘取りから長期的な経済力に応じた評価への「レジームチェンジ」を促したと考えることもできよう。それは日本の製造業の国際競争力の低下による日本売りである。 経常収支が赤字になると通貨が弱くなり、輸出産業は息を吹き返す。日本の製造業にとっては円安は歓迎だろう。これによって輸入品が値上げされれば、インフレも起こる。しかしそれは本当にいいことなのだろうか? 日本の化石燃料輸入額は年間20兆円を超えるので、1ドル=110円になるとほぼ4兆円増える。これだけでGDP(国内総生産)が0.8%吹っ飛び、金融緩和の効果を打ち消してしまうだろう。 さすがに甘利明経済再生相は「過度な円安は輸入物価にはねかえり、国民生活にとってはマイナスの影響も出てくる」と発言し、ドルは一時的に88円台に下がった。安倍氏は気づいていないだろうが、円が弱くなるのは日本人が貧しくなるということなのだ。 資産家はすでに外貨に資金を移動し、金や不動産などの実物資産も大人気だ。こうした資産バブルとその崩壊で何が起こるかは、日本人も1980年代に体験した。あのときも「円高不況」を是正するために日銀が過剰な低金利を続けたのが原因だった。 さらに今度の補正予算のようなバラマキ財政を続けていると、そのうち長期金利が上昇するだろう。そのとき日銀が国債を買うと、市場は「財政が危ない」と見て、かえって国債が暴落して金利が暴騰するおそれがある。これが国債バブルの崩壊である。 クルーグマンが「安倍の暴走は結果的には正しい」と言うのは、今のところ長期金利が落ち着いているからだが、まぐれ当たりはいつまでも続かない。日銀の独立性を奪って政治家の財布に使うと、日銀はこうした危機をコントロールすることもできなくなるのだが、安倍氏はそれに気づいているのだろうか。 コラム:「1ドル90円」を阻む反動の正体=亀岡裕次氏 2013年 01月 16日 16:00 亀岡裕次 大和証券 チーフ為替ストラテジスト(2013年1月16日) この3ヵ月余りの間に対ドルで10円以上の円安が進行した。この大部分は、政府・日銀が連携したデフレ・円高対策への期待によるものと言えるだろう。 2%のインフレ率や3%の名目成長率を目指し、政府が公共投資などで需要を喚起しつつ、日銀が量的金融緩和を強化するとの見通しが、円供給拡大期待やリスク選好効果による円安を招いた。最近10年間の平均で消費者物価指数(CPI)の前年比がわずかながらマイナスの日本が、2%のインフレ率を達成するのは容易ではない。だからこそ、日銀はこれまで以上に大規模な量的緩和が必要になり、それによって円安が引き起こされるとの期待を連想させたのだろう。 また、この数ヵ月間、世界的にリスク選好に傾いたことも円安を促進した。低金利通貨である円は、もともとリスク選好下で最も売られやすい通貨だが、政策効果による円安進行への期待が増したために、なおさらリスク選好下で売られやすくなった。ドルは円以外の通貨に対しては総じて下落しており、決して「ドル高」ではない。リスク選好下での「円安」と言う方がふさわしい。つまり、円は金融緩和強化への期待とリスク選好の複合効果によって下落したのである。 <政策期待はピークアウトか> しかし、円安進行は短期的には一服する可能性がある。第一には、日銀の金融緩和への期待がさらに膨らむとは考えにくいからだ。 資産買い入れ基金を増額しても、日銀が民間金融機関から資産を買い入れるペースには限界がある。たとえインフレ目標の達成や雇用拡大が見込まれるまで「無制限に資金供給する」として資産買い入れを拡大していくとしても、期限を設けずに買い入れ期間を延ばす方式となるだろうし、買い入れペースを無尽蔵に拡大できるわけではない。また、「貸出増加を支援するための資金供給」は、あくまでもそれを希望する金融機関に対するものであるから、やはり資金供給増には限界がある。 1月21―22日の日銀金融政策決定会合で「2%のインフレ目標」が導入される可能性は高いが、現実的に考えると、「今後2年以内」などの具体的な目標達成期間を設けて、それが達成できない場合に日銀が責任を負うようにする可能性は低い。米連邦準備理事会(FRB)の「インフレ率の長期的なゴール」のように「中長期的なインフレ目標」とし、責任はあくまでも説明責任にとどめるのではないか。 中長期的にはインフレ期待がある程度高まることで通貨安要因となる可能性はあるものの、短期的に円供給が急増してインフレや通貨安を招くとの期待はピークアウトし、金融緩和強化期待による円安が一服すると考えられる。 <一時的にリスク選好の後退も> 円安一服につながる第二の理由は、リスク選好が一時的に抑えられる可能性があることだ。 米「財政の崖」は大部分が回避されたが、すべてが回避されたわけではない。給与税減税打ち切り(税率2%上昇)、富裕層増税(年収40万ドル超の個人または45万ドル超の世帯の所得税率、キャピタルゲイン・配当税率、遺産・贈与税率の引き上げ)などにより、米国経済に1000億ドル超のマイナス効果が生じるとみられる。 一方、大きな崖が回避されたことで、抑制されていた投資や雇用が顕在化するプラス効果もあろうが、効果が拡大するのは、2カ月延期された歳出強制削減や債務上限引き上げの問題が解消されてからだろう。13年当初はマイナス効果がプラス効果を上回り、米経済はやや減速する可能性がある。 世界的に12年10―12月期は経済指標の実績が予想を上回る傾向となり、ポジティブ・サプライズがリスク選好に作用したが、13年1―3月期は米経済指標の改善傾向が弱まることとなり、ネガティブ・サプライズがリスク回避に作用する可能性もある。日本のように公共事業への財政支出拡大が景気回復に働く国もあるだろうし、すべての国で経済指標が鈍化するわけではないにしても、米国などのリスク回避の動きが低金利通貨の円を買う(円高)要因になるだろう。 つまり、急速に進行した円安は、「日本の政策期待拡大の反動」と「ミニ財政の崖による米景気鈍化」により、一時的に調整されることになるのではないか。 ドル円との相関が高いドル1年OIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ:一定期間の翌日物加重平均金利<複利>と固定金利を交換する金利スワップ取引)金利の現水準からみると、ドルは76―84円にあるケースが多いが、実際には89円台まで上昇した。米金利の変動が小さいなかで、政策期待などによって円安が進み、5円以上の円安プレミアムが生じた。 ドル円の200日移動平均値から標準偏差の2倍分だけプラスに乖離した水準は88円台半ばであり、それを大きく超える確率は低いと考えられる。今後、デフレ・円高政策への期待が消えてしまうことはないにしても、期待による円安が後退する可能性とリスク回避で円高が進む可能性を考慮すべきだろう。 <中長期では1ドル=100円台も> 特に1―3月期の米景気減速を織り込む2月、3月頃には、円安が進みにくいだろう。当面のドル円は、85―90円程度のレンジで推移するのではないか。しかし、その後は米景気回復とともに再び円安基調が明確になると考えられる。米財政の不透明感解消のプラス効果が増税のマイナス効果を上回るようになる可能性が高いことに加え、資産効果(住宅価格や株価の上昇)による個人消費の拡大も期待できるからだ。リスク選好(資産効果)と景気回復が相乗作用を及ぼしながら強まっていき、円安が進むだろう。 雇用改善が進むにつれて、失業率が14年末までに6.5%を下回るとの観測が高まり、13年後半にはFRBが資産買い入れを緩和あるいは停止し、14年末までに利上げが行われるとの期待が生まれる可能性が高い。1年後の利上げが予想されるとともに、ドル1年OIS金利が0.3%(円1年OISとの差が0.25%)に上昇し、ドルは95円程度に達することになろう。 日米購買力平価からみれば、中長期的には1ドル=100円に達する可能性も十分にある。米国において、エネルギーコストの低下による成長率の高まり(物価上昇の抑制)や、エネルギー輸入減少による貿易収支の改善があれば、 なおさらドル高・円安が進みやすいだろう。 *亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。 コラム:「1―2%インフレ」なら株価はどこまで回復するか=竹中正治氏 2013年1月11日 為替こうみる:目先円安一服も、中長期的には円安基調変わらず=大和証 亀岡氏 2013年1月16日 今日の株式見通し=続伸、円安基調続き1万1000円の節目を試す展開に 2013年1月15日 シドニー外為・債券市場・中盤=豪ドルは対円で4年ぶり高値、債先まちまち 2013年1月15日 ■ 中島精也 :伊藤忠商事チーフエコノミスト
アベノミクスの3本の矢は、短期的な施策として、1本目の矢の「大胆な金融政策」 と2本目の矢の「機動的な財政政策」を実施することで、経済低迷の原因である円高 とデフレからの早期脱却を実現すること、更に長期的視点から3本目の矢の「民間投 資を喚起する成長戦略」を実行することにより、一過性の景気回復でなく、潜在成長 率の押し上げを通した強い経済を実現することで、持続的な経済成長を目指していま す。 このようにアベノミクスは金融、財政、成長戦略と、スタンダードな経済政策のメ ニューを一応網羅しています。本質的には新しいものはないのですが、同じメニュー でもシェフが替れば料理の味付けが異なるように、従来の政策とは異なる政策運営を 行う方針です。その典型が金融政策でしょう。安倍政権は金融政策を日銀の自主性に 任せず、政府との協定(アコード)の形をとり、インフレ目標2%を日銀に押し付け るようです。日銀のやれることはマネーの量を増やすことしかないわけですから、従 来よりも日銀にもっとマネーを供給しろ、と命じるわけです。 しかし、前にもJMMで書きましたが、教科書的にはマネーを出せば、貸し出しが伸 びて、インフレ期待が高まり、景気が上向くと書いてありますが、我々が直面してい る現実の経済はそんなに単純ではありません。すなわち、現状の日本経済のように成 長期待が著しく低い経済では、マネー供給を増加させたところで、企業が設備投資を やりませんので、需要の喚起に至らず、結果的にこの教科書的なルートではインフレ を加速させるのは至難の業です。 よって、インフレの道筋としては円安を通じた輸入インフレによる、コストアップ型 のインフレが最も手っ取り早いわけです。けど、グローバル競争で賃金が上がりにく いのは周知の事実でしょう。仮に一歩譲って、景気が良くなるにしても賃金は遅行指 標ですので、インフレ加速が賃金上昇に先行するとすれば、実質賃金はダウンし、景 気に逆効果となります。こうなると、本末転倒です。 よって、金融政策の効果が限定的であるという現実を無視して、マネー教条主義に 陥って、マネーをもっと出せ、と叫ぶのは百害あって一理なしかと思います。日銀は すでに経済が必要としている以上に潤沢にマネーを供給しているわけですから、経済 のバランスを歪めるような緩和政策を押しつけてはいけないと思います。 次に、機動的な財政政策の目玉は5兆円の公共事業ですが、識者の多くは土建国家へ の先祖がえりを危惧しています。もちろん、笹子トンネルの痛ましい事故を教訓に、 老朽化したインフラ設備の更新投資など、防災・減災の公共事業が必要不可欠である のは言うまでもありません。しかし、緊急経済対策で、防災・減災対策と銘打って、 これまでの公共事業削減方針からの転換が打ち出されたことで、これに便乗して高速 道路のレーン拡充など従来型の公共事業を計画の中にすべりこませる動きがあるのは 確かでしょう。これだとメニューの中身を変えたつもりが、実際の味付けは以前と同 じだったということになりかねないのです。 甘利大臣は民主党のバラマキ路線が自民党の新しいバラマキになってはいけないと強 調していますが、どこまでチェックが効くのか未知数としか言いようがありません。 従来型の公共事業に先祖がえりすることのなきよう、ジャーナリズムを筆頭に国民自 身が厳しくチェックしていく必要がありますし、また、国会が、特に野党に転落した 民主党が1つ1つの公共事業を細かくチェックして、健全野党として、バラマキを許 さないという姿勢を示すことは重要だと思います。 成長戦略に関しては緊急経済対策の本文を読みましたが、省エネ設備投資の促進、研 究開発・イノベーションの推進、基幹交通インフラ整備、中小企業対策、攻めの農林 水産業、金融資本市場の活性化、人材育成等々がちりばめられています。しかし、こ の多くは過去数年間に提示された成長戦略のメニューとなんら変わっていません。こ れは成長力強化のためにやるべきことは分かっているのに、歴代政権が掛け声だけで、 何年も放置して実行してこなかった、ことの証明でもあります。もう、お題目の説明 は耳にたこができるほど、繰り返し聞かされてきました。成長戦略のメニューに新鮮 味はなく、ただ、早く実行してください、との思いしかありません。 結論として、アベノミクスの三本の矢をベースとした緊急経済対策は円高・デフレか らの脱却策としては、良くできた作文ですが、第1は副作用を起こさないようバラン スを考えて実行すべきである、第2は表紙だけ新しくて中身は旧態依然とならないよ う十分チェックしなければならない、第3はこれまでの有言不実行を脱皮して有言実 行である、ことが求められます。それが実現できればアベノミクスは、編集長の質問 にある「新しい」か、どうかは分かりませんが、従来とは「異なる」ものとなるで しょう。 第44回 ここからユーロは買ってもいいの?! ユーロ/円が今週初め(14日月曜)に一時120円の大台に乗せました。120円台は2011年5月以来のことで、欧州債務危機によるユーロ売りが顕著となった2012年7月には100円を割り込み94.10円まで売り込まれていたのですから、この半年で25円もの上昇です。 ユーロ/ドル相場も堅調で、同じくギリシャ危機が叫ばれた7月に1.2041ドルまで値を崩していましたが現在は1.3360台。昨年はギリシャが破綻するのではないか、ギリシャがユーロから離脱するのではないかといった懸念から、ユーロは一貫して売られる通貨だったのですが、昨年の最安値から1,300ポイント以上も買い戻されました。この半年ユーロは上昇トレンドを描き続けているのです。 こうした中、米ゴールドマン・サックス・グループが11日「ユーロ買い・ドル売り」を勧める顧客向けレポートを出したとして話題となっています。ゴールドマンは、1ユーロ=1.37ドルがターゲットだとしており、1年2カ月ぶりの高値に上昇する予想をしています。その根拠は明らかではありませんが、目先はあと300ポイント以上の上昇がある、とした強気の見方です。ユーロの危機は去ったのでしょうか。そしてユーロは積極的に買われる通貨へと変わったのでしょうか。 ギリシャ破綻が問題となっていた昨年7月にはIMMの投機筋のポジション(ヘッジファンドなどの短期勢)が22万枚までショートに偏っていました。これがドラギ総裁によるOMT(ECBによる南欧国債の買い入れ救済策)などの積極的な金融緩和策と、ユーロを救済するためには何でもするとした断固とした姿勢によりセンチメントが急転、それまで極端に売りに偏っていたユーロのポジションが買い戻されて整理される過程でユーロは上昇してきたのです。買われなくても売りが手仕舞われれば相場は上がりますね。積極的に買われて上昇してきた相場ではないのです。 そして、そのIMMのユーロのポジションは昨年12月31日発表の時点でようやく5,126枚のプラスに転じ解消されたことが確認されました。そしてこの時点でだされたゴールドマン・サックスの予想。つまり、ゴールドマンはこれまでのショートポジションの買い戻しによる自立的なユーロの上昇ではなく、ここからは積極的にユーロが買われるという予想を立てているということになります。 しかし、気がかりなのはその後に出された1月8日のIMMポジションではユーロは再び8,035枚のショートとなっていました。膨大なショートが解消され、ロングになった瞬間に再度ユーロを売ってきた短期筋がいる、ということです。ここからは、ユーロ圏に積極的な買い材料がない中は上昇が続かないだろうとしてユーロ売りの予想も増えてくるかと思います。 その兆候として懸念されるのは 昨年12月13〜14日のEU首脳会議ではその半年前に宣言した経済・財政統合への行程表を詰めるはずだったのですが、結論は13年6月に先送りされています。 経済・財政統合の核となる制度改革に抵抗したのはドイツのメルケル首相でした。ドイツは今年9月に下院選挙を控えており、メルケル首相が再選を期していることから国民の反発を招くことを避けるためにEU救済路線から国内に回帰しているのではないかと指摘されています。 また、2月24、25日に控えるイタリアの議会選挙もクローズアップされることとなるでしょう。12月に辞任したモンティ首相の敷いた改革路線が継続できるのか?!前々回のコラムでモルガン・スタンレーのびっくり予想をいくつか取り上げてご紹介しましたが、その中に「イタリアで総選挙に向けて反緊縮運動が高まり、投資家はイタリアのユーロ圏離脱を心配し始める。イタリアは欧州安定メカニズム(ESM)に支援要請し、国債買い取りプログラム(OMT)の最初の支援対象国になる」というものがありました。 このところはアベノミクスが世界の注目となって円売りがテーマとなっています。円高の終焉という歴史的な転換に加えて、これまで売り込まれてきたユーロの買戻しというダブルの上昇要因からユーロ円の上昇が大きかったのですが、テクニカル的には123円どころに節目があり、上値があっても後3円程度がせいぜいではないかと思っています。あ、ゴールドマンのユーロドルの予想もあと300ポイントくらいですね。300ポイントも取れれば十分です、短期的にはまだ買っていても大丈夫ですが、この上昇が未来永劫続くとは思わないようにご注意を。 コラム執筆:大橋ひろこ フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。 2013年01月15日 第10回 新制度になってからの市場全体の変化について 【福永博之の信用取引講座 〜制度変更について〜】
株式会社インベストラストの福永博之です。2013年に入ってから株価の上昇が続いていますが、今回は新制度になってからの市場全体の変化について考えてみたいと思います。 みなさんは、市場全体の変化について考える場合、何に注目する必要があると思われますか? そうです、最初に注目する必要があるのは売買高や売買代金の変化です。前回も昨年の大発会と今年の大発会の売買高と売買代金を比較し、さらに、昨年の大発会の売買単価と今年の大発会の売買単価を比較しましたが、回転売買が増加したことによって、売買高、売買代金は大幅に増加したものの、売買単価は低下する結果になっていました。 では、1月7日以降もこの傾向は続いているのでしょうか? 以下に実際の売買高、売買代金と売買単価を表にしましたのでご覧ください。 ○大発会からの東証一部市場の売買高、売買代金および売買単価の推移 ※ 東証のデータより(株)インベストラスト作成 ここでまず注目してほしいのは、一日当たりの売買高、売買代金です。大発会の1日だけではなく、日々高水準の売買高、売買代金が続いたため、売買高の一日平均が約36億8459万株、また売買代金も約1兆9466億円と大幅に増加しているのがわかります。 また、10日には売買高が41億株にのぼりました。 ただ一方で売買単価をみると472円57銭と大幅に低下しており、いかに低位株の回転売買が行われたのかがわかる結果となっています。 こうした状況から、信用取引の制度変更は市場を活性化させ、売買高、売買代金ともに高水準に押し上げていると考えられそうです。 さらに、今後政策などでテーマが広がれば、個別株物色が活発になると同時に、商いがもっと膨らむことになるのではないかと予想されます。そうなると、私は50億株超えや60億株近くまで売買高が膨らむのではないかと考えています。 そうしたなか、みなさんは株価の動きについていっているでしょうか? このような高水準の商いが続いているあいだは、市場の流動性が高いため、個別株物色の好機ととらえることができると同時に、株数を多く買っても、返済する時に売却できるかどうかといった心配をすることも減るのではないかと思われます。 特に、高値を更新している銘柄や売買高、売買代金のランキング上位銘柄は、そうしたトレードを行うための候補銘柄といえるのではないでしょうか。 そこで、次回はランキング上位銘柄について考えてみたいと思います。 コラム執筆:福永 博之 株式会社インベストラスト代表取締役。IFTA国際検定テクニカルアナリスト。ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ 株式・資産形成講座 講師。勧角証券(現みずほインベスターズ証券)、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)、同証券経済研究所チーフストラテジストを経て、現職。現在、投資教育サイト《アイトラスト》の総監修を務める。ラジオNIKKEI、テレビ東京、TOKYO MXテレビ、CS日テレなどの株式関連番組にレギュラー出演。マネー雑誌の連載のほか、執筆多数。最新刊『めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った「株」チャートらくらく航海術』(ダイヤモンド社刊)では、チャート分析の基本中の基本、ローソク足に徹底的にこだわって騰がる株を見つける方法をわかりやすく解説し、好評を博している。 ダイヤモンド社からテクニカル分析の本を出版しました。『FX一目均衡表 ベーシックマスターブック』(2月10日発売)一目均衡表の書き方から分析手法まで、これまでにないくらい詳しく書かれた本です。中には「一目均衡表は分足トレードでも有効か?」とか、一目均衡表を「座標軸で考える」などという、私なりの分析も書いてありますので初心者の方から実際に一目均衡表を活用されている方まで、読みごたえのある本になっています。 前の記事:第21回 ETFを使って小さな会社を応援する方法 【ETF解体新書】 −2013年01月09日 田嶋智太郎の外国為替攻略法 2013年01月16日 投機筋に代わって実需筋が相場を主導しはじめた!? 今週14日、ドル/円は一時89.67円にまで到達する場面を垣間見ました。振り返れば、昨年(2012年)9月13日の安値は77.13円でしたから、この4カ月で約12.5円もの上昇となったわけです。 「こうしたドル/円の値動きとシカゴ通貨先物市場における投機筋の取引状況(ポジション)には浅からぬ関係がある」ということについては、過去に本欄でも幾度か触れています(2012年11月28日更新分参照)。では、実際のところはどうなのか、下の図を見て確認してみることにしましょう。 シカゴ通貨先物市場において、投機筋の円買い越しが最も大きく膨らんだのは2012年9月11日時点のことです。その後、徐々に買い越しは減少し、同年10月下旬にはついに売り越しに転じ、それから同年12月11日時点までは見る見る売り越しが増え続けることとなりました。この間、77円台だったドル円は83円近辺まで上昇しており、確かに「ドル/円の値動きとシカゴ通貨先物市場における投機筋のポジションには深い関係が認められた」ということになります。 この投機筋による円売り越しは、2012年12月11日時点の9万4401枚をピークに減少しはじめ、2013年1月8日時点では7万4096枚まで減りました。ところが、この間、83円近辺にあったドル/円は前記のとおり89円台後半まで一気に上昇しており、先に認められたドル/円の値動きとシカゴ通貨先物市場における投機筋のポジションとの関係性は完全に否定されることとなりました。 これは一体、どうしたことでしょう? 数値に表れている通り、投機筋は実際に2012年12月11日以降、徐々に円売りポジションを解消し、当座の利益を確定する行動をとったことに間違いはありません。それでも、後に一段と円安・ドル高が進んだということは、投機筋に代わって実需筋が相場を主導し始めたということを意味します。 この実需筋とは、資本取引や輸出入などにより、投資目的ではなく実際の取引のために外国為替取引を行う主に機関投資家のことを指しており、彼らのスタンスは投機筋のように目先の相場観で頻繁に売買を繰り返すというものとはまったく異なります。よって、実需筋はたとえ目先的にドル高・円安傾向が一服しそうだからといって、そう易々とドル売り・円買いに走るというようなことはありません。 もちろん、現在のように相場が少々過熱気味になっている状況下では、投機筋がこれまでの円売りポジションを解消し、利益確定を急ぐことによって、ドル/円相場がある程度調整する可能性は十分にあります。ただ、実需筋が83円台あたりからドル買い・円売りのスタンスを強めはじめたことが明らかである以上、今後のドル/円が83円を割り込んで一段と円高傾向を強めるといったような展開になる可能性は極めて低いということができるでしょう。 ちなみに、執筆時(16日午前)のドル/円はいささか調整色が濃厚な展開となっており、ボリンジャーバンド(21)の+1σを下抜けるかどうかの瀬戸際となっています。仮に同水準を明確に下抜けた場合、一旦は21日線を試すような展開となる可能性があるものと見ておくことが必要でしょう。 コラム執筆:田嶋 智太郎 経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役 前の記事:この1年のドル/円相場を振り返る... −2013年01月09日 http://lounge.monex.co.jp/pro/gaikokukawase/2013/01/16.html http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20130116_123012.html 安倍内閣 年頭所感を分析 金融円滑化法 再延長しない方針 〜麻生 安倍首相 経済再生、復興、危機管理に全力で取り組み 安倍首相は年頭所感で、経済再生、復興、危機管理に全力で取り組むと発表し、課題はデフレと円高からの脱却による経済の再生だと強調しました。国民一丸となって、強い日本を取り戻していこうと呼びかけました。 しかし実際には、デフレで低迷している時に、日本が130兆円もの公的資金を使って景気刺激策をしても何の効果もありませんでした。自民党は、強い日本を取り戻そうと言いますが、強い日本とはいつのことでしょう。少なくとも自民党の20年間で強い日本にはなっていません。1989年12月からずっと低迷しているので、日本が低迷し始めてから22年になります。そのうち民主党政権は3年半なので、低迷のほとんどは自民党政権なのです。 今回はアドバイザーとして竹中平蔵氏らが起用されていますが、それも以前のデジャヴだと感じます。同じようにやって失敗したことは明らかです。小泉政権はある程度よかったという印象ですが、小泉改革を否定しまくったのが現政権のメンバーです。どういうつもりで強い日本を取り戻すといっているのかよくわかりません。誰から取り戻すのか、いつ頃が強かったのか、定義を示してもらいたいものです。 他にも経済学者らが政策に関与しますが、実際の経済政策には役立たないでしょう。学者は過去の学説を用いて今の経済を解説し、対策を考えるので、感覚が鈍いのです。つまり彼らは、今の経済はそうではないという新しい学説が出てくるまで昔の経済理論を使おうとするのです。それで学者は世の中から10年、20年と遅れるのです。学説は経済を長年にわたって観察して理論化され、数式化して証明していくというやり方が大半です。そのやり方では日本の現状は当てはまらないのです。 日本の場合は高齢化し、使うことを経験していない戦後世代がそのまま貯蓄をして年老いています。この人たちが約60%もの貯蓄をもっているというのが日本であり、経済原則そのものがこれまでとは違ってしまっています。従って経済政策は学者には無理で、もっと近代感覚を持って対処すべきことなのです。 自分の周りの70歳代で、ある程度まとまったお金を持っていても使わないという人を10人よく観察し、どうしたらお金を使いたくなるのか考える方法が求められているのです。学者達はマネーサプライや金利をどうこうしようとし、どうしようもなくなると公共工事をさせる強靭化計画などをやるのです。都市のインフラの再生などがその例です。しかしこれをずっとやってきてダメだったということに気づくべきなのです。 さらにほとんどが輸入学者です。竹中氏もアメリカの学説を見ながら日本にいち早く取り入れるという手法です。日本の経済をよく見て、そこで暮らす70代の人と話をしてみることから経済政策を考える必要があるのです。庶民の暮らしを把握し、どうしたら持っているお金を使って満足した人生を生きていけるのか、ということから経済政策を作るべきなのに、理論や学説が先にきてしまうからおかしくなるのです。日本とアメリカの経済心理学の違いを理解しないで、しかもアメリカやイギリスの学説を適用していては良くなるはずもありません。学者に頼っていたら、日本の経済は永遠にダメだと思います。 早速、電機メーカーなどの競争力を強化するために公的資金を活用するという政策が出されました。政府はリース会社と共同の出資会社を作り、企業から工場や設備を買い入れるというのです。新政権が制定を目指す産業競争力強化法の柱としていますが、これでは昔のやり方と何も変わりません。 金融円滑化法 再延長しない方針 〜麻生財務・金融相〜 3月末で期限が切れる中小企業金融円滑化法について、麻生財務・金融相は再延長しない方針を表明しています。しかし太田国交相は再延長を要請しています。公明党にはこの円滑化法に引っかかる会員が多いのです。東京都の新銀行東京も、最初に借りた多くは公明党の都会議員の推薦があった人たちでした。今回も公明党所属の太田国交相は、この法律を一年延長したいと申し出ているのです。同法を延長するかの判断は財務・金融相が担当するものですが、公明党からの強い要請があることは間違いないでしょう。これでは太田大臣は国交相なのか、公明党代表であるのかが問われることになるので、引き続き注目しておく必要があるでしょう。 中小企業金融円滑化法は、これを利用してすでに100兆円近いお金が貸し出されているわけですが、大手銀行よりも地域銀行、信用金庫、信用組合などにはより影響が大きいでしょう。これらの金融機関は、延長されなければ乗り越えられないところまで来ています。従って金融庁は、金融機関が企業に対して5%以上資本金を持ってはいけないとされているものを無制限にするなど、対策を検討しています。 やはりこの法律はモラルハザードの最たるものであり、強引に導入させた亀井氏は責任を取る必要があると思います。ある意味、民主党新政権と国民新党が問題を回避する名案ではありました。しかし、そうせずに不良債権としてつぶしてしまえば全て自民党の責任にできたはずです。それをこんな形で救済し延長してしまい、結局民主党の責任になってしまったのです。これについてはもう引き延ばしてはいけないと思いますが、対象企業が40万社に上っていて、延長されなければ地獄を見ることになると思います。 安倍政権誕生後、株価は上昇していますが、これも喜んでばかりはいられません。株価とは企業の将来価値を現在価値に引き戻したものです。企業の実態が変わらないのに、政権が変わったことで株価が上がるのは本来おかしいことなのです。ただし、安倍政権になって企業の価値が将来高まると見るならば、それを織り込んで株価が上昇するのは正しいことと言えます。 ただその政策が何かということは俄にはわかりません。円安方向になれば一部の製造業にとってはプラスですが、株価的には中立の要素です。日本の会社は小売りやエネルギーを含めて円高の方が調子良い企業も多く、円高円安の効果は半々です。だからこそ日本は円高局面を凌げたのです。輸出産業は円高に苦しみましたが、現時点ではかなりの部分が外に出てしまっているので、今は円安になって苦労する部分の方が多いのです。それらを含めて企業業績が右肩上がりで上がっていかない限り、株価上昇は勘違いで、トレーダーがはやし立てているだけなのです。 株価は不思議な方程式があるのではなく、企業の価値であることを押さえておきましょう。安倍政権がそれに対して何らかのプラスの政策を打ち出したら上がってよいのです。しかし、今のところはまだ見えていません。しかも、中小企業金融円滑化法がどうなるかによっては地獄を見るかもしれないのです。また、これまでにも景気刺激に巨費を投じても限定的な効果しか得られなかったにも関わらず、今のように公共事業などに10兆、20兆とばらまいても、ほとんど効果はないと思います。 講師紹介 ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座 学長 大前 研一 1月6日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。 詳しくはこちら その他の記事を読む 2013年商品市況の見通しとは デフレからの脱却は無理なのです
水野和夫・埼玉大学大学院客員教授に聞く 2013年1月17日(木) 渡辺 康仁 デフレからの脱却はできない――。金融緩和、財政政策、成長戦略の「3本の矢」で脱デフレを目指す「アベノミクス」が始動しても、その思いが揺らぐことはない。政権交代で政府を離れた水野和夫・埼玉大学大学院客員教授が見る日本経済が抱える問題の本質とは何か。 (聞き手は渡辺康仁) 国内外の経済の状況をどう見ていますか。 水野:まず先進国の状況からお話しします。2008年のリーマンショックに続いてユーロ圏諸国のソブリン(政府債務)問題が起こり、米欧各国は後遺症からいまだに抜け出せていません。日本がバブル崩壊後の「失われた20年」で抱えた問題を解決できないのと同じような状況に置かれています。 水野 和夫(みずの・かずお)氏 埼玉大学大学院客員教授。1953年生まれ。1980年早稲田大学大学院経済学修士。八千代証券に入り、その後は一貫して調査部門に所属。合併などで会社は国際証券、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に変わった。2010年9月に退職し、民主党政権で内閣府の官房審議官(経済財政分析担当)に転じた。国家戦略室担当の内閣審議官も務めたが、政権交代で退いた。(撮影:清水盟貴) 日米欧でバブル経済が発生した原因ははっきりしています。それは成長ができなくなったからです。日本は戦後の高度成長期が1973〜74年頃に終わり、4〜5%の中期成長に入りました。その後、80年代に入って成長率はさらに落ち込み、それを覆い隠すようにバブル経済が起きました。
成長が難しくなった米国も、1995年以降、強いドル政策でバブルを起こしました。金融技術や証券化商品がそれに乗っかる形で2007〜08年にピークを迎えたのです。欧州でも、特にドイツが成長できなくなったためにユーロという大きな枠組みを作って南欧諸国を取り込みました。国別で一番ポルシェが売れていたのはギリシャだそうです。強いユーロでポルシェを買ってバブル化していったのです。 日米欧ともに成長ができなくなったからバブルに依存し、いずれも崩壊したのです。バブル崩壊の過程でデフレも起きました。私には成長戦略でバブルの後遺症から脱却しようというのは堂々巡りのように思えます。 歴代の政権は成長戦略を経済政策の柱としてきましたが、それは間違っていたということですか。 水野:成長戦略は失敗の運命にあると言えます。菅直人・元首相については様々な評価がありますが、首相時代の発言で一番良いと思うのは「成長戦略は十数本作ったが全部失敗している」というものです。成長戦略が解決策として正しいのであれば、十数本のうちどれかは当たっていないとおかしいのです。ことごとく外れているということは、成長では解決できない事態に先進国は直面していると考えたほうがいいのだろうと思います。 「製造業復活」は理解できない 先進国が成長できなくなったのには理由があります。デフレ経済のもとで、数字で成長を計る場合には名目GDP(国内総生産)を使います。名目GDPを簡単に言うと、売り上げから中間投入を引いた付加価値です。 今起きている事態は売り上げが落ちているということではありません。売り上げが減少したのは、失われた20年の最初の10年です。あの当時は信用収縮も起きて単価がどんどん下がりました。現在は企業の売り上げが伸びる一方で、中間投入がそれと同額か場合によっては上回るテンポで増えている。売り上げが増加しても名目GDPは増えないという構図です。中間投入が増えているということは、逆に言えば資源国の売り上げが増えているということです。 売り上げが伸びていると言いましたが、先進国の企業が思い通りに値上げができる状況にはありません。日本からの輸出でウエイトが高い電機や自動車は競争が激しく、新興国市場などで値上げすることは厳しいでしょう。先進国は工業製品を作るだけでは付加価値を増やすことは難しくなってしまいました。 日本経済を再生させるためには、製造業の役割が重要になるのではないですか。 水野:製造業の復活と言う人がいますが、私にはなかなか理解できないですね。日本で作って海外に持っていくのは、今の仕組みからするとほとんど成り立たないと思います。家電メーカーの現状がそれを物語っています。自動車も10年後には同じ状況になる可能性があります。新興国が近代化に成功するには、雇用を自国で増やして中間層を生み出すことが必要ですから、新興国は現地生産化を求めると思います。 国内を見ても、身の回りにはモノがあふれています。乗用車の普及率は80%を超え、カラーテレビはほぼ100%です。財よりもサービスが伸びると言われますが、サービスは在庫を持てないし、消費量は時間に比例します。1日が24時間と決まっている以上、サービスを受け入れる能力には限りがあります。先進国は財もサービスも基本的には十分満たされているのです。 個人だけでなく、国全体の資本ストックも過剰です。既に過剰なのに、まだ新幹線や第2東名高速を作ると言っている。資本ストックの減価償却にどんどんお金を使うというのが今起きていることです。 経済的にゼロ成長で十分 企業が稼げなくなると、賃金や雇用にしわ寄せが行きそうです。 水野:戦後最長の景気回復期だった2002年から2008年初めに何が起きたのでしょうか。製造業の付加価値はプラスでしたが、企業利益と雇用者報酬、減価償却に分けると、減価償却は付加価値よりも増えました。1200兆円の民間ストックを維持するために過大償却になっていたのです。景気は回復しているのに企業利益と雇用者報酬を合算するとマイナスになる。利益を減らすと株主総会を乗り切れませんから、雇用者報酬が引かれます。1人当たり人件費はどんどん下がります。 世界経済が回復すると工場の稼働率も上がるから株主配当を増やさなければなりません。雇用者を非正規化しながらトータルの人件費を下げるのが景気回復の実態です。次の景気回復が来ても、この状況は変わらないでしょう。 繰り返しますが、あらゆるものが過剰になっているのです。本来ならば、望ましい段階に到達したはずです。国連の統計では、1人当たりのストックでは日本は米国を上回ります。さらに成長しようというのは、身の回りのストックをもっと増やそうということです。まだ資本ストックが足りない国から見ると、1000兆円もの借金を作って色々なモノをあふれさせた日本が成長しないと豊かになれないというのはどういうことかと思いますよね。
何か答えはあるのでしょうか。 水野:2つ考えられます。もし日本が今でも貧しいとするならば、1つの解は近代システムが間違っているということです。ありとあらゆるものを増やしても皆が豊かになれないというのはおかしいですから。 2つ目の答えは、成長の次の概念をどう提示するかです。日本は明治維新で近代システムを取り入れて、わずか140年たらずで欧米が400年くらいかけて到達した水準に既に達してしまったということです。これまで「近代システム=成長」ということでやってきましたが、必ずしも近代システムは普遍的なものではありません。変えていかないといけないのです。 私は経済的にはゼロ成長で十分だと思います。よく経営者は「成長戦略は実行あるのみ」という言い方をしますが、近代システムを強化して売り上げが伸びるような仕組みであれば、それでもいいのでしょう。しかし、売り上げが伸びるのはあくまで海外です。現地で100の売り上げがあったら、50が中間投入で、50が付加価値。付加価値の50のうち、35が現地の雇用になって15が日本に返ってくる。先進国になった日本が1人当たりGDPで1000ドルや2000ドルの国にぶら下がって豊かになるのは無理なのです。 資本主義は全員を豊かにしない アジアなど新興国の成長を取り込むことはこれからも重要だと思いますが。 水野:日本の高度成長期には原油が1バレル2ドルや3ドルで買えました。米欧のオイルメジャーが原油価格を抑えていましたから、売り上げが増えても中間投入は増えません。日本の1960年代から70年代半ばまではすごく条件が恵まれていましたが、オイルショックで壊れました。 今の新興国は1バレル100ドルで原油を仕入れなければなりません。近代化の原則は「より速く、より遠く」ですから、エネルギーが必要です。地球上の70億人のうち、12億人が先進国の仲間入りをして、残り58億人が近代化に向けてこれからエネルギーを多消費します。しかし、原油高は続いていますから、残りの58億人全員が近代の仕組みの上で豊かになれるわけではないのです。 アジアやアフリカの各国がドッグイヤーと言われるほど速いテンポで近代化をすると、今の想定通りに本当に中間層が生まれるのでしょうか。私はそれは難しいと考えています。資本主義は全員を豊かにする仕組みではないとだんだん分かってくるのが、これからの10年、20年なのでしょう。 中国もこれから過剰設備の問題が顕在してきます。世界の粗鋼生産量15億トンのうち、中国が既に7億〜8億トンを占めています。中国経済が90年代後半から立ち上がった過程は米欧のバブル期と重なります。米欧が失われた10年、20年に入ると、日本が過剰設備に陥った90年代と同じことが起こりかねません。たとえアフリカ経済が成長しても、5兆ドル規模の中国経済を牽引することはできません。中国の成長が難しくなれば、日本も外需に期待することはできなくなります。 デフレからの脱却も難しくなりますね。 水野:デフレからは脱却できないでしょう。そもそも成長できなくなったという前提でどうするかを考えなければいけないのです。 日銀の金融緩和への期待で円安が進んでいますが、2000年代初頭に量的緩和で1ドル=120円程度まで円安が進行したことがありました。経営者は120円が続くという前提で国内に工場を作りましたが、今度は70円台の円高になってしまった。経営者の失敗なのに、最近になると六重苦といって円高のせいにしていますよね。今の状況も「円安バブル」を生じさせる恐れがあると見ています。 渡辺 康仁(わたなべ・やすひと) |