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アベノミクスと国防軍 =ミニバブル経済と憲法改正 行政調査新聞
http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/888.html
投稿者 愚民党 日時 2013 年 1 月 16 日 23:18:17: ogcGl0q1DMbpk
 


行政調査新聞

アベノミクスと国防軍 =ミニバブル経済と憲法改正



http://www.gyouseinews.com/index.php?option=com_content&view=article&id=231:2012-12-31-08-50-53&catid=39:2009-07-09-03-13-14&Itemid=61




■お札をじゃぶじゃぶ印刷する

自民党総裁選で安倍晋三が勝利したのは9月末。その安倍がデフレ克服、インフレ目標を3%と発言(後に自民党として2%に修正)。これを受けてのことだろう、10月中旬になるとシカゴで円売りが始まった。11月14日に野田首相(当時)が「解散」を口にするや、米国を中心とする外国人投資家による日本株購入が強まった。11月14日時点で8,664.73円だった日経平均株価は1カ月後の12月13日には9,742.73円と急上昇。総選挙で自民党が議席を激増させ、安倍首相が誕生したところで、外国人投資家による日本株購入はさらに加速し、12月28日の大納会の日には平成24年の最高値10,395.18円まで上昇している。単純計算でこの間に日本株は総計50兆円も膨らんだことになる。

安倍晋三は自民党総裁になった直後から、「デフレ克服のためにお札をじゃぶじゃぶ印刷する」と過激な発言を続けていた。当初はこの発言に否定的だった日銀も、安倍の「日銀法を変えてでもインフレ目標を定める」という勢いに押され、総選挙後の12月18日には物価上昇率2%程度の政策協定(アコード)に前向きの姿勢を見せている。

円安が進み、日経平均がどんどん上がり、デフレが克服されて日本経済は前途洋々――安倍政権が描いている餅に、国民大衆のほとんどが懐疑的だ。経団連自身、来年度の春闘で「定期昇給はもはや聖域ではない」と、業種によっては定昇すら見送る可能性があることをほのめかしている。安倍自民党が笛や太鼓で煽ろうが、「お札をじゃぶじゃぶ印刷」してその恩恵に与かれるのはごくわずかの超カネ持ちだけで、貧乏人は給料も上がらず、物価だけが上昇してますます貧乏になり、貧富の格差は増大する。

安倍晋三の「お札をじゃぶじゃぶ印刷する」というやり方を評価する方がいるかもしれない。経済学の基礎理論に「フィッシャーの交換方程式」というのがあり、カネを刷れば景気が良くなるという考え方がたしかにある。

ちなみにフィッシャーの交換方程式とは100年も前に発表された理論で、経済学部の学生が1年のときに習う単純なもの。「MV=PT」という数式で表わされる。(M=通貨量 V=通貨流通速度 P=物価 T=取引総量) この方程式が正しければ、カネを市場にバラ撒けば景気は良くなるはずだ。しかしこの方程式は理想のモデルケースのものであり、現実には通用しない。刷られたカネは市場には流通せず、意思を持つ何者かによって独占されるだけなのだ。それはやがて泡と弾け、資金は流れ、やがて巨大な資金力を持つ者に吸収される。

インフレターゲット2%、円安ドル高、日経平均の急上昇。これらは一時的に好景気になったような錯覚を庶民に抱かせる。給料は上がらず、物価が高くなっても、好景気という雰囲気に踊らされて、預貯金を引き出し、うかれる者もなかには出てくるだろう。しかしそれは「つかの間の夢」で終わる。

■無制限金融緩和

ではなぜ「お札をじゃぶじゃぶ印刷」して無制限の金融緩和を行おうというのか。それは総裁になったばかりの安倍晋三の発言のなかに隠されている。「外国債券を購入してもよい」という発言だ。

ご存じの通り、米国は現在「財政の崖」に直面している。5年前に起きたリーマン・ショック以降の経済対策のために行われてきた減税や政府歳出の大幅削減が、今まさに期限を迎えているのだ。このため米経済が崖から落ちるかもしれないという問題である。これを詳細に語ると長文になってしまうので、きわめて簡単に述べておく。

まず「財政の崖」は以前からわかりきっていた話で、今になって大騒ぎしているのはある種の世論操作であること。
もう一つ重要なことは、崖は崖であって坂道ではないということだ。つまり、もし崖から落ちてもそれでお終い。ズルズルと下降を続けるのではなく、ドンと落ちて、そこで終了する。
財政の崖に直面している米国は、EU危機を煽って世界の資金が欧州から逃げ出し、それが日米に回るように仕組み、崖からの転落を未然に防ごうとしている。同時に、崖から転落した場合も想定し、転落後に一気に反転、上昇するように手を打っているのだ。

財政の崖が控えていても、解決策が決まっているなら、米経済には何の問題もないのか。そうではない。

平成20年(2008年)に起きたリーマン・ショックで、米国には莫大な不良債権が生まれた。その額は7000億ドル(約56兆円)とも、それ以上ともいわれている。この不良債権処理に米国の税金3500億ドルが投入されたが、少なく見てもまだ3500億ドルが未処理で、これが米国経済の足を引っ張っている。

安倍晋三がいう「外国債券を購入」とは、欧米の国債を買うことではないし、中国の債権を買うことでもない。米国の不良債権処理を手伝おうという意思表示だと考えられる。しかしその後、白川総裁を初めとして日銀はこの発言に不快感を示し、以降、安倍晋三もインフレターゲットは口にしても外債購入という言葉を発していない。

一つの考え方として、米経済が好調になれば、必然として日本経済も上向くという見方がある。米国の不良債権さえ処理できれば、米経済は勢いを取り戻す。それは日本経済が盤石になることにつながる。それならば日本も米経済活性化のお手伝いとして不良債権の一部を引き受けましょうという考え方だ。もちろん多くはこれに反対で、釈然としない、納得できない、米国の負債のために日本のカネを注ぎ込むなどイヤだなどの声があがるだろう。だが安倍晋三は外債購入を積極的に考えていると思われる。

今回は日銀側に拒否されたが、白川現総裁の任期は4月冒頭まで。4月8日には新総裁が就任する。このポストに竹中平蔵、岩田一政、中原伸之、武藤敏郎、岩田規久夫などといったアベノミクス賛成派が登用されたら、米国不良債権購入話は強まる可能性が高い。

■見せかけの好景気の後に来るもの

インフレターゲットを設定し、通貨を無制限に市場に流し、円安ドル高を誘い外国人投資家のカネで日経平均がどんどん上昇する。今年前半、短期的には間違いなく好景気のような雰囲気が作られる。見せかけの好景気だが、その間に復興特需を含めた成長路線を固めれば、日本経済は上向いていく可能性はある。絵に描いた餅のようにも思えるが絶対に無理なものでもない。

それなら、とりあえず安倍自民党に一任しようではないかと考える人々もいるだろう。給料は上がらず物価だけが値上がりしても、将来に展望があるなら我慢することはできる。しかし安倍政権の目論見は経済だけではない。ほんとうのところ、安倍にとって経済など二の次で、本丸は「国防軍」にある。その先の憲法改正にある。

衆院選圧勝の結果、自民・公明を合わせた与党の議席数は325議席となったが、参院は自公合わせて102議席。参院で88議席を誇る民主党の勢力はなお健在で、自公以外の野党勢力は140議席に達している。当面自民党としては公明党の協力を得ながら与野党がねじれている参院では、野党との折り合いをつける必要に迫られる。とくに日銀総裁人事などは法案とは違って衆院三分の二の再可決で押し通すことなどできない。

新総裁に決まった直後に安倍晋三は自衛隊を「国防軍」にすると語ったが、ここに本音が見えてくる。安倍にとっては不得手な経済は適任者に任せて、何より早く外交、安全保障問題に取り組みたい。見せかけだけだろうが、とりあえず景気を上昇気流に乗せ、国民を納得させたうえで、外交・安保を強烈に押し進めるはずだ。事実こうした流れの通り、安倍政権は日本の防衛整備の長期的指針である「防衛大綱」の見直しを決定している(12月27日)。

しかし連立を組んだ公明党はご存じの通り平和論者で、国防軍など否定。自民党の悲願である自主憲法など、絶対反対だ。

こうした状況を考える限り、自公連立政権が続くのは7月の参院選まで。参院選の結果如何でどうなるかは不明だが、維新との連立が最も考えられる選択肢だ。そうなれば憲法解釈や自衛隊の国防軍化どころか、一気に憲法改正にまで踏み込む可能性もある。米国自身、日本が憲法改正に進むことを容認している。

本紙は大前提として自主憲法制定には賛成の立場をとる。では安倍政権下での国防軍設立、憲法改正に賛成かというと、そうではない。なぜか。それは今日の自衛隊陸海空三軍が米軍直轄下に置かれているからである。このままでは日本の自衛隊は米軍の下請けでしかない。名前を国防軍と変えても実態が変わらなければ意味がない。

だいいち、憲法改正となれば9条だけの問題ではない。天皇の地位、衆参両院の意味といった問題もあれば、日本の定義、国土の定義といった大問題もある。これを矮小化して、勢いだけで片づけるわけにはいかない。国民大衆が議論を重ね、大いなる了解が必要とされる。今年夏以降に起きるであろう憲法改正論議を大いに盛り上げ、国民全体で考える雰囲気作りが重要だ。

■緊張の東亜、半島有事はあるか

中東は今、非常に不安定な状況にある。内戦状態のシリアはいよいよ危機的状況にあり、ロシアのプーチン政権もアサド政府を見限った可能性が高い。シリア政権転覆の先には、イランに対してイスラエルが単独先制攻撃を行う可能性もあり得る状況だ。しかし中東を対岸の火事とばかり眺めてはいられない。東アジアも現在、中東に匹敵するほど緊迫している。最大の緊迫は、朝鮮半島と尖閣諸島にある。

こうした状況下、米軍再編が各所で滞りを見せ、在外米軍の基地移転問題も、日本の普天間移転問題だけではなく各所で問題となっている。在韓米軍の基地移転問題にも未解決があり、今日なお揉めているが、在韓米軍の2016年(平成29年)完全撤退は確定している。

米国の基本的戦略は日・米・韓の3カ国が連帯を強め中・朝と対峙、これを締め付けるところにある。したがって米韓は密着する必要があるはずだが、3年後の米軍完全撤退を前に、米韓間にすきま風が吹いている。すでに米軍は最前線から徐々に下がりつつあるが、そうした状況下、北朝鮮による人工衛星(ミサイル)発射実験が成功裏に打ち上げられた。

昨年(平成24年)4月13日早朝に北朝鮮は人工衛星(ミサイル)発射実験に失敗したが、このとき北朝鮮は正確な発射予定日時に関し、米国、中国には事前連絡を行っていた。さらに米国は、韓国にこれを連絡した模様だ。

昨年12月12日、北朝鮮はまたも人工衛星(ミサイル)発射実験を行い、今度は見事に成功、打ち上げた衛星は軌道に乗り地球の周囲を回っているようだ。今回の発射実験に際し北朝鮮は日程を延長したり一段目ロケットの解体作業を行うなど、巧みな目くらましを行ったが、米国には発射予定時刻の事前通告を行っている。

北朝鮮がミサイル発射実験に際して、毎回必ず米国に事前通告を行うのは、朝鮮戦争休戦協定に基づくもので、これを行わないと国連軍(米軍)による攻撃が正当化される可能性があるからだ。ところが今回、米国は韓国には発射日時を通報しなかった。(未確認情報だが日本に通報したとの説もある。)そんなところから「米国は韓国を見捨てたのではないか」(自衛隊関係者の話)との説まで出ている状況だ。

今回の人工衛星(ミサイル)実験は、敢えて南向き発射という難度が高い方向を選び、それに成功したわけだが、これにより韓国に比して北朝鮮の軍事力はいよいよ強まり、半島情勢は北優位が明確になってきている。だからといって北朝鮮軍が一気に南進する可能性は少ないが、何かのはずみに暴発する可能性もある。

「オスプレイは、半島有事の際に米軍軍属、家族を韓国から日本に運搬するために配備されたのではないか」(自衛隊関係者)という話もある。

北朝鮮の南進は常識的にはあり得ないだろうが、北朝鮮主導の半島統一は非常に近い将来に起こるだろう。統一に向けての駆け引きは今年ますます活発化するはずで、安倍政権にとって半島問題は極めて重要なものとなる。民主党政権下で続けられた水面下での拉致問題が、今年、表に急浮上する可能性は高い。

■緊張の東亜、尖閣炎上はあるか

尖閣諸島が日本の施政下にあり日米安保の適用対象であることを確認する条項を「国防権限法案」に追加する案を全会一致で可決した(昨年11月29日)。尖閣諸島を巡っての中国の挑発が激しさを増していることを懸念してのことで、東シナ海のシーレーン(海上交通路)確保は米国の国益にかなうというわけだ。

尖閣諸島問題に関してはすでに本紙は何度も詳述している。ぜひご覧いただきたい。さまざまな事情が絡んでいる微妙で複雑な問題ではあるが、米国が「日米安保の対象」と宣言したら中国軍の強硬派が大人しくなるかというと、むしろ逆で、火に油を注いだようなものだ。

昨秋、人民解放軍の将官10人が尖閣諸島(釣魚島)に関して共同声明を発表したが、軍強硬派は武力衝突を意図的に起こそうと考えているようだ。どのような形で衝突が起きるのか。事情通は次のように語る。

「まず漁船団を仕立て、日本の海保の目を盗んで数名から十数名が尖閣に上陸する。その後中国漁船は引き上げ、島に残った漁民(実体は軍人)を助けるという名目で中国海軍の軍艦が接近。何名かを引き上げて海域を離れるが、それでも何人かがまだ島に残る。これを繰り返すことで中国軍の艦船が長期間にわたり尖閣海域に居続け、退去を命じる海保、海自を武力挑発。最終的に戦闘状態に持ち込む」。

武力衝突が起きれば、「尖閣諸島は領土問題は存在しない」としてきたわが国政府の基本姿勢が崩れる。中国が武力衝突まで考えていることは間違いないと思ったほうがいい。

さらに中国は領土問題を沖縄(琉球)まで拡大しようと考えており、尖閣はそこに至る第一歩。

領土問題は歴史認識に深く影響されるが、そもそも歴史認識とは「本当にあったこと」ではなく「認識される過去」のことであり、事実か否かではない。「歴史的に考えて」とか「公式記録上は間違いなく日本のもの」と正論を主張しても現在の中国政府に通じるものではない。

安倍政権が米国べったりになり、中国を挑発し続けるのであれば、尖閣に火の手が上がる可能性は高い。

■日中文化交流

今日、「反米親中」か「反中親米」かと問われることがある。ときに常識ある大人たちまでこうした問いをすることがある。

「小沢一郎は親中・反米だったから、米国によって叩かれた」

「経済政策を見れば安倍の方向はわかる。米国従属、反中だ」

などといった言葉が、あたかも真実のように語られるときがある。

現在の国際情勢にあって、日本が米国と手を切ったり、中国と絶縁することなど絶対にない。韓国に関しても同じだ。反米も反中も反韓も、現実には考えられない。

もちろん距離のとり方はある。密着の度合いはある。しかし片方の国のいうことだけを聞き、こちらの国の主張には耳を傾けないということは、現実にはあり得ない。――これが大前提である。

その上で今日の日本の立ち位置と安倍政権の設計図を見る限り、米国に寄りすぎ、アジアから離反しすぎという感は否めない。米国から離れろというのではない。アジア外交にもっと力を入れるべきだと本紙は考える。

当面安倍政権は現在の方向を突っ走ることだろう。ミニバブルにも思える見せかけの好景気を背景に、国防軍あるいは憲法改正を視野に入れ、大震災復興と原発稼働を同時に押し進めることだろう。そうなるとアジア外交が行き詰る可能性が高い。とくに対中国問題はまったく楽観材料がない。

こうした状況下、われわれ庶民大衆はただ指をくわえて成り行きを見守るしかないのか。
政治とは離れて中国との関係を構築していくことが大切なのではないのだろうか。

では具体的にどうすればいいのか。昨年12月まで中国全権大使を務めた丹羽宇一郎は、尖閣問題などで日中間に氷河期が来ても、日本の企業財界は中国への投資を続け、支店を拡大すべきだというような発言をしていた。伊藤忠などに在籍した商売人らしい発想だが、尖閣反日デモで破壊された日本の工場や営業所を目の当たりにしたとき、その危険性は憂慮すべきものだと考える。

これほど日中両国民の間に反中、反日感情が高まっているときに、政治的あるいは経済的な活動を継続することは、無意味ではないが、国家規模の戦略、戦術がなければ成果はあがらない。

冷え切った現在のようなときこそ、民間の文化交流こそが重要だと本紙は考える。政治思想やカネとは無縁の交流だ。

中国には長大な歴史に支えられた文化がある。われわれ日本人もかつて歴史の中で学んできた人類の宝ともいうべき高邁な文化が、中国の奥深くに眠っている。

日本にももちろん、日本人が育んできた世界に誇る文化がある。世界中の人々を熱狂させる生きざまがあり哲学がある。

この両者が互いを尊敬できる形で結びつき、ときに議論をし尽くすことこそ、今日の両国間の庶民大衆がやるべきことではないだろうか。

口先だけの話ではない。本紙には台湾を窓口として大陸にもつながる人脈がわずかではあるが存在する。日中間が現在のように冷え切ったときこそ、その人脈をフル稼働させて文化交流、議論、交換を行うべきと考える。本紙は今年、真剣に日中間の橋渡し役を開始しようと考える。本紙の今後の動きに関し、読者諸氏の忌憚のないご意見ご忠告を賜りたい。■

http://www.gyouseinews.com/index.php?option=com_content&view=article&id=231:2012-12-31-08-50-53&catid=39:2009-07-09-03-13-14&Itemid=61

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ハゲ頭の歯が無い、つぶやき



 

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コメント
 
01. 2013年1月17日 17:04:55 : IOzibbQO0w

>財政の崖に直面している米国は、EU危機を煽って世界の資金が欧州から逃げ出し、それが日米に回るように仕組み、崖からの転落を未然に防ごうとしている。

またデマか

財政の崖の問題に関しては、海外の資金の助けは全然必要ない


>安倍晋三がいう「外国債券を購入」とは、欧米の国債を買うことではないし、中国の債権を買うことでもない。米国の不良債権処理を手伝おうという意思表示

安倍自身が、どう考えているかは別として、オバマの輸出立国戦略と矛盾し、長期的には米国の利益にもならない

日銀が外債購入に反対なのは、それが財政政策と為替介入政策だからで、本来は財務省の管轄であり、現在の日銀法の理念とも矛盾するからだ

外債購入自体は、政府と議会が承認し、短期国債を日銀引き受けで行えば、別に問題はない



02. 2013年1月17日 18:04:01 : IOzibbQO0w

日本の輸出先、米国が最大に OECDなど新統計公表  
 経済協力開発機構(OECD)と世界貿易機関(WTO)は16日、付加価値の流れを追う新しい貿易統計を公表した。これによると、日本の輸出先は米国が最大となり、輸出総額に基づいた従来の統計で最大だった中国を上回った。対米の貿易黒字は従来の6割増となり、日本経済における米国市場の重要性が一段と鮮明になった。

 新たな「付加価値貿易」の統計は、複数国に生産拠点が分散する国際分業の浸透を踏まえ、通商関係の全体像を把握できる。例えば、日本から中国に60ドル相当の部品を輸出し、中国で完成させて100ドル(40ドル分の価値増)で最終消費地の米国に渡った場合、日本が60ドル、中国が40ドルそれぞれ米国に輸出したと計算する。従来は日本が中国に60ドル輸出し、中国が米国に100ドル輸出したと計上される。

 日本企業は部品などの半製品などをアジアの新興国に輸出する。アジアで組み立てられた最終製品が欧米に輸出され、最終的に消費されることが多い。新統計ではどの国で生み出された付加価値が、どの国で最終消費されたかが分かる。

 2009年の実績を付加価値に基づいて計算すると、日本の最大の輸出国は米国。全体の19%を占めた。従来では中国が24%で首位だが、付加価値でみると2位の15%に下がり、逆転した。3位の韓国は、9%から4%にシェアが落ちる。

 貿易黒字は中韓向けでほとんどなくなり、米国向けでは360億ドルと6割も増えた。中韓への半製品などの輸出が米国の最終消費に行き着いていることを示している。

 従来は、中国など最終製品を輸出する国の国際競争力が過大に評価される面があったが、付加価値に基づくとこうした傾向が是正される。新統計が浸透すれば貿易収支の構図が塗り替わり、各国の対外政策も大きな影響を受ける可能性がある。

 永浜利広・第一生命経済研究所主席エコノミストは「日本の輸出が米国など先進国の需要に支えられていることを示した。先進国で売れるのは高品質品であり、日本は付加価値の高い技術開発に注力すべきだ」と話している。(パリ=竹内康雄)


03. 2013年1月19日 00:31:20 : IOzibbQO0w
財政金融をめぐる政策課題
― 特例公債法案、消費税引上げ、日銀金融政策を中心として ―
財政金融委員会調査室 前 山 秀夫
まえやま ひで お
1.はじめに
平成 24 年8月 10 日の参議院本会議において、野田内閣の最大の政治上の課題であった
社会保障と税の一体改革関連法案が成立したことにより、今後は平成 26 年4月の消費税
引上げ(地方消費税と合わせて8%)に向けた環境整備が焦点となる。消費税引上げの最
終的な判断は、平成 25 年秋頃の経済状況を踏まえて決定されることになるため、政府は
その前提として、デフレからの脱却を図り、経済を活性化させるための政策に全力で取り
組む方針である。しかし、急激な少子高齢化に伴う人口減少、長引く景気低迷、歴史的な
円高、欧州債務危機の深刻化に伴う世界的な景気後退、主要国中最悪となっている債務残
高など、我が国経済・財政を取り巻く環境は年々厳しさを増している状況にある。
このような中で、一般会計歳入予算の約4割を特例公債に依存している財政状況をどの
ように是正するのか、給付付き税額控除や複数税率の導入を始めとした低所得者対策の具
体化をどのように行うのか、デフレ脱却に向けた政府と日本銀行の政策協調はどうあるべ
きかなど、検討すべき課題は山積している。
本稿では、この1年の財政金融をめぐる動きを振り返りながら、平成 25 年の常会にお
いて焦点となる財政金融上の主な政策課題について、その論点を整理することとする。
2.特例公債法案と復興関連予算をめぐる課題
(1)特例公債法案の成立と新たなルール
ア 特例公債法案をめぐる経緯
戦後初めての特例公債は、当時、未曾有の不況と言われた昭和 40 年不況による税収
減に対処するため、「昭和 40 年度における財政処理の特別措置に関する法律」に基づき、
昭和 41 年に発行された。その後、第一次石油ショック(昭和 48 年)を契機として大幅
な税収減が発生した昭和 50 年には、財政法第4条(健全財政主義・建設公債の原則)
の特例として、「昭和 50 年度の公債の発行の特例に関する法律」を制定し、本格的な特
例公債の発行を開始した。以後、一定期間(平成2年から5年の4年間)を除き現在ま
で、大幅な特例公債の発行を余儀なくされている。
各年度における特例公債法案は、平成6年度以降、予算の成立とほぼ同時期の年度末
に成立するのが慣例であったが、平成 22 年7月の参議院選挙において、野党が過半数
の議席を獲得する「衆参のねじれ」が発生すると状況に変化が生じた。これに伴い、特
例公債法案の成立が政治の駆け引き材料となり、平成 23 年度は成立が8月までずれ込
んだことに続き、平成 24 年度は、9月を過ぎても依然として成立しない状況となった。
立法と調査 2013.1 No.336(参議院事務局企画調整室編集・発行)
59特例公債法案の成立が見込めない状況の中で、平成 24 年9月7日、政府は9月以降
の一般会計予算の執行を抑制することを閣議決定した。具体的には、行政活動の維持に
不可欠な経費(庁舎賃料等)、安全保障・司法・治安関係の経常経費、医療・介護・生
活保護等の抑制が困難な経費などを除き、特例公債金が財源となる全経費について、予
算執行の抑制を図ることとした。これにより9月から 11 月までの3か月間で計5兆円
程度の執行抑制が行われることとなったが、それでも 11 月末には一般会計の財源がほ
ぼ枯渇する見通しとなった。
予算執行の抑制により、具体的な影響も生じることとなった。地方交付税については、
道府県の9月交付分を9月から 11 月の月割り交付としたことに伴い、その間、道府県
が金融機関から一時借り入れた金利負担は 5,700 万円(11 月8日時点での総務省把握
分)となった
1
。その他、独立行政法人・国立大学法人向けの運営費交付金の抑制
(50 %以上の支払を留保)や民間団体等向け支出の抑制により、大学の教育研究活動、
助産師や看護師などの養成所の運営、全国の老人クラブの活動、日本司法支援センター
(法テラス)の無料法律相談など、国民生活・経済活動への様々な影響が懸念された。
こうした事態を踏まえ、野田総理大臣は、11 月8日の衆議院本会議において、「現下
の厳しい財政事情にあっては、いかなる政権であっても特例公債なしで財政を運営する
ことはできない」という認識の下、10 月 19 日の自民・公明との党首会談で、予算と特
例公債法案を一体的に処理するルール作りとして、3つの提案を行ったことを明らかに
した。すなわち、@法案の本則を修正し多年度にわたる特例公債の発行を可能とする案、
A来年度にそのような法案を提出することを法案の附則に規定をする案、B予算と特例
公債法案を一体的に処理することについて与野党間で覚書を交わす案であり、このうち
@の場合には、「現行の財政健全化目標を踏まえ、例えば平成 27 年度(2015 年度)ま
でにわたり特例公債の発行を認めるような修正を行うことが考えられる」とした
2

野田総理大臣の提案を受けて、民主・自民・公明の3党で協議を行い、11 月 13 日、
特例公債法案の成立に向けて、3党確認書を取り交わした。3党確認書においては、@
平成 24 年度の補正予算において、政策的経費を含む歳出の見直しを行い、同年度の特
例公債発行額を抑制する、A現行の財政健全化目標を踏まえ、中長期的に持続可能な財
政構造を確立することを旨として特例公債発行額の抑制に取り組むことを前提に、安定
的な財政運営を確保する観点から、平成 27 年度までの間、特例公債の発行を認める、
B特例公債法案について所要の修正を行い、上記@については附則に、上記Aについて
は本則に規定する。以上を前提として、3党は、特例公債法案を速やかに成立させると
ともに、可及的速やかに予算執行の抑制を解除するよう求める、とされた。3党合意を
受けて、特例公債法案は、衆議院において3党確認書に基づく修正が行われた後、11
月 16 日に参議院本会議で可決・成立し、予算執行の抑制も同日解除された。
イ 新たなルールをめぐる課題
現行の財政法第4条は「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源と
しなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の
議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と規定し、
立法と調査 2013.1 No.336
60公債発行を原則として禁止するとともに、建設公債の発行はその例外として認めている。
このため経常経費の赤字を補うための特例公債の発行は財政法に違反することになるこ
とから、本格的な特例公債の発行が始まった昭和 50 年度以降は、毎年度、特例法を提
出し、国会の審議を経た上で成立させている。そうした経緯について、昭和 50 年度の
特例公債法案の審議を行った衆参の大蔵委員会において、当時の大平大蔵大臣は、「特
例公債の発行ができるように財政法を改正することは、財政法の原則を崩すことに通じ
るので、別個の法律で、しかも1年限りの特例法として、目的を限って、金額を限って
お願いした」旨の答弁を行い、財政法の原則を守るため、あえて恒久法にせず、1年限
りの特例法として提案したことを明らかにしている 3

今回の新たなルール(平成 24 年度特例公債法案の修正)は、ねじれ国会における無
用の混乱を回避することを目的としているものの、平成 25 年度から 27 年度までの間、
特例公債の発行を予め認めるものであり、今後3年間は予算が成立すれば、特例公債が
自動的に発行できることになる。このため、この新たなルールをめぐる国会論議におい
ては、3年間の自動発行を認めることで国会のチェック機能が十分に働かなくなるので
はないか、財政規律が緩み特例公債の発行に歯止めがきかないのではないか、憲法第
86 条の予算の単年度主義との関係
4
で問題があるのではないか、など様々な問題点も指
摘されたところである。
このような懸念に対し、野田総理大臣は、「特例公債が毎回すぐに成立できない状況
が続き、その悪弊を断ち切るために予算と一体としてルール作りを提案し、今回、3党
の合意を得た」とした上で、「今後、特例公債の発行が認められる平成 27 年度までの間
は、これまでと同様、特例公債の発行限度額は各年度の予算総則に規定することになっ
ており、予算委員会において審議いただくことになる。国会の中できちんと審議をいた
だきながら対応するので、野放図に特例公債を発行することはない」との見解を示した
5
。また、予算の単年度主義との関係について城島財務大臣は、「各年度の特例公債の発
行限度額は、毎年度、予算総則で規定し、国会の議決を経るので、憲法第 86 条の予算
の単年度主義との関係が問題になるものではない」旨の答弁を行った
6

国の公債残高が 700 兆円を突破し、特例公債の発行が一般会計歳入予算の約4割を占
めるという危機的な財政状況の中で、財政民主主義の観点から、特例公債発行額を抑制
し財政規律を維持することは国会の責務であり、権能とも言える。とりわけ予算の議決
に関する優越権を有しない参議院の場合、今後3年間、予算審議の中で特例公債の発行
にどのような歯止めをかけられるかが課題となる。このような観点から、11 月 15 日の
参議院財政金融委員会において、「平成 24 年度から平成 27 年度までの特例公債の発行
に当たっては、参議院としての役割を十分に果たすべく予算審議の中で、より慎重かつ
丁寧な議論に望むので、政府は、財政規律の維持の観点から、十分な説明責任を果たす
こと」とする附帯決議が盛り込まれた。こうした予算審議での国会のチェック機能の強
化に加えて、決算審議においても、特例公債の発行が安易に行われなかったか、十分な
監視を継続していくことが必要であろう。
立法と調査 2013.1 No.336
61(2)復興関連予算の流用問題
ア 復興関連予算をめぐる経緯
東日本大震災に係る復興事業については、「東日本大震災からの復興の基本方針」
(平成 23 年7月 29 日東日本大震災復興対策本部決定)において、集中復興期間(平成
23 年度〜 27 年度の5年間)の復旧・復興対策規模(国・地方の公費分)で、少なくと
も 19 兆円程度、10 年間で少なくとも 23 兆円程度と見込まれている。
この基本方針に基づき、これまでの復興関連予算は、平成 23 年度一般会計1次補正
予算で4兆 153 億円、2次補正予算で1兆 9,106 億円、3次補正予算で9兆 2,438 億円、
平成 24 年度は東日本大震災復興特別会計を設けて3兆 7,754 億円が計上され、総額 19
兆円となっている。ここから除染費用など東京電力への求償が想定される経費や予備費
等を除くと、平成 23 年度及び 24 年度の復興関連予算は 18 兆円程度となる。一方、平
成 23 年度の復興関連予算(予備費・1次〜3次分)は、建設業者の人手や資材の不足
などによる事業の遅れで4兆 7,694 億円が未消化となり翌年度に繰り越されたほか、1
兆 1,034 億円が不用額となり、執行率は6割にとどまっている。被災地の復興がこのよ
うに遅れている中で、復興関連予算が被災地以外の地域で使用されている事例や一見す
ると復興との関連性が希薄な事業に使用されている事例がテレビや新聞の報道等で取り
上げられて以来、復興関連予算の流用問題が一般の関心を呼び、国会や行政刷新会議等
において見直しの論議が行われることとなった。
復興関連予算が被災地以外の地域で使用されている背景には、復興の基本方針におい
て、「日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない」との基本的考え方の下で、
国が実施する施策として、「被災地域と密接に関連する地域において、被災地域の復
旧・復興のために一体不可分のものとして緊急に実施すべき施策」や「東日本大震災を
教訓として、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のため
の施策」が規定されたことにある。これに基づき、全国防災対策費の計上(平成 23 年
度3次補正と 24 年度予算で1兆円)が認められたほか、関係省庁が一般会計の予算要
求で制約がある中で、震災復興の名目で様々な予算を要求することとなった。
新聞の報道や国会質疑等で問題点が指摘された主な事業としては、全国防災対策費と
して、@官庁施設の改修等(国土交通省)100 億円(平成 23 年度3次補正、24 年度)、
A税務署の改修(財務省)20 億円(23 年度3次補正、24 年度)、B沖縄県の国道整備
(国土交通省)5.6 億円(23 年度3次補正、24 年度)などがある。また、全国防災対
策費以外として、@国内立地推進事業補助金(経済産業省)2,950 億円(23 年度3次補
正)、Aレアアース鉱山の買収(経済産業省)80 億円(23 年度3次補正)、Bアジア太
平洋・北米地域との青少年交流(外務省)72 億円(23 年度3次補正)などがある。
イ 復興関連予算の流用をめぐる課題
平成 24 年 11 月 16 日に開催された行政刷新会議の事業仕分け(復興事業関係)にお
いては、復興関連 17 事業(総額で約 7,300 億円)が対象となったが、「復興特別会計の
使い途を相当厳しく見直し、復興特別会計で認められなかった事業は、一般会計に戻り、
全体として優先順位付けをするのが基本である」との評価結果を示した。また、批判が
立法と調査 2013.1 No.336
62多かった全国防災対策費については、「東日本大震災の教訓をもとに津波に対する課題
への対応の必要性が新たに認識されたものや緊急性、即効性が極めて高いものに限り、
例外的に復興特別会計での計上を認める」こととした。この事業仕分けを受けて、復興
推進会議では、11 月 27 日に「今後の復興関連予算に関する基本的な考え方」をまとめ、
復興庁が所管する予算及び被災地向け予算については、引き続き復興特別会計に計上す
るが、全国向け予算については、緊急性の高い津波対策や学校耐震化などを除き、復興
特別会計への計上を認めない方針を打ち出した。ただし、平成 23 年度3次補正及び 24
年度予算で見直す復興関連事業は全体で 168 億円にとどまっている。
このような政府の方針を踏まえて、今後、平成 25 年度予算編成に向けて、復興関連
事業の在り方や復興関連予算の見直しが行われることになるが、検討すべき課題も多い。
第一に、19 兆円の復興財源フレームの見直しである。5年間で 19 兆円の復興関連予
算は平成 24 年度当初予算の段階で既に 18 兆円に達しており
7
、19 兆円の枠を突破する
ことはほぼ確実な状況となっている。城島財務大臣も「この 19 兆円のフレームについ
ては、復興の基本方針の趣旨に従って恐らくいずれかの段階で見直さざるを得ないと思
っている」と答弁しているが
8
、今後必要となる具体的な財源手当については明らかに
していない。また、現在の 19 兆円のフレームは、震災被害額を 16.9 兆円と見積もった
内閣府推計(平成 23 年6月)をベースにしたものであるが、仮にこのフレームを見直
す場合には、この 19 兆円の見積もり自体が過大なものでなかったかを含めて検証した
上で、現時点での適正な事業規模を検討すべきである。その上で、19 兆円のフレーム
を更に拡大する場合には、その財源として予定されている歳出削減・税外収入等の規模
(11 兆円程度、うち6兆円程度は 23 年度1次補正・2次補正で手当)を更に上積みす
るのか、復興臨時増税(所得税・法人税 9.7 兆円程度、地方住民税 0.8 兆円程度、計
10.5 兆円程度)を更に増額するのか、今後の国会等での議論を踏まえつつ、国民の理
解を得ながら検討していく必要があろう
9

第二に、復興関連予算の査定である。財務省はこれまで復興関連予算の査定を、@要
求されている事業が復興施策に係る事業に当たるかどうか、A復興事業であると認めら
れた場合、予算措置すべき緊急性や即効性があるか、Bその上で、各事業の経費の積算
が適正に行われていて必要最小限の額となっているか、の3つの原則に基づいて行って
おり、当時の環境においては適切に予算計上されたと答弁してきた
10
。しかし、新聞報
道等での指摘、国会での質疑、行政刷新会議での議論等で明らかになったように、本来
であればなかなか予算が認められないような事業に予算が付いたり、一般会計で行うべ
き事業が復興特別会計に予算計上されてきた事実は否めない。今後は、復興推進会議の
上記の基本的な考え方に基づき復興関連予算の見直しが行われることになるが、その際、
復興特別会計と一般会計との厳格な事業仕分けだけでは不十分と言える。今回の流用事
例が平成 23 年度3次補正に集中していることを踏まえれば、概算要求枠(シーリン
グ)に基づく厳格な査定を当初予算段階だけで行うのではなく、補正予算段階にも適用
するとともに、決算段階においても緊急性や即効性がある事業であったか否かを十分に
検証する必要があろう。
立法と調査 2013.1 No.336
633.消費税引上げをめぐる課題
(1)デフレ下での消費税引上げ
消費税導入時の昭和 63 年の竹下内閣の税制改革では所得減税等との差引きで 2.6 兆円
のネット減税、5%への消費税引上げを決めた平成6年の村山内閣の税制改革では増税額
と減税額が見合う税収中立の改革であったが、今回の野田内閣の税制改革は所得減税を伴
わない大幅な増税(消費税引上げ分で 13.5 兆円)となる。こうした減税を伴わない大幅
な増税のみの税制改革は戦後初めてであり、深刻なデフレ経済の下、今後、10.5 兆円程
度の復興臨時増税(所得税・法人税・住民税)や各種社会保険料の引上げなどによる負担
増が予定される中で、消費税引上げが日本経済に重大な影響を与えるおそれがないか、第
180 回国会(常会)の国会論議においても最大の争点となった。
「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部
を改正する等の法律」(以下「消費税引上げ法」という。)の附則第 18 条第1項では、消
費税引上げに当たって、「経済状況の好転」が条件であるとして、平成 23 年度から 32 年
度までの平均で、「名目成長率3パーセント程度かつ実質成長率2パーセント程度を目指
し、総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる」旨を規定している。また、附則第
18 条第3項においては、「経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動
向等、種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を
含め所要の措置を講ずる」旨を規定している。
デフレ下での消費税引上げについて安住財務大臣(当時)は、「附則第 18 条は、デフレ
脱却や経済活性化に向けて必要な施策を講じていく責務を課しているものであるが、消費
税引上げの前提条件としての数値目標を規定しているものではない」との答弁にとどまっ
ており
11
、デフレ脱却が実現しなくても消費税引上げを実施するのか、必ずしも明確では
ない。しかし、デフレ下で消費税引上げを行えば、消費が更に減退し、9兆円規模の負担
増でその後の長期低迷の要因と批判された平成9年の消費税5%引上げ時と同じ結果を招
くといった懸念も強い。したがって、平成 25 年秋頃に予定されている附則第 18 条第1項
の「経済状況の好転」及び第3項の「経済状況等の総合的勘案」の判断については、政府
がどのような基準に基づき最終的な決断をするのか、そのための具体的な基準を明確にす
べきである。また、消費税引上げの前提として、デフレ脱却を早急に実現することが必要
であり、そのための成長戦略の具体化が今後の大きな課題と言えよう。
(2)附則第 18 条第2項(防災・減災条項)の解釈
消費税引上げ法附則第 18 条第2項は、「税制の抜本的な改革の実施等により、財政によ
る機動的対応が可能となる中で、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金
を重点的に配分するなどの施策を検討する」旨を定めた規定であり、平成 24 年6月 15 日
の民主・自民・公明の3党合意(税関係協議結果)に基づき、衆議院修正で新たに設けら
れたものである。しかし、この規定の解釈をめぐっては、自民党が「国土強靱化基本計
画」に基づき 10 年間で総額 200 兆円の公共投資を、公明党が「防災・減災ニューディー
立法と調査 2013.1 No.336
64ル」に基づき 10 年間で総額 100 兆円の公共投資をそれぞれ提唱していることから、消費
税引上げ分が公共事業など景気対策に使われるのではないか、との懸念が生じている。
これに対し、野田総理大臣は「今回の社会保障と税の一体改革では、消費税率の引上げ
分は全額社会保障財源化し、全て国民に還元することとしており、景気対策など他の目的
に使用されることはない」と明確に否定している
12
。しかし、3党協議にかかわった自民
党の宮沢洋一議員は「財政の機動的対応が可能になる中で、当然消費税の税収は社会保障
4経費に充てられるが、一方で、4経費の部分に消費税が充てられることで、その他の経
費の部分にもかなり楽な部分ができてきて、今までできなかった政策が実現できる」と解
釈しており 13
、3党間で十分なコンセンサスができているとは言い難い。
このような中で政府は、消費税引上げ分(5%)のうち、1%程度(2.7 兆円程度)を
年金・医療・介護・子育てなどの「社会保障の充実」に、残りの4%程度(10.8 兆円程
度)を今の社会保障制度を守るための「社会保障の安定化」に充てる方針を示している。
さらに「社会保障の安定化」のうち7兆円程度は、特例公債に多くを依存している現行の
社会保障財源の改善を図るため、特例公債の発行を抑制することで、「後代への負担のつ
け回しの軽減」に充てることとしている。しかし、消費税引上げ分を全額社会保障財源化
するとしても、今後、特例公債の発行の抑制が進まず、公共事業の支出だけが拡大するこ
とになると、結果的に、消費税引上げ分が公共事業の財源に事実上充てられているとの解
釈もできる。こうした懸念を払しょくするためにも、消費税引上げ後の特例公債の発行の
縮減の行方について十分に注視していく必要があろう。
(3)財政健全化と消費税再引上げ
欧州債務危機を契機として世界全体で財政リスクへの市場の懸念が高まっている中で、
政府は今回の税制改革を「社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成」に向けた第
一歩と位置付けている。現在、具体的な財政健全化目標については、財政運営戦略(平成
22 年6月 22 日閣議決定)において、国・地方及び国の基礎的財政収支(プライマリーバ
ランス)の赤字対GDP比を遅くとも 2015 年度(平成 27 年度)までに半減、2020 年度
(平成 32 年度)までに黒字化することとしており、この方針は我が国の国際公約ともな
っている。一方、内閣府の「経済財政の中長期試算」(平成 24 年8月 31 日)の慎重シナ
リオでは、消費税引上げ法の成立等により、2015 年度の国・地方及び国のプライマリー
バランスの半減目標(それぞれ▲ 3.2 %、▲ 3.4 %)は達成されるものの、2020 年度は
それぞれ▲ 2.8 %、▲ 2.9 %(それぞれ 15.4 兆円程度、16.1 兆円程度)となり、消費税
10 %への引上げにもかかわらず消費税率に換算して6%ほどの収支改善が必要となる。
社会保障・税一体改革大綱(平成 24 年2月 17 日閣議決定)では、今回の税制改革に続
く今後の検討課題として、「少子高齢化の状況、財政の状況、経済の状況などを踏まえつ
つ、次の改革を実施することとし、今後5年を目途に、そのための所要の法制上の措置を
講じることを今回の改革法案の附則に明記する」ことが盛り込まれていたが、消費税引上
げ法には明記されなかった。このため、2020 年度のプライマリーバランスの黒字化に向
けて、消費税の再引上げを含め今後どのような財政上の対応を図るかが課題となっている。
立法と調査 2013.1 No.336
65野田総理大臣は、「2020 年の黒字化までについては、その時々の経済状況等、財政状況
を見ながら歳出削減、あるいは増収の道、あるいは歳入改革、この道筋をどういう形で選
択していくのか、その状況の中で判断する」としており、再引上げの可能性については直
接言及していない 14
。しかし、消費税を 10 %に引き上げても、実際に国が使用できる消
費税収は全体の 63 %(消費税全体の税収から地方交付税分(15 %)と地方消費税収
(22 %)を除いた分)にすぎず、これでは社会保障4経費(24 年度予算で約 25 兆円)の
財源が賄えないことに加え、今後の社会保障費の自然増(約1兆円)や国債費の増加(毎
年約2兆円)などを考慮すれば、消費税の再引上げはいずれかの時点で必至の状況となる。
今後は、デフレから早期に脱却し成長戦略による税収増を目指すことを第一としつつ、徹
底した歳出削減や行政改革の実現などにより、消費税の再引上げを含めた税負担増をどれ
だけ抑制することができるかが焦点となろう。
(4)低所得者対策
消費税は、低所得者ほど食料品を含めた消費支出の割合が高いため、消費税の負担割合
が高くなるという逆進性の問題がある。このため政府は、3党合意に基づき、「給付付き
税額控除」と「複数税率」(軽減税率)の検討に加えて、これらの施策が導入されるまで
の間の暫定的・臨時的措置として、「簡易な給付措置」の検討を行うこととしている。
このうち簡易な給付措置については、消費税導入時(平成元年4月)と消費税5%への
引上げ時(平成9年4月)の際に実施された臨時福祉給付金(1人1万円)等の例を参考
に政府において検討が行われている。3党合意においては、「真に配慮が必要な低所得者
を対象にしっかりとした措置が行われるよう、今後、予算編成過程において、立法措置を
含めた具体化を検討する」としているが、政府から「給付額の水準」、「対象者の範囲」、
「財源」等について具体的な見解はいまだに示されていない。とりわけ財源問題について
は、消費税導入時と消費税引上げ時の措置が一度限りの施策で、それぞれ予算額が 645 億
円(対象者 563 万人)と 948 億円(対象者 890 万人)であったのに対し、今回は低所得者
対策が本格的に実施されるまでの間、毎年実施されることになるため、予算額が大幅に増
大する可能性もある。したがって、財源確保の見通しを示しつつ、どのように制度設計を
行うのか、その具体的な方針をできるだけ早く国民に明らかにすることが必要であろう。
次に、給付付き税額控除は、低所得者に対して所得税の一定額を税額控除又は還付する
ものであるが、低所得者の実情に応じてきめ細かな配慮ができ、必要となる財源が少なく
なる可能性がある反面、制度が複雑で国民の理解が進んでいないなどの問題点がある。3
党合意に基づく衆議院修正では「所得の把握、資産の把握の問題、執行面での対応の可能
性等を含め様々な角度から総合的に検討する」としているが、今後どのような形で3党協
議が行われ、いつまでに結論を得るか、その具体化がこれからの課題である。例えば、対
象者の範囲と水準をどう設定するのか、金融資産など資産所得をどのように捕捉するのか、
所得が捕捉できない場合に不正還付・給付のおそれがないか、費用が1兆円規模となれば
その財源確保をどうするか、などの問題について十分な検討が必要であろう。
さらに、複数税率は、食料品を始めとした生活必需品などを対象に標準税率より低い軽
立法と調査 2013.1 No.336
66減税率を導入するものであるが、EU諸国で活用されており低所得者対策として国民に分
かりやすい反面、検討すべき課題も多い。3党合意に基づく衆議院修正においても「財源
の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討す
る」としているが、その具体化は給付付き税額控除と同様に今後の課題となっている。特
に食料品を5%に据え置いた場合、2兆円台後半から3兆円台前半とされる財源の手当を
どうするか、軽減税率の対象範囲をどのように限定するか、中小事業者や税務署の事務負
担が多大とならないか、など政府から具体的な答弁は示されていない。
このように給付付き税額控除と複数税率それぞれのメリット・デメリットを比較考慮し
た上で、どのような制度設計が本当に望ましいのか、今後の政府及び国会における幅広い
論議が期待されるところである。
(5)その他の課題
以上のほか、消費税引上げをめぐるその他の課題について触れることとする。
第一に、消費税引上げに伴い、景気への影響が懸念される住宅や自動車取得に対する税
制上の対応である。まず住宅取得については、3党合意において「平成 25 年度以降の税
制改正及び予算編成過程で総合的に検討を行い、消費税率(国・地方)の8%への引上げ
時及び 10 %への引上げ時にそれぞれ十分な対策を実施する」としているが、消費税の中
で対応(例えば軽減税率)するのか、住宅ローン減税を拡充するのか、不動産関係の税制
(不動産取得税・登録免許税)を軽減するのか、具体策が明らかでない。また、自動車取
得についても、3党合意において「抜本的見直しを行うこととし、消費税率8%への引上
げ時までに結論を得る」としているが、財務省は代替財源がない中での廃止(自動車取得
税廃止で2千億円、自動車重量税廃止で7千億円の減収)には消極的である。どちらも厳
しい財政状況の中で、どのような負担軽減策を実施できるかが今後の課題と言える。
第二に、格差拡大防止や所得再分配機能確保を図るための所得税や資産課税の見直しで
ある。3党合意によって、所得税や資産課税の見直し規定が消費税引上げ法から削除され
たことにより、これらの見直しは平成 25 年度税制改正に先送りされることとなった。こ
のうち所得税については、3党合意において「最高税率の引上げなど累進性の強化に係る
具体的な措置について検討」するとし、「具体化にあたっては、今回の政府案(課税所得
5,000 万円超について 45 %)及び公明党の提案(課税所得 3,000 万円超について 45 %、
課税所得 5,000 万円超について 50 %)を踏まえつつ検討を進める」としていることから、
当初の政府案より累進性を強化する方向で検討が進められる見通しである。一方、資産課
税については、3党合意において「相続税の課税ベース、税率構造及び贈与税の見直しに
ついて検討」するとしているものの、所得税の合意文書と違って、「累進性の強化」とい
う文言はなく、見直しの方向性は必ずしも明確ではない。今後、資産課税の強化に向けて
どのような見直しを行うことができるか、3党間の協議の行方が注目される。
第三に、福祉ビジョンの明確化である。社会保障・税一体改革大綱では、今後の目指す
べき社会として、「分厚い中間層が支える格差のない社会」や「社会保障の全世代対応型
への転換」などが基本理念として掲げられているものの、年金・医療・介護・子育てを始
立法と調査 2013.1 No.336
67めとした社会保障の全体像や、目指すべき福祉社会の在り方(高福祉・高負担か中福祉・
中負担か)など、具体的なビジョンが明らかではない。消費税の導入時と5%への引上げ
時、そして今回のように、歴代の内閣は、消費税導入・引上げの前提として、福祉ビジョ
ンの策定を求められてきたが、国民が納得できる内容のものがいまだ策定できていないの
が現状である。そもそも税は、政府の行政サービスの対価である以上、どのような社会を
築くのか、それによってどのようなサービスを国民に提供するのかを国民に分かりやすく
示すことが必要であり、そのための福祉ビジョンの明確化が何よりも重要である。
このほか、消費税の適正な価格転嫁を実現するための立法措置を含めた監視体制の強化、
取引の透明化を図るためのEU型のインボイス方式(現在は請求書等保存方式)の導入、
消費税の価格表示(総額表示、外税方式)の在り方、中小企業向け特例措置(事業者免税
点制度、簡易課税制度)の見直しなども今後の課題となろう。
4.日本銀行の金融政策をめぐる課題
(1)欧米の金融政策の動向
ア ECBの動き
世界的な経済危機や財政危機に対処するため、欧米の中央銀行は、従来の短期金利の
誘導を目的とする「伝統的金融政策」に加えて、様々な資産の買取りを中心とする「非
伝統的金融政策」を積極的に行ってきた。
例えば、欧州中央銀行(ECB)は、欧州債務危機に対処するため、証券市場プログ
ラム(SMP)と長期資金供給オペ(LTRO)を実施してきた。SMPは、2010 年
5月より、ギリシャ国債の買取りを開始し、その後、その範囲をアイルランド、ポルト
ガル、イタリア、スペインに広げたとされているが、2012 年4月以降は、「無制限の国
債買取りはユーロの信頼を損ね、対象国の財政再建努力が緩む」との批判を受け、買取
りを中断している。一方、LTROは、期間3年の資金供給オペで、2011 年 12 月と
2012 年2月の2回、総額1兆ユーロ規模を実施してきた。しかし、SMPは規模が限
定的であったこと、LTROは市中銀行の資金繰り支援が主な目的であったことから、
ともに南欧市場の安定化策としては必ずしも十分なものではなかったとされている。
このためECBは、9月6日、国債金利が高止まりしていたスペインやイタリアなど
を念頭に、従来のSMPを廃止して、新たな国債買取り策を発表した。具体的には、@
購入する国債は短期、特に1〜3年満期のもの、A国債買入れ額に上限を設けない(無
制限購入)、B支援対象国は欧州金融安定ファシリティ(EFSF)・欧州安定メカニ
ズム(ESM)による厳格で効果的なコンディショナリティの遵守を必要条件とするこ
と、などを内容としている。従来のSMPと異なるのは、支援対象国は、EFSF・E
SMに正式な支援要請をする必要があるとともに、厳格で効果的なコンディショナリテ
ィ(財政再建と構造改革の計画)の締結と遵守が求められることである。
ECBはこれまで財政支援につながる国債買取りに慎重な姿勢を示してきたが、スペ
インやイタリアというユーロ圏第3位、第4位の経済大国の国債相場が暴落とも言える
立法と調査 2013.1 No.336
68状況となったことに危機感を持ち、今回の新たな対応に踏み切ったものと考えられる。
イ FRBの動き
一方、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、2012 年1月 25 日、欧州債務危機で
世界経済の先行きに下振れリスクが漂っている中で、@事実上のゼロ金利政策を少なく
とも 2014 年後半まで継続する、A長期的な物価目標(longer-run goal)を2%に設定
する、ことを発表した。この物価上昇2%目標については、FRBが初めて「インフレ
目標」を設定したと評価する論評がある一方で、FRBが示した物価目標は、特定の物
価目標が目標から外れたら直ちに政策対応するという意味での「インフレターゲット」
ではないとする論評もあり、国会でも論争が繰り広げられた 15

FRBは、9月 13 日、長引く景気低迷に対処するとともに労働市場のテコ入れを図
るため、量的緩和第3弾(QE3)の導入を決定した。具体的には、@住宅ローン担保
証券(MBS)を月 400 億ドルずつ購入(期限や総枠を設けない)、A事実上のゼロ金
利政策を 2015 年半ば(従前 2014 年末)まで継続する、ことなどを内容としている。資
産購入によるバランスシート拡大を通じて景気を刺激する今回の量的緩和第3弾は、リ
ーマンショック時の 2008 年 11 月から 2010 年3月まで実施されたQE1(米国債を含
む金融資産を1兆 7,500 億ドル購入)、デフレ懸念が強まった 2010 年 11 月から 2011 年
6月まで実施されたQE2(米国債を6千億ドル購入)に続く措置であり、労働市場が
本格的に回復するまで緩和策を続けることとしていた。なお、QE3は、12 月 12 日に
FRBが「失業率が 6.5 %程度(11 月は 7.7 %)に落ち着くまで事実上のゼロ金利政
策を続ける」ことなどを決定したことによって、更に強化されることとなった。
このように欧米の中央銀行が大幅な金融緩和策を進める背景には、巨額な財政赤字を
抱える欧州各国や米国が積極的な財政出動に踏み切れない中で、世界経済の牽引役とし
て中央銀行が危機管理の役割を事実上担わなければならない事情がある。
(2)日本銀行の金融政策の経緯と論点
ア 最近における日本銀行の金融政策
日本銀行は、欧州債務危機などの影響で日本経済の先行きに不透明感が強まっていた
平成 24 年2月 14 日の金融政策決定会合において、@国債や社債などを買い入れる基金
(資産買入等の基金)の上限を 55 兆円程度から 65 兆円程度に 10 兆円増額する、A金
融政策の目安となる中長期的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途」を新た
に定めて、その目途(goal)を消費者物価の前年比上昇率で「2%以下のプラスの領域
で、当面は1%」とする、B物価上昇率1%が見通せるまで強力な金融緩和(実質的な
ゼロ金利政策)を推進していく方針を決定した。
この政策決定について日銀の白川総裁は、「従来の『中長期的な物価安定の理解』は、
日銀政策委員会の各政策委員が中長期的に物価が安定していると理解する数字の範囲を
示していたのに対し、今回の『中長期的な物価安定の目途』は、日銀政策委員会の判断
としての数字」と説明した。また、「目標」という言葉を用いなかった理由については、
「我が国では『インフレ目標』という言葉が目標物価上昇率との関係で、金融政策を機
立法と調査 2013.1 No.336
69械的に運用することと同義に使われることが多いことから、『目途』という言葉を用い
た」とした 16
。なお、安住財務大臣(当時)は、今回の日銀の政策決定について、「実
質的にインフレターゲットを設定されたものと受け止めている」との認識を示した 17

デフレからの早期脱却を図るため、日銀はその後も、資産買入等の基金の上限を4月
に 70 兆円程度、9月に 80 兆円程度へと順次拡充してきたが、世界経済の減速により日
本経済の下振れリスクがより鮮明になってきたことを受けて、10 月 30 日の金融政策決
定会合において、更なる金融緩和を決定した。具体的には、@資産買入等の基金の上限
を 91 兆円程度に増額する、A銀行の貸出増加を支援するための基金(貸出支援基金)
を創設し、資金供給の総額の上限を無制限とする、Bデフレ脱却に向けた政府・日銀の
取組と共有認識を示した共同文書を初めて公表する、こととした。
9月に続く2か月連続の金融緩和は、りそなグループの実質国有化で金融不安が広が
った平成 15 年4〜5月以来であり、異例とも言える対応であった。また、Aの銀行の
貸出促進策で「無制限」という文言をあえて盛り込んだのは、先の述べたECBの新た
な国債買取りやFRBのQE3を決定した時の表現を踏まえ、他の中央銀行に比べて緩
和姿勢が弱いと批判されてきたことを意識したものであった。しかし、今回の貸出促進
策は、銀行の貸出増加分に対して日銀が低利で資金供給するものであるが、市場に低金
利の資金があふれ、企業や家計の借入れ需要が乏しい中においては、効果が限定的なも
のとなる懸念もある。さらに、Bについては、「政府と日銀による事実上のアコード
(政策協定)」と評価する論評がある一方、白川総裁は「政府と日銀がこれまで共有し
ている認識を改めて明確に示すもの」とし、これまでと変わりないとの認識を示した
18

その後、12 月 20 日の金融政策決定会合において、資産買入等の基金の上限を 101 兆
円程度に更に増額する追加金融緩和を行うとともに、平成 25 年1月の次回会合で、「当
面1%」としている「中長期的な物価安定の目途」の見直しを検討する方針が示された。
イ 今後の金融政策の争点
平成 26 年4月からの消費税8%への引上げを控え、その前提としてデフレ脱却を早
期に実現することが与野党共通の政策課題であることから、今後の日銀の金融政策に求
められる期待は日増しに高まっている。以下、その主な争点について若干取り上げたい。
第一に、インフレ目標についてである。「2%以下のプラスの領域で、当面は1%」
とした「中長期的な物価安定の目途」に対しては、当面1%という目標が低すぎる、い
つまでに達成するのか時期が示されていない、達成できない場合の結果責任が明確でな
い、などの問題点も指摘されている。英国のイングランド銀行(BOE)が 1992 年に
採用したインフレ目標(target)との違いは、BOEのインフレ目標が目標を達成でき
ない場合に総裁がその理由や是正のための対応等を財務大臣に報告する必要があるのに
対し、日銀の「目途」はそのような仕組みとなっていないことである。また、主要国の
中央銀行のインフレ目標は、インフレを抑制するための目標であるが、日銀の「目途」
は望ましい物価上昇を実現することでデフレ脱却を目指す目標であり、金融政策として
も特異なものとなっている。こうした「目途」の具体化に向けては、目標達成時期の明
確化が課題になるとともに、目標が達成できなかった場合の対応について、日銀の更な
立法と調査 2013.1 No.336
70る説明責任が問われることとなろう。
第二に、金融緩和強化の方策である。欧米の中央銀行と比べて緩和姿勢が弱いとの批
判に対し、日銀はこれまで「1990 年代以降、マネタリーベースの対GDP比で見ると、
日米欧の中央銀行の中で最も大胆に金融緩和を行ってきた」と説明してきた。しかし、
これに対しては、日本はほぼ 20 年間ゼロ成長で分母のGDPに変化がないこと、欧米
が小切手やカード決済中心の社会であるのに対し、日本は現金を多く使う社会であるこ
と、マネタリーベース残高で見ると 2008 年9月のリーマン・ショック以降は欧米と比
べて増加のテンポが弱いこと、などの問題点も指摘されてきたところである。また、最
近においては、デフレの原因でもある円高の是正を図る観点から、日銀が金融調節の一
環として外貨建て債券の購入を検討すべきとの意見も出ている。しかし、外債購入は事
実上の為替介入であり、為替介入の権限を財務大臣とする日銀法に抵触するおそれがあ
ることや、為替介入に否定的な諸外国の理解の得ることが必要であることから、慎重な
検討が必要である。今後の更なる金融緩和の強化については、これが財政ファイナンス
と市場に受け止められ国債金利の高騰を招くことのないよう十分な配慮を行いつつ、日
銀が買い入れる国債の年限(現在は残存期間1年以上3年以下)の見直しやリスク資産
買入れの多様化(現在はCP・社債・ETF等)などを検討すべきであろう。
第三に、政府と日銀の共同文書についてである。そもそもアコードとは、1951 年3
月に米国財務省とFRBが発表した共同声明のことを指し、これによりFRBは、これ
まで戦費調達のために国債を買い支えて金利を低く誘導してきた政策を止め、金融政策
の独立性を勝ち得たとされている。今回の共同文書は、政府と日銀が共有している認識
を文書にしたものであり、このようなアコード(政策協定)とは性格を異にしている。
しかし、デフレの早期脱却のためには、目指すべき物価安定の目標を政府と日銀が共有
することが重要であり、そのためには今後、日銀の独立性に十分に配慮しつつ、日銀法
改正やアコードの在り方を含め、徹底した議論を行っていく必要があろう。
最後に、日銀当座預金についてである。現在、平成 20 年 11 月から開始された「補完
当座預金制度」によって、金融機関の日銀当座預金の超過準備に対して 0.1 %の金利が
付されている。現在の当座預金残高は約 40 兆円(平成 24 年 11 月末)となっているが、
この制度によって金融機関がリスクをとって中小企業に融資するインセンティブをなく
しているのではないか、あるいは市場金利が 0.1 %以下に低下しない原因ではないか、
などの問題点も指摘されている。補完当座預金制度は、リーマン・ショック直後の金融
市場の安定確保を図るため時限的に導入されたものであることから、経済活性化を図る
ためには、0.1 %の付利を撤廃することも視野に入れるべきであろう。なお、マイナス
金利を課すことで通貨価値を下げ円安誘導を図る提案もなされているが、白川総裁は、
市場の安心感がなくなり流動性供給に不安が生じる、銀行券への大規模な資金移動が起
こる、マイナス金利のコストが貸出金利に上乗せされるなどの問題点を指摘している
19

マイナス金利の適用については実務的な観点も踏まえた慎重な検討が必要であろう。
立法と調査 2013.1 No.336
711 第 181 回国会衆議院本会議録第4号 10 頁(平 24.11.8)
2 第 181 回国会衆議院本会議録第4号6〜7頁(平 24.11.8)
3 例えば、参議院大蔵委員会において、当時の大平大蔵大臣は、「特例公債の発行、赤字公債の発行というこ
とができるように、財政法の改正をお願いするというのも一つの手段かもしれません。しかし、そういうこと
は、財政法の原則を崩すことに通ずることになりかねませんので、そういうことはお願いしないことにいたし
まして、別個の法律で、しかも、それを一年限りの法律といたしまして特例法の立法をお願いいたしておると
ころでございます。50 年度だけの、しかも、50 年度だけに適用される法律として、目的を限って、金額を限
ってお願いしておる。非常に厳格に考えておるゆえんのものは、財政法の原則をむやみに崩すというようなこ
とのないようにしなけりゃならぬと考えておるからでございます」と答弁している(第 76 回国会参議院大蔵
委員会会議録第5号 23 頁(昭 50.12.16))。
4 憲法第 86 条は「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければ
ならない」と規定し、予算の単年度主義を定めている。
5 第 181 回国会衆議院財務金融委員会議録第4号3頁(平 24.11.14)
6 第 181 回国会参議院財政金融委員会会議録第1号8頁(平 24.11.15)
7 復興予算の 18 兆円から、平成 23 年度一般会計決算で不用となった1兆 1,034 億円を除くと、17 兆円程度
となるが、これが平成 23 年度及び 24 年度の実質的な復興予算と見ることもできる。
8 第 181 回国会参議院財政金融委員会会議録第1号7頁(平 24.11.15)
9 現在の 19 兆円のフレームは、19 兆円の事業費に、復興債で手当てすることとされた年金臨時財源 2.5 兆円
(23 年度第1次補正)を加えた 21.5 兆円をベースにして、これを歳出削減・税外収入等で 11 兆円程度、復
興臨時増税で 10.5 兆円程度で財源手当することとしている。
10 第 181 回国会参議院財政金融委員会会議録第1号7頁(平 24.11.15)
11 第 180 回国会参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会会議録第 13 号 34 頁(平 24.8.3)
12 第 180 回国会参議院本会議録第 20 号 16 〜 17 頁(平 24.7.13)
13 第 180 回国会参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会会議録第3号 34 頁(平 24.7.18)
14 第 180 回国会参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会会議録第 11 号3頁(平 24.7.31)
15 自民党の山本幸三衆議院議員は、「バーナンキFRB議長はインフレターゲットではないと発言したとされ
ているが、彼は物価だけを目標としてやるのがインフレターゲットであればそうではない。FRBは物価と雇
用の2つの目標を追い求めるから、別の形のインフレターゲットと、ある意味言っている」と主張している
(第 180 回国会衆議院予算委員会議録第4号 12 頁(平 24.2.2))。
16 日本銀行「総裁記者会見要旨」3〜4頁(平 24.2.15)
17 第 180 回国会衆議院予算委員会議録第 12 号 30 頁(平 24.2.20)
18 日本銀行「総裁記者会見要旨」5頁(平 24.10.31)
19 日本銀行「総裁記者会見要旨」8頁(平 24.11.20)
5.おわりに
以上、平成 25 年の常会で想定される主な財政金融上の政策課題について取り上げてき
た。今後の消費税引上げを控えて、デフレ脱却に向けた政策をどのように推進していくの
か、また、社会保障の充実・安定化と財政健全化をどのように達成していくのか、国会で
の徹底した議論が期待されるところである。
立法と調査 2013.1 No.336
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