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(回答先: ソフトバンク株は下げ幅拡大、個人投資家などから投げ売り ソフトバンク買収劇、日銀緩和効果の呼び水か メガ3行が1.8兆円 投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 15 日 20:19:13)
【第45講】 2012年10月16日 三谷宏治 [K.I.T.虎ノ門大学院主任教授]
「身の回り」データからの発想(2)
iPhone5でソフトバンクは100億円分の回線収入を失った!?
「ソフトバンク多め。iPhone5のキャリア比率は
ソフトバンク63.9%」とギズモードは言った
10月7日、パソコンに毎朝配信されるGunosy(グノシー:テーラーメイド型ニュース配信サービス)を見ていました。iPhone5の発売(の後の混乱)とスティーブ・ジョブズの命日(10月5日)が重なって、Appleネタだらけです。「Appleのサイトがスティーブ・ジョブズ追悼」とか「iPhone5製造のFoxconn工場で大規模ストライキ」とか「SoftBank iPhone5での異常なバッテリーの減り!」とか。なんと25個の紹介記事のうち、8つがApple関連でした。
そのなかで目にとまったのが下から8番目だった「ソフトバンク多め。iPhone5のキャリア比率はソフトバンク63.9%、KDDI36.1%:ギズモード・ジャパン」という記事でした。
ギズモードは(個々の記事の信頼性はともかく)テックオタクにはお馴染みのサイト。早速クリックして記事を読みにいきました。
出ていたのはこのグラフです。
「ソフトバンクがちと多い」で始まるその記事は、このグラフとその出所(MM総研)、そして9月に同社が調べていたiPhone5の購買意向と実際の購入機種の比率(*1)を比べて「実際に購入・予約するときにはソフトバンクがさらに差を広めた」と結論づけていました。
*1 iPhone5購入意向者の購入キャリア意向は、ソフトバンクが53.3%に対してKDDIが46.7%だった。
なるほど、ソフトバンクモバイル(以下ソフトバンク)絶好調かあ。それにしてもソフトバンクが63.9%でauが36.1%だなんて、「ちと多い」どころの差じゃないぞ、「ソフトバンクが大差で多い! auピンチ!!」って感じじゃないの。
でもそうは思いませんでした。その前日、日経新聞でこんな記事を読んでいたからです。
「iPhone5序盤戦、KDDIが乗り換え圧勝」と日経新聞は謳った
10月6日の日経新聞朝刊は一面の上部帯で「『5』で明暗」と誘い、3面では記事面積の4割を割いて、詳報しました。「iPhone5序盤戦、KDDIが乗り換え圧勝」と。なぜこんなに違った表現になったのでしょう?
そこに大きく載っていたのは、キャリア別端末数の販売数ではなく、2009年以来のMNP(番号持ち運び制度)数の推移のグラフでした。KDDIが2011年10月にiPhone4Sを扱うようになるまでは、ソフトバンク1人勝ちで、毎月5〜7万人がau、ドコモからソフトバンクに流れ込みました。スマートフォンユーザーの月平均料金は9000円ほどなので、1万人が乗り換えると年間10億円の増収(減収)要因となります。携帯電話ビジネスは基本的に固定費商売なので、それがそのまま増益(減益)要因となるのだから大変です。
そのグラフは、2011年10月以降ドコモの1人負けになって毎月10万人前後がソフトバンク(4万人前後)とau(6万人前後)に流れ続けたこと、そして、iPhone5が発売となったこの2012年9月では、ドコモからの流出9万5200件のほとんどが、auに流れたという「事実」でした。ソフトバンクのMNP流入数はわずかに1200件、auの80分の1でした。
通信会社の収入は回線契約数で決まるなか、限られたパイのなかでのシェア争いという面では「auが圧勝」していたのでした。
MM総研のデータはなんと言っていたか
なにかがおかしいはずです。すぐにギズモード記事にあったハイパーリンクをたどって元ネタであるMM総研のデータに跳びました。
ニュースリリース名は「iPhone5発売後のスマートフォン購入実態調査」で、10月4日のものでした。iPhone5発売日以降にスマートフォンを買ったか予約した人1500人、今後3ヵ月以内に購入する意向を示した人1023人が対象のWEBアンケートの結果報告でした。
そこには確かに「iPhone5のキャリア比率はソフトバンク63.9%対au36.1%」の文字が躍っています。ギズモードはウソをついてはいませんでした(当たり前)。
しかも、ソフトバンクはそのシェアを毎週上げていて、記事が「ソフトバンクが9月19日にauを意識して追加で発表したテザリングなどのオプションプラン追加、スマホ下取りプログラムの対象機種拡充と割引額の増加が奏功した」と分析するのもわかります。
でもその分析の下に、ちょっと控え目に(記事トップの要約には挙げられていなかった)、乗り換え状況の分析が、ありました。問題はここでした。
ソフトバンクは機種変更中心
auは乗り換え(MNP)・新規多し
ソフトバンクiPhone5のユーザーは9割が機種変更でした。これまでのiPhoneユーザーの厚みがあるので、機種変更が多いのは当然です。しかし、機種変更では囲い込みにはなっても、回線収入は増えません(*2)。ドコモからの乗り換えは6.3%、auからのそれは0.8%にすぎませんでした。auも同じ(機種変更中心)なら問題ではありません。
でも、auのiPhone5ユーザーはまったく違いました。機種変更は6割にすぎず、残り4割は(回線収入が増える)競合からの乗り換えか、新規加入者だったのです。特にソフトバンクからの乗り換えが17.1%を占めました。
au、ソフトバンクともに、iPhone5が期間中どれだけ販売(契約)されたかは公表していないので、推測するしかないのですが、仮にそれが言われている「初回出荷台数」だとすると、恐ろしいことがわかります。ソフトバンクはこのiPhone5商戦で、顧客を2万人近く失ってしまっていたのです。
*2 従来型(フィーチャーフォン)からの機種変更であれば、月利用料金は多少増える。
iPhone5でauは顧客を11.5万人増やし
ソフトバンクは1.6万人失った
初回出荷台数はau30万台、ソフトバンク40万台と言われています。そこにMM総研調査の購入形式比率を単純に掛けていきます。
すると、auの契約数はMNPで9.8万人増(ドコモから5.0万人+ソフトバンクから5.1万人−ソフトバンクへ0.3万人)、新規が1.7万人となり、全体では11.5万人の増となります。年間ではこの1ヵ月だけで年間100億円強の回線収入増となったわけです。
一方、ソフトバンクはMNPで2.3万人減(ドコモから2.5万人+auから0.3万人−auへ5.1万人)、新規が0.7万人となり、全体では1.6万人の減となります。
会社全体としては他の機種での契約増があり、9月でも契約者数を伸ばしましたが、このMM総研調査が正しければ(*3)、iPhone5の初期商戦で、ソフトバンクは顧客を失っていたのです。
*3 KDDIの田中孝司社長はauのiPhone5について「9月の予約の6割が機種変更で4割が新規。新規の8割がMNPによる転入」と述べており、MM総研調査の結果ときわめて近い。
ソフトバンクの逆襲、auの技術優位
そしてイメージ合戦へ
そのせいもあるのでしょう。「販売シェアで優位だ!」と叫びながらもソフトバンクはLTEでのテザリング解禁等の手の後、3651億円(*4)を投じてのイー・アクセス(ブランド名はイー・モバイル)買収を決めました。時価総額の6倍です。
合計の契約数は3911万人(8月末時点)でauを抜き、業界2位となりますが、それよりなによりソフトバンクが手に入れたかったのは、イー・アクセスがこの6月に割り当てられた700MHz帯(プラチナバンド[*5])と、1.7GHz帯で進めるLTEインフラだったでしょう。これでLTEテザリングによるインフラ対応も万全……かどうかはわかりませんが、「10月はMNPでも巻き返す!」と意気軒昂です。
auはしかし、その技術・インフラ優位を謳います。
KDDI社長・田中孝司さんはインタビューに答え、auのiPhone5のメリットとして「チューニング技術によるバッテリー持ち時間のアップ(待ち受け225時間→260時間)」「3G通信からLTEへの復帰時間の短縮(1秒。ソフトバンクは約1分)」「基地局のタイプもauの方がつながりやすさに貢献」と語ります。特に「端末の機能ではソフトバンクを完全に追い抜いた」と。
端末開発競争とiPhone争奪戦に敗れ、1人負けをこの数年間続けてきたauが放った、久し振りの怪気炎でした。
もちろん勝負はまだ付いていません。これからまさに、本当の勝負が始まるのでしょう。そしてこの勝負は「de facto standard(デファクトスタンダード)」を競う戦いでもあります。その極意は「勝つと思われたほうが勝つ」です。
双方のイメージ合戦、広報・宣伝合戦はまだまだ続くでしょう。
でもそれに決して惑わされないように。気になったニュースは原典に当たり、そして、幅広くニュースソースを持ちましょう。
私たちの身の回りのデータ(情報)には、イメージ合戦の地雷が無数に眠っているのです。次回もそういった「データからの発想」を試してみましょう。
*4 株式交換での買収にかかる株式価値1802億円と、ソフトバンクが負う純有利子負債額1849億円の合計。
*5 ソフトバンクは2012年2月に同じプラチナバンドの900MHz帯の割り当てを受けている。そのときイー・アクセスは次点に沈み、700MHz帯ではソフトバンクが次点に沈んでいた。
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参考図書
『ハカる考動学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
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