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以下は、David Beckworth, “The Original QE Program: A Smashing Success“(Macro and Other Market Musings, May 16, 2011)の訳。
昨年のことだが、ポール・クルーグマン(Paul Krugman)とのやり取り(邦訳はこちら)の中で私は次のような指摘を行った(邦訳はこちら)。QE2はここアメリカで初めて試みられた量的緩和政策ではない、と。加えて次のようにも指摘した。「初めてのQE」は大成功を収めた、と。「初めてのQE」は、ゼロ金利制約下にもかかわらず、名目支出の堅調な回復を後押しすることになったのである。さて、それでは「初めてのQE」が実行されたのはいつのことなのだろうか? それは・・・1933年〜1936年のことである。
ここで私がこの話を今になってわざわざ持ち出してきた理由は2つある。まず1つ目の理由は、つい最近になって、私の見解を支持するような短いエッセイ(pdf)に出くわしたからである。そのエッセイは、セントルイス連銀のリチャード・G・アンダーソン(Richard G. Anderson)の手になるものであるが、そこでアンダーソンは、当時の金融刺激策(金融緩和)は実質的に量的緩和の性格を備えるものであった、と指摘しているのである(ただし、アンダーソンは金融刺激策(金融緩和)の開始を1932年と見ている)。そして2つ目の理由は、「初めてのQE」がそこそこの成功に止まったQE2に対する格好の反例となっているからである。「初めてのQE」を実行に移したのはフランクリン・D・ルーズベルト(FDR)大統領であったが、ルーズベルト大統領は「初めてのQE」の実施と同時に危機以前の水準にまで物価水準を回復させる意思があることを世間一般に対して示したのであった。言い換えれば、ルーズベルト大統領は物価水準ターゲットの採用を世間一般に対してシグナルしたのであった。そして、G・エッガートソン(Gautti Eggerton)によれば(pdf)、ルーズベルト大統領によるこのシグナルは世間一般の人々からも明確に理解されたのである。ルーズベルト大統領は、物価水準ターゲットの採用を裏付けるために、Fedに対して大量の債券を購入するように促し、(議会の圧力を通じて)財務省が政府紙幣を発行することができるように承認を取り付け、金1オンス=20.67ドルから金1オンス=35ドルへの平価切り下げに踏み切ったのであった。これら一連の行動は、世間一般に対して、ルーズベルト大統領が本気で物価水準ターゲットの採用に乗り出したことを示す(誤解のしようがないほどに)明白なシグナルを送ることになったのである。
確かに1940年代の初頭に至るまで物価水準が危機以前の水準にまで回復することはなかったものの、「物価水準が危機以前の水準にまで回復するだろう」という期待によってアメリカ経済は1933年〜1936年の間に堅調な回復を見せることになった(Fedが途中で政策転換するようなことがなければ、おそらく景気回復はもっと続いたことだろう)。つまり、「初めてのQE」が成功に終わった理由は、(量的緩和の実施と同時に)物価水準ターゲットの採用を伴っていたためであり、物価水準ターゲットの採用によって適切な方向に期待形成がなされることになったためなのである。一方で、QE2は物価水準ターゲットの採用を伴うことなく実施され、また、Fedの暗黙のインフレーションターゲットにおける目標インフレ率が何%であるのか(あるいはどのレンジにあるのか)がこれまでもそして現時点でも明確に定義されていないままである[1] 。その結果がそこそこの成功に止まったQE2、ということになるわけである[2] 。このようなQE2の状況についてライアン・アベント(Ryan Avent)が非常にうまくまとめている。アベントはこう述べている。QE2は金融政策の方向性(進路)をシフトさせることにはなったものの、行き先(目的地)をきっちりと設定しなかった、と。QE2の問題はまさにこの点にあるのである。
- 原注;物価水準ターゲットの採用はそれまでの金融政策の枠組みと比べれば大いなる改善であったが、必ずしも理想的な金融政策の枠組みであるとは言えない。というのも、物価水準ターゲットは総供給ショックとの相性が悪いのである(訳者注;総供給ショックを増幅させて実体経済の不安定化につながる恐れがある、ということ。この点について詳しくはこちら(邦訳はこちら)とこちらを参照。)。その意味で、物価水準ターゲットよりは名目GDP水準ターゲットの方が望ましいと言えるだろう。 [↩]
- 原注;QE2がそこそこの成功に止まった理由の一つは、財務省による国債管理政策によって市中における既発国債の満期構成の長期化がすすんだことにもあろう。 [↩]
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