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(回答先: コアインフレ率なんかいらない? 投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 25 日 19:51:13)
May 24, 2011 No.2011-100 伊藤忠経済研究所
Economic Monitor 所 長 三輪裕範(03-3497-3675)
主任研究員 丸山義正(03-3497-6284)
コアインフレは有害か?
5月18日に、セントルイス連銀のブラード総裁がNY大学で”Measuring Inflation: The Core Is Rotten”と題して講演を行った。講演タイトルを直訳すれば「腐ったコアインフレ」である。インフレのトレンドを把握するためのコア指標は一つに限られないが、ここでブラード総裁により非難されているのは、「ヘッドラインインフレ(総合インフレ率)から食料とエネルギーを除いたコアインフレ」である。中央銀行やエコノミストは他に「刈り込み平均」や「中央値」などの手法でインフレのトレンドを把握しようと試みている。
講演の中でブラード総裁は、@ヘッドラインインフレがボラタイルなことを理由に政策ターゲットに採用しないのはおかしい、Aコアインフレがヘッドラインインフレ率の先行指標として優れているかは疑わしい、B相対価格の議論を踏まえればエネルギー価格の除外はインフレ圧力を過小評価していることになる、などの批判を展開している。そして、中央銀行特にFedはヘッドラインインフレをより重視すべきと結論づけている。
結論を先に言えば、ブラード総裁の批判は概ね的を得ている。しかし、だからと言って中央銀行関係者、特にFedがコアインフレを利用してはいけない理由とはならない。まずはブラード総裁によるコアインフレ批判を検討しよう。なお、検討の前提として、Fedはインフレターゲットを明示的に採用していないが、中長期の経済見通し1に基づけばPCEデフレーター(個人消費支出デフレーター、コアではない)で1.7〜2.0%をデュアルマンデートに適うインフレ率と判断している。
@ヘッドラインインフレがボラタイルなことを理由に政策ターゲットに採用しないのはおかしい
その通りである。何の反論もない。家計が直面する物価変動を(現行統計において)正確に反映しているのはヘッドラインインフレであり、ヘッドラインインフレを金融政策のターゲットにすべきである。ヘッドラインインフレが振れやすいことは金融政策のターゲットに採用できない理由にはならない(Fedもデュアルマンデートをヘッドラインインフレに換算している)。但し、ヘッドラインインフレの変動が何に基づくのか、また将来にどう影響するのかを見極める能力は極めて重要である。つまり、ヘッドラインインフレのどの程度が制度的・一時的要因なのか、また現在のヘッドラインインフレの変動がどの程度将来のインフレ率を左右するのか(インフレ率のトレンドに影響するのか)を判断する必要がある。その上で、ヘッドラインインフレの変動に対し、中央銀行は金融政策によって対応すべきか否かを決定することになる。
Aコアインフレ率がヘッドラインインフレ率の先行指標として優れているのか
将来も含めて考えた場合、これには答えがでない。ブラード総裁が論じているように、エネルギー価格がトレンド的な上昇過程にあると仮定し、その価格転嫁が行われ人々のインフレ期待を押し上げるとすれば、コアインフレはヘッドラインインフレの先行指標とはならない。また、Bで述べるように必需品であるガソリンなどエネルギーの価格変動が及ぼす相対価格変動も踏まえると、インフレ率そのものを過小評価することにもなりうる。但し、エネルギー価格が上昇過程にあるという仮定を置いての議論は(結論として正しいかも知れないが)公平さを欠く。NY連銀のエコノミストが論じているように2、コアインフレがヘッドラインインフレへ収束する場合も、ヘッドラインインフレがコアインフレへ収束する場合もありうる。それを分けるのは期待インフレ率である。
B相対価格の議論を踏まえればエネルギー価格の除外はインフレ圧力を過小評価している
エネルギー価格が上昇トレンドにあるとの仮定を置けば、正しい。CPIやPCEデフレーターこそが家計の支出を最も広くカバーしているのであり、コアではなく、全体(ヘッドライン)のバスケットにおいて相対価格の変動が生じる。当たり前だが、コアではなくヘッドラインこそが一般物価の変動を示している。そのため、特定品目を控除して算出したインフレ率は、特定品目の価格変動を控除している一方で、特定品目の価格変動が他の財に及ぼした価格変動を含むという歪みを有する。故に控除している品目が必需品(価格弾力性の低い財)であり、かつ価格に上昇トレンドがあるのならば、残りの品目については需要鈍化に伴い価格上昇が抑制されるということになる3。
@〜Bについての検討を踏まえれば、確かにブラード総裁の言うとおり、コアインフレに対する過信や盲信は大きな問題を孕む。ただ、それがコアインフレを利用するべきではないとの議論にまで至るかは疑問である(もちろん、ブラード総裁はそこまで分かって、議論喚起のために敢えて挑戦的なタイトルを掲げたのだろうが)。中央銀行は中期的に見てヘッドラインインフレが安定的に推移するように金融政策を運営すべきであるが、その金融政策運営においては国民とのコミュニケーションが極めて重要である。そのコミュニケーションに際して、簡明なコアインフレを、その問題点を認識しつつ用いることは許されるべきであろう。
既に述べたように、インフレ率のトレンドがヘッドラインインフレに収束するのか、コアインフレに収束するのかは、期待インフレ率が左右する。ヘッドラインインフレが上昇する場合に、それに対応して期待インフレ率が上昇するのであれば、インフレ率のトレンドはヘッドラインインフレに収束する。逆もまた真であり、故に中央銀行やエコノミストは期待インフレ率の動向を何とか把握しようと試みている。期待インフレ率がヘッドラインとコアのいずれに即して変動するか(両方に即さない場合もある)を、種々の判断材料に鑑み分析した上で、中央銀行は金融政策を運営し、その一環として国民とのコミュニケーションを行う。その際にコアインフレがコミュニケーションのツールとして有用であるならば、用いることに問題はないだろう。トレンドがコアインフレへ収束しない場合でも、何故コアインフレへ収束しないのかを説明すれば足りる。
冒頭で述べたように、インフレ率のトレンドをより正確に把握せんとする試みは続いている。「刈り込み平均」などの手法が、インフレ率のトレンドを把握する上で優れた手法である可能性が高いことには賛同する。しかし、コミュニケーション・ツールとしては正直言って難し過ぎる。今のところ、インフレ動向を説明するのに(否定する場合も含めて)コアインフレに勝るものはない。要は使う側の問題である。
2 “Are Rising Commodity Prices Unanchoring Inflation Expectations?” NY Fed Liberty Street Economics, May 16, 2011
3 こうしたコアインフレを巡る議論のほとんどは新しいものではない。日本銀行の白川総裁も就任前の著書「現代の金融政策」でコアインフレ測定や利用の問題について触れている。
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