http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/367.html
Tweet |
日経ビジネス オンライントップ>アジア・国際>中国発 経済観察報
中国産食品、対日輸出急増のジレンマ 震災特需の商機到来も、安全性の保証に不安
2011年4月4日 月曜日
経済観察報
中国 青島 極洋 アジア 震災特需 食の安全
「極洋中国采購記:農葯阻碍蔬菜“東渡”」
経済観察報記者 龐麗静
今週の読みどころ(ミニ解説)
東日本大震災の影響は日本国内にとどまらず世界に広がっています。今週は、中国産食品の対日輸出急増にまつわる意外な裏話をお届けします。福島の原発事故や計画停電を受け、日本の商社や食品メーカーが中国産の野菜や常温保存可能な食材の調達を急増させる一方、中国側は“震災特需”の積極的な取り込みに慎重で、むしろ対応に苦慮しているというのです。
背景には、2002年の中国産冷凍野菜の残留農薬問題や、2008年の「毒餃子事件」のトラウマがあります。中国産食品の安全性に対するイメージが大きく傷つき、対日輸出を手がける中国メーカーは品質管理の見直しとコスト増加を余儀なくされました。今回の震災特需に安易に乗れば、品質管理がおざなりになり、かつての二の舞になりかねないと危惧しています。
食の安全は極めて重要ですが、日本が自ら定めた厳しい基準のため、非常時の調達に支障を来しているのは皮肉です。国内産野菜の“風評被害”の問題とも相通じる面があり、規制のあり方を抜本的にチェックし直す必要があると思います。
(岩村宏水=ジャーナリスト)
中国産食品の対日輸出を手がけている日本の食品商社、極洋の青島駐在員事務所は今、中国南部での野菜の買い付け拡大に追われている。
「日本の震災の影響は大きい。原発事故が起きた福島県のホウレンソウやかき菜など11種類の野菜から日本の基準値を超える放射性物質が検出されたうえ、計画停電の影響で食品メーカーの冷凍倉庫や家庭の冷蔵庫が使えなくなるかもしれない。このため中国産の野菜や常温で保存できる加工食品に、日本から注文が殺到している」。極洋青島事務所の調達担当者はそう話す。
中国の食品業界にとっては“震災特需”の到来だ。しかし意外なことに、多くの中国企業は受注を積極的に増やすことを躊躇している。なぜなら、日本が輸入食品に課している極めて厳しい安全基準のトラウマ*があるからだ。
*2002年の中国産冷凍野菜の残留農薬問題や2008年の「毒餃子事件」の影響により、対日輸出を手がける中国の食品メーカーは品質管理と安全検査体制の抜本的見直しを迫られた。それによるコスト増加を嫌い、対日輸出から撤退したケースも少なくない。
「一度でも検査に引っかかれば、二度と日本に輸出できなくなる。特需のチャンスをつかみたいのはやまやまだが、企業の長期的な信用をリスクにさらすわけにないかない」。ある中国企業はそう本音を漏らす。
野菜の輸出価格は25〜30%上昇
日本から中国食品メーカーへの発注は、通常は四半期毎に行われる。中国側は受注状況を見て食材の調達計画を立て、作付けする野菜の種類や量を調節する。だが震災後は緊急オーダーが激増したうえ、中国北部の野菜産地がまだ春の出荷シーズンに入っていなかった。このため南部の産地に引き合いが集中し、輸出価格はすでに25〜30%も上昇している。「日本向けの輸出価格は今後大幅に上がる」と、極洋青島事務所は予測する。
緊急オーダーは、現時点ではホウレンソウやかき菜が主体で、少なくとも「量」の面では十分確保できるという。だが、問題は「質」の保証だ。日本向けの野菜は、通常は事前に指定した産地で厳しい品質管理をしながら栽培している。しかし緊急オーダーに対応するには指定外の産地からも調達せざるをえない。
「日本は中国産の輸入野菜の残留農薬を厳しく検査している。中国の国内市場に一般に流通している野菜は、残留農薬が日本の基準を超過しているものが少なくない。いくら非常時とはいえ、日本の検疫当局が検査を甘くするとは考えられない」と、極洋の担当者は気をもむ。
野菜以外にも、乾燥肉や缶詰など保存の利く加工食品の引き合いが急増している。青島周辺に進出している日系食品メーカーは、何とかして食材を手当しようと大わらわだ。極洋青島事務所には、取引先の日系メーカーから情報やサポートを求める連絡がひっきりなしに入ってくる。
食材の種類によっては調達を急に増やせないものもある。一部の食材は小規模なメーカーしか生産しておらず、品質管理のばらつきが大きい。せっかく調達しても、日本の輸入検疫で引っかかれば会社の信用が傷ついてしまう。極洋のような商社や中国メーカーにとって、得られる利益に比べてリスクが大きすぎるのが実態だ。
日本の検疫で仮に問題が出た場合、中国の検験検疫局(日本の検疫所に相当)が日本側の検査結果に基づいて輸出企業の品質管理体制をチェックする。問題が比較的軽ければ改善を指導され罰金が科されるが、重い場合は改善が確認されるまで営業停止を命じられる。また、日本企業は一度でも問題を出した中国メーカーとは取引を再開したがらない。日本人は食の安全をことさら重視し、その追求をいとわないのだ。中国産だけでなく欧米の先進諸国産の輸入食品も厳しく検査している。
物流の混乱で輸送コストが増加
極洋は、中国で主に海産物や野菜などの食材を調達し、その大部分を日本に輸出している。青島事務所には18人の社員がおり、地元の山東省から年間約3万トンの食材を日本に送り出している。震災の直後から、緊急オーダーへの対応と品質保証のための苦労が続いているが、ここに来て頭痛のタネがもうひとつ加わった。物流の混乱だ。
地震による被災で東日本の多くの港湾が使用不能になったうえ、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸などの主要港では救援物資の輸送が優先され、一般の貨物は後回しにされている。このため日本の港に貨物が滞留し、輸送時間が余計にかかるようになった。
ある船会社は「港湾混雑費」の名目で運賃の上乗せを通知してきた。具体的には40フィートコンテナ1台当たり600元(約7500円)、20フィートコンテナ1台当たり300元(約3750円)という。輸送コストの増加を防ぐため、極洋は出荷計画の見直しを迫られている。
業界関係者の多くは、日本の食品メーカーと消費者の“買いだめ”により、日本向け輸出の増加は少なくとも2〜3カ月続くと見ている。日本向けに青梅や各種珍味を輸出している上海の食品メーカー、福得旺企業の営業担当者によれば、「当社は多くの商品が品切れになったが、日本企業は何事につけ慎重で、実績のない企業とは付き合いたがらない」という。
中国サムスン研究院の李萌研究員は、中国にとって日本は米国、EU(欧州連合)に次ぐ第3位の貿易相手であり、日本の震災の影響は広範囲に及ぶと見る。今後、日本が本格的な震災復興の段階に入れば、食品だけでなく建材、日用雑貨、労働力などの輸出でも中国企業の商機が拡大する可能性がある。
だが、李萌研究員は次のようにクギを刺すことも忘れない。
「日本の復興需要が拡大しても、製品の品質や環境基準の遵守などで妥協することはあり得ない。特需の恩恵を得られるのは、それらをクリアできる中国企業だけだ」
(極洋中国采購記:農葯阻碍蔬菜“東渡” 2011年3月28日 ©経済観察報)
「中国発 経済観察報」
中国の「経済観察報」は2001年創刊の週刊経済情報紙。発行部数は約68万部。政府系の機関紙ではなく、民間資本によって創刊・運営されている新興経済メディアの草分けの1つ。経済政策から金融、産業まで幅広くカバーするとともに、「理性、建設性」という編集方針を掲げ、センセーショナリズムを排した客観的な報道や冷静な分析に定評がある。北京を中心に、若手インテリ層の支持を集めている。
このコラムについて
中国発 経済観察報
中国の「経済観察報」は2001年創刊の週刊経済情報紙。発行部数は約68万部。政府系の機関紙ではなく、民間資本によって創刊・運営されている新興経済メディアの草分けの1つ。経済政策から金融、産業まで幅広くカバーするとともに、「理性、建設性」という編集方針を掲げ、センセーショナリズムを排した客観的な報道や冷静な分析に定評がある。北京を中心に、若手インテリ層の支持を集めている。
⇒ 記事一覧
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。