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http://www.tanakanews.com/110402libya.htm
リビアで反米イスラム主義を支援する欧米
2011年4月2日 田中 宇
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欧米はリビアで、独裁のカダフィ政権を倒すために決起した東部地域の勢力を軍事支援している。反政府勢力がカダフィを倒して新政権を樹立したら、リビアは従来より民主的な「良い国」になるというのが、国連を動かした欧米の考え方だ。しかし実際には、カダフィに代わって東部地域の勢力が政権を取ったら、リビアは欧米にとって従来よりさらに手強い敵になる可能性が増している。
カダフィの軍隊と戦っている東部地域の武装勢力の中には、アフガニスタンやイラクで米軍やロシア軍と戦った経験を持つ「イスラム聖戦士(ムジャヘディン)」が多くいる。彼らは、欧米勢力をイスラム世界から追い出すことを目標とするスンニ派の反米イスラム主義者で、米当局がいうところの「アルカイダ」の一部だ(ほかに、レバノンのヒズボラなどシーア派のイスラム主義勢力もリビア東部に来ていると指摘されている)。(About the Libyan Rebel-Al Qaeda Question)
以前からリビア東部には、イスラム聖戦士を生み出す風土があった。リビアは独立前、ベンガジを中心とする東部と、トリポリを中心とする西部との関係が薄く、独立後いったん東部が国の中心となったが、1969年にクーデターで権力を取ったカダフィは、東部を敵視して西部を重視し、油田が集中する東部の石油収入を西部の開発にあて、東部の人々の不満や反逆を弾圧した。カダフィはイスラム主義を嫌い、世俗的な社会主義体制を作ろうとしたため、対抗上、東部にはアラブ各地からイスラム主義勢力が集まり、イスラム主義が反カダフィ勢力の主導的な役割を担うことになった。(リビア反乱のゆくえ)
イスラム世界の聖戦士たちは一カ所にとどまらず「聖戦地」を転々とする傾向がある。彼らは、ソ連軍のアフガン侵攻後はアフガニスタンやパキスタンに結集したし、米軍のイラク侵攻後はイラクに結集した。リビア反政府軍の司令官の一人は、イタリアの新聞の取材に対し、自分が「アフガン帰り」の聖戦士であることを認めた上で、米軍イラク侵攻後は、リビア東部で25人の聖戦士の志願兵を集め、米軍と戦うためにイラクに送り込んだと言っている。その中の何人かはリビアに戻ってきて、カダフィ軍と戦う第一線にいるという。(Libyan rebel commander admits his fighters have al-Qaeda links)
イラクで米軍が見つけた聖戦士側の文書(と称するもの)によると、イラクで米軍と戦っていたイスラム聖戦士(いわゆるアルカイダ)の内訳は、人数的には、サウジアラビア人が41%でリビア人が19%だが、各国の人口との比率でいうと、リビアがダントツに多くの聖戦士をイラクに送り込んでいた。そのほとんどは、リビア東部の志願者と考えられる。(Qaddafi claims Al Qaeda could overrun Libya. Could it?)
▼米当局と聖戦士の長い仲
CIAや国防総省など米当局は、1980年代にアフガニスタンを占領していたソ連を弱体化させるため、サウジなどアラブ諸国から聖戦士を募集してアフガンに送り込むイスラム主義勢力(ビンラディンなど)を支援した。米当局は聖戦士たちに渡米ビザを発給し、米軍施設で訓練し、米国内で自由な活動を許していた。当時の米当局は、イスラム聖戦士を見方としてみていた。この体制は冷戦後も続いたが、米政府は97年ごろからイスラム主義勢力を敵視する戦略に転換し、アフガンのイスラム主義政権となったタリバンや、その仲間であるビンラディンを敵視し始めた。(田中宇・911事件関係の記事)
公式発表では、米国に敵視されたビンラディン(アルカイダ)が反撃として911テロ事件を起こしたことになっている。アルカイダは911の「犯人」として名高い。しかし現実は違っている。911は、イスラム主義勢力が米当局に気づかれないように起こした事件とは考えにくく、イスラム主義勢力と関係ないところで米当局が自作自演的に起こしたテロ事件をアルカイダのせいにして、米国の覇権を維持するため、長期にわたる「テロ戦争」を起こしたと考えた方が自然だ。(やはり仕組まれていた911)
911事件は、米当局がテロの発生を意図的に防がなかったり、事件の発生状況について現実と異なる発表を行っている部分が大きい。当日、米国の防空システムはテロが始まる前に機能停止していたし、国防総省を破壊したのはどう見ても大型旅客機でなく、あらかじめ地上に置かれた爆弾だった可能性の方が高いし、世界貿易センタービルの崩壊原因は飛行機の衝突によるものでなく、事前にビル内に仕掛けられていた爆弾の爆発による制御崩壊だろう。米当局が何も知らないまま、イスラム聖戦士がテロ事件を起こしたのなら、これらの事象について納得できる発表を行うはずだが、実際には、米当局は疑問を持つ人々を攻撃したり無視したりして、事実を隠している感じが強い。(テロ戦争の終わり)
911事件より前のテロやイスラム主義の関係の報道の中に、聖戦士(ムジャヘディン)やオサマ・ビンラディンはよく出てきたが、アルカイダという組織名はほとんど出ていなかった。アルカイダはビンラディンが作った組織として存在していたが、世界的に有名になったのは、米当局が911の犯人組織としてアルカイダを名指ししてからだ。(アルカイダは諜報機関の作りもの)
イスラム主義勢力(聖戦士)は、もともと反米なのだが、米当局はそれを逆手にとって彼らに911犯人の濡れ衣をかけ、米国にとっての「最大の敵」に仕立てた。その上で米軍のイラク侵攻が行われ、イスラム教徒の反米感情がさらに煽られた。これらは前ブッシュ政権時代に行われた。現オバマ政権は、イスラム世界との敵対を煽って「第二冷戦」的な長期対立構造を作って覇権を維持するテロ戦争の戦略が、敵視のやりすぎによって失敗していることに気づき、イスラム世界との和解を政権の目標に掲げた。(テロ戦争の意図と現実)
だが、テロ戦争で潤っていた軍産複合体やネオコン(隠れ多極主義者)が、濡れ衣的なイラン核問題などでこの方向転換を妨害しているうちに、チュニジアを皮切りに中東革命が起こり、その一つであるリビアの内戦化に米国は軍事介入することになり、オバマによるイスラム世界との和解は困難になった。
▼抜けられなくなってから状況を問題にする
しかも、今回の記事の本題である、リビア東部の反政府勢力の中に聖戦士が多く、欧米は反米イスラム主義勢力を軍事支援してリビアの政権を取らせようとしているという問題が、ここに加わる。すでに述べたように、米当局は1980年代からずっとイスラム主義勢力と関係を持っており、リビア東部の勢力の中にイスラム主義が強いことを知らなかったはずがない。しかし実際には「リビア反政府勢力の中にアルカイダがいる」という問題が表面化したのは、欧米がリビアとの戦争を開始し、もう抜けられなくなってからのことだ。(Admiral: U.S. studying Libyan rebels -- after going to war on their behalf)
カダフィは以前から「東部勢力はアルカイダだ」と主張し、自分を敵視して東部勢力に味方する欧米の戦略は間違いだと言っていた。しかし米国では「反政府勢力の中にはアルカイダもいるが、その影響は強くない」といった言い訳がなされ、欧米は引き続き反政府勢力を支援している。欧米がリビア反政府勢力への軍事支援をやめると、カダフィの政府軍がベンガジなど反政府の拠点を攻撃し、多くの一般市民が巻き添えで殺される。だからもはや欧米は、支援対象が反米イスラム主義者と知っていても、支援をやめられない。(Libyan civil war: An opening for al Qaeda and jihad?)
カダフィの軍勢は簡単に潰れそうもなく、むしろ巻き返している。カダフィが延命すれば、リビアの二分が固定化され、東西が別々の国として国連から承認される展開になるかもしれない。今後もしカダフィ政権が倒れても、その後にできるベンガジ中心の新政権は、イスラム主義の色彩を顕在化させ、欧米に出ていってくれと言うだろう。欧米は、カダフィを退治した後、新政権とも敵対せねばならなくなりそうだ。リビアの新政権は、いずれ欧米に石油を売りたくないと言い出す。今のカダフィと同様、欧米に売らず中国やインドに売りたいと表明するだろう。リビア戦争は20年続くという見方が出ている。(Prediction: 20 Years of War in Libya)
米国では、リビア東部の勢力が「アルカイダ」であることが懸念されている。だが実際のところリビア東部の政権は、今や架空の存在に近いアルカイダでなく、エジプトのムスリム同胞団や、イランの傘下のレバノンのヒズボラと親しいイスラム主義の政権になっていくだろう。英国のクレッグ副首相は「カダフィが倒されると、リビアはイラン型のイスラム主義政権の国になるかもしれない」と語っている。(Clegg admits Libya could become a hardline Islamist state if Gaddafi is toppled)
リビア東部はエジプトと隣接しており、同胞団は以前からリビア東部のイスラム主義勢力を支援している。イランの最高指導者ハメネイ師は「欧米はリビアを空爆するのではなく、東部の反政府勢力に武器を支援すべきだ」と述べている。リビア東部にヒズボラが入っているという指摘と合わせ、ハメネイの発言は、リビア東部の勢力が親イランであることを示唆している。ムスリム同胞団や聖戦士(アルカイダ)はスンニ派であり、イランやヒズボラはシーア派であるが、今の中東のイスラム主義勢力の間では、スンニとシーアの対立は少ない。イランと同胞団は親しい関係にある。サウジはイランと対立しているが、サウジ王室は米国の傀儡であり、今の中東の主流のイスラム主義でない。(Iran's Khamenei: West should arm rebels, not bomb Libya)
エジプトはムスリム同胞団が台頭しているし、シリアでもアサド政権が民衆革命で潰れた場合、その後の政権はムスリム同胞団だ。ヨルダンも同様だ。イランからリビアまでの全域が、いずれスンニ派とシーア派の反米イスラム主義の地域となる。欧米のリビア戦争は、この流れに拍車をかけることになる。(シリアも政権転覆か?)
(新世紀人コメント)
田中氏のこの論文は情報的価値があると考えて転載しました。
彼は福島原発問題で首をかしげる事を書いていましたが、もともと日本の政治情勢に疎い傾向があり原発にも知識に欠ける事が窺えるので、「またやってくれちゃったか」と思っています。
でも彼の得意分野があってそこでは追随を許さない優れたものを書いていると見ています。
副島氏の脱線とは性格が異なりますね。
こういう厳しい情勢下では様々な人模様が見られる事になります。
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