“座りすぎ”が病を生む!?〜“座りすぎ大国”日本 忍び寄る健康リスク/Nクロ現 2015年11月11日(水)放送 http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3731/1.html≪“座りすぎ”に注意” 世界で始まった取り組み≫ 国を挙げて座りすぎの対策に取り組むオーストラリア。メルボルンにある小学校を訪ねてみると…。 「ぼくはジェレミー」 「私はケイシー。 教室の机について紹介するわ。」 「この机は、高さが調節できるんだ。 座るときはこうして、立つときはこうするんだ」 この小学校では去年(2014年)から、長時間座り続けることを避け、立ちながら授業を受けられるようにしています。 「座っていると背中や首が痛くなるけど、立つと体が楽ちん」 小学校教師 「クラス全員で1日30分は立って過ごすようにしています。子どもたちは前より集中して授業を受けています」 “座りすぎ”防止のキャンペーン動画 “オーストラリア人は労働時間の8割を座って過ごしています。 オーストラリア人よ、立ち上がれ。” オーストラリアでは官民一体となって、座りすぎに警鐘を鳴らすキャンペーンを展開。 職場では1日2時間以上立って過ごすよう勧めています。 “オーストラリア人よ、立ち上がれ。” 積極的な啓発活動に取り組む背景には、長く座ることの問題を指摘した、ある研究がありました。 国内の45歳以上の男女22万人を3年近くにわたって追跡した調査。 期間中に亡くなった人たちの生活スタイルを調べたところ、座る時間が大きく影響していました。 1日4時間未満の人たちと比べて11時間以上だった人たちは死亡するリスクが40%も高まっていたのです。 なぜ、長く座り続けることが健康へのリスクを高めるのか。 ネヴィル・オーウェン博士。 15年前から座りすぎと健康との関わりを研究してきた第一人者です。 “座位行動”研究の第一人者 ネヴィル・オーウェン博士 「長く座りすぎると、確かに体に悪影響があります。 そこで私は健康へのリスクについて、より科学的に検証してみようと考えたのです。」 これまでの研究から、長く座り続けると体の代謝機能や血液の流れに悪影響を及ぼし、深刻な病につながることが分かってきました。 立ったり歩いたりしているときは脚の筋肉がよく働きます。 このとき、筋肉の細胞内では血液中から糖や中性脂肪が取り込まれエネルギーとして消費される「代謝」が盛んに行われます。 ところが座ると、全身の代謝機能を支えてきた脚の筋肉が活動せず、糖や中性脂肪が取り込まれにくくなり、血液中で増えてしまいます。 さらに座った状態が長く続くことで全身を巡る血流が悪化し、血液がどろどろになります。 その結果、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、さらに糖尿病などのリスクが高まるのです。 “座位行動”研究の第一人者 ネヴィル・オーウェン博士 「長時間座り続けると、脚にある大きな筋肉が働くのをやめてしまいます。 体にあるいくつもの重要なスイッチがオフになってしまうのです」 ≪“座りすぎ大国”日本 忍び寄る健康リスク≫ 明らかになってきた座りすぎのリスク。 そうした中、世界で最も座る時間が長い国、日本です。 世界20の国や地域で座っている時間を比較した調査では、最も長い7時間という結果が出ています。 早稲田大学では去年から、座りすぎが健康へどのような影響を与えるのか追跡調査を始めています。 「こちらをベルトにつけていただいて。」 調査では、370人の参加者に加速度計と呼ばれる測定器を渡し、1日のうち座っている時間を集計します。 参加者の1人、武者英之さん、52歳です。ゴム部品を製造する工場を営む武者さん。 健康のため、朝は歩いて出勤するのが日課です。 職場でも、事務所と工場の間を頻繁に行き来するようにしています。 武者英之さん 「デスクワーク主体の人よりは立ち動いてるなと、自負というか、そういう気持ちは持っています」 ところが、計測の結果は…。 武者英之さん 「ちょっとショックを受けてるんですけれど」 武者さんが座っている時間は、1日なんと9.8時間にも及んでいました。 一方、歩くなど動いている時間は、僅か1時間余りにすぎません。 武者英之さん 「意外と座っているんだなと。これは非常に驚きですね。」 北海道大学大学院 鵜川重和助教 「(長く座る人は)肺がんの発症の可能性が高い。 肝臓がんや慢性閉塞性肺疾患の可能性が高くなることが明らかになってきた。 今後は感染症や、これまで明らかになっていない、がんとの関連も明らかにしたい」 あれだけ体を動かしていたのに、なぜこんな結果になってしまったのでしょうか。実は武者さん、出勤するとデスクワークに追われ、午前中はほとんど座りっ放し。 午後、外回りに出かけても、得意先まで往復2時間の運転中もずっと座りっ放し。家に帰っても食事をしたり、テレビを見たり、寝るまでの4時間ほとんど座り続けていました。 運動することは心がけていても、いったん座ると、なかなか立ち上がることのなかった武者さん。体にも影響が見られました。 代謝が進まず、おなか周りは98センチ。内臓脂肪は標準の1.5倍に達していました。 武者英之さん 「結局こういうところに数字が表れてくるので、さあどうしようかと」 さらに最近、長く座り続ける生活が、より深刻な病につながる可能性も明らかになってきました。 北海道大学の鵜川重和さんは、全国およそ12万人の生活スタイルと病気の関係を20年にわたって調査したデータを解析。 すると男性の場合、座ってテレビを見ている時間の長さが肺がんの発症率に関わることを突き止めました。 座っている時間が、2時間未満の男性と比べ、4時間以上だと肺がんの発症率が3割以上上がっていたのです。 ≪“座りすぎ”が病を生む!? 驚きの最新報告≫ ゲスト岡浩一朗さん(早稲田大学スポーツ科学学術院教授) ── ●座りすぎがもたらす健康リスク、どこまで科学的な根拠として裏付けられた研究なのか? 座りすぎの健康リスクの研究というのは、ここ15年ぐらいで非常に進展しました。 その中でも座りすぎてることっていうのが、先ほどのVTRにもありましたように、死亡のリスクにつながっているといったようなことがあります。 それらは、大事なことっていうのは、体を動かしている、あるいはたばこを吸っている、そういったような死亡に関わるようなところの影響を統計学的に調整したとしても認められるということなんですね。 そういった点が非常に重要なところだと思います。 そのメカニズムに関しまして、体を動かすということが、これまで例えば大腸がんであるとか、閉経後の乳がんであるとか、そういったことの予防につながるということは分かってはいるんですけれども、“座りすぎ”が、がんの予防と、どうしてがんが発症するのかということに関係するかどうかというのは、まだまだメカニズムは分からないところがあります。 今ありましたように、座りすぎてることが例えば糖尿病につながっていくと、非常に代謝機能が落ちていくというのは分かってるんですね。 そのメカニズムっていうのは、まだまだ分からない部分もあるんですけれども、例えば、筋肉から糖のとり込みに関わるようなグルコースの輸送体というようなものであったりとか、そういう機能が低下したり、それから脂肪の分解酵素といわれているような、リポタンパクリパーゼというようなものの機能が非常に低下すると。 それが結果として、糖尿病だとか、その先にあるような心身疾患だとか、脳卒中だとか、そういったもののリスクを引き出すというふうに考えられていると思います。 ── ●リポートの武者さんは一生懸命動いているつもりだったが、結果は“座りすぎ”だった この結果は多くの人々に通じる? そうですね、武者さんの場合、大体10時間ぐらい1日座っていられるということと、それが生活、起きている時間の6割ぐらいを占めるということだったと思うんですね。 それも見ていただければ分かるとおり、仕事はパソコン、移動は車、それから家に帰るとずっと座ってテレビを見たりすると。 一般的な生活習慣だとは思うんですけれども、すべてどちらかというと環境が非常に、例えば、仕事はもう常にパソコンに向かっていますので座り続けてしまいます。 家に帰ってもリモコンを使ってテレビを見たりとか、そういったようなことで非常に環境が大きく影響しているんじゃないかなという思いはあります。 ── ●座っていること自体が問題? そうですね。 座ること自体はあまり問題ではないというかですね、やはり長時間、続けて座ってしまうことが、座り続けていることが大きな問題なんだと思います。 もちろん立ち仕事の方なんかはずっと立ち続けている、そういった方々が腰痛になったりとか、そういうふうなリスクもありますし、要するに同じ姿勢をずっと続けているといったようなところが大きな問題になってくるんだと思います。 (どれぐらい、座ったあと立たないといけない?) そうですね、まだはっきりとした時間というところも、まだまだ分かっていないところが多いんですが、大体30分、あるいは1時間に1度くらいは少なくとも立ってですね、少し動いたりするといったところが、重要になってくるかと思います。 ── ●オーストラリアでは子どものときから認識を持たせようという取り組みが、もうすでに始まっているが? 特にオーストラリアなんかは、肥満の問題が非常に多くあります。 それによっては、子どものころの肥満が、やっぱり大人になっても、そのまま持ち越されてしまうといったようなことも分かっていますので、子どものころからしっかり対策をしていくというのが重要なんだと思います。 ≪脱“座りすぎ”生活! 職場を大改革!≫ オフィス環境の大改革に乗り出した、大手IT企業です。皆さん、パソコンに向かい座ってお仕事かと思いきや。 あれ?立ってる。 「上げるときは…。」 この企業では今年(2015年)8月、社員1万3,000人分の机を一新しました。 最高125センチまで上げられ、立ったままデスクワークができます。 「(立って)使っている人が多いので、最近はよく上げて使っています」 「あまり運動もしないので、仕事の時間中ぐらいは立って、1日の終わりに体が痛いこともなくなって、その辺は改善したと思います。」 机は1台18万円ほど。 多額の費用をかけても、社員の健康を守ることは企業にとっての責任だと考え、導入に踏み切りました。 楽天 ファシリティマネジメント課 高橋朋之課長 「健康というのがこのオフィス作りのコンセプトにあって、快適な姿勢で最大限の仕事をしてもらうことをなるべく実現したいと思っています」 この机を開発した事務機器メーカーです。事務用のいすを主力製品としてきたこのメーカー。これまで60年以上、ひたすら座り心地のよさを追求してきました。 「この時代(高度経済成長期)は体を支えるために最もシンプルな構造で、背もたれがちょっと動くだけの機能だった」 より快適ないすが求められるようになったのは1990年代。職場にパソコンが普及し始めたのがきっかけでした。 「3種類の硬さの違うウレタンをブレンドしまして。」 長時間座り続けても疲れないいすを開発するため、素材や形状などの研究が加速しました。 ところが座りすぎの健康リスクが相次いで報告される中、このメーカーでは大きな方針転換を迫られたのです。 岡村製作所 販促企画室 武田浩二室長 「やってきたことが根底から覆るんじゃないか。否定されたことがあった。新しいテーマとして取り組まないとダメなんだ」 どうすれば座りすぎの弊害を避けることができるのか。 新たな製品開発の突破口が、業界で長く定着してきた机の高さを見直すことでした。 岡村製作所 販促企画室 武田浩二室長 「市販されているものは72センチの高さが常識となっていますので、我々の机の高さの固定概念」 立ったままでの仕事を可能にしたこの机。「仕事は座ってするもの」という従来の発想を転換する、大きなチャレンジでした。 発売から10か月、座り続けることをやめたことで思わぬ効果が出ている職場もあります。 この日、事務機器メーカーの担当者は110台の机を導入した企業を訪ね、聞き取り調査を行いました。すると、体調面の改善に加え社員の働き方にも影響を与えていることが分かりました。 「ちょっとコピーしてすぐ確認して、そういうときは立っている方が早いですね」 岡村製作所 販促企画室 武田浩二室長 「スピード感がアップしたイメージ?」 「いちいち(立ったり座ったり)、ガシャンガシャンがないので」 さらに、こんな声も。 「コミュニケーションが増えた。(立ち話の)場面が非常に増えてきているのは見ても分かりますよね」 あちらこちらで社員どうしが立ち話をする光景が見られるようになり、職場の風通しがよくなったといいます。 「(立つのと座るのは)半分半分くらい」 岡村製作所 販促企画室 武田浩二室長 「あーそんなに、50パーセントくらい」 「立っている方が好きです」 長く座って働くことが当たり前だった日本の職場。 座りすぎのリスクを減らす取り組みは、オフィスの風景を変えていくことになるのでしょうか。 ≪変えられますか? “座りすぎ”生活≫ ── ●仕事は座ってするものだという常識を変えるころに来ている? そうですね、じゃあ立ちましょうか。 (やはり健康に悪い?) そうですね。これまでだとやっぱり、働けば働くほど不健康になるようなオフィスという感じだったと思うんですね。 これからはやっぱり、目指すべき、健康経営といったようなことばも浸透してきてますし、働けば働くほど健康になるようなオフィスを、やっぱり作っていかなきゃいけないんじゃないかなと思うんですよね。 (それが生産性の向上にもつながる可能性が?) そうですね。 社員の職務の満足感だとか、その仕事の能率がよくなるだとか、そういったことにもやっぱりつながっていくんじゃないかなというふうに思っています。 ── ●求められるのは、歩いたり走ったりという行動? そうですね。こちらを見ていただきたいんですけれども、今おっしゃっていただいたのはここの部分(歩く・走るなど)だと思うんですね。 これを増やすことっていうのは、非常に重要なことだと思うんですね。 一方で、今やっぱりやらなきゃいけないなと思っていることは、この“座っている”という部分を、ここにありますような、さまざまな生活の中の活動っていうんでしょうか、自宅でできるような活動もそうですし。 (具体的には、“家事や洗濯”“水やり”“ストレッチ”“部屋の片づけ”?) そうですね。そういった自宅でのことであったりとか、職場でいえばコピーを遠くに取りに行ったりとか、少し立って歩くとかですね、そういったようなことを積極的にやるというのが大事になってくるんじゃないかなと思います。 特に、やっぱりここの活動(家事・立ち仕事)を増やしていこうというのが非常に重要なテーマになっていると思います。 ── ●立ったオフィス環境、海外ではどれほど進んでいる? 例えば、アメリカ・シリコンバレーなどのITベンチャーなんかですと、非常に多くの人たちが立ってパソコンで仕事をしているというようなことを聞きますし、例えば北欧なんかで見ますと、新しくオフィスに導入する机がほとんど、9割方がスタンディングデスク等の可動式のものを導入しているといったようなことも情報としてあります。 (それは健康への投資という考え方で?) そうですね。 これまでのコストという考え方から、社員への投資ということが重要なポイントなんじゃないかなと思います。 ── ●高齢化社会の中で、立つ・動くことが難しい方々も増えているが、どういった動きが大事? やっぱり脚をしっかり使うということが大事になってくるかと思います。 例えば、今、立ってますけど、少しかかとをゆっくり上げたりですね、こういうようなことを生活のいろんな場面でやったりとか、さらには、いちばん体の中の大きな筋肉ですから、このももの前の筋肉をこう、ゆっくり。 (どこかを持ちながら・つかまりながらでよい?) そうですね、持った形でさまざま、例えば台所に行ったときとか、やれることたくさんあると思いますので、そういう運動を少し取り入れていくといいんじゃないかなと思います。 (座ったままでは?) 座ったままでも、例えばこういうような運動をするとかですね。 つま先を上に上げるといったようなところが重要なんだと思います。
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