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2009年02月09日22時16分掲載
高負担福祉国家がなぜ元気なのか 変革モデル、スウェーデンの秘密 安原和雄
北欧の一つ、スウェーデンがいまテレビ、新聞でも話題の渦中にある。高負担高福祉の国として知られるが、高負担でありながらなぜ元気な国なのか、その秘密に関心が集まっている。あの新自由主義路線の破綻が明白になった日米では新自由主義路線のつぎの新しい路線をどう設定するかが最大の課題である。にもかかわらず、まだ明確な答えを見出せないまま暗中模索の域を出ていない。だからこそスウェーデンが有力な変革モデルの候補として浮かび上がってきている。米国の模倣に慣れすぎた日本は、ここらで「脱アメリカ」という発想の大転換が求められているのだ。
高負担の福祉国家・スウェーデンが元気である、その秘密は何か。藤井 威氏(みずほコーポレート銀行顧問・元駐スウェーデン大使)とのインタビュー記事「高福祉・高負担 スウェーデンに学ぶ点」(毎日新聞・09年2月3日付夕刊=東京版=「特集ワイド」)と、もう一つ、同氏の論文「消費税引き上げ・高福祉がもたらすもの スウェーデン型社会という解答」(『中央公論』09年1月号)を手がかりに考える。
▽スウェーデンに学ぶ点(1)― 消費税25%が受け入れられている理由
まず元駐スウェーデン大使とのインタビュー記事(聞き手は遠藤拓記者)の要点はつぎの通り。
問い:スウェーデンの消費税は現在25%という高率である。初めて導入したのは1960年で、その時の税率は4.2%。増税路線が成功した理由は?
答え:福祉サービスの権限と財源を国から地方に漸進的に移したこと。しかも地方のコミュニティーがちゃんと残っていて、市民がそのコミュニティーを大切にしようとする気持ちを持っていたこと。
例えば介護の場合、要介護度で内容を縛られる日本よりも、水準ははるかに上で、費用も格安。生まれ育った町並みをのんびり散歩し、ビールを1杯飲むのも介護の対象になる。こうして市民に、満足なサービスを受けた「受益感覚」が生まれる。
〈安原のコメント〉満足できる「受益感覚」
満足なサービスを受けた「受益感覚」というのが日本ではなかなか得難いところだろう。しかも町並みをのんびり散歩し、その上、ビールを1杯飲むのも介護の対象だというのだから、人生の晩年を人間としてささやかではあるが、尊重されながら送っていることになる。これまた日本では縁遠い物語ではないか。
問い:税などの負担は収入の約4分の3にも上る。「税金が高すぎる」とは思わないのか?
答え:「高い」と思っている。でも「それだけのことはしてもらっている」、「富の再配分につながる」との意識もある。自信を持って言えるが、低所得者は喜んで税金を納める。納税すれば収入以上に高価であろう各種サービスを受けられるからだ。高額納税者も「高負担」には反対できない。彼らは年収が低かった時期にさんざん世話になっているから。
〈コメント〉喜んで納税できる日は来るか
喜んで税金を納める、という感覚が日本にはない。「税金は取られる」のだから「できるだけ少なく」というのが多くの日本人の納税感覚である。これは政治不信が根底にあるからで、この不信感を日ごとに助長しているのが日本政治の現実である。例の「政官業」(政治、官僚、経済界の相互癒着)に巨額の果実が配分される。これを根本から是正しない限り、消費税上げを含む増税などは論外である。果たして日本で喜んで税金を納める日が将来期待できるだろうか。
問い:スウェーデンでの政治家や官僚に対する評価は?
答え:世界中で政治家や官僚を信用する国は、どこにもない。酒の席で本音を聞くと、政治家はつぎの選挙に勝つことしか考えない存在で、官僚は前例踏襲・事なかれ主義だと思っている。
ただし、スウェーデンと日本の最大の違いは、「公共部門にやって貰いたいことは山ほどあるし、やらせなければならない。それが民主主義だ」と考えていること。スウェーデンでは政治家も官僚も仕事をやらなければ職を追われることがあり、必死に仕事をする。日本との差は大きい。日本の官僚はあまりにも質が悪い。
〈コメント〉スウェーデン型民主主義精神を
「なるほどこれが民主主義か」という感慨を覚える。スウェーデン型の民主主義精神をわれわれ日本人も本気で身につけるときが来た。日本では最近、市民運動が広がりつつあり、政治・経済・社会的要求を遠慮なく持ち出すようになってはいるが、政治家や官僚の「国民への奉仕」という感覚はまだ低い。政治家や官僚への要求として「やらせなければならない」という感覚が重要である。与えられるのを待っていては、「日暮れてなお道遠し」の感が深い。「日本の官僚は質が悪い」という発言は経済官僚出身者(旧大蔵省出身)として率直である。民主主義と霞が関改革とは車の両輪といえよう。
▽スウェーデンに学ぶ点(2)― 人間中心の地域再生を
問い:税金に対する納税者の負担感は低くないはずなのに、福祉が充実しているとは言い難い日本は、スウェーデンから何を学べばよいのか?
答え:まず人間中心の地域再生を考えること。車中心ではなく、じいちゃんも赤ちゃんも安心して歩ける町をつくること。すると、失われたコミュニティーも再生できる。コミュニティーへの帰属意識は、公共部門に対する市民の健全な評価につながる。
つぎは次世代のことをもっと考えること。財政赤字の先送りは責任逃れでしかない。
最後は中期的な成長率を維持すること。次の世代にじいさんばかり多く、子どもが少ない、よどんだ社会を残したくないのではないか。
今の世代が責任を持ってこれらを進めようとしたら、答えは一つ、増税しかない。
〈コメント〉「中期的な成長率の維持」は疑問
人間中心の地域再生には大賛成である。車中心の社会がコミュニティー(地域)を壊したことは今さら指摘するまでもないからである。日本では日常生活の基盤であるコミュニティをどう再生させるかという感覚がグローバリズムの陰に隠れて弱すぎる。
一方、財政再建も重要である。といって「増税しかない」と考えるのは、一面的ではないか。増税すれば、高速道路、ダムなど惰性でつづいている財政資金の浪費が止むことはないだろう。どうするか。毎年の社会保障費削減を中止して、中・高福祉ビジョンを提示し、その財源は現在の財政・税制の根本的な組み替えで対応することから出直す必要がある。
指摘されている「中期的な成長率の維持」の含意が今ひとつ不明だが、プラスの経済成長維持を意味しているのであれば、疑問である。「経済成長主義よ、さようなら」という主張は今では世界的には決して珍しいわけではない。最新の米国ワールドウオッチ研究所編『地球白書二〇〇八〜〇九』はつぎのように指摘している。
時代遅れの教義は「成長が経済の主目標でなくてはならない」ということである。経済成長は自然資本(森林、大気、地下水、淡水、水産資源など自然資源のこと。人工資本=工場、機械、金融などの対概念として使われる)に対する明らかな脅威であるにもかかわらず、依然として基本的な現実的命題である。それは急増する人口と消費主導型の経済が、成長を不可欠なものと考えさせてきたからである。しかし成長(経済の拡大)は必ずしも発展(経済の改善)と一致しない。1900年から2000年までに一人当たりの世界総生産はほぼ五倍に拡大したが、それは人類史上最悪の環境劣化を引き起こし、(中略)大量の貧困を伴った ― と。
特に「成長(経済の拡大)は発展(経済の改善)とは一致しない」という認識に学ぶ必要がある。今の日本に必要なのは生活の質的改善を意味する発展である。あの新自由主義路線は成長重視だったが、発展を無視した。そこに災厄の背景があった。
▽高負担で元気な4つの秘密
上記のインタビュー記事を補足する意味で、日本とスウェーデンの税社会保険料の国民負担、教育費公的負担、社会保障給付費(国内総生産=GDP比)を比較してみよう。(論文「消費税引き上げ・高福祉がもたらすもの スウェーデン型社会という解答」『中央公論』09年1月号参照)
税社会保険料負担 26.4/50.4
教育費公的負担・・・ 3.4/ 6.2
社会保障給付費・・ 18.6/31.9
(内訳)
医療・・・・・・・・・・・・ 6.2/ 7.1
年金・・・・・・・・・・・・ 9.2/10.4
その他・・・・・・・・・・・ 3.3/14.4
(単位:%、GDP比。数字は左側が日本、右側がスウェーデン)
スウェーデンは日本に比べ負担も高いが、社会保障給付費や教育費公的負担も高い。たしかに高負担高福祉となっている。特に高負担でありながらスウェーデンはなぜ元気なのか、その秘密としてつぎの4点を挙げることができる。
@産業構造・雇用構造の弾力的変動
A家庭からの女性の解放政策の推進に伴う出生率の上昇
B福祉国家特有の高度の所得再配分機能による、市場経済下の格差拡大の是正
C全国にわたり一定の福祉水準を確保するという福祉国家としての当然の政策に伴い、国と地方あるいは都市と農村などの経済力格差拡大の是正
▽新自由主義路線とは異質な路線の成果
以下、それぞれについて日本とどう異なるかを紹介する。
@産業構造・雇用構造の弾力的変動
上記の社会保障給付費のうちの「その他」は介護や児童保育などの福祉サービス、職業訓練などの再チャレンジ関係の支出が主なもので、日本に比べ4倍以上の手厚さとなっている。このことが雇用構造に大変化をもたらした。
高福祉国家への転換政策が始まった直後の1965年と2000年を比較すると、製造業と農林水産業の就業者比率は大幅低下(製造業30%から19%へ、農林水産業12%から2%へ)し、一方、公共部門が倍増以上(15%から32%へ)の伸びを見せている。民間サービス業も若干の増加(43%から47%へ)となっている。
就業者実数をみると、民間就業者は30万人減少したのに対し、公共部門は70万人増加し、差し引き40万人の雇用増となった。公共部門での就業者増はコミューン(市町村)での増大によるもので、この分野のほとんどは教師、介護士、保育士たちで、コミューン就業者の4分の3は女性である。
(なお参考までにいえばスウェーデンの総人口は約900万人にすぎない)
A家庭からの女性の解放政策と出生率の上昇
夫婦が就業と子育てを両立させうる環境づくりに政府は積極的に取り組んでいる。そのための公的資金の投入を惜しまない。具体的には育児コストを一部補填する家族手当(総額はGDP比0.85%)、就業と育児を両立させるための保育・就学前教育(そのコストの95%の公的負担、総額はGDP比1.74%)、出産・育児休業給付(従前所得の80%の公的負担、総額はGDP比0.66%)で、安心して子どもを産める環境となっている。この結果、出生率は1.8を超える水準にまで回復している。わが国の1.3程度の出生率とは質的な差がある。
B福祉国家の所得格差の是正効果
公的介入による所得配分の公平度はどうか。所得格差が公的介入によってどう改善されるか、その改善幅は日米欧の主要国の中でスウェーデンが最大で、日本が最小である。OECD(経済協力開発機構)調査によると、公的介入後の公平度はスウェーデンなど北欧諸国がトップクラスに入っている。
福祉国家における不公平度是正の高さは、平均以下の所得層にとって受益と負担の差が大きくプラスになることを意味しており、これが高福祉高負担を推進した社民党政権が長期安定政権として市民の支持を得た理由である。
C福祉国家の地域格差是正効果
年金、医療、介護、児童保育などの福祉システム、教育などに地域格差があってはならない。これは国民に高い負担を課す以上当然のことであろう。そのため地方の小集落であっても、最低限の医療、介護、保育、教育の提供システムが作り出され、これを担う人材が家族を伴うことから、地方からの人材流失も結果として阻止される。ノーマルな人口構成が維持され、小規模の生産施設も生き延びる。
わが日本にみられるような65歳以上の人口が過半を占めるような限界集落の出現は阻止できる。わが国の見果てぬ夢であった国土の均衡ある発展がスウェーデンではごく自然に達成されたのである。(以上は『中央公論』09年1月号から)
〈コメント〉新自由主義路線との明確な決別を
元気な4つの秘密の共通項は、米日両国に顕著だった、あの新自由主義路線とは異質の路線を追求してきたその成果だということである。公共部門での雇用の増加、夫婦にとって就業と子育てを両立できる環境づくり、所得格差の是正、さらに地域格差の是正、これらのどれをみても猛威を振るってきたあの自由主義路線とは180度異なっている。
企業の私利追求を第一とし、そのためには詐欺的行為も横行し、一方に一握りの富者つまり勝者、他方に大多数の貧困者つまり敗者に差別し、相対的貧困率(中位の所得水準の半分以下にランクされる低所得者層の割合を指す)をみると、米国最大、そのつぎが日本という不名誉な結果を招いた。米日は世界で1位と2位の経済大国でありながら、同時に1位と2位の貧困大国ともなっている。
その上、社会保障分野に悲惨な現実を広げた。これでは福祉の名に値する面影はみえてこない。これをどう打開するか。なにはともあれまずは新自由主義路線との明確な決別宣言が必要不可欠であろう。それが再出発の前提である。ごまかし、偽装はもう沢山である。
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。
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