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[GLOBAL EYE]電池の「破壊的」技術革新 石油需要減、到来早く
「石油生産者は予期せぬ技術進歩にさらされている」。英格付け会社フィッチ・レーティングスは10月半ばのリポートでこう指摘した。近年の業界で技術進歩の代名詞といえば「シェール革命」。これで原油生産がいずれ限界を迎えるとする「ピークオイル論」は遠のいた。だがフィッチが指摘するのは電池の「破壊的」技術革新だ。石油会社の収益に影響を及ぼし、電力、自動車にも余波が押し寄せるという。
フィッチは電気自動車(EV)が競争力を増し、石油需要が想定より早く落ち込むと警鐘を鳴らす。国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の石油需要の55%は車で使うガソリンなどの輸送部門。フィッチは極端なシナリオとして欧州の新車販売の5割がEVの状況が10年続けば、域内ガソリン需要は25%減ると試算する。
電池の価格下落は進む。米エネルギー省(DOE)によると2015年の1キロワット時あたりの価格は268ドル(約2万8千円)と過去7年で73%下落。22年までに125ドルまで下げ、ガソリン車並みの競争力を持たせるのがDOEの目標だ。量産効果と、素材改良など技術革新が背景にある。
電池メーカーでは近年、欧州で工場の建設ラッシュが続く。韓国のLG化学はポーランドに17年、サムスンSDIはハンガリーに18年に欧州初の工場を稼働する。EVシフトを進める欧州メーカーがターゲットだ。
象徴が内燃機関に誇りを持ってきたドイツ。10月24日、独ダイムラーが電池第2工場の着工式を開いた。19年から発売する航続距離500キロEVを支える基幹拠点だ。トーマス・ヴェーバー取締役は「電池技術は当社だけでなく、ドイツにとっても重要」と指摘。自動車部品最大手の独ボッシュも合弁や買収で電池開発に乗り出し、「電池の航続距離の倍増、価格半減は可能」とフォルクマル・デナー社長は説く。
電気をためる電池は出力変動が大きい再生可能エネルギーとの相性がよい。IEAによると、15年の世界の電池の投資は100億ドルに達した。だが「電力系統につながっているのはわずか0.4%で、これから接続が本格化する」(ファティ・ビロル事務局長)。
一方、15年の再生エネ発電容量の増加分は1億5300万キロワットと、原油安でも過去最高になり、容量で石炭火力を抜いた。IEA再生エネ部門を率いるパオロ・フランクル氏は「再生エネの発電量のシェアは14%にとどまるが、5年で20%を超える」とみる。
車は買い替え期間が長く、一朝一夕で石油需要が減るわけではない。だが欧米石油大手には気候変動対策による業績への影響「カーボンリスク」の開示を求める株主からの声が高まる。株主の関心はピークオイルではなく「ピークデマンド」に移りつつある。
9月28日、石油輸出国機構(OPEC)はアルジェでの緊急会合で減産に合意したが、その後も油価の戻りは限定的。翌29日に開幕したパリ国際自動車ショーでは欧州勢がEVシフトを鮮明にした。11月4日には地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」が発効する。電池を軸とする地殻変動は始まっている。
(フランクフルト=加藤貴行)
[日経新聞11月1日朝刊P.6]
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