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(回答先: ソルジェニーツィン他界 西岡昌紀 投稿者 西岡昌紀 日時 2008 年 8 月 04 日 22:48:11)
−−公園から聞こえてくる音楽にオレークは耳を
傾けていた。だがオレークが聴いていたのは
その音楽ではなく、自分の内部で鳴り響いて
いるチャイコフスキーの第四交響曲だった。
不安な、重苦しい、その交響曲の冒頭の部分。
その驚くべき旋律。こんな鑑賞の仕方はいけ
ないのかもしれないが、オレークはその旋律
を自己流に解釈していた。久しぶりにわが家
に帰って来た主人公、あるいはとつぜん目が
見えるようになった主人公、いろいろな品物
や、愛する女の顔を、手で撫でまわしている。
撫でまわしながら、いまだに自分の仕合せを
信じられぬ気持でいる。それらの品物は本当
に存在するのだろうか。自分の眼は本当に見
えるようになったのだろうか。−−
(ソルジェニーツィン作・小笠原豊樹訳
『ガン病棟・(上)』(新潮文庫・1974年
第七刷・230ページより)
私が『ガン病棟』を読んだのは、1970年、
中学2年生の秋の事です。
上の一節は、この小説の主人公である一人の
患者が、公園から流れて来た音楽を聴きながら、
空想をする場面です。
この小説を読んだ時の感動と興奮は、あれか
ら38年が経った今でも忘れる事が出来ません。
本当に、打ちのめされる様な感動を受けて、読み
終えてしばらくの間、熱にうかされたようにこの
小説の事で頭が一杯に成った事が忘れられません。
十代の多感な時代に、こんな素晴らしい小説
に出会えた自分は、何と幸せだったのだろうと、
思ひます。
西岡昌紀
http://nishiokamasanori.cocolog-nifty.com/blog/