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(回答先: 第66回 小泉政権揺さぶるBLT問題 防衛庁・ライブドア・天皇制 (2006/02/11) 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 08 日 12:45:31)
第67回 朝日・読売の論説トップが批判 小泉靖国外交の危険な中身 (2006/02/16)
http://web.archive.org/web/20060221165131/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/060216_gaiko/
前回書いたことは、日本外国特派員協会(外人記者クラブ)で語ったことの半分である。あとの半分のほうが日本の政治の大きな潮流変化を考える上でより重要であるから、ここにつづけて書いておく。
保守とリベラルの論客が首相の靖国参拝を批判
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1月10日ごろだったと思うが、ある自民党の有力者から電話をもらった。朝日新聞から出版されている、論壇誌に「論座」という雑誌があるが、その2 月号をぜひ読みなさいという。その雑誌に出ている、「靖国を語る 外交を語る」というタイトルの、朝日新聞論説主幹・若宮啓文と読売新聞主筆・渡辺恒雄(ナベツネと俗称される読売グループ会長)の対談が、いま政界に大変なショックを与えており、これを読まずしては、これからの日本の政界の動きがまるでわからないことになるだろうという。
朝日と読売といえば、経営的に激しい販売合戦を繰り広げてきただけでなく、言論的にも犬猿の仲とはいわないまでも、多くの点で、見解が対立しあっていた。お互いに相手を紙上で非難しあったり、揶揄しあったりして、決して仲がよいとはいえない関係だった。
どちらかといえば読売はより保守的、より現実主義的、より自民党的で、朝日はよりリベラル、より観念的、より民主党的というのが大方の理解だろう。
憲法問題では、読売が憲法改正論者で、朝日は憲法擁護派、外交問題では、朝日がより中国寄り、読売はより親米的と考えられている。
ところが、両社の社論に責任を持つ立場にあるこの2人が、はじめてじっくり話し合ったこの対談で、2人は靖国問題、外交問題ですっかり意気投合し、正面きっての小泉批判を展開しているのだという。
「これが出るとすぐに、永田町では大評判になりましてね、よるとさわると『オイ、あれ読んだか?』という話になり、あっという間に永田町周辺の本屋から『論座』がなくなってしまったそうです。だってそうでしょう。朝日と読売という段トツの二大新聞の論説主幹(一人は主筆)が、くつわをならべて、時の総理大臣批判をしたわけですから」
「新聞がもっと影響力を持っていた時代だったら、もうそれだけで、総理大臣の首が飛ぶことが必至といっていい情勢になったわけです」
next: 小泉首相の年始会見“怒り”の意味…
http://web.archive.org/web/20060221165131/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/060216_gaiko/index1.html
小泉首相の年始会見“怒り”の意味
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「しかし、小泉という人は、ご存知のように、自分にさからう人間は、絶対に許さないというタイプの人ですから、この対談の論調に大反発したわけです。それが、今年の1月4日にあった、小泉首相の年頭記者会見なんですよ」
──ああ、靖国参拝は心の問題という会見ですね。それは心の問題なのだから、中国や韓国のように、そこに踏みこんできて、それを外交問題に仕立てあげるのはおかしいと怒り狂ってみせた。
「そう、あれです。なんで小泉首相が正月早々の記者会見で、わざわざあんなことを言って、中国、韓国の国民感情を逆なでするようなことをしたのかと思った人が多いようですが、小泉首相はあのとき、あの対談の記事を読んだばかりで、カッカしていたので、ああいうことを言ったんです。それは普通の報道を見るかぎりでは、その部分が省略されていたのでわかりませんが、ナマを聞いた人にははっきりわかりました。官邸のページに行くと、ナマの記者会見をそのまま起こしたものがありますから、それを見るとわかります」
──だけど、その「論座」、2月号でしょう。1月4日だとまだ出ていなかったんじゃないですか。
「1月4日は発売前でしたから、一般の人には、そのつながりがわかりませんでした。しかし、雑誌それ自体は、12月の末にできていていたんです。内々にそれを見られる立場の人は年内に見ていた。もちろん、小泉首相のところにもすぐ届けられていた。読むやいなや、小泉首相はすぐカッとなって、その勢いで、あの記者会見になったんです」
調べてみると、その通りだった。あの記者会見での小泉発言はまさしく、朝日若宮・読売渡辺対談に対する反発として行われたのである。
それは、官邸のページにある、小泉年頭記者会見の記録を見ればすぐにわかる。
たとえば、小泉首相は、この記者会見で、昨年11月にブッシュ米大統領が訪日した際に行った日米首脳会談で、「日米関係がうまくいけば、その他各国との関係もうまくいくのだから、日米関係を日米の外交の基軸にすえるという基本方針は今後も変わらない」という意味の発言をしたが、それに言及して、次のように述べている。
「この発言をとらえて、一部の報道に、日米関係さえよければ、あとの国はどうでもいいと誠に誤解といいますか、曲解といいますか、偏見に満ちた報道がなされましたけれども、そうは言っていないんです。各国とも協力関係を進めていく。しかし、その基本は日米関係。これはしっかりしたものにしていかなければならないということを言っているわけであります」
next: 政治家にとって靖国問題は「心の問題」か…
http://web.archive.org/web/20060221165655/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/060216_gaiko/index2.html
政治家にとって靖国問題は「心の問題」か
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ここで小泉首相が言っている「偏見に満ちた報道」とは、若宮・渡辺対談の次のくだりをさす。
若宮 小泉さんが日米関係は非常に大事だというのは、私たちもまったく異存はない。だけれども、先日、小泉首相は「日米関係がよければよいほど、中国、韓国、アジア諸国をはじめ、世界各国と良好な関係を築ける」という発言をした。これはいかがなものかと思いますね。
渡辺 あれは、なんという短見か。愚劣な意見ですよね。13億人もいるあの大国がそんな簡単に動くわけがない。僕は、日米同盟が必要になるのは、むしろ北朝鮮だけだと思うんだ。しかし政治家は、現実の外交を優先して考えなきゃいけない。小泉さんは政治をやっているんであって、イデオロギーで商売しているんじゃあない。国際関係を取り仕切っているんだから、靖国問題で中国や韓国を敵にするのは、もういいかげんにしてくれと言いたい。
若宮 そこまでおっしゃられると、私が言うことはありません。(笑い)
若宮、渡辺の2人は外交面でここまで意気投合していたのである。そして、靖国問題でも、A級戦犯が合祀されているような靖国神社に首相は公式参拝すべきではないという点において、2人は完全に見解を一致させていた。
それに対しても、小泉首相は反発し、先の年頭記者会見で次のように述べている。
「(靖国参拝に対して)日本人から、おかしいとか、いけないとかいう批判が、私いまだに理解できません。まして外国の政府が一政治家の心の問題に対して、靖国参拝はけしからぬということも理解できないんです。精神の自由、心の問題。この問題について、政治が関与することを嫌う言論人、知識人が、私の靖国参拝を批判することも理解できません」
首相の態度が「A級戦犯ぬれぎぬ論」を煽ることに
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この最後のセンテンスは、明白に、朝日・読売の若宮・渡辺を指している。
さて、朝日は前から首相の靖国参拝を批判していたが、読売がこれを強く主張するようになったのは、昨年6月からである。(6月4日社説「国立追悼施設の建立を急げ」)。
next: なぜそうなったのか…
http://web.archive.org/web/20060221165702/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/060216_gaiko/index3.html
なぜそうなったのか、渡辺はこの対談で次のように説明している。
1つは、自分自身の戦争体験である。渡辺の戦争体験は、2等兵で奴隷のように酷使されたことくらいしかないが、同世代の若者が特攻隊にとられて、強制自爆をさせられた。
「僕は戦時中、こんなことを国がやるということは許せないと、本当に思っていた。それも天皇の名の下にでしょう」「僕は戦争時代から本当に反戦を主張してきました。先の戦争で、何百万人もの人々が天皇の名の下で殺された」「戦時中の体験もあって、そういうことを命令した軍の首脳、それを見逃した政治家、そういう連中に対する憎しみがいまだに消えないですよ」
こういう思いがもともと根底にあったから、しばらく前から靖国神社近くに引越して、よく靖国神社周辺を散歩するようになった。靖国神社をよく知るにつけ、靖国神社はその存在自体がよくないと思うようになった。
「靖国神社本殿の脇にある、あの遊就館がおかしい。あれは軍国主義礼賛の施設で、中を見てきた子供が、『日本はこの戦争に勝ったんだね』と言うんだな。軍国主義をあおり、礼賛する展示品を並べた博物館を、靖国神社が経営しているわけだ。そんなところに首相が参拝するのはおかしい」
だから小泉首相が、総理になったら、必ず8月15日に参拝するといっていたのに対して、自ら電話して、「反対だ」といい、「15日に行っちゃいかん。行くなら13日に行きなさい」と止めたのだという。小泉首相がその忠告通り、13日に参拝したことはよく知られる通りだ。
「A級戦犯がぬれぎぬだとか言っている宮司のいるところに、首相が行って、この間は昇殿しなかったからまだいいけれども、昇殿して、記帳して、おはらいを受けるなんてことをやっていると、『A級戦犯ぬれぎぬ論』が若い国民の間に広がってしまう恐れがある。そして遊就館を見れば、『勝った戦争を指揮したのは東条だ』なんていう錯覚を起こす危険がある」
読売新聞の戦犯追及キャンペーンの意味
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そういう危険を感じはじめたので、読売は、あの戦争の責任者を、日本人自らの手で明らかにするというキャンペーンを昨年8月13日からはじめた。
これを1年かけてやり、今年の8月15日までに、当時の軍、政治の首脳の中で、誰がいちばん悪かったのか、誰ぐらいまでは許せるが、誰あたりから許しがたいかを明らかにしたいという。
そして、このようなキャンペーンは、靖国問題の解決にも役立つだろうという。
「中国や韓国が首相参拝に反発しているからやめよというのはよくないと思う。日本人が外国人を殺したのは悪いけれども、日本国民自身も何百万人も殺されている。今、靖国神社に祀られている多くの人は被害者です。やはり、殺した人間と被害者を区別しなければいかん。それから、加害者の方の責任の軽重をきちんと問うべきだ。歴史的にそれをはっきり検証して、『我々はこう考える』と言ってから、中国や韓国にもどういう迷惑をかけていたのかという問題が出てくるのだ。やっぱり彼らが納得するような我々の反省というものが絶対に必要だ」
渡辺読売グループ会長は、こういう考えなのだ。
これはその通りだと思う。国内的にも国際的にも、これだけいり組んだ問題になってしまった靖国問題を解決するには、それくらいの手続きが必要なのだと思う。
next: 小泉首相のように…
http://web.archive.org/web/20060221165708/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/060216_gaiko/index4.html
小泉首相のように、ただ、それを「心の問題」とすることだけで、国内的にも国際的にも、あまたいる反対者たちに対して「理解できません」の一言を投げつけるだけで、万事解決したつもりになってしまうのは、政治家として無策の一語につきる。
結局、靖国問題の落とし所は、靖国以外の国立追悼施設を作るという以外にないだろう。2人の対談でも、結論はそこに落ち着いている。
若宮 天皇陛下は四半世紀以上も靖国に参拝していないですね。だから、私も国民統合の象徴である天皇陛下が晴れて追悼に行けるような、新しい国立施設をつくったらいいと主張しているんです。それなら外国の元首にも来てもらえる。
渡辺 それに関してはまったく同感です。
ポスト小泉の外交政策は靖国参拝が焦点に
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渡辺は、靖国問題は、ポスト小泉にも大きくかかわってくると考えている。
「僕は靖国公式参拝論者を次の首相にしたら、もうアジア外交は永久に駄目になっちゃうんじゃないかとも思っている。今はポスト小泉は安倍さんが非常に有力だと言われているけれども、この点を心配する」
という。そこで、安倍と渡辺はもともと親しい仲で、いつでも電話で話せるが、わざわざ彼のもとに出かけていって、こういったという。
「僕は靖国公式参拝には反対ですよ。それ以外の点では、あなたに随分期待するけれども、この一点だけは妥協できない」
これに安倍は、「わかっています」と答えたという。
今年の8月15日は、小泉首相はいったい靖国に行くのか、行かないのか。どうせ9月に引退する身なのだからと、あとは野となれ山となれとばかり参拝するのか。そして、安倍をはじめとするポスト小泉の候補たちはそのときどうするのか。
この段階では何とも予測がつかないが、読売と朝日がこのような方向の社説で一致しているせいもあって、山崎拓、福田康夫、加藤紘一、鳩山由紀夫、冬柴鉄三など党派を超えたメンバーが「国立追悼施設を考える会」に結集しており、その政治勢力を着々と伸ばしている。
馬鹿げた意地が国益を損なう
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若宮・渡辺対談を機に、日本のマスコミ全体が、小泉政治に批判的な論調を強めており、政界では小泉首相に平気で弓を引く動きがあちこちで出はじめている。そのせいもあって、小泉首相の支持率はどんどん落ちている。マスコミは、落ち目になった権力者に対しては、機会があればトコトン叩くのを趣味とするから、これからヒョンなことから、さらなる小泉叩きがはじまる可能性がある。
すると、それがまた小泉首相に反作用を及ぼして、小泉首相をますます意固地にするかもしれない。そして、かねて念願の靖国神社8月15日参拝の強行なんてことになるのかもしれない。
若宮 それにしても、小泉さんを見ていると、いまはただ意地になっているような感じがします。
渡辺 ばかげた意地だと思うんだ。
小泉首相が、この問題で、ばかげた意地を張り、国益をそこないつづけることだけは、やめにしてもらいたい。
立花 隆
評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月から東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。
著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
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