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第59回 来るべき未来工場はロボットからサイボーグへ (2005/12/06)
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投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 06 日 23:31:32: Dh66aZsq5vxts
 

(回答先: 第58回 人体と機械の融合目指す サイボーグ医療の時代が到来 (2005/12/03) 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 06 日 23:12:45)

第59回 来るべき未来工場はロボットからサイボーグへ (2005/12/06)
http://web.archive.org/web/20051231042056/nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051206_miraikojo/

2005年12月6日

 12月3日のNHKBSドキュメンタリー番組「立花隆が探るサイボーグ医療の時代 第1回 人体と機械の融合」について、若干の説明というか終わっての感想のようなものを付け加えておきたい。

 私が何よりも感じたのは、サイボーグ技術の未来の可能性である。手を失った人のために精巧なロボット・ハンドを作った横井弘史東大工学部助教授は、近い将来、あのハンドが、100万円を切る価格で市場に出てくると予測していた。そして、いずれ、障害者だけでなく、健常者もロボット・ハンドを使うようになるだろうと予測していた。この予測はきわめて多くのことを意味している。

 
サイボーグ技術が産業ロボットへ用途広げる
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 健常者もロボット・ハンドを使うとはどういうことかというと、さまざまに機能を高めたロボット・ハンドが作られ、それを道具として用いる人がふえていくだろうということを意味する。

 機能を高めたハンドというと、モーターのパワーを強くして、岩をも砕くことができたり、壁をよじ登ることができたりするハイパワー型のハンドを想像する人が多いかもしれないが、現実にはパワーより多機能性とか、器用さ、超絶技巧能力といったものが求められるだろうと思う。

 ロボットハンドは、手の先にさまざまのアクチュエータ端末を付け加えることによって、どのような作業でもやらせることができるようになる。

 人間にはできない超精密な作業をやらせることもできるだろう。腕をろくろ首のように細く長くして長いパイプの中に腕を突っ込んで作業させるといったこともできるようになるだろう。普通の手でできないひねり、回転など自由自在に加える作業もできるようになる。高温、高圧、あるいは強酸、強アルカリ、放射能など、普通の手なら絶対に突っ込めないような苛酷な環境の中に手を入れて作業することもできるようになる。

 そういうロボットハンドをあやつる健常者労働者は、スーパー労働者になり、ナミの労働者の何倍も稼ぐようになるだろう。

 横井助教授のハンドの大きな特徴は、手指の末端まで動かす筋電信号を取り出せたことで、末端のアクチュエータを、自分の手指を動かすのと同じような感覚で、意のままに動かすことに成功したことである。

 義手の手先に人工のアクチュエータを付けて、それを操作するといだけのことなら、従来の義手と本質的なちがいはない。

 しかし、この特性あるが故に横井助教授のロボットハンドは、従来の義手とは全くちがうものになり、世の中を大きく変えることになりそうだ。

 
next: 脳でイメージしただけで…
http://web.archive.org/web/20051212075850/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051206_miraikojo/index1.html

脳でイメージしただけでロボットハンドを動かせるように
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 番組に出てきた、両腕を失って人工の腕をつけた、サリバンさんの右側の腕は、番組の中で十分な説明がなかったが、従来型の義手である。

 肩のあたりにゴチャゴチャならんでいたさまざまな突起物が、義手のスイッチやコントロール装置である。あれを主として、アゴや口で押したり引いたりしてあやつるのである。

 何しろ、両手両腕がないのだから、それしかやりようがない。右手の義手の先の部分は鉄の爪のようになっていて、それでものをはさむこともできるし、破壊力を発揮することもできる。要するに、右手の鉄でできた義手は、コントロール装置によって操縦されているのである。それに対して、筋電で動かす左手のロボット・ハンドは、自分の手を動かすときと同じように、頭の中で、動かそうと思うだけで、その通りに動く。

 番組の中にあったように、手の握りを開こうと思えば、ロボット・ハンドの握りが自然に開く。それはいかなる意味でも、装置の操縦ではない。自分の頭の中で、手を開こうと思うだけなのである。頭の中に、手がちゃんと存在しているのである。ロボット・ハンドのどの部分をどう動かそうなどと考える必要は全くない。かつて健全な手があったときと同じように、頭の中で手を動かそうと思うだけでいいのである。

 そう思うと、脳の運動野から、手・腕の各部の筋肉を動かせという指令が出てくる。その指令が、神経を移しかえた大胸筋各部の筋肉を動かし、そこで生まれた筋電信号が、ロボット・アームの各部に伝わり、アームを自分の思いのままに動かす。

 その間脳は終始一貫自分が自分の外にあるロボット・アームを動かしているとは思わず、自分の手・腕を動かしているつもりでいられるのである。

 だから同じような筋電方式でロボット・ハンドを動かす笠井さんの脳も、自分の健常な手を動かすときと同じ部分しか活性化させずにロボット・ハンドを自在に動かせるのである。

 この原理にもとづいて、各筋電信号をアーム各部のモーターに結びつける回路を保っておけば、これから同じ方式で作られるロボット・ハンドは、どのように形状を変えようと、そのハンドは、頭の中で自分の手を動かそうと思うだけで、動くはずである。腕の部分がろくろ首のように長くなっても、末端のアクチュエータが、指とは全く形状も機能もちがうアクチュエータになったとしても、頭の中で手、指、腕を動かそうと思うだけで、ロボット・ハンドを自由にあやつれるはずなのである。

 
next: サイボーグ技術を用いると…
http://web.archive.org/web/20051212075850/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051206_miraikojo/index2.html

サイボーグ技術を用いると、千手観音が現実に
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 平安時代に作られた仏像に、「千手観音」と呼ばれる仏像がある。全身の各部から千本の手が伸びていて、その末端には、さまざまの道具が握られている。

 千本の手を持ち、その手の各々にちがう道具を持たせ、ちがうことをやらせたいというのが古代人の願望だったのだ。

 サイボーグ技術を用いると、千手観音が現実に可能になるということである。ロボットアームの先端に、ちがうアクチュエータをとっかえひっかえ付ければ、人間が千手観音になることが可能だということである。しかも、そのちがう機能を持ったロボット・アームは、どれも考えるだけで自在に動かすことが可能になるということである。

 現代のサイボーグ技術は、このようなとんでもない可能性に道をつけたということである。

 もちろん、サイボーグ技術を用いず、装置を操縦するような感覚で使うロボット・ハンドを設計しても、それなりに動くハンドを作ることはできるだろうが、やはり使い勝手という側面から考えたとき、頭の外に存在するものを操縦して動かすというのと、頭の中でただ思うだけで自由自在に動かすというのでは、全くちがうはずである。

 現在行われている試みは、手・腕そのものが失われた人にロボット・アームを与えることで、手・腕が持つ利便性を回復させるという、マイナスをできるだけ回復しようという試みでしかないが、その先に来るものは、健常な手・腕をすでに立派に持っている人に、健常な手・腕以上の「スーパー手・腕」を持たせてやろうというエンハンスメント(機能強化、パワー増大)の試みになる。

 そのような機能強化したスーパー・ハンドが自由に誰でもマーケットで買えるようになったら、技術文明はこれまでと全くちがったフェーズに入っていくだろう。

 
低コストで実現できるサイボーグ方式が工場の主流に
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 家庭ではスーパー・ハンドの需給はあまりないかもしれないが、工場の様相は一変する可能性がある。工場労働者がスーパーマン的労働者に変身していく可能性が開けるからだ。

 いま工場は、工場ロボットが生産ラインにはりついてならぶ、超巨大なオートメーション・マシーンともいうべき存在になっている。それは新設するにも改造するにも巨額の投資を必要とする。

 
next: しかし将来は…
http://web.archive.org/web/20051212074301/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051206_miraikojo/index3.html

 しかし将来は、そのような巨大な全自動工場がすたれて、主流はさまざまなロボット・アームを装備したサイボーグ労働者たちが並ぶ、より小規模だがよりハイテクな生産ライン中心の半自動工場に変わるかもしれない。

 いま、工場ロボット1台は相当巨額だが、ロボット・アームがいずれ大量生産されるようになると10万円台になると横井助教授は予測していた。

 そうなると工場ロボットをならべるより、高機能アームを装備したサイボーグ労働者をならべるほうが、初期投資も安くすむはずである。そしてその労働者ほうが機能も高く、パフォーマンスにおいてもすぐれたものになる。そして生産ラインの改変、工程の変更などがどんどん自由にできるようになる。それらの点が買われて、サイボーグ方式が工場の主流になっていく可能性がが強いと私は見ている。

 工場ロボットより、サイボーグ労働者のほうがなぜ高機能で融通性が高くてしかも安いかというと、ロボットはコンピュータの頭脳(人工知能)を持たなければならず、それは高価なのに、低機能である。それに対して、サイボーグは人工知能は使わず、人の脳そのものを使う。人の脳は、スーパーコンピュータでもできないことをいともやすやすとやってのけるのに、その利用コストはスーパーコンピュータの利用料金よりはるかに安い。

 これまでの工場労働者は、もっぱら肉体的な労働力として利用されるだけだったが、これからは、労働者をサイボーグ的に利用することが可能になるので、その頭脳が労働力として評価されるようになる。

 
サイボーグ技術によって機械がヒトの一部となる時代に
……………………………………………………………………
 サイボーグ時代、工場労働はより人間的な労働に移っていく。工場は機械文明の時代から脱機械文明の時代へ向かう。

 ことばを変えていうなら、17世紀(産業革命)以後、人類文明は機械文明として発展してきた。

 それは一貫して、「マン・マシン系」として発展してきた。人は人の外にあるマシンの運転者として機能してきた。その発展過程において、マシンの中にコンピュータが入り、マシンは知能機械となったが、依然として、人はマシンの外にあった。

 しかし、サイボーグ技術によって、機械はヒトの中に入りこみ、ヒトの一部となる時代を迎えた。

 
next: それはヒトと機械が融合して働く…
http://web.archive.org/web/20051212064348/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051206_miraikojo/index4.html

 それはヒトと機械が融合して働く新しい文明の時代を迎えたということである。ヒトはヒトの外にある機械の運転者として機能するのではなく、機械がヒトの中に入り、ヒトが機械の中に入り、両者が融合して働く時代になったということである。 これを、「マン・マシン系」文明の時代が、「マン・マシン・ハイブリッド系」文明の時代に進化しはじめたのだというとらえ方をすることが可能だろう。

 このような人類史的大転換の時代に我々がいま立っているのだということを認識するなら、科学技術創造立国をスローガンとする日本のこれからの生き方も、当然、そちらの方向にハンドルを切らなければならない。

 近未来の技術も、経済も、そちらの方向に向かわせるべくデザインし直す必要がある。科学技術振興政策においても、経済産業振興政策においても、そちらの方向に積極的に予算を付けていくべきである。

 
ロボットにこだわる日本は世界の落ちこぼれに
……………………………………………………………………
 最近まで、経産省では、21世紀の日本経済の牽引車はロボット技術とロボット産業と思っていたふしがあるが、私は21世紀の牽引車はロボットではなく、サイボーグだと思っている。

 ロボットがこれからの産業として成立するためには、まだまだロボット技術の水準が低すぎる(特に人工知能において)。そして、マーケットのニーズが弱すぎる。

 サイボーグ技術は、とりあえず、障害者のための医療福祉事業として発展していくだろうが、障害者たちのこの技術に対するニーズにはきわめて切実なものがあるので、需要はきわめて高い。この方向での公の支出も社会的にアクセプタブルだから、これからサイボーグ技術は公私の資金を得て、急速に実用化され、産業として自立していく日も近いだろうと思う。

 ロボットが産業として自立できる時代は多分、その後にくるのだろうと思う。

 いま、産官学のすべてが、ロボット中心からサイボーグ中心へ、大胆にハンドルを切り直す時期だと思う。

 いまアメリカはサイボーグ技術の振興に産官学をあげて取り組んでいる。日本は驚くほど出遅れている。

 ただサイボーグ技術の相当部分が、要素技術としてロボット技術を必要としており、ロボット技術で世界をリードしているのは日本だから、日本がいま方向転換すれば、サイボーグ技術でも世界をリードすることが可能である。

 しかし、このまま転換が遅れていると、あっという間に、日本は21世紀を牽引する技術世界の落ちこぼれになってしまうだろう。

 
立花 隆

 評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月から東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。

 著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。  

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