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幻のレーダー“ウルツブルグ”が私たちに教えるもの
2008/12/1
最近、我が研究所から「歴史叢書」を刊行し始めたせいだろうか、熱心な読者の方々からいただくお便りの中で、歴史について書かれる場合が多くなってきた感がある。このコラムでも何度か記しているとおり、今現在、私が最も関心を寄せているのは戦前日本の金融史である。敗戦後、占領してきたGHQによって完全に塗り替えられた日本の「歴史」の中で最も消去されてしまっているのが、この戦前日本金融史である。
もっとも、私は国際政治や外交、それに憲法や情勢分析の専門家ではあっても、「歴史家」ではない。これまで何冊か歴史に関する著作を書いてきたものの、それらはまさに青色吐息で書いた代物ばかりであった。もちろん、「真実」という意味での“歴史”は一つしかない。その限りにおいて、何も大家と称される方々だけが歴史を記す能力を持っているわけではないことは言うまでもない。だが、何分、経営者もやり、金融インテリジェンスもやりながら、じっくり腰を落ち着けて史書に向かうというのはなかなかやりきれないことではあるのだ。
そんな落ち着かない様子がきっとこれまで綴った歴史ものの文章の中ににじみ出ていているのだろう、最近になってとある熱心な読者の方から、旧日本軍の軍事技術開発に関する大切な歴史書を数冊まとめて頂戴してしまった。その読者の方からの添え状を読むと「とにかく面白いから読んでみよ」とのこと。さっそく、御礼を呟きつつページをめくるが、たちまち引き込まれてしまった。
このようにしてお送りいただいた書物の一つが津田清一「幻のレーダー ウルツブルグ」(CQ出版社)である。著者は大学卒業後、日本無線(株)に入社され、先の大戦中には海軍技術研究所のマイクロ波艦船レーダーの研究に終戦まで参加した人物である。
「ウルツブルグ」とは、原語(ドイツ語)読みで正確にいうと“ヴュルツブルク”という地名から取ったものである。ドイツ屈指の電機メーカーであったテレフンケン社が制作した、当時最高峰の技術の粋を集めたレーダーである。第二次世界大戦が始まる直前、日本は防空体制を強化すべく、それまで軽視してきたレーダー技術を一気に高めようと、ヒトラーのナチス党率いるドイツから技術を移入しようとした。しかし、ヒトラーは頑として首を縦に振らない。
何度も頼みこんだ日本にヒトラーが「ウルツブルグ」の設計図を引き渡して良いと大号令を発したのは、1941年12月8日に太平洋戦争が始まってからであったという。しかし、最初にこれを輸送しようとした日本海軍の潜水艦は東南アジアで轟沈。そのため、ドイツ人技術者フォダスは難を逃れたものの、待望の設計図が届いたのは敗戦色の濃くなった1944年1月になってからであったという。
結局、開発は成功したものの、あえなく日本は敗戦を迎える。歴史に「IF(もしも)」は禁物であるが、仮に1941年当時、無事に設計図が届いていたならば、東京大空襲をはじめ、米軍による無差別爆撃で尊い命を落とした大勢の市民たちの命を救っていたのかもしれない。
ちなみにこの本では、何度も懇請する日本側に対し、ドイツ側からは「ウルツブルグは国家の最高機密兵器のため、古い同盟国のイタリアから再三の依頼があったが断った次第で、ご了承願いたい」との答えが当初は繰り返しあったのみであったとする。−−−しかし、実はこうした冷たいドイツの対応は、それまでのドイツによる対東アジア政策を見れば、実はうなずけるものでもあったのである。
なぜならば、日本にとって“主戦場”であった中国大陸において、日本が対峙する中国・国民党軍を1920年代より指導していたのが、他ならぬドイツだったからである。ドイツはそのことによって中国大陸における経済利権に少しでも多くありつければと画策していたというわけである。
これに対し、1930年代初頭、日本は傀儡国家「満州国」を建国し、そこで生産された大豆を食糧難と経済危機にあえぐドイツに輸出し、好評を博したことがある。しかし、それと引き換えに「満州国」開発のためのカネと技術をドイツから引っ張ってこようとしたものの、うまくいかなかった。なぜなら、「満州国」の存在自体を否定する中国・国民党とドイツは組んでいたからである。そうした頑なドイツ、そしてヒトラー総統がようやく態度を変えたのは、日本が米英など連合国に対していよいよ参戦してからであったというわけである。
こうした論点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その背景にありながら私たち=日本の個人投資家が知ることのなかった歴史上の“真実”について、私は、12月6・7日に大阪、名古屋、そして12月20・21日に東京、横浜でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。
今般頂戴した本で学んだ幻のレーダー「ウルツブルグ」の話ではないが、「このことが仮に実現していれば、歴史は確実に変わったはずなのだが・・・」という出来事はこれまでいくつもあったに違いない。しかし、繰り返しになるが歴史に「IF」は禁物であろう。済んでしまったことを悔いても、何も始まらないのである。とりわけ、マーケットで荒れ狂う金融資本主義と対峙するにあたって、繰り言ばかりいっていても仕方がないのである。むしろ必要なのは自ら進んで歴史を創るという姿勢であり、殊に諸々のシステムの転換期である現代を生きる私たち=日本人は、この未来志向的なスタンスで新たな国づくりに着手せねばならないのだ。(それではどのような日本を築いていくべきなのか、という当然の問いについては2009年1月に開催する「新刊記念講演会」でお話できればと思う。ご関心の向きはぜひご来場いただきたい。)
かといって歴史を知ることが、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンにとって不要というわけでは全く無い。むしろ逆であり、大切なのは「過去に起こり得べきことが、なぜ起こらなかったのか」を、歴史書を自らの手でめくることでしっかりと学んでいくことなのである。
サブプライム・ショックによって激動がはじまった世界では、今、100年に一度とも言われるシステムの大転換が進みつつある。「繰り言を言わずに、史書から明日を乗り切るための知恵を学ぶことの大切さ」を、もはや誰もが忘れてしまった幻のレーダー「ウルツブルグ」の密やかな歴史をつづったこの本が教えてくれるような気がしてならない。
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