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年金財源に消費税を充てるのは公正か 森永卓郎氏(日経BP社)
経済アナリスト 森永 卓郎氏 2007年8月20日
今回の参議院選挙では、「消えた年金問題」をきっかけに、各党の間で遅まきながら年金についての政策論争が繰り広げられた。きっかけは残念なことであったが、多少ながらも議論が深まったことは喜ばしいといえよう。
そこで注目されるのは、たとえ明言はしていなくても、与野党とも年金の財源に消費税を充てようという考えで一致している点である。
与党は、基礎年金の国庫負担割合を、2009年度までに2分の1に引き上げることを決めている。現在、基礎年金の財源は、3分の2を加入者が支払う保険料でまかない、残りの3分の1を国庫負担としているが、これを2分の1にしようというわけだ。
国庫負担増ということは、言うまでもなく税金を充てるということである。それには新たな財源が必要になる。当面は歳出削減でやりくりするというが、将来的な給付増を考えたら消費税の増税が必要になるというのが与党の考え方である。
民主党は、全額税方式への移行を掲げている。年金保険料の徴収をやめて、年金給付を全額税金でまかないましょうという考えだ。そして、その財源には現行の消費税を充てるという。
こうして、実は消費税を上げるか否か、どの程度財源に充てるかの違いはあっても、「年金財源の税負担にかかわる部分は消費税」――これについて自民党と民主党の意見の差はないといってよい。
確かに、年金給付の財源に税金を充てることには賛成である。しかし、それを消費税でまかなうとなると、「ちょっと待ってくれ」と言いたくなるのだ。
全額税方式に切り換えるしかなくなった
年金財源を税負担にすること自体は、正しいことだとわたしは思う。その理由の一つは、保険料納付率の低下である。
8月10日、社会保険庁は2006年度における国民年金の保険料納付率を発表した。それによると、保険料をきちんと支払っている人は全体の66.3%。つまり、3人に1人が国民年金の保険料を支払っていないことになる。
支払わないやつには年金を給付しなければいいという議論もあるが、そうではない。このままでいくと、将来にわたって大量の無年金者が発生することになる。
そうした無年金者を放置すれば、大きな社会不安の原因となるため、最終的には生活保護で救わざるを得なくなるだろう。結局、膨大な税負担が必要になるのだ。対策が遅れれば遅れるほど、負担は大きくなる。
そうした事態を避けるため、社会保険庁が2004年10月に策定したのが「国民年金保険料収納に係る行動計画」(アクションプログラム)であった。これは、ノルマを決めて保険料徴収を目指したプログラムで、計画通りならば、今年3月の納付率は74.5%、来年3月の納付率は80.0%になるはずだった。
しかし、社会保険庁は「消えた年金」の対処に追われて、徴収どころではなくなってしまった。前述のように今年3月時点では66.3%だから8.2ポイントも及ばない。来年3月に80.0%が達成できると思う人は誰もいないだろう。それどころか、今年の納付率は、1年前の納付率である66.7%より低下しているありさまだ。
このままずるずる下がっていっては取り返しがつかない。ここまで制度が壊れてしまったら、もう国庫負担を2分の1に上げても信頼回復できない。全額税方式に切り換えるしかないというのは、一つの考え方として結構だと思う。
ただし、税金といったときに、なぜ誰もが消費税ばかりを口にするのか。ただ確保しやすいからという理由だろうか、与党にしても野党にしても、年金財源を消費税に頼ろうとしている。
それは、本当に正しいことだろうか。
消費税の影響は低所得者ほど大きい
年金財源を消費税にしたとき、それが国民全体に対して公平な負担になるのならいい。だが、そこに問題があるのだ。
まず、現状のサラリーマンにおける基礎年金の保険料を考えてみよう。厚生年金の保険料の中に、基礎年金保険料相当分が含まれているのはご承知の通りである。そして、厚生年金の保険料は、年収の14.642%(企業負担分を含む)という一律。つまり、誰にとっても、年収に対して一定の比率で保険料がかかる仕組みになっている。
これに対して、消費税で財源を手当てすると何が起こるのだろうか。当然の話だが、消費税は年収ではなく、消費にかかる。そして消費額というのは、必ずしも収入に比例して高くなるわけではない。
家計に占める消費の比率は、総務省統計局が公開している「家計調査」を見ると分かる。それによると、年収254万円の世帯では77%を消費に回しているのに対して、年収1155万円の世帯は46%しか消費に回していない。つまり、金持ちほど収入に占める消費の比率は少ないのだ。
消費税のインパクトというのは、消費の比率の多い家庭ほど厳しくなることは自明である。77%を消費に回している家庭のほうが、46%しか消費に回していない家庭よりも、消費税の影響は大きいのだ。
さて、この数字をもとにして、例えば現行の消費税率5%を10%に引き上げた場合、それは年収の何%の負担になるかを計算してみよう。すると、年収254万円の世帯の負担が3.9%であるのに対して、年収1155万円の世帯はわずか2.3%に過ぎない。消費税は低所得層ほど実質的な負担が重いのである。
代替策はいくらでもある
年金給付の財源を確保するために、もし厚生年金の保険料を上げるならば、これまで通り金持ちも庶民も同じ割合で保険料を払うことになる。しかし、財源を消費税にシフトするとなると、一般庶民のほうが高い率で税負担をしなければならないのだ。
そして、年金の財源を消費税に求める割合が高くなればなるほど、低所得者に厳しい制度となる。これは、とんでもない金持ち優遇ではないか。
わたしは、年金給付の財源に税金を充てることには賛成であると言った。しかし、数ある税金の中から、どの税を用いるべきかはもっと真剣に検討するべきではないか。議論を深めることなく、「取りやすいから消費税にしよう」では困るのである。
消費税以外にも、いくらでも方法はあるではないか。例えば、所得税の最高税率を引き上げるとか、法人税を引き上げるとか、金融資産に課税するなど、代替策はいくらでもある。
わたし自身は累進課税論者なので、金融資産に対して課税をして、それを年金財源に充てるのが一番いいと思っている。もっとも、これにはなぜか反発も多く、実現が難しいことも知っている。
それならば、せめて公平な率で課税される税金を財源に充ててほしいのだ。所得の低い者にとって厳しい消費税を上げることで、年金財源を手当てしてほしくはない。
どの税をどう充てるのが公平なのか、もっと議論があってしかるべきではないか。それを、与党のみならず野党までもが、そろいもそろってぼんやりと、「消費税ならばいいではないの」と言っているのはいかがなものか。その頭の悪さには驚くばかりである。
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