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□戦時個人補償―扉を閉ざした最高裁 [朝日新聞・社説]
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#syasetu1
戦時個人補償―扉を閉ざした最高裁
1972年の日中国交正常化に伴う共同声明には、中国が日本に対する戦争賠償の請求を放棄することが盛り込まれていた。これによって、中国は政府だけでなく、国民も個人として裁判で請求する権利を失った。
最高裁はこのような初めての判断を示した。そのうえで、日本に無理やり連れてこられて働かされたり、日本軍の慰安婦にさせられたりした中国人が、日本の企業や国を相手に起こした裁判で請求を退けた。
残っている二十数件の同じような裁判も原告敗訴の見通しとなった。今回の判決の影響はきわめて大きい。
強制連行訴訟の原告らは、日本軍の捕虜だったり、日本軍の施設で働いていたりしていて拉致され、日本の建設現場や炭鉱に送られた。劣悪な労働条件下で働かされ、亡くなった人もいた。
元慰安婦の原告のなかには、13歳と15歳のときに日本軍に拉致された女性がいる。監禁されて強姦(ごうかん)された。解放されたあとも心身に大きな傷が残った。
こうした最高裁も認めた事実は、目を覆いたくなるものだ。
強制連行で企業に賠償を命じた広島高裁は「外国人から被害を受けた国民が個人として賠償を求めるのは、固有の権利であり、国家間の条約で放棄させることはできない」と述べた。被害のひどさを見れば、この判決の方がうなずける。
請求を退けた最高裁も、さすがに気が引けたのだろう。「被害者らの被った精神的、肉体的苦痛が極めて大きかったこと、被告企業は相応の利益を受けていることなどの事情にかんがみると、被告企業を含む関係者においてその被害の救済に努力をすることが期待される」と付け加えた。
企業の自発的な行動に期待するくらいなら、最高裁は自ら救済を命じるべきだった。
司法が救済の扉を閉ざしたとしても、政府と国会、企業は何もしなくていいはずがない。いまからでも、高齢化した被害者らの救済の道を探っていくべきだ。この問題を日中間のトゲのままにしてはならない。
被告になった企業のなかには、資金を中国赤十字会に託して元労働者の救済を図った例もある。そうした方法を改めて考えるべきだろう。
元慰安婦に対し、日本政府は補償問題は国家間で決着済みとして、代わりにアジア女性基金の設立の音頭を取った。基金は韓国や台湾、フィリピンなどで、償い金を贈り、「おわびと反省」を表す首相の手紙を渡した。アジア女性基金が重要な役割を果たしたのは間違いない。
しかし、日本政府による明確な謝罪と補償を求める人も多い。中国の元慰安婦は1人も償い金を受け取っていない。
さらに手立てはないか。政府も国会も人道的立場から、解決の道を探る努力を続けなければならない。
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