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「毎日新聞」”記者の目”
◆ 政府税調の所得課税改革案=三沢耕平(経済部)◆
◇増税への怒り持ち議論を−−“寄らば大樹”卒業しよう
「サラリーマンいじめに関する報告書」−−。政府税制調査会(首相の諮問機関)が21日まとめた個人所得課税改革に関する報告書は、こんなタイトルを付けたくなる内容だ。所得税の各種控除を大幅に見直すのが特徴で、給与所得控除の縮小や退職所得課税の強化など、家計を直撃する増税メニューがズラリと並ぶ。
実際、どれだけ税金が増えるのか。第一生命経済研究所の試算では、仮に給与所得控除額を3分の2に減らすと、年収500万円の世帯(夫婦と子1人)で年間9万6000円、年収800万円の世帯(同)で同20万円、負担が増える。所得税・個人住民税の定率減税廃止を含め、諸控除の廃止・縮小をすべて実施した場合の増税額は十数兆円に達するともいわれる。
ここはひとつ、納税者は声を大にして怒るべきだ。
確かに、国の財政事情を考えれば、一定の増税は避けて通れない。国と地方の長期債務残高は05年度末には774兆円に達する一方、国民所得に占める税金や社会保険料の割合である国民負担率は35・5%と、主要先進国の中では最低水準にある。足りない分は国債を発行して補っているわけで、将来に負担を先送りしながら現世代が負担以上の受益を享受している形だ。
特に、所得税収の落ち込みは深刻だ。景気対策として各種減税が実施されてきたため、ピークだった91年度の26・7兆円から05年度は14兆円台に減っている。
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は、10年後に基礎的財政収支の黒字化を消費税だけで達成するには、税率を現在の5%から19%に引き上げなければならないと試算するなど、消費税アップを含む増税ムードが広がっている。ただ、小泉純一郎首相は「在任中は消費税を引き上げない」と明言していることから、所得税増税の準備が「今しかできない課題」(財務省幹部)と位置づけられたわけだ。
ところが、報告書を読むと、改革の狙いを記した記述の中に、なぜか「増税」の2文字はない。所得税には専業主婦を優遇する配偶者控除など時代に必ずしも合わなくなってきたものがあり、そうした“歪(ゆが)み”を正すのが改革の目的であって、増税は「結果」だという説明だ。
なぜ、こんな理論武装をするのか。谷垣禎一財務相は所得課税改革に「国民的な議論を期待したい」と語る。だが、納税者の関心は、税金が増えるか減るかの一点であり、痛税感があった方が議論は活発になるはずだ。増税という本音が伝わってこない報告書では、「議論を避けているのか」と疑われても仕方ないだろう。
増税と車の両輪である歳出削減に対する反発を恐れているのかもしれない。膨れ上がる社会保障費や国・地方の公務員人件費の見直しなど、歳出抑制に向けた宿題は多い。だが、政府税調の報告書と同じ日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005(骨太の方針第5弾)」は、抑制の幅・手法で各省間の足並みの乱ればかり目立ち、改革を加速する気迫は感じられない。
「まるで、泥棒にお金を預けているようだ」。5月28日、谷垣財務相が東大の五月祭で講演した際、年金保険料の無駄遣いが発覚した社会保険庁について、こんな批判が投げかけられた。社保庁だけではない。大阪市職員の手厚い福利厚生、大手メーカーが発注額をつり上げた橋梁(きょうりょう)談合事件……。正さなければならないテーマは山ほどある。
所得課税改革の議論に向けて、政府税調が昨年6月まとめた「我が国経済社会の構造変化の『実像』について」と題したリポートに興味深い指摘がある。国民の意識には「煩わしさを回避したい」と「他者に寄りかかりたい」という二面があると分析。国は「信頼度の低い存在」でありながら「寄りかかる対象」にもなっている、という。
なるほど、税や財政の議論は煩わしい。5月に連合総研が給与所得者を対象に実施したアンケートでは、05年度税制改正の焦点として注目を集めた定率減税の半減を「知らない」との回答が半数近くに上った。こんな納税者の税や財政に対する関心の低さ、その裏にあるあきらめこそ危機的だ。
「今後の日本を支えていくには、(勤労者の8割を占める)サラリーマンに頑張ってもらうしかない」。政府税調の石弘光会長は、こう訴えている。納税者は今、この“挑戦状”を正面から受け止めなければいけない、と思う。怒りを議論に変え、寄らば大樹(国)を卒業しよう。
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/kishanome/news/20050624ddm004070121000c.html
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