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「アルメニア大虐殺」とトルコの憂鬱〜忘れられた「ジェノサイド」から90年〜 2005/04/29
4月26日付けの朝日新聞によれば、24日(現地時間)、アルメニア共和国の首都・エレヴァンをはじめ世界各国で「アルメニア大虐殺」の犠牲者への追悼式があったという。
「アルメニア大虐殺」。今からちょうど90年前の1915年4月24日、オスマン帝国はアナトリア半島東部に住むアルメニア人の大虐殺を開始した。20世紀で初めて「ジェノサイド(大量虐殺)」という言葉が使われたこの事件で、犠牲になったアルメニア人は150万人とも200万人とも言われる(アルメニア政府の公式発表は150万人)。この「事実」を現在に至るまで認めていないのは、当事者のオスマン帝国を引き継いだトルコ共和国だけである。
僕は大学時代にこの事件を研究し、アルメニアという国には特別の思いがある。しかし現在の世界情勢を省みると、何故トルコがこの過ちを認めたくないのかが、少し分かる気がする。
次々と属国が独立していく中、「オスマン帝国」を廃し必死に「トルコ共和国」を建国したトルコ人。トルコ人にとって、先の大虐殺はアナトリア半島東部の “国体護持”のために不可避だった。一方、アルメニア人にとって、トルコ人は多くの同胞を虐殺しただけでなく、彼らの聖地・アララット山や彼らの祖先・ウラルトゥ王国の領土をそのまま“不法占拠”する不倶戴天の敵である。
もしトルコが正式にアルメニア大虐殺を認めれば、アルメニアはトルコに対し謝罪や補償だけで済ませるだろうか。先述のアナトリア半島東部を「約束の地」として帰属を要求しないだろうか。もしそうなれば同じ地でトルコ人に弾圧されたクルド人も黙っていまい。トルコ人、アルメニア人、クルド人の三つ巴の抗争が起きると考えるのは僕だけだろうか。トルコにとって「アルメニア大虐殺」を謝罪することは、開けてはならない“パンドラの箱”と僕は推測する。
また、トルコはこの問題に対する西欧諸国の過去の「いい加減さ」も知っている。何かと「同じ宗教を信じる同胞」を救う、と称して世界中に介入したイギリス、フランス、ロシアは、キリスト教徒のアルメニア人には全くと言っていいほど手を差し伸べなかった。
第一次世界大戦後、アルメニアは半ば強引にソヴィエト連邦の一員にされた。一方、トルコは第二次世界大戦後、「共産主義への防波堤」としてNATOの一員となった。「ソ連邦」のアルメニアや、世界中に亡命したアルメニア人がいかに先の大虐殺をトルコに糾弾しても、東西両陣営は反応しなかった。ソ連邦にとってアルメニアの民族意識が高揚するのは好ましいことではなかったし、加害者のトルコは欧米がアルメニア問題を持ち出すたび、NATO脱退をちらつかせた。こうして20世紀最初の「ジェノサイド」は歴史の闇に葬り去られた…。
そんな現在、EU諸国はトルコのEU加盟を認めない材料の一つに「アルメニア問題」を掲げているのは何たる皮肉か。たとえそれが「事実」であっても、トルコ政府は面白いはずはない。歴史の流れや大国のエゴで生じた悲劇。「アルメニア大虐殺」の被害者は、アルメニア人と現在のトルコ人の両方ではないだろうか。
(三好英明)